腕っぷしと知恵を両方兼ね備えたヒーローの物語!
『羅生門』(1950)『七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督が、時代劇に「西部劇」と「ハードボイルド小説」の要素を取り入れた娯楽大作『用心棒』。
宿場町で対立するヤクザたちを、風来坊の浪人・三十郎が知恵を使って倒す姿を痛快に描いた本作は大ヒットを記録。「刀の斬殺音」や「残酷描写」など、それまでの時代劇映画と一線を画す演出は後世に大きな影響を与えました。
主演・三船敏郎は、1961年にヴェネチア国際映画祭で男優賞を受賞。また仲代達矢、山田五十鈴らが出演を果たしています。
のちに映画監督セルジオ・レオーネ×主演クリント・イーストウッドによる「ドル箱3部作」の1本『荒野の用心棒』までも生み出した、黒澤明監督の代表作『用心棒』をご紹介します。
映画『用心棒』の作品情報
【公開】
1961年(日本映画)
【監督】
黒澤明
【製作】
田中友幸、菊島隆三
【脚本】
黒澤明、菊島隆三
【キャスト】
三船敏郎、仲代達矢、山田五十鈴、司葉子、東野英治郎、加東大介、志村喬、藤原釜足
【作品概要】
『羅生門』(1950)『七人の侍』(1954)の巨匠・黒澤明監督が、時代劇に時代劇に「西部劇」と「ハードボイルド小説」の要素を取り入れた娯楽大作『用心棒』。
主演の三船敏郎は第22回ヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞し、興行的にも大成功をおさめました。また本作が公開された翌年1962年には、本作の続編的作品となる『椿三十郎』が製作されました。
映画『用心棒』のあらすじとネタバレ
さびれた宿場町に、一人の浪人者がふらりと流れ着きます。
賭場の元締めである馬目の清兵衛一家、清兵衛の弟分で不満を持って独立した丑寅一家という2組のヤクザの対立によって、その町は荒れ果てていました。
居酒屋の権爺から事のあらましを聞いた男は、この町にとどまって、酒代の代わりにヤクザらを一掃してやると告げました。
男は清兵衛のもとへ行って自分を用心棒に雇うように言い、彼らの目の前で丑寅の子分3人を斬り倒してみせました。
用心棒として清兵衛一家に50両で雇われることになった彼は、「桑畑三十郎」と適当な名を名乗ります。
しかし守銭奴の妻・おりんにそそのかされた清兵衛が、丑寅との抗争後に自分を殺そうとしていることを知った三十郎は、戦いの直前に金を突き返して足抜けしてしまいました。
ヤクザ同士がつぶし合うのを期待して高みの見物を決め込む三十郎でしたが、八州廻り(関東取締出役。文化2年・1805年に設置され、関八州の天領・私領の区別なく巡回し、治安の維持や犯罪の取り締まりに当たっていた)が来たために抗争は中止に。
役人の滞在によって抗争の停戦が続く中、ヤクザたちは互いに金を積んで三十郎を引き入れようとします。
一方、隣の宿場町で役人が殺されたと知った八州廻りは町を去っていきました。
映画『用心棒』の感想と評価
ファンタジーの中に存在するリアリティ
巨匠・黒澤明による痛快時代劇です。主人公の三十郎を、三船敏郎が生き生きと演じています。
剣なら誰にも負けない凄腕を持ち、敵対するヤクザ同士を騙して衝突させる切れる頭も持ち合わせた、野性味あふれる三十郎。無敵のヒーローというファンタジックな面を持ちながらも、その描写にはリアリティがあります。
まずはじめに驚かされるのは、三十郎が町に着いた場面です。現れた野良犬は、なんと「人の手首」を咥えていました。
時代劇では「刀での斬り合い」を描いていても、その斬り合いによって実際に傷ついた場面は映さないことも多いものですが、本作では「斬り落とされた腕」が映るなど残酷な描写も登場します。
決してバイオレンスを追及した作品ではありませんが、「刀で斬れば、人は傷つくし死ぬ」という事実から目をそらしません。
剣の達人である三十郎は、悪人どもをためらうことなくバッサバッサと斬り殺していきますが、その非情さ・荒々しさには逆に清々しさを覚えます。
その一方で、かわいそうな女とその家族を見捨てることができない、情の厚さも持ち合わせている三十郎。人々が彼を好きにならずにはいられない理由はここにあります。
一家を助けたがゆえに三十郎は丑寅に捕らえられ、激しい拷問に合います。顔は傷だらけ、わしづかみにされたり投げ倒されたりと、手ひどい暴行を受ける場面が続きます。叩くフリだけ、という甘い描写は一切ありません。
三十郎は何とか逃げだしたものの、あまりに叩きのめされたために歩くこともできず、はいつくばって軒下から逃げることに。ここまで打ちのめされた姿をさらすヒーローは、そうそういないでしょう。
しかし、不屈の闘志で「道」を作り出す様にリアリティがあるからこそ、本作には生きた血が通っているような「熱さ」が感じられるのです。
また三十郎の人物像にもリアリティがあります。「町を守りたい」という思いだけのためにヤクザの抗争に飛び込んだわけではなく、戦いを好む根っからの剣士である彼は、自分の才を悔いなく生かせる場所を追い求めていたのではないでしょうか。
スリルを楽しまずには生きていけない、という三十郎の性質が、この荒唐無稽ともいえる物語にリアリティを生んでいるように感じられるのです。
小さな宿場町に暮らす人間たちの魅力
放り投げた木の枝が落ちて指し示した方へと足を向け、宿場町にたどり着いた風来坊の浪人・三十郎。
この破天荒な主人公はもちろんとびきり魅力的ですが、登場するほかの人物らにも魅了されます。
三十郎のバディとなるのは、東野英治郎演じる居酒屋の権爺です。小津安二郎の遺作『秋刀魚の味』(1962)などでも好演する彼が、味わい深く気の良い爺を演じます。
彼の居酒屋は、物騒な町から身を守るために木窓を閉め切っていますが、それらを開けると町全体が見渡せるようになっています。昔懐かしい造りの家屋や、その窓から覗き見える砂ぼこり舞う往来で何が起こるのかとワクワクすることでしょう。
権爺は「宿場はもうおしまいだ」と嘆きながら、救世主となる三十郎に次第に惹かれていき、最後には身を挺して浪人を助けようとします。
ヤクザの清兵衛の守銭奴妻・おりんを演じる山田五十鈴も魅力的です。吊り上がった目でいつも金のことばかり考えている強欲な女ですが、そのブレない姿勢がなんともチャーミングに映ります。
丑寅一家の、三十郎の隠れた棺桶を担ぐことになる間抜けな亥之吉と、非情な卯之助の兄弟。不敵な面構えで銃をいつも手放さない卯之助を演じる、若き日の仲代達矢の放つギラギラした輝きに圧倒されます。
そのほか、美貌ゆえに妾にさせられたおぬいやその夫と子、三十郎に斬られそうになりながらも見逃してもらった若者、気がふれてしまう造り酒屋など、様々な市井の人々にも心を奪われます。
人間同士の心と心がぶつかりあう小さな町に、最後まで惹きつけられるに違いありません。
まとめ
黒澤明監督が三船敏郎を主演に迎えた大ヒット時代劇『用心棒』。
時を越え、国を越えて多くの人々から愛され続ける名作映画です。
現代の俳優にはなかなか出せない野性味と色気を、三船敏郎が醸し出しています。
三十郎という破天荒な男に再び会いたくなった方は、ぜひ続編の『椿三十郎』もご覧になってみてはいかがでしょうか。