Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2023/12/12
Update

『いずれあなたが知る話』評価と感想。古澤健監督×小原徳子初脚本で魅せる母娘の幸せの形と“日常に潜む孤独”

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『いずれあなたが知る話』は下北沢トリウッドで封切り後、2024年5月25日(土)〜31日(金)名古屋シネマスコーレで劇場公開!

ピンク映画から商業映画まで幅広く活躍する古澤健監督が、シングルマザーの母娘の幸せと日常に潜む孤独を描いたサイコ・ノワールサスペンス『いずれあなたが知る話』。

『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)の小原徳子がシングルマザーの女性を演じ、自らオリジナル脚本を書き上げました。またシングルマザーに執着し始める隣人役を演じた大山大も、本作でプロデューサーを務めています。

アパートで娘の綾と暮らすシングルマザーの靖子は、弁当屋で働くも生計が立ち行かなくなり、風俗で働き始めます。そんな母娘の生活を、アパートの隣室に住む自称カメラマン・勇雄は密かに観察していました。

覗かれていることなど全く知らない靖子と綾でしたが、ある日綾が何者かに誘拐されてしまいます。しかし靖子は綾を取り戻そうとせず、秘密のルーティーンが始まっていくのでした……。

映画『いずれあなたが知る話』の作品情報


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

【公開】
2023年(日本映画)

【プロデューサー】
大山大

【脚本】
小原徳子

【監督】
古澤健

【撮影】
高田祐真

【キャスト】
大山大、小原徳子、一華、大河内健太郎、蓮池桂子、穂泉尚子、蓮田キト、伴優香、はぎの一、オノユリ、小川紘司、久場寿幸、奥江月香、中村成志

【作品概要】
監督は『ロスト★マイウェイ』(2004)で商業監督デビューを果たし、『一礼して、キス』(2017)など商業映画からピンク映画まで幅広く手がける古澤健。

シングルマザー・靖子役には『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)の小原徳子。また隣人・勇雄役を『私、アイドル辞めます』(2022)の大山大が務めました。

大山との会話から着想を得て脚本を執筆した小原は、本作が脚本デビュー作に。また大山も、本作で主演のほかプロデューサーも務めました。

映画『いずれあなたが知る話』のあらすじ


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

シングルマザーの靖子(小原徳子)は、一人娘の綾(一華)と古びたアパートで暮らしています。靖子は弁当屋で働いていますが、それだけでは生活できず、風俗で働き始めます。

そんな靖子たちの生活を隣に住む勇雄(大山大)が覗き見してはカメラで撮影しています。

ある日、靖子が仕事から帰ると綾の姿がありません。誘拐されたことに気づき靖子は探し回りますが、綾の居場所がわかると連れ戻そうとはせず、靖子の秘密のルーティーン生活が始まります。

母娘の《幸せ》な生活をすぐそばで見ている勇雄。しかし、そのことを靖子は知らず……。

映画『いずれあなたが知る話』の感想と評価


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

靖子と綾の母娘の生活を覗き見するだけでなく、靖子のストーキングまでする勇雄。また風俗で働く靖子の客の後まで尾けた際には、その客が既婚者であることを突き止めていました。

その描写からは、誰もが秘密を抱えながら生きており、その秘密は人に知られたくないものだということが伝わってきます。

勇雄は靖子の生活を覗き見し、靖子もまた綾を覗き見るようになり、それが日々の楽しみとなっていきます。そうした靖子や勇雄の行為を通して、二人それぞれの「歪な愛と孤独」を観客である私たちは垣間見ることができるのではないでしょうか。

靖子はシングルマザーの生活苦から、思わず綾を手にかけようとしてしまう様子が描かれます。靖子にとって綾は生き甲斐であり、綾のために必死に働く一方で、彼女の心身は「限界」にまで来ていたのです。

誘拐された綾の居場所が分かっても、靖子は綾を連れ戻そうとはしません。それは「その方が綾にとっていい」と思った靖子なりの愛だけでなく、どこか肩の荷が降りたような気持ちもあったのではないでしょうか。

靖子と綾の「社会から孤立し、必要な支援も得られない」という現状は、決して現実の社会と無関係ではないでしょう。


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

一方の勇雄も「家庭」にまつわるトラウマを抱えており、そのトラウマが靖子と綾を覗き見することにも少なからず関わっています。そして勇雄が、靖子に自身の母の幻影を重ねていることや、その理由についても映画後半で明かされていきます。

トラウマから愛に飢え、しかし怯えもしている勇雄。彼は自分の愛を表明することで、自分も愛されると思い込んでいる様子も映画では描かれていきますが、その愛の「歪さ」には気づけないでいます。

対して「綾が幸せなら自分と共にいなくてもいい」と思う靖子。それは靖子なりの愛なのかもしれませんが、本当にそれは“愛”であり“幸せ”だと言えるのでしょうか。

二人のどこか歪な愛が、次第に狂気を帯びていく様は「この愛は“本当の愛”なのか」と観客に突きつけているかのようです。そして「歪な愛」に縋るしかない哀しさの背景には、現代社会に巣食う格差や社会問題も覗き見えるのです。

まとめ


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

シングルマザーの靖子と、靖子をストーキングする隣人の勇雄。

歪で異常ですらある関係性の中に、切実で哀しいほどの愛と孤独を描いた本作が魅力的なのは、「誰かの世界を覗く登場人物を、観客がまた覗いている」というメタ構造の面白さだけでなく、観客が「自分たちは私的な空間を見ている」と再認識させられる一種の“気まずさ”にあるのではないでしょうか。

また、タイトル『いずれあなたが知る話』の「あなた」とは、誰のことでしょう。

この「あなた」はおそらく一人ではなく、覗き見られる対象となっている人物、すなわち勇雄に覗き見られている靖子と綾、そして靖子が覗き見ている綾も指しているのではないでしょうか。


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

もし覗き見られている者たちが「自分たちは覗き見られている」と知った時、何を感じるのでしょうか。自分のパーソナルな空間を覗き見られて喜ぶわけもなく、不快感を抱くのは明らかでしょう。

そもそも犯罪行為である「覗き見」を通してその歪さの中にある切実さを描くことで、自分にとって理解できない行動の背景にあるものは何かと考えるきっかけを与えてくれているともいえます。

また風俗に働き始めた靖子は、他の女性とうまくいかなかったり、客に騙され断れない状況に追いやられてしまったりします。靖子にとって信じられない行動をする人たちにも、それぞれの事情があるのかもしれません。

当たり前のようでいて、日常を過ごしていると気づけない視点が本作にはあるのです。それが歪さの中にある切実な思いとなって観客に訴えかけます。

2023年12月22日(金)まつもと市民芸術館小ホールで限定上映!
長野県地元の主演・小原徳子がイベント登壇!!



関連記事

サスペンス映画

【ネタバレ】ドント・スティール|感想評価とあらすじ結末解説。おすすめシチュエーションスリラーが描く“目が語る真実”に憑かれた者の狂気

強盗たちが金細工師の老夫婦に翻弄されるシチュエーションスリラー! ヴィンセント・リッキウトが脚本・監督を務めた、2022年製作のイタリアのPG12指定のシチュエーションスリラー映画『ドント・スティール …

サスペンス映画

映画『コインロッカーの女』ネタバレ結末感想とあらすじ解説。韓国の闇“チャイナタウン”に生きる女の熾烈な戦いを描く!

「未体験ゾーンの映画たち 2016」で上映されたコリアンクライム『コインロッカーの女』。 人は血縁関係がなくてもその背中を見て育つとき、同じような人生を結果的に生きることになるのか、生まれてきた意義を …

サスペンス映画

【ネタバレ】陰陽師0|あらすじ感想と結末の評価解説。山﨑賢人がかつて野村萬斎も演じた実在する安倍晴明を熱演!

安倍晴明が陰陽師になる前のオリジナルストーリー『陰陽師0』がスクリーンに! 平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明の活躍を描いた夢枕獏のベストセラー小説「陰陽師」シリーズ。日本や中国でも何回か映画化された …

サスペンス映画

映画『プロット殺人設計者』あらすじ感想と評価レビュー。カン・ドンウォンが主演作クライム・サスペンスで演じる“完璧な事故”を作る計画殺人者

映画『プロット 殺人設計者』は2025年6月20日(金)より新宿バルト9ほかで全国公開! 映画『プロット 殺人設計者』は、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2021)『ベイビー・ブローカー』(20 …

サスペンス映画

映画『L.A.コンフィデンシャル』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

~一人の女、ひとつの真実…男たち、野獣の輝き~ ジェイムズ・エルロイの暗黒の“L.A.4部作”を一つを見事に映画化した傑作クライム・サスペンス『L.A.コンフィデンシャル』をご紹介します。 映画『L. …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学