究極の悦楽、それは想像もつかない痛み……
「リング」シリーズや「呪怨」シリーズなどのいわゆる「Jホラー」や、「13日の金曜日」シリーズや「悪魔のいけにえ」シリーズのような世界中の名作ホラーシリーズ。
そして長年愛されるホラーシリーズの多くには、その作品の「顔=ホラー・アイコン」といえる人気キャラクターが登場します。
今回は貞子・ジェイソンにも決して劣らない衝撃的なビジュアルと、その性質によって30年以上も続く人気をシリーズに定着させた怪人の登場作『ヘル・レイザー』(1987)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『ヘル・レイザー』の作品情報
【公開】
1987年(イギリス映画)
【原題】
Hellraiser
【監督・脚本】
クライヴ・バーカー
【キャスト】
アシュレイ・ローレンス、アンドリュー・ロビンソン、クレア・ヒギンズ、ショーン・チャップマン、ロバート・ハインズ、ダグ・ブラッドレイ、グレース・カービー、ニコラス・ヴィンス、サイモン・バムフォード
【作品概要】
北村龍平によって映画化された『ミッドナイト・ミートトレイン』などの著作を持つ小説家クライヴ・バーカーが、自著『ヘルバウンド・ハート』を自ら映画化した作品。
主人公の父ラリーを『ダーティハリー』(1972)で犯人スコルピオ役を怪演したアンドリュー・ロビンソンが演じました。
映画『ヘル・レイザー』のあらすじとネタバレ
組み換えることで「究極の悦楽」を体験できるというパズルボックス「ルマルシャンの箱」を闇商人から購入したフランク・コットン。早速家でその箱を組み換えると、箱は異常な力を放ちフランクの身体中に鎖つきの鉤が刺さります。
数年後、肉片だらけの部屋を歩く顔に大量の針を刺した男は、肉片を集めフランクの顔を確認すると箱を回収しました。
10年前に母が死んで以降、兄フランクと疎遠だったラリーは妻のジュリアと娘のカースティを連れて実家に越してきます。家にはフランクが住んでいるはずでしたが、宗教関連の置物があるのみでフランクの姿は見当たりませんでした。
カースティと血のつながっていない継母ジュリアはラリーと婚姻関係にありながらも、フランクと性的関係にあった過去がありました。
引っ越しの最中に手を負傷したラリーは、密かにフランクのことを想うジュリアに傷を見てもらう最中、屋根裏で血を床に落としてしまいます。
誰もいなくなった屋根裏では床板に飛散していた肉片がラリーの血を吸うことで徐々に形を成し、不完全な人間の姿となっていました。
その日の夜、友人を呼んだ引っ越し祝いの夕食の最中、体調を崩したジュリアは屋根裏で不完全な人間の姿をしたフランクと再会。
フランクはジュリアに完全な人間に戻るためにはもっと血が必要であると言います。ジュリアは最初こそ躊躇うものの、フランクとの過去を思い出し覚悟を決めました。
ジュリアはバーでナンパした男を家に連れ込むと、屋根裏へと誘き出しハンマーで撲殺。フランクは死体となった男から血を吸い取ると人間の形へと近づき、さらなる血をジュリアに求めました。
その後、ペットショップで働くカースティのもとには不気味な男が現れ、バッタを展示ケースから掴み取るとその場で食します。
ジュリアの凶行は続き、新たに一人の男をフランクに捧げると、彼はタバコを吸えるまでに回復島しました。ジュリアは現在までの経緯についてフランクに説明を求めると、彼は例の「ルマルシャンの箱」を見せました。
究極の悦楽をもたらすこの箱を組み替えたことで「究極の悦楽=痛み」である地獄に落とされていたと語るフランク。案内人である魔導士(セノバイト)たちに地獄を抜け出したことがバレる前に、力を回復させる必要があるとジュリアに言い聞かせました。
夜、カースティと食事するラリーはジュリアの態度がおかしいことを吐露し、ボーイフレンドのスティーブの家に住むカースティに様子を見てほしいと頼みます。
翌日、最後の一線としてラリーを生贄にすることを嫌がるジュリアは、またしてもナンパした男を連れて帰り、屋根裏でフランクへと引き渡しますが、その様子をカースティが見ていました。
ジュリアの行動に不信感を持ったカースティは、屋根裏で皮膚の剥がれたフランクと再会。フランクはカースティに迫りますが、彼女が落ちていた「ルマルシャンの箱」を奪うとフランクは怯み、カースティは箱を持ち出して逃走に成功しました。
映画『ヘル・レイザー』の感想と評価
数十年間愛される名作ホラーシリーズ
1987年、小説家クライヴ・バーカーが自著を自らの手で映画化した映画『ヘル・レイザー』。
本作では「肉片となり死んだはずの人間が人の血を吸うことで復活し、彼に惹かれ殺人に手を染める女性とともに凶行を繰り返す」という、じわじわと家族の幸せを崩壊させていく湿度高めなホラーが中盤まで繰り広げられます。
しかし、家族の崩壊と自身の復活を目論むフランクも本作のメインとなるヴィランではなく、本作には主人公カースティを恐怖に陥れる「さらなる恐怖」が登場します。
「究極の悦楽」を与えることを使命とする地獄の使者「セノバイト」が登場すると、物語の様相が一変。フランクさえもこの作品ではある意味で被害者に思えてしまうという二重の構造となっています。
この湿度の高さが際立つ前半部分と、地獄と魔術が前面に押される後半部分の変容ぶりが人気となった本作は、およそ10作の続編が製作され、2022年にはリブート作品も製作されるほどの人気シリーズとなりました。
究極の悦楽の案内人「ピンヘッド」
本作に登場し「ヘルレイザー」シリーズの「顔」といえる存在となった怪人ピンヘッド。
顔中にピンが刺さった異質すぎる顔、汚いイメージのあるホラー映画のヴィランの印象を覆す美しいボンテージファッション、意外にも対話可能な性格……。
何もかもがそれまでのホラー映画の常識とは異なったピンヘッドは、本シリーズの人気を牽引する「ホラー・アイコン」となりました。
第1作となる本作でピンヘッドを演じたダグ・ブラッドレイは、8作目の『ヘルレイザー ヘルワールド』(2005)でピンヘッド役を引退。しかし「貞子」「レザーフェイス」が登場することでも知られるゲーム『Dead by Daylight』にピンヘッドが登場した際には再び彼の声を演じ、ファンを歓喜させました。
「ルマルシャンの箱」によって自身を呼び出した人間に「究極の悦楽」を与えることだけが使命であるピンヘッドは、決して悪人ではありません。
しかし、このシリーズに彼の存在が必要不可欠なほどに、ド派手なビジュアルと強烈な殺害シーンで「ヴィラン」としての強烈すぎる印象を残す存在でした。
まとめ
快楽を求めた人間が、想像を絶する苦痛に襲われる。
「痛みと性的官能を引き起こす感覚が酷似している」という研究は実際に存在し、映画『ホステル』のようにホラー映画の界隈でもエロスと暴力は対になるものとして描かれることがあります。
独特すぎる世界観が根強い人気を誇る映画『ヘル・レイザー』。究極の官能体験(?)とピンヘッドの活躍をぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。