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『家探し』映画あらすじ感想と評価解説。“イスラエル社会の現実”を描く夫婦の引っ越し道中記|TIFF東京国際映画祭2023-15

  • Writer :
  • 松野貴則

映画『家探し』は第36回東京国際映画祭・アジアの未来部門でワールド・プレミア上映!

イスラエルの首都・テルアビブを離れ、夫の故郷・ハイファで家を探す夫婦の失望と幸福を描いた映画『家探し』

一日がかりの「家探し」で夫婦で遭遇する物件や人間模様を通じて、イスラエル社会の姿が浮き彫りにした作品です。

コメディー作品としてユーモアを取り入れながらも、ありふれた夫婦生活の幸せと葛藤を描いた映画『家探し』。

第36回東京国際映画祭・アジアの未来部門に公式出品され、イスラエルの国際情勢が大きく変化した現代だからこそ、より多くの人に届くべき作品といえます。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2023』記事一覧はこちら

映画『家探し』の作品情報

【日本上映】
2023年(イスラエル映画)

【英題】
Real Estate

【監督・脚本】
アナト・マルツ

【キャスト】
ビクトリア・ロソフスキー、レブ・レイブ・レビン、サラ・ビノ・エラド

【作品概要】
アナト・マルツ監督自身が実際に体験した、テルアビブからハイファへの引っ越しから着想を得て作り上げられた初の長編作品。

出産の希望と不安を抱えながら、新しく住む家を探す妻を演じるのはビクトリア・ロソフスキー。そして妻と生まれてくる子どもを愛しながらも、まだ父親になる自覚を持てない夫をレブ・レイブ・レビンが演じます。

本作は第36回東京国際映画祭・アジアの未来部門にて公式出品されました。

映画『家探し』のあらすじ

出産を間近に控えるタマラとその夫・アダム。首都・テルアビブのアパートに暮らす二人には、早急に解決しなければならない問題がありました。

それは、今住んでいるアパートが近々取り壊されるということ。そのため、新しい家を探さなければならず、夫の実家があるハイファへの引っ越しを考えていました。

ある朝、二人はハイファへ新しい家を探しに車で向かいます。仲睦まじくドライブを楽しんでいたところ、タマラは車の中でアダムがハッパを吸おうとしているのを見つけてしまいます。

アダムに薬物を辞めるように何度も約束をしたにも関わらず、裏切られたことで腹を立てるタマラ。タマラはハッパを道路に投げ捨て、二人は不穏な空気を抱えたまま、新しい家の内見へ向かうことに。

また追い打ちをかけるように、アダムの携帯からダフィという女性との関係を匂わせるメールを見つけてしまい、タマラはこれからの夫婦生活、さらには出産に対して不安を募らせるようになります……。

映画『家探し』の感想と評価

イスラエルの首都・テルアビブで暮らす夫婦が、ハイファへ新居を求め、家を探しに行く物語。道中で起こる二人の問題や、それを乗り越える姿はまさに、一生を添い遂げる“夫婦”という関係性そのものを表しています。

出産間近にも関わらず、夫であるアダムの素行や意識の低さが目に付いてしまうタマラ。他の女性との関係を匂わせるようなメールも偶然見つけてしまい、さらには辞めると約束したハッパを隠れて吸っている姿に辟易してしまいます。

アダムが「子を持つ父親」としての自覚を持てていないことに、タマラは徐々に不安を覚え始めたのです

しかしある家を訪れた際に、タマラもまた自身の覚悟のなさに直面します。タマラがアダムに浮気について問いただすと、アダム自身もタマラの過去の不貞を引きずっていました。

一度は離れ離れに行動する二人。しかし、タマラもアダムも自分自身を育ててくれた親、そして自分自身の正直な想いと向き合うことで、再会を果たします

長い長い夫婦生活の中で、互いに憎しみ合うこともあれば、相手のまだ知らない一面を知り、相手を尊敬し直すこともある。そういった長い年月をかけて繰り返される夫婦関係を、たった一日の家探しという題材を用いて、描かれているのが映画『家探し』です。

新しい家を探すということは、二人の人生を新たに築いていくこと。正解のない夫婦の在り方、そして長年育まれる愛と情について描いています

また本作が上映された第36回東京国際映画祭の開催期間中を含め、パレスチナ・ガザ地区でのイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの軍事衝突は、2023年11月10日時点でも続いています。

それぞれの「帰る家」を破壊し合うことになる紛争。その中でイスラエル社会の現実とともに「帰る家」の意味について描き出した『家探し』は、今現在の国際情勢について改めて考える上でも重要な作品といえます。

まとめ

アナト・マルツ監督初の長編作品『家探し』をご紹介しました。

残念なことに第36回東京国際映画祭の開催期間中、イスラエル軍とイスラム組織ハマスとの軍事衝突は激化し、アナト・マルツ監督の同映画祭での登壇はかないませんでした。

しかし、本作を映画祭にて鑑賞した人々の多くは、映画を通じて現時点での国際情勢について再考することができたはずです。

ありふれた幸せが決して「当たり前」ではないこと、そして夫婦という関係性の愛おしさを教えてくれる作品です。

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