太宰治の小説『斜陽』が2022年に実写映画公開!
太宰治の小説『斜陽』が『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』というタイトルで映画化されます。
没落貴族の物語を描いた太宰治の代表作『斜陽』は、没落していく上流階級の人々を指す「斜陽族」という言葉も生み出すほどの社会現象を起こしました。
小説の世界と現代には75年という時の流れがあります。今の感覚で見るならば、当時の主人公の生き方はどう捉えられるのでしょうか。
原作執筆から75年の節目にあたる2022年に全国公開予定の映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』。
公開日は、2022年10月28日(金)からTOHOシネマズ甲府先行、11月4日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国で。映画公開に先駆けて、小説『斜陽』をネタバレ有りでご紹介します。
小説『斜陽』の主な登場人物
【島津かず子】
一度嫁ぎますが流産し離婚して実家に戻った娘。母と一緒に暮らしています。
【かず子の母】
元貴族として人生を生きる。病弱な未亡人。
【直治】
かず子の弟。戦争に行き行方不明でしたが無事に帰還。その後自殺します。
【上原】
直治の尊敬する小説家。かず子の想い人。
小説『斜陽』のあらすじとネタバレ
元貴族の島津かず子一家。東京で裕福な暮らしていましたが、大黒柱であった父の死後、戦後の時代の移り変わりとともに、金銭的にも苦しくなり、伊豆への引っ越しを余儀なくされました。
叔父から今後について助言をされた母はそれに従い、叔父が紹介してくれた山荘を見に行きもせず、そこに住むと決めてしまったのです。
かず子の弟直治は大学の中途で招集され、兵士として南方の島へ派遣されていました。以来、消息は絶え、終戦になっても行方不明のままです。
かず子の母はもう直治には会えないと思い、伊豆への引っ越し後、かず子との二人暮らしを覚悟していました。
引っ越してすぐに母は体調を崩しますが、医者のおかげで回復。
「神様が私を一度お殺しになって、それから昨日までの私と違う人にして、よみがえらせて下さったのね」と、前向きに暮らす母。
そんな生活のある日、かず子は小さな火事を起こしました。消したと思った風呂の薪がまだ燃えていたのです。
大事にはならなかったものの、かず子は自分がやはり何も一人ではできない「貴族のお姫様」だったことに気づかされます。
村の隣人から、「私は前から、あんたたちのままごと遊びみたいな暮らし方を、はらはらしながら見ていたんです。今まで家事を起こさなかったのが不思議なくらいのものだ」と言われてしまいました。
落ち込むかず子。それでも、いよいよ野生の田舎娘になっていくのを感じながら、畑仕事に精を出します。
毎日の生活の中で、かず子は幼い頃に蛇の卵を燃やしたことや父の死に際に蛇が現れたことなどを思い出し、昔を懐かしんだりしていました。
そんなある日、母が叔父から連絡があったと言いました。
弟の直治の行方が分かったのですが、ひどい阿片中毒になっていることと、いよいよこの家のお金が無くなってしまったから、かず子をお嫁に行かせるか、奉公の家を探すかしかない、と言われたそうです。
かず子は憤慨します。直治が帰って来るから自分がこの家には要のない者とされるのかと母をなじりました。
かず子の思いを聞いた母は、はじめて叔父のいいつけに背き、「私の子供たちのことは私におまかせください」と叔父に宣告しました。
しばらくすると、弟の直治が戦争から帰ってきました。その一方、母の体調は悪化し、寝たきりの生活が続いています。
直治は家族に素っ気なく、寝たり起きたり、飲みに行って何日も帰らない生活を送りだしました。
そんな中で、かず子は、弟の尊敬する小説家の上原に3通の手紙を書きましたが、その返事は返ってこないままでした。
実は6年前、学生だった直治が麻薬中毒になり薬購入のために作った借金を返すため、かず子はドレスや指輪を売って、そのお金を上原の家に届けていたのです。
ばあやのお関を通じてお金を送っていたのですが、かず子は直治の様子が心配になり、上原を訪ねました。
上原と店に入りお酒を飲んだ2人。帰る途中、上原は歩きながら後ろについてくるかず子にキスをします。
これがかず子の「ひめごと」となり、上原はかず子の「思い人」となりました。
かず子は上原に手紙を書こうかどうしようかとずいぶん迷いましたが、「鳩のごとくすなおに、蛇のごとく慧かれ」というイエスの言葉を思い出し、結局手紙を書いたのです。
その頃からかず子は、体調が戻らない母が心配でなりません。叔父に手紙を送ると、以前侍医をやっていた医者がやってきました。
下された診断は「結核」。寂しさに襲われるかず子。ぽろぽろと涙がこぼれます。
小説『斜陽』の感想と評価
太平洋戦争が終わりを遂げ、やっと人々の暮らしも落ち着き出した頃。押し寄せる民主主義の波と大黒柱の当主・かず子の父の死によって、元貴族である島津家は没落の一途をたどります。
残された島津家の家族といえば、主人公である出戻り娘の長女かず子、根っからの貴族である母、貴族出身ということで悩む不良の弟直治です。
かず子の母は、自分の人生に矜持を持ちながら病死。弟の直治は自殺をします。そしてかず子が辿るのは……道ならぬ恋。妻子ある男の子どもを身籠るという不倫の道です。
三人三様の人生模様がこの小説のキーワードでもありますが、かず子の生き方が一番興味深いものです。
「恋しいひとの子を生み、育てることが、私の道徳革命の完成」と決意するかず子。
小説の背景にある華族制度廃止と共産主義思想は、執筆当時の1947年としては興味深いテーマであったのでしょう。けれどもかず子の生き方をみると、当時としては大胆な「不倫」に突入する一途さが目を引きます。
かず子の生き方をどう思うか。賛否両論が湧くところでしょうが、貴族のお嬢様がここまで決断をして生き抜くことができる女性のしたたかさが印象深いです。
小説『斜陽』が暗いイメージを持ちながらも、どこか前途に希望を見出せる小説と思えるのも、かず子の強さにあるのでしょう。
映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』の見どころ
2009年に一度映画化された小説『斜陽』ですが、今回題名を『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』として映画になります。
タイトルの「鳩のごとく 蛇のごとく」とは、作中では上原に恋するかず子が思い出すイエスの言葉です。
鳩のようにすなおに、蛇のようにかしこくあれ。この言葉に励まされるように、かず子は上原への恋心を募らせます。
その結果、シングルマザーとして生きることになるかず子。母は病死し、弟は自殺。それでもかず子は力強く生きる決意をします。
現代とあの頃……時代は違えど、ある意味本作は困難を乗り越えて生きる女性の姿を描いています。主人公のかず子も最初は何もわからないお嬢様ですが、だんだんと強くなっていきます。
そんな主人公・島崎かず子役を務めるのは、映画初出演のモデル出身の宮本茉由。2018年にドラマ『リーガル V~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日系)で女優デビューを果たしました。
そんなルーキーが演じる、強く生き抜くかず子のフレッシュな魅力に期待が高まります。
またかず子の思い人である作家の上原役には、数多くの作品で演技に定評のある安藤政信。上原は原作者の太宰治が自分自身をモデルにした人物とも言われています。
自堕落な太宰の自我像を反映する上原をどう演じるのか。こちらもまた興味深いものです。
映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』の作品情報
【公開】
2022年公開(日本映画)
【原作】
太宰治
【監督】
近藤明男
【キャスト】
宮本茉由、安藤政信、白須慶子、岡元あつこ
まとめ
テレビドラマや映画にもなった太宰治の名作『斜陽』。今回、映画初出演の宮本茉由を主役のかず子に抜擢して映画化されました。
太宰自身をモデルとする上原も登場させ、没落していく元貴族のお嬢様が、肉親との死別を乗り越えて一人で生きようとする姿が描かれています。
戦後の動乱期をシングルマザーとなっても生き延びようとする女性の逞しさ。これが現代的な視点でどのように描かれているのかと、期待が高まります。
映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』は2022年10月28日(金)からTOHOシネマズ甲府先行、11月4日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開。