北野武が戦国時代を舞台に描く仁義なき裏切り合戦!
漫才師「ビートたけし」として活躍しながらも、『その男、凶暴につき』(1989)で映画監督としての鮮烈なデビューを飾り、『ソナチネ』(1993)『座頭市』(2003)といった作品で世界から高く評価された北野武。
静かな音楽の中で行われる暴力・残虐描写に象徴される北野監督の作品群は、すぐに誰が製作したのかが分かるような特徴を持っています。
そんな唯一無二の特徴を持つ北野武が次なる舞台に選んだのは群雄割拠の「戦国時代」。
今回は暴力と裏切りに満ちた、バイオレンスすぎる北野武版戦国時代劇映画『首』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『首』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本・原作】
北野武
【キャスト】
ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、勝村政信、寺島進、桐谷健太、浅野忠信、大森南朋、六平直政、大竹まこと、津田寛治、荒川良々、寛一郎、副島淳、小林薫、岸部一徳
【作品概要】
漫才師・映画監督・俳優など様々な方面で活躍する「ビートたけし」こと北野武の執筆した同名小説を、北野武自らが監督し実写化した時代劇映画。
主人公となる戦国武将・羽柴秀吉を北野監督自身が演じ、物語の重要なカギを握る明智光秀を『ドライブ・マイ・カー』(2021)の西島秀俊が演じました。
映画『首』のあらすじとネタバレ
天正6年、織田家臣・荒木村重が突如謀反を起こします。
反織田勢力である毛利の援軍を頼りにしていた村重でしたが、援軍が送られることはなく、村重の立て篭もる有岡城は落城。
織田信長が労いのため羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、滝川一益の前に現れますが、信長は村重を逃してしまった一同に憤慨。息子である信忠に家督を継がせる気はないと断言した信長は、1番手柄を立てた人間を跡取りにすると宣言し、光秀に村重の追跡を命じました。
信長は自身を裏切った村重への制裁のため、村重の家臣や親族を女子どもを含め全員斬殺。また光秀は村重と親交があったため、織田家中では村重の謀反に関わっているとも噂され、光秀は窮地に立たされます。
ある日、千利休の茶会に招かれた光秀は、その場で抜け忍の曽呂利新左衛門が捕らえた村重と再会。光秀は村重を亀山城へと連れ帰ると、信長に報告せず彼を匿うことにします。
一方、曽呂利からその情報を得た秀吉は、曽呂利を召し抱える代わりに遂行不可能と思える二つの命令を下します。
曽呂利は旅の途中で、首級を挙げた友人を殺害し侍大将に成り上がろうとした農民・茂助を仲間に加えると、かつて自身が抜けた忍びの里・甲賀に立ち寄りました。
里を仕切る光源坊から、信長が信忠に送った密書を買い取るという任務を完遂した曽呂利は、次に亀山城に忍び込み、光秀と村重の肉体関係を知ります。しかし光秀は間者の存在に気づき、間者が甲賀の人間であると知ると里を襲撃し、光源坊を含む里の人間全てを殺害しました。
秀吉のもとに戻った曽呂利は、密書を秀吉に見せます。信長が信忠に宛てた書状には、信長が家臣に家督を継がせる気など毛頭なく、信忠に継がせた上で邪魔な家臣を殺害するように記されていました。
秀吉は書状を見て激怒。一方で秀吉の軍師・黒田官兵衛は光秀と書状を使ってある計略を思いつき、怒る秀吉はその計の実行を命じました。
その頃、光秀は村重を匿いつつ彼を追う任務をしている危険さに気づき、村重が後の世に邪魔となるであろう大名・徳川家康のもとに逃げ込んだように思わせる策を村重自身から提案されます。
信長は光秀の忠言を信じ、家康を亡き者とするために刺客を何度も差し向けますが、家康に恩を売ろうとする秀吉が彼に危険を知らせていたために、家康は曽呂利や家臣・服部半蔵によって命を救われました。
ある日、毛利攻めに時間をかけている秀吉が信長に呼び出され、1年以内の決着を命じられます。1年では難しいとその話を遮った光秀を、信長は側近・弥助に命じて酷く打ちすえました。
その日の夜、光秀を呼び出した秀吉は信長の書状を彼に見せます。光秀は魔王と崇めてきた信長が「家督を息子に継がせる」という平凡な考えを抱いていたことに失望し、間者を差し向けたのが秀吉と知りつつも、光秀は信長への反抗心を露わにしました。
一方、家康は何重にも影武者を用意することで信長の刺客を回避し続け、業を煮やした信長は光秀に命じ城に招いた家康の食事に、毒を盛って殺害しようとします。しかし、家康は巧妙に食べたフリをすることで毒殺を逃れます。
対して信長は、本能寺で執り行う茶会に家康を招くと同時に、光秀に秀吉への増援を命じるフリをして本能寺に現れた家康を襲うように命じます。しかし光秀は、その日こそ信長殺害の好機と考えました。
光秀は千利休を通じて、秀吉へ6月1日に京・本能寺で「事」を動かすことを伝え、秀吉は曽呂利に信長を監視させると同時に家康を逃がすために千利休を派遣します。
また秀吉は、毛利氏配下・清水宗治が城主を務める備中高松城を急いで攻め落とすため、官兵衛の考案した「水攻め」を実行に移しました。
映画『首』の感想と評価
「全員悪人」再び!
映画監督・北野武の作品は『ソナチネ』や『BROTHER』(2001)など、ヤクザの社会を生きる人間を物語のメインとした作品が多く、暴力や裏切りの世界の描写が特に卓越しています。
中でも「血よりも固い絆でつながっている」とされるヤクザの世界を舞台にした、無慈悲な裏切り合いの抗争を描いた「アウトレイジ」シリーズは「全員悪人」というキャッチコピーに偽りのない、悪人だらけの物語が高い人気を得ました。
そんな北野監督が「戦国時代」を舞台に描いた『首』は、裏切りの連鎖が珍しくもない時代なだけに、北野監督との相性が抜群の作品となっています。
どの登場人物を切り取っても善人とは言いにくく、人の命を軽んじる登場人物しか現れない「全員悪人」なこの戦国時代は、「武士道」と言う言葉とはかけ離れた北野監督しか描けない時代劇となっていました。
戦国時代を「キレイ」に描かない怪作
出演した番組にて、今回の『首』の舞台に「戦国時代」を選んだ理由について聞かれた北野監督は、「キレイに描かれる時代劇の嘘臭さ」に言及しました。
その言葉の通り、本作は人が手柄と領地を求めて殺し合いを繰り返してきた「戦国時代」の残酷さを、画的にも真正面から描いており、女子どもであっても容赦なく首を刎ねられる壮絶な時代劇となっています。
戦地には首を切り落とされた死体がそこら中に横たわっており、スクリーンを通してその腐臭が伝わってくるよな悲惨な光景が広がり、「戦国時代」を綺麗なものとして描く時代劇と真っ向から対立するような本作。
キレイには死ぬことのできない合戦の恐ろしさが、どの作品よりもリアルに感じるような映画となっていました。
まとめ
「戦国時代」を舞台に裏切りに満ちた人間模様を描き、戦場の悲惨さにもスポットを当てた北野監督映画『首』。
残虐で残酷な描写が多い一方で、物語にはところどころにギャグシーンが挟まれ、そのたびにホッと一息つくような感覚になります。
他の作品にも見られる「北野監督節」とも言える、残酷描写との緩急のつけ具合は本作も健在であり、戦国時代ファン以外の人も充分に楽しめる作品となっていました。