映画『あっちこっち じゃあにー』は2023年11月4日(土)〜17日(金)に新宿K’s cinemaで劇場公開!
『ラフラフダイ』(2023)『ダイナマイト・ソウル・バンビ』(2022)などを手がけてきた映像制作チーム「シネマ健康会」の松本卓也監督による映画『あっちこっち じゃあにー』。
「人の生き死に」をテーマに、売れない芸人・末松と少女・加奈の奇妙なキャンピングカーの旅を描いたロードムービーである本作は、主人公・末松を松本卓也自らが、加奈役を6歳の新人・ゆずが演じました。
このたび、映画『あっちこっち じゃあにー』の劇場公開を記念し、松本卓也監督にインタビューを敢行!
本作の主人公を演じるにあたり過去の経験を活かした着想、またロードムービーならでの撮影の裏話と見どころ、映画に仕込んだ音楽とサウンドデザインの魅力など、大いに語っていただきました。
CONTENTS
“転身”の経験を生かし“永遠のテーマ”を描く
──映画『あっちこっち じゃあにー』の主人公・末松はお笑いコンビの解散を機にピン芸人へ転身した芸人として描かれていますが、松本卓也監督ご自身も同じような“転身”を経験されていますね。
松本卓也監督(以下、松本):コンビ解散してからピン芸人の道は考えてなかったので、すぐに軸足をお笑いから映画に変えました。
その後、企画ではピンネタも作ったり、司会業もやったりと、コンビの時よりもピンでの仕事もできるようになった感覚はありますが、本気でピン芸人として活動しようとは今の今までなっておりません……。
なので、コンビ解散後の不安感やピンとしてどこまで通用するのかという己の葛藤などは経験から大いに役立っております。
──そのような経験を持つ松本監督が本作の主人公・末松を演じ、「人の生き死に」をテーマとして選ばれた理由を改めてお聞かせください。
松本:やはり「メメント・モリ」は永遠のテーマだし、誰もが共通で持っているものなのでとても興味があります。また、答えがないものでそれでも答えを求めたい、得体の知れない何か魅力があります。
なのでやはり、今日もまたそれをテーマにしてしまうんです。僕が演じることになったのは、最近2回に1回のペースで出演していたので「あ、今回は出ても良いか」と思い出演しました。
“キャンピングカー×ロードムービー”ならではの工夫
──「キャンピングカーによるロードムービー」である本作を制作されるにあたって、作劇・映像などの表現においてどのような工夫を盛り込まれたのでしょうか。
松本:やはり、本物のキャンピングカーを魅力的に見せることです。広い車内なのでそれを最大限利用して、人と人の配置や距離を意識しました。物語で何か起こるとその位置を変えたり、距離をとったりなど工夫しています。
また、移動できる安心の空間ではあるけども、メインの二人は運転できないから第三者に頼るしかないなど、その中で起こる物語は面白くなるんじゃないかなと思って脚本を執筆しました。
大人になると外敵からの攻撃もあり、殻に閉じこもって身を守らなければいけないこともある的な比喩表現でも使用しました。
──東京・群馬・新潟・山形と各地を実際に移動しながら撮影をされていった中で、特に記憶に残っているロケ地はどこでしょうか。
松本:群馬の吹割の滝は圧巻の迫力でした。映像では目線の高さだとそれが伝わりづらいので、高いところからヒキで狙うのはこだわりました。
それと夜景の綺麗な新潟のポイント。あそこはその時期限定でイルミネーションを行っていたのでシーンとのマッチ具合は最高でした。そして、カナの父の家と海。素敵な山形の海と一軒家はまさに目指す終着地点としては最高でした。
「“本物”の子どもを撮る」という挑戦
──企画・キャスティングの段階では、どのようなことを意識されていたのでしょうか。
松本:国際映画祭を経験したことで、もっと視野を広げたいなと思いました。そして、安直に外国人キャストの起用を思いつきました(笑)。
街を歩くと国際社会なんだなと気が付きます。日本人だけで成立する物語よりも、外国の方に出演してもらう方がリアルだと感じました。また末松自身も、身の周りの人間が誰一人として助けず、助けてくれたのは彼とかけ離れた存在たちであった方が面白くなると思ったんです。
その辺りは脚本の段階、そしてキャスティングでもこだわりのポイントでした。また実際の6歳の女の子、実年齢の子をキャスティングするのもこだわりであり、挑戦でもありました。
「見た目はそう見えるが、実際はもっと年齢が上の子」という選択もあったかもしれませんが、やはり6歳くらいの子には独特の雰囲気があるし、それを映画で切り取りたかったんです。「子どもを撮るのは大変だよ」とはよく言われていますがいやはや、まさに挑戦でした。
──末松と加奈の関係性に焦点を当てたことで、本作の物語にはどのような魅力が生じたのでしょうか。
松本:メインとしては「全く知らない者同士が、お互いのやりたいことを叶えるために旅限定でコンビを組む」という点です。
末松の方は、よく知らない6歳の子ども以外に頼れる人はいない、すがりつくような思いでお願いする、そんな情けない人間はなかなかいないので物語も面白くなると思いました。
人物としても「どっちが子どもで大人なのか分からない」という点も物語を面白くするポイントです。その中で段々と二人の壁が崩れ、世代を超えてお互いの事を理解し合う、尊重し合うという部分は老若男女に観て楽しんでいただきたいところです。
映画を後押しする“自身が力をもらえた曲”
──映画作中、末松はヘッドホンで音楽を聴きながら日々を生きている人間としても描かれています。その設定の考案や彼が聴いている曲のセレクトなどは、どのように進められていったのでしょうか。
松本:末松は孤独な男なので、支えとなるものが必要でした。そこで人知れずロックンロールを聴いて、なんとか自らを鼓舞し生きているというイメージが浮かびました。
また末松は、新しいものをなかなか受け入れられない世代でもあり、昔ながらのロックンロールを聴く、CD世代という設定でもあります。それでも芸人としての矜持でなんとか新しいものも咀嚼し、自分の中に落とし込もうともしています。
まさに映画を、末松自身を後押ししてくれるパワーを持つ曲は、ザ・クロマニヨンズの曲以外には考えられませんでした。僕自身もそうですが、真島昌利さん、甲本ヒロトさんの曲に何度となく力をもらってきました。これ以上の説得力はありませんし、許可が出た時は歓喜しました。
映画作中においてクロマニヨンズの曲の中から選ぶ際、僕がこだわったポイントは3つあります。鑑賞した皆様も何にこだわったのか当ててみてください。
また映画音楽は、ミュージシャンのハマノヒロチカさんが全て書き下ろしてくださっています。特にグッとくるポイントで、いつしかするーっと心の中に染み渡る曲がちりばめられています。面白い曲にも随所にこだわりが見える、まさに“演技”する音楽を体験できるので、ぜひ楽しみにしていてください。
さらにサウンドエディターの井上久美子さんも、本作でも色々と遊び心をくすぐる音、物語を広げる音も入れてくれています。例えばアッパッパーの効果音だったり、車内の人物の音など……このあたりもぜひ楽しんでいただけるとうれしいです。
「松本卓也節」で伝えたい“生と死と笑い”
──映画『あっちこっち じゃあにー』が劇場公開を迎えるにあたって、これから本作をご覧になる方々へのメッセージを改めてお聞かせください。
松本:とにかく楽しんでください。映画に意味なんてない、そのくらいで良いんです。楽しんでもらう、これが最大のメッセージです!
感じてほしいのは「なんで松本卓也監督ってブレイクしてないんだろう?」これにつきます!
また死のそばにも「笑い」があると思っています。揺りかごから墓場まで常に笑いがあると良いなと思っています。
自分だけじゃなく、他人にも生と死は必ずつきまとってきます。ということで、笑いと人とのつながりを大切に、何となく生きませんか?
インタビュー/星野しげみ
校正/河合のび
松本卓也監督プロフィール
東京都出身。映像制作チーム『シネマ健康会』の代表を務める。
約10年間、お笑いコンビとして活動していたが、相方にふられ解散。その後、独学で映像制作の道へ。オリジナリティ溢れる映画の創作を目指す。
一度見たら忘れられない、くすっと笑える人間味溢れる映像を得意とし、オリジナル脚本で撮影された映画は国内外、数多くの映画祭で賞を受賞。
映画製作を中心に、企業・商品のCM製作、テレビ番組企画・演出、MV制作、脚本執筆、演技講師、イベント司会など幅広い分野で「見たことない」表現を追求中。
映画『あっちこっち じゃあにー』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督・脚本】
松本卓也
【キャスト】
松本卓也、ゆず、ディネス・サプコタ、ハン・ギュヒ、岡田深、後藤龍馬、澤真希
【作品概要】
『ラフラフダイ』(2023)『ダイナマイト・ソウル・バンビ』(2022)などの作品を手がけてきた映像制作チーム「シネマ健康会」の松本卓也監督による長編作品。
売れない芸人・末松と少女・加奈がキャンピングカーで繰り広げる奇妙な旅を描いた本作は、東京・群馬・新潟・山形と各地を実際に移動しながら撮影されました。
松本監督自らが主演を務め、少女・加奈役には6歳の新人・ゆずを起用。その年齢にしか出せない雰囲気と自然な演技が目を引きます。またネパール人のディネス・サプコタ、韓国人のハン・ギュヒなど国際色豊かなキャスティングも魅力です。
劇中でキーとなる曲はザ・クロマニヨンズを使用し物語を盛り上げていく他、劇伴にはアーティストのハマノヒロチカが参加しました。
映画『あっちこっち じゃあにー』のあらすじ
お笑いコンビを解散してピン芸人とった末松は、一向に売れないままの日々を送り、ヘッドフォンで音楽を聴きながら孤独に生きています。
その中で芸人仲間が死んだと知った末松は、葬儀に参列した際に遺族から、故人は「末松には才能がある」と言っていたことを聞かされます。
また芸人仲間は生前、一人で動画をアップしていたことも知った末松は、古い知人である元芸人・わかなを訪ね、自分の動画チャンネルに出演してほしいと頼み強引に撮影しました。
ある日、公園で動画を撮影していた末松は、わかなの6歳の娘・加奈と出会い、動画配信の手伝いをしてもらうようになります。
やがてキャンピングカーで動画配信をする企画を受けるも、同行者を見つけられない末松は、やむなく加奈に同行を依頼。加奈は遠方に住む自分の父に会いに行くことを交換条件に、それを引き受けしました。
こうして、大人と子どもの奇妙な二人の旅が始まりました……。