連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第37回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第37回は、2023年5月12日(金)に東京・新宿バルト9ほか全国ロードショーとなる『フリークスアウト』です。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2017)のガブリエーレ・マイネッティ監督が贈る、特殊能力を持つサーカス団とナチス・ドイツの戦いを描いた、異能力バトルアクションの見どころをご紹介します。
【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら
映画『フリークスアウト』の作品情報
【日本公開】
2023年(イタリア・ベルギー合作映画)
【原題】
Freaks Out
【監督・脚本・音楽】
ガブリエーレ・マイネッティ
【共同脚本】
二コラ・グアッリャノーネ
【撮影】
ミケーレ・ダッタナージオ
【共同音楽】
ミケーレ・ブラガ
【キャスト】
クラウディオ・サンタマリア、アウロラ・ジョヴィナッツォ、ピエトロ・カステリット、ジャンカルロ・マルティーニ、ジョルジョ・ティラバッシ、フランツ・ロゴフスキ
【作品概要】
長編デビュー作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)で脚光を浴びたガブリエーレ・マイネッティ監督による異能力バトルアクション。
第二次世界大戦下のイタリアを舞台に、特殊な能力を持ったサーカス団員がナチス・ドイツとの戦いを繰り広げます。
主なキャストは、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)主演男優賞を受賞したクラウディオ・サンタマリア、本作の演技でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞主演女優賞にノミネートされたアウロラ・ジョヴィナッツォ、テレンス・マリック監督作『名もなき生涯』(2019)にも出演したフランツ・ロゴフスキ。
2021年の第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に選出され、2022年ロッテルダム国際映画祭では観客賞を受賞。ダビッド・ディ・ドナテッロ賞では作品賞ほか16部門にノミネートされ、撮影、美術など6部門を受賞しました。
映画『フリークスアウト』のあらすじ
第二次世界大戦下のイタリア。ユダヤ人の団長イスラエルは、5人だけのサーカス団「メッツァ・ピオッタ」(100リラ硬貨の半分の意)を率いていました。
マティルデ、チェンチオ、フルヴィオ、マリオら団員はそれぞれ特殊な能力を持つために、普通に暮らすことができず、家族のように肩を寄せ合って暮らしてきました。
しかし、イタリア国内でもナチス・ドイツの影響が強まるなか、皆をアメリカへ脱出させようとしていたイスラエルが突如失踪。マティルデが団長を探し出そうと奔走する一方、フルヴィオら3人は仕事を求め、ベルリン・サーカス団に入ります。
しかし団長のフランツは、裏でナチスを勝利に導く超能力者を探し、人体実験を繰り返す男でした。
当人たちの意志とは裏腹に、マティルデたちはナチス・ドイツ軍との壮絶な戦いに突入することとなります――。
超人サーカス団vsナチス・ドイツ
長編デビュー作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)が高い評価を得たガブリエーレ・マイネッティ監督。全世界が待望していた彼の第2作目となるのが、本作『フリークスアウト』です。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』では、タイトルが示すとおり日本のロボットアニメ『鋼鉄ジーグ』(1975~76)にオマージュを捧げたマイネッティでしたが、本作では自身が好きな作品という、1932年製作の『フリークス(怪物園)』がモチーフとなっています。
『フリークス』は、旅回りの見世物小屋が舞台のスリラーにして、本物の身体障害者(フリークス)が多数出演するという内容が物議を醸し、イギリスなどで公開禁止となるも、現在ではカルト・ムービーの1本として知られています。
マイネッティは共同脚本家の二コラ・グアッリャノーネとともに、『フリークス』の“見世物小屋のフリークスたち”というコンセプトを活かし、ナチス・ドイツとのバトルアクションとして現代にアップデートしました。
『フリークス(怪物園)』(1932)
持たざる力を持った者の苦悩と決意
第二次大戦下のイタリアで、サーカス団員の超能力者がナチスと戦う――この設定だけ聞くと、ヒーロー映画が大好きな方は血沸き肉躍ることでしょう。
ただ、マイネッティのヒーローの描き方が、昨今流行りのアメコミヒーロー映画とは一線を画すことは、前作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)で証明されています。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015)の主人公エンツォは、不死身の身体と怪力を得るも、アメコミヒーローのように市井の人のためではなく、私利私欲にしかその力を使わないという人物でした。
『フリークスアウト』に登場するサーカス団「メッツァ・ピオッタ」に属する、光と電気を操る少女マティルデ、虫を操るチェンチオ、多毛症の怪力男フルヴィオ、磁石人間のマリオも、各々の能力を曲芸の手段としてサーカスのテント内で使うのみで、公ではひた隠しにしています。
持たざる力を持ってしまった者の苦悩や葛藤はマーベルコミックの『X-MEN』、『ファンタスティック・フォー』などでも描かれていたものの、彼らの境遇はもっと切実。ナチスの脅威が及んでいた第二次大戦下という時代に生きる彼らにとって、その素性が知られてしまうことは生命の危機にもつながります。
しかし、やがて彼らは、“生活のために使わざるを得ない”超能力を、“生き延びるため”にナチス相手に使うことを決意します。
最初こそ悪行にしか使わなかった超能力を、1人の女性に同情と愛を抱くことによって、その力の使い方を自問していくエンツォのように、マイネッティは自作で異能力者とは何か?を常に問うのです。
フリークスたちのポエティック・ジャスティス
ナチスは、ユダヤ人以外にも身体障害者や統合失調症患者、LGBTQ+の人たちも迫害の対象としていました。メッツァ・ピオッタの団員たちは、そうした迫害されてきた者たちのメタファーでもあります。
ナチスに復讐する映画では、『イングロリアス・バスターズ』(2009)や、実在したユダヤ人部隊を描いた『復讐者たち』(2021)などがありますが、『フリークスアウト』は、いわゆるフリークスと括られた者によるポエティック・ジャスティス(詩的正義)ものの1本。
決してヒロイックではない、地に足のついた異能力者の本当の力を、是非ともその目で確かめてください。
映画『フリークスアウト』は、2023年5月12日(金)に東京・新宿バルト9ほか全国ロードショーとなります。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)