『ドロップ』(2009)の品川ヒロシ監督が伝説の不良漫画を映画化!
品川ヒロシ監督が『ドロップ』(2009)にも登場し、自身の友人である井口達也の青年時代を描いた漫画『OUT』を実写映画化。
『夏、至るころ』(2020)の倉悠貴を主演に迎え、ユーモアと迫力のアクションで魅せる青春実録ムービーです。
かつて「狛江の狂犬」と呼ばれた不良・井口達也(倉悠貴)は少年院を出所し、狛江から遠く離れた西千葉にいる叔母夫婦の元に身を寄せ、保護観察下での更生生活を始めます。
叔母夫婦が営む焼肉屋「三塁」で働きながら新たな生活をスタートした達也でしたが、千葉の暴走族「斬人(キリヒト)」の副総長・安倍要(水上恒司)との出会いにより抗争に巻き込まれていくことに……。
映画『OUT』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
井口達也、みずたまこと
【監督・脚本】
品川ヒロシ
【主題歌】
JO1
【キャスト】
倉悠貴、醍醐虎汰朗、与田祐希、水上恒司、與那城奨、大平祥生、金城碧海、小柳心、久遠親、山崎竜太郎、宮澤佑、長田拓郎、仲野温、じろう、大悟、庄司智春、渡辺満里奈、杉本哲太
【作品概要】
『夏、至るころ』(2020)の倉悠貴、『野球部に花束を』(2022)の醍醐虎汰朗、『死刑にいたる病』(2022)の水上恒司が今まで演じてきた役とはまた違う不良を演じ、グローバルボーイズグループ「JO1」の與那城奨、大平祥生、金城碧海が映画初出演を果たしました。
監督を務めたのは、お笑いコンビ「品川庄司」を組み芸人として活躍する一方、自身の自伝的小説を原作にした映画『ドロップ』(2009)で長編監督デビューを果たした品川ヒロシ。
その後も『漫才ギャング』(2011)『サンブンノイチ』(2014)『Zアイランド』(2015)『リスタート』(2022)などを手がけ、2023年には『ドロップ』をセルフリメイクでドラマ化しました。
映画『OUT』のあらすじとネタバレ
「狛江の狂犬」と呼ばれ、がむしゃらに喧嘩ばかりしていた井口達也(倉悠貴)は、警察にまで喧嘩を売り少年院に入れられます。そこでも問題を起こし、独房に入れられてしまいます。
堪え性のない達也に課されてたのは千羽鶴を折ることでした。そのような地獄のような日々を過ごし少年院を出所した達也でしたが、少年院の入口で地元の不良に喧嘩を売られた際に手を出してしまったため、すぐに少年院に送り返されます。
またしばらくして少年院を出所した達也は、保護観察官・石戸(じろう)から「今度問題を起こせばすぐには少年院から出られない」と釘を刺されます。
少年院を出所してすぐは地元に帰れないため、達也は焼肉屋「三塁」を営むおじちゃん(杉本哲太)とおばちゃん(渡辺満里奈)の元に預けられ、焼肉屋を手伝いながら更生生活を送ることに。
達也をクズと決めつけ、社会にとって邪魔だとでも言いたげな石戸に対し、おばちゃんは「たっちゃんは根はいい子だから」と言い、おじちゃんは「達也はバカだけどクズじゃない」と言います。
達也はそんな石戸の物言いに怒りを覚え、今までは怒ってすぐに暴れて解決してきましたが、今はそうすることができず“耐える”しかないことを理解していました。
そんな達也は、コンビニに停まっているバイクを見て思わず昔を思い出します。すると「何人のバイクを見てるんだ」と喧嘩を売られます。しかし、喧嘩をすることができない達也は「相撲をとろう」と言います。
相手は耳を貸さず達也に殴りかかってきますが、達也はしつこく「相撲で勝負しろ」と言い続け、相手は折れて相撲をとることに。乱闘の末、達也は技を決め相手を打ち負かします。
そのまま家に帰ろうとする達也に相手が話しかけてきます。達也が打ち負かしたのは、千葉の暴走族「斬人(キリヒト)」の副総長・安倍要(水上恒司)だったのです。
要から斬人の話を聞いた達也は昔のことを思い出し、目を輝かせます。しかし、今は保護観察中で喧嘩はできない達也は関わらないようにしようとします。
しかし、なぜか達也を気に入った要は、達也が焼肉屋でバイトしていることを聞いて焼肉を食べにきます。おばちゃんは達也の友達と知りうれしそうにサービスをします。
達也も嫌がりながらも要に対し友情が芽生え始めていました。そして集会に向かう要とばったりでくわした達也は、集会所であるボウリング場に行くことに。
かつて4つの組が抗争を繰り広げていたものの、その果てに死者を出したことから最終的には協定を結び、現在は何とか秩序を保っていると聞かされる達也。そうした情勢下で最近勢力を伸ばしている「爆羅漢(バクラカン)」は、斬人を潰そうと狙っていました。
爆羅漢は下原三兄弟が率いる半グレ集団で、長男・一雅(宮澤佑)は手段を選ばず、クスリなどを使ってビジネスを展開しています。仲間を大切にする斬人とは全く違う最低な集団でした。
映画『OUT』の感想と評価
“バカ”だけど“クズ”じゃない生き方
少年院を出所し、保護観察下での更生生活を送ることになった井口達也。
そんな達也を引き受けた叔母夫婦。叔母は達也に対して「根はいい子」だと言い、優しく接します。叔父も達也に対して「バカだけどクズじゃない」と言い、喧嘩っ早い達也に対し暴力を肯定はしませんが否定もしていません。
二人の距離感と対照的なのが、保護観察官の石戸でした。達也をクズと決めつけ、彼らを一斉検挙できればいいと、彼らが怪我しようが命の危険に晒されようがお構いなしです。また庄司智春演じる焼肉屋の客も、達也のことを「イキがっていようが今はただのバイト」と見下した態度をとります。
そのようにハナから「不良=クズ」とみなす大人も描きながら、叔母夫婦のような達也のヤンチャで喧嘩っ早い部分を否定せず、見守ってくれる大人を描くところが品川監督ならではの優しさといえるでしょう。
また『ドロップ』(2009)で描かれていたように不良に憧れ、転校した学校で出会ったのが井口達也であったことから、監督自身もかつてはヤンチャな青年であったという背景も影響しているのでしょう。
さらに与田祐希演じる皆川千紘も、印象的な役です。自身の兄が抗争で亡くなったことから「もう誰にも死んでほしくない」と、喧嘩っ早く自分の危険を顧みず仲間がやられたらやり返すと突っ込んでいく不良たちに立ち向かっていきます。
「自分勝手に暴れ回る不良たちでも死んだら悲しむ人がいるんだよ」という千紘の言葉は、今までただ暴れ回っていただけの達也の胸に突き刺さります。
戦う理由があるからこその「一線」
安倍要との出会いも、達也にとっては重要な出来事でした。「喧嘩をしてはいけない」という理由から相撲をとり、要に勝ってしまった達也はその後要に気に入られ仲良くなっていきます。
知り合いもいない西千葉にやってきた達也にとっては、素直になれないものの要の存在は嬉しかったはずです。また、喧嘩をできないからこそ要のいる暴走族「斬人」は達也にとって刺激的であり、まさに昔の血が疼くものであったのです。
部外者だけれど完全に部外者でもないという微妙な立ち位置で、斬人と爆羅漢の抗争に巻き込まれた達也は、半ば自分も皆と共に闘う気になっていました。
そんな達也に、要ははっきり「関わるな」と釘をさします。それは達也の更生を願うおばちゃんの思いを知り、巻き込んでしまった自分がはっきり線を引くという要の「けじめ」でした。
しかし、そうした要の思いを知っていたからこそ、達也はそのままの感情を要にぶつけてしまい「二度と顔を見せるな」と言ってしまいます。
その後要が襲撃され斬人のメンバーも怪我を追い、総長である丹沢敦司は自分一人でも爆羅漢を潰すと決意します。そんな敦司に達也も共に行くと言いますが、敦司ははっきりと達也に対し「お前は部外者」と言い放ちます。
それは達也を巻き込ませたくないという思いもありますが、達也の中にある中途半端さを見抜いていたのかもしれません。
手段を選ばずメンバーを手駒のように扱う爆羅漢のトップ・下原一雅はクズですが、斬人は違います。確かに暴れ回ったりして、人に迷惑をかけている側面はあるでしょう。しかし人を手駒のようにしたり、薬の販売などビジネスを行ったりはしていません。
それぞれが斬人のメンバーを家族のように思い、家族がやられたらやり返す、自分のためではなく誰かのために戦うのが斬人なのです。
敦司が達也を突き放したのは、今の達也には戦うべき理由も、覚悟もないと思ったからなのでしょう。そんな達也は千紘が捕まったことを知り無我夢中で駆け出します。
そして、敦司たちに「俺は俺なりの理由で戦う」と宣言します。敦司たちももう達也を止めようとはしません。
激闘の末に爆羅漢を倒した達也たちのもとに、倒れていたはずの一雅が拳銃を持って現れます。敦司は拳銃を奪い一雅に向けますが、達也は「その引き金を引いたらアウトだぞ」と敦司を引き留めます。
誰かのために戦うことの意味を知ったからこそ、達也は超えてはいけない一線を越えようとした敦司を止めるのです。敦司のために引き止める、それは達也と敦司の中に絆があり、敦司が一線を超えてしまったら悲しむ人がいるのも達也は分かっているからこその行動なのです。
ただがむしゃらに暴れ回っていた達也の成長と、斬人のメンバーとの絆が感じられ、胸が熱くなります。
随所に笑いのエッセンスを散りばめつつも、ヤンチャでがむしゃらな不良たちを肯定するのではなく、優しい視点で彼らなりの成長と絆を描いた品川監督らしい青春ムービーになっています。
まとめ
品川ヒロシ監督が『ドロップ』(2009)にも登場し、自身の友人でもある井口達也の青年時代を描いた漫画『OUT』を実写映画化した本作は、品川監督ならではのアクションも見どころです。
それぞれのキャラクターに合わせた戦闘スタイルで、生身のリアルさを追求したアクションを披露しています。
醍醐虎汰朗演じる総長の敦司は普段はギャルのような明るいトーンで話していますが、ふとした時に冷酷な瞳で声のトーンも低くなり、得体の知れない怖さを見事に演じました。
そんな敦司の戦闘スタイルは、トリッキーな戦い方で飛び上がったり、身を低くして足技をかけたり変幻自在なアクションを披露します。
クライマックスの先頭では、斬人のメンバーそれぞれが「ここは俺に任せて先に行け」と敦司が仲間の仇を討てるようにそれぞれのメンバーがつないでいき観客の興奮を高めていきます。
まず最初に盛り上げるのは、姉のために仲間を裏切ってしまった沢村良の登場です。そんな沢村良と目黒修也が互いを支え合って戦うシーンに仲間としての絆を感じると共に、演じている大平祥生、金城碧海が共に「JO1」のグループメンバーということもありグッとくる場面でしょう。
次に展開されるのは、與那城奨演じる長嶋圭吾と下原孝二の戦いです。パワフルな体格で素早いパンチを繰り出す孝二のパンチを圭吾がスレスレで避けるシーンは思わず息をのむほどです。さらに圭吾は木刀を駆使した戦闘スタイルですが、孝二との戦いで木刀がダメになっても木刀スタイルを貫き強さをみせつけます。
皆の思い、そして何より重体の要の仇を討つために、敦司が「爆羅漢」のリーダー・一雅のもとに辿り着きます。柔術を主軸にした一雅との戦いでは、互いに寝技を掛け合いぶつかり合います。
千紘を救うため、賢三に挑む達也。達也は、達也らしいがむしゃらな戦い方で相手にぶつかっていきますが、健三はスパナをつなげたヌンチャクのような武器を使ってきます。
それに対し、達也は漫画でもトレードマークの短い鉄パイプを用いて、賢三に挑み二人はもみくちゃになりながら生身でぶつかっていきます。
登場人物それぞれのキャラクターを活かしたアクションのために、肉体作りから徹底し、アクションに説得力を持たせています。そのようなアクション愛に溢れた品川監督ならではの青春実録ムービーです。