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Entry 2024/02/16
Update

【髙橋栄一監督連載インタビュー2】『ホゾを咬む』親の目線で見守る関係となった“映画の発想”の秘話

  • Writer :
  • 松野貴則

映画『ホゾを咬む』は2024年2月25日(日)より高円寺シアターバッカスにて過去作を含めた特集上映決定!

2023年12月の封切り後、横浜ジャック&ベティで2024年1月20日(土)〜1月26日(金)、元町映画館で1月27日(土)〜2月2日(金)と全国で順次公開された髙橋栄一監督の長編デビュー作『ホゾを咬む』。

そして本作が2024年1月22日(月)より3ヶ月ロングラン上映される高円寺シアターバッカスでは、髙橋監督の特集上映の開催も決定。『ホゾを咬む』に至るまでの過去作も併せて観ることで、映画監督・髙橋栄一の「過去・現在・未来」をさらに掘り下げていく企画となっています。


(C)Cinemarche/松野貴則

Cinemarcheではロングラン上映&監督特集上映を記念し、全3回にわたる髙橋栄一監督への連載インタビューを敢行。

連載第2回となる本記事では髙橋監督が出会ってきた“人々”にフォーカスし、祖母の死で知った“悲しみの発露”、家族から受け取る映画のインスピレーションなど、これまで語られてこなかった貴重なお話をお伺いしました。

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子供を見守る感覚で寄り添う


(C)2023 second cocoon

──ご自身のテーマに沿って生まれた本作『ホゾを咬む』は、これまで制作されてきた過去作とは印象が違うようです。

髙橋栄一監督(以下、髙橋):今回の劇場公開を機に、自分で制作した映画に対する意識はかなり変わりましたね。僕の映画には自分の醜い部分などが大きく反映される。そのような作品を今回は興行として、たくさんの人に鑑賞料金を出してもらって観てもらうことになります。

僕自身、子供ができたから感じることかもしれないのですが、本作で初めて、自分で制作した映画に対して、我が子を見守るような感覚が芽生えています。子供ならではの不完全さ、未熟さがあって、そうだと分かっていてもずっと連れ添うのが親ですよね。

そういう親みたいな感覚で劇場で佇んでいます。切れない“血の繋がり”のようなものを映画に感じるようになってきました。それは多くの人の協力により、興行として本作を公開できたということが一つ大きく関係していると思います。

今回、多くの出会いと発見がありました。大阪のシネ・ヌーヴォでの『ホゾを咬む』上映に合わせて舞台挨拶に伺った際に、支配人の山崎さんと話していて、「過去作品がそんなにあるなら、特集上映をやりましょう」と言っていただけました。

その時は、理解が及ばず「ああ、はい…」みたいな返答で積極的に考えてはいなかったのです。昔から自己肯定感が低いこともあって、正直そんな風に言ってもらえることに実感が湧きませんでした。

しかし、大阪での「ホゾを咬む」の上映を終えた日に、同じくシネ・ヌーヴォさんで濱口竜介監督の映画『ハッピーアワー』(2015)を観ました。僕はその時初めて観たんですけど、もう第一部を観ただけで、自分の中ですごく救われたというか、出演している役者さんたちも、作品自体も本当に「在りのまま」を肯定していて、善悪がないように心から感じました。

あの映画からいろいろな感情やエネルギーをもらったので、自分で自分の作品に制限を設けずに多くの人に見てもらうことで、変わる何かが沢山あるのかもしれないと、気持ちが一気に変化しました。その経験が今回の高円寺シアターバッカスさんでの特集上映にも繋がっています。

人生で起こり得なかった“ドラマチック”


(C)2023 second cocoon

──映画『ハッピーアワー』をきっかけに考え方が変わたのですね、そんな髙橋監督はどんな少年だったのでしょう。

髙橋:子供のころから大きな挫折もなく、人生を変えるような影響を受けた人があまりいません。そこに自分でもずっと違和感があります。

子供が生まれる時、父親が感動して涙を流す場面って、よく映画やドラマで描かれますよね。いざ自分の子供が生まれる瞬間を迎えると、病院でその実感というのが湧いてこなくて、いつも通り次の日の仕事のことを考えていました。その時に「自分はなんて“人でなし”な人間なんだ」と感じていました。

昔から周りの状況を常に客観的に見ている冷めた人間だったんです。ただ、いまだに自分でもよく理解できていない思い出が一つあります。

それは中学時代、バレーボール部の引退を賭けた最終試合でのことでした。僕たちは朝から晩まで部活を真剣にやっていて、当然、優勝したいという想いを持って練習に励んでいました。しかし、最後の試合で圧倒的に強い相手チームに負けを覚悟しながら、試合に挑むことになったんです。

案の定、僕らは負けました。その時も悔しいとか、悲しいという感情もないまま、負けたという事実を素直に受け止めました。

これはいまだによく分からないのですが、その時、ふと涙が出てきたんです。その事実に、僕自身かなり驚きました。きっと誰かと分かち合うような、“試合に負けた悔しさ”とか、“皆と離れる寂しさ”とか、そういう名前の付いた感情で泣いているわけではないように感じたのです。

祖母の死が教えてくれた悲しみ


(C)2023 second cocoon

──髙橋監督は冷静に物事を判断して思考している印象ですが、感情的になっている姿はあまり想像できませんね。

髙橋:もう一つ同じような経験をしたのが祖母が亡くなった時、入院していて口もきけないし、意識もないような状態でした。その頃、まだ自分は幼くて、お見舞いに行くのがすごい嫌でした。

話せる状態でもないし、祖母が来てほしいと思っているのかも分からないのに、お見舞いに行かなければならない。子供である自分に出来ることは特にないし、それなら友達と遊んでいたいと思っていました。そしてある日、祖母は亡くなりました。

幼少期住んでいた場所は、岐阜県の田舎町だったので亡くなった祖母を家に連れ帰ることになったんです。祖母に死に化粧をして、お通夜をやり、お葬式を終えて出棺。最後に座敷から男手で、祖母を運び出すことになりました。

それまで本当にめんどくさくて、友達と遊びに行きたいと呑気なことを考えていたのですが、その棺を縁側から皆で出すときに、いきなり涙が溢れて、そこから全く記憶がありません。

今、話しながら感じるのは、僕は最初、祖母が亡くなった現実味がなかったのでしょう。それは例えば、ニュースで有名人が亡くなったことを知っても、その瞬間には泣けない感覚と似ているかもしれません。

テレビで知ってから数か月後に、亡くなった事実が急に身体に落ちてくることってあるじゃないですか。「あぁ、もういないんだ」って。頭じゃなく、その情報が体に入ってきた瞬間に涙が溢れてくる。僕は悲しみに限らず、感情感覚が鈍感なんだと思います。

──その感情感覚の鈍感さ、急に悲しみが溢れる過去の経験は、髙橋監督が生み出す作品性にも影響があるのでしょうか。

髙橋:そうかもしれません。映画を生み出す仕事を選んでいるのも、自分の感情が溢れる何かを探し続けているということかもしれません。小さい頃から面白い、楽しいと感じるものが周りと合わず、映画の世界に興味を持ち映画の中でもニッチで、コアな世界観に突き進んでいます。

僕のように上手く感情を発露できない人たちに向けて、映画を作り続けてきたのかもしれません。悲しみの深さがある程度ないと、自分で悲しみを感じられないというか、嘘のように感じてしまうんです。

ちなみに、祖母の死の実体験を元に制作したのが、今回の特集上映でも公開される『さらりどろり』という作品です。大切な家族との唐突の別れを題材に、僕が経験してきた自分への違和感を描きました。

家族から受け取るインスピレーション


(C)Cinemarche/松野貴則

──髙橋監督の周りにいる人々との出会いや気づきが映画制作に繋がっていくように感じます。髙橋監督のご家族との関係性もまた、映画作品に影響しているのでしょうか

髙橋:直接的なことで言えば、自分の娘を傍で見ていて、それがインスピレーションになっているのは確かです。『ホゾを咬む』で小沢さんが演じたミツという女性は娘の無邪気さからエッセンスを持ってきています。

天真爛漫な女性像は昔から好きなキャラクター性ではありつつ、そこに新たに娘の姿を重ねています。娘が喋れるようになってきてから特に、愛情をより強く感じていて、自分の中にも様々な想いが芽生えてきて、作品に大きな影響を与えていると言えるでしょう。

娘だけではなく、妻や両親とのこれからの関係性の変化によって、作る作品に大きく影響が出てくると思います。経験してきた全て、そしてこれから経験するすべてが、僕の映画監督としての作家性を築きあげていく未来に繋がっていくと信じています。

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インタビュー・撮影/松野貴則

髙橋栄一監督プロフィール

岐阜県出身。建築・ファッションを学んだ後に塚本晋也監督作品『葉桜と魔笛』(2010)『KOTOKO』(2011)に助監督として参加。以後ショートフィルムやMV、広告、イベント撮影、テレビ番組などの制作を手がける。

監督作品に『華やぎの時間』(2016/京都国際映画祭2016C・F部門入選、SSFF&ASIA 2017ジャパン部門入選&ベストアクトレス賞)『眼鏡と空き巣』(2019/SeishoCinemaFes入選)『MARIANDHI』(2020/うえだ城下町映画祭・第18回自主制作映画コンテスト入選)『さらりどろり』(2020/SSFF&ASIA 2021ネオ・ジャパン部門入選)『鋭いプロポーズ』(2021/福井駅前短編映画祭2021優秀賞)『サッドカラー』(2022/PFFアワード2023入選)がある。

映画『ホゾを咬む』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
髙橋栄一

【プロデューサー】
⼩沢まゆ

【撮影監督】
⻄村博光

【キャスト】
ミネオショウ、⼩沢まゆ、⽊村知貴、河屋秀俊、福永煌、ミサ・リサ、森⽥舜、三⽊美加⼦、荒岡⿓星、河野通晃、I.P.U、菅井玲

【作品概要】
短編映画『サッドカラー』がPFFアワード2023に入選するなど、国内映画祭で多数の賞を獲得し続けている新進気鋭の映像作家・髙橋栄一による⻑編映画。

主⼈公を演じるのは、主演作『MAD CATS』(2022)から『とおいらいめい』(2022)など幅広い役柄をこなすカメレオン俳優・ミネオショウ。主人公の妻役には、映画『少⼥〜an adolescent』(2001)にて国際映画祭で最優秀主演⼥優賞を受賞した⼩沢まゆ。主演作『夜のスカート』(2022)に続き本作でもプロデューサーを務めた。

また撮影監督を、『百円の恋』(2014)など武正晴監督作品に数多く参加し『劇場版 アンダードッグ』(2020)で第75回毎⽇映画コンクール撮影賞を受賞した⻄村博光が担当した。

映画『ホゾを咬む』のあらすじ


(C)2023 second cocoon

不動産会社に勤める茂⽊ハジメは、結婚して数年になる妻のミツと⼆⼈暮らしで⼦どもはいません。

ある⽇、ハジメは仕事中に普段とは全く違う格好のミツを街で⾒かけます。帰宅後聞いてみるとミツは、⼀⽇外出していないと⾔いました。

ミツへの疑念や⾏動を掴めないことへの苛⽴ちから、ハジメは家に隠しカメラを設置します。

⾃分の欲望に真っ直ぐな同僚、職場に現れた⾵変わりな双⼦の客など、周囲の⼈たちによってハジメの⼼は掻き乱されながらも、⾃⾝の監視⾏動を肯定していきます。

ある⽇、ミツの真相を確かめるべく尾⾏しようとしますと、⾒知らぬ少年が現れてハジメに付いて来ました。そしてついにミツらしき⼥性が、誰かと会う様⼦を⽬撃したハジメは……。




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