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Entry 2024/01/19
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『風よ あらしよ 劇場版』あらすじ感想と評価解説。吉高由里子が自由を求めて闘う女性を力強く演じる|映画という星空を知るひとよ188

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第188回

2023年NHKBS4K・8Kで放送された特集ドラマ『風よ あらしよ』が映画化され、『風よ あらしよ 劇場版』として2024年2月9日(金)より全国順次公開されます。

今から100年前、文章で結婚制度や社会道徳に真正面から異議を申し立て、女性解放運動に生涯をかけた女性・伊藤野枝がいました。本作は、彼女の信念を貫いた生き様を描いた作品です。

「男尊女卑」の教えが支配する社会に大きな不満を持つ伊藤野枝。平塚らいてうの言葉に感銘を受け、自ら女性解放運動の先駆者となり。権力を笠に着て女性や弱者をいたぶる社会に挑みます。

映画『風よ あらしよ 劇場版』をご紹介いたします。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『風よ あらしよ 劇場版』の作品情報


(C)風よ あらしよ 2024(C)村山由佳/集英社

【公開】
2024年(日本映画)

【原作】
村山由佳『風よ あらしよ』(集英社文庫刊)

【演出】
柳川強

【脚本】
矢島弘一

【音楽】
梶浦由記 

【制作統括】
岡本幸江

【キャスト】
吉高由里子、永山瑛太、松下奈緒、美波、玉置玲央、山田真歩、朝加真由美、山下容莉枝、渡辺哲、栗田桃子、高畑こと美、金井勇太、芹澤興人、前原滉、池津祥子、音尾琢真、石橋蓮司、稲垣吾郎

【作品概要】
大正時代の結婚制度や社会道徳に、真正面から異議を申し立てた女性解放運動家・伊藤野枝を描いたドラマ『風よ あらしよ』。本作は、2022年にNHK BS4K・8Kで放送された本作の劇場版作品です。原作は村山由佳の同名小説。

伊藤野枝を『きみの瞳が問いかけている』(2020)の吉高由里子が演じ、平塚らいてう役を松下奈緒、辻潤役を『正欲』(2023)の稲垣吾郎、大杉栄役を永山瑛太がそれぞれ好演しています。

演出は、吉高由里子主演のNHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』も手がけた柳川強。

映画『風よ あらしよ 劇場版』のあらすじ


(C)風よ あらしよ 2024(C)村山由佳/集英社

大正時代の終わり。福岡の片田舎では、まだ女学生の伊藤野枝(吉高由里子)の仮祝言が行われていました。野枝の家は貧しく、授業料の援助してくれた親戚からの縁談話を断れなかったのです。

なぜ好きでもない男と結婚せねばならないのか。納得のいかない野枝は教師の辻潤(稲垣吾郎)が授業で紹介した、平塚らいてう(松下奈緒)の「元始、女性は実は太陽であった」の言葉に衝撃を受けます。

野枝は「自由になりたい」という想いを仮祝言を行った夫に話しますが、到底理解してもらえません。ついに野枝は着の身着のままで家を飛び出し上京しました。

教師の辻潤の実家に身を寄せ、感銘を受けた平塚らいてうに手紙を送りました。その後、平塚らいてうと面会し、青鞜社に入ることになります。

青鞜社は当初、詩歌創作が中心の女流文学集団でしたが、やがて伊藤野枝が中心になって婦人解放運動に発展していきます。

野枝は文才を見出してくれた辻潤と結婚しますが、気持ちのすれ違いから別れ、仕事の活動中で生涯のパートナーとなる無政府主義者の大杉栄(永山瑛太)と出会います。

波乱万丈の人生をさらに開花させようとした矢先、1923年9月1日に関東大震災が起こり、理不尽な暴力が彼女を襲います。

映画『風よ あらしよ 劇場版』の感想と評価


(C)風よ あらしよ 2024(C)村山由佳/集英社

本作は「女は、家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだあとは子に従う」という三従の教えが正しく美しいとされていた大正時代が舞台。その頃、男尊女卑の風潮が色濃い世の中に反旗を翻した女性たちが、社会に異を唱え始めていました。

本作の主人公・伊藤野枝も、そんな社会が嫌でたまりませんでした。なぜ女性ばかりが、家やしきたりに縛られなくてはならないのか。女性は男性の持ち物ではありません。

幼い頃から本が好きだった野枝ですが、父も母も「女子に学問はいらない」と野枝の気持ちも考えずに縁談を進めます。

野枝はそんな実家に嫌気がさして家を飛び出し、感銘を受けた平塚らいてうの青鞜社で働き始めます。自分の経験をもとに「女性がもっと輝ける人生があるはず」と、月刊誌『青鞜』に文を書き続けました。

社会はまだまだ女性を軽視しますが、野枝は小柄な身体に反する大きな声で自分の考えを述べ、女性解放論を訴え続けます。

野枝の心からの叫びは、いつ世間に届くのでしょうか。野枝の生きた時代から100年以上たった今、やっと彼女が求めた女性も輝ける時代になりつつあります。

自由な恋愛、男女区別のない職業、政治への参政権、男性の育児参加などなど。現代は、野枝が見たら驚くような進化を遂げていると思われます。しかしその裏では、まだ男尊女卑の名残りがくすぶっています。

本作では、本気で社会を変えようとした勇気ある野枝の人生を描きました。波乱万丈な野枝の生き方から、女性の尊厳について深く考えさせられます。

まとめ


(C)風よ あらしよ 2024(C)村山由佳/集英社

2023年のNHK特集ドラマから映画化された『風よ あらしよ 劇場版』をご紹介しました。

男尊女卑の考えが世を占めていた時代に、文章で真っ向から反発して女性解放運動の先駆者となった伊藤野枝。何者にも負けない強い意志と炎のような信念を持った彼女を、吉高由里子がみごとに演じ切りました。

本作で野枝が心から発する「女性解放への願い」と「権力を笠に着てのさばる奴らへの怒り」は、現代でも引き続き考えていかねばならない課題と思われます。

映画では実際の野枝と大杉の写真も紹介されますが、キャストの吉高由里子と永山瑛太はまるでその2人が憑依したかのようによく似ていますので、お見逃しなく。

映画『風よ あらしよ 劇場版』は2024年2月9日(金)より全国順次公開!

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


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