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Entry 2023/12/22
Update

『カムイのうた』あらすじ感想と評価解説。吉田美月喜主演作はアイヌの人々を通じて“強く生き続けた意志”の意味を現代を問う

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『カムイのうた』は2023年11月23日(木)より北海道で先行上映後、2024年1月26日(金)より全国順次公開!

虐げられながらも、アイヌ民族の意思を後世に残すべく奮闘する人々の姿を描いた映画『カムイのうた』。

アイヌ民族に伝わる叙事詩『ユーカラ』をめぐり繰り広げられる、アイヌの人々の生きざまを描いた本作。

『写真甲子園 0.5秒の夏』を手がけた菅原浩志監督による本作は、同作品を作り上げた北海道東川町にて撮影が実施され、現代に通じるメッセージをたたえた作品として仕上げられました。

映画『カムイのうた』の作品情報


(C)シネボイス

【日本公開】
2024年(日本映画)

【監督・脚本】
菅原浩志

【キャスト】
吉田美月喜、望月歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也、天宮良、伊藤洋三郎、阿部進之介、菜月、清水伸、加藤憲史郎、茅本梨々華、パスタ功次郎、江守沙矢、小柳友貴美

【作品概要】
アイヌ民族の口頭伝承による文化の一つである叙事詩『ユーカラ』を『アイヌ神謡集』として日本語訳した、アイヌ民族であり言語学者・知里幸恵の生涯を基に描いたドラマ。

本作を手がけたのは、『ぼくらの七日間戦争』(1988)『写真甲子園 0.5秒の夏』(2017)の菅原浩志監督。

主人公・テル役を担当したのは『あつい胸さわぎ』(2022)の吉田美月喜。他のキャストとしてアイヌ文化に傾倒する兼田教授役に加藤雅也、テルに思いを寄せる青年・一三四(ひさし)役に『ソロモンの偽証』(2015)の望月歩、叔母イヌイェマツ役に島田歌穂が名を連ねています。

映画『カムイのうた』のあらすじ


(C)シネボイス

大正6年、北海道の女子職業学校に学業優秀な北里テルがアイヌ民族として初めて入学します。ところが彼女は、初日よりアイヌ民族であるが故の理不尽な差別といじめに遭い、辛い学生生活を送ることになります。

そんなある日、アイヌ語研究の第一人者である東京の兼田教授が、テルの叔母イヌイェマツのもとへ訪れます。アイヌの叙事詩『ユーカラ』を聴きにはるばる東京から訪れた彼は、その素晴らしさにすっかり感動するとともに、テルの資質を見抜きます。

テルは彼の強い勧めでユーカラを文字にして残すことに着手。その日本語訳の素晴らしさから、兼田教授はテルに東京で本格的に活動することを勧めます。

東京に赴くことを決心したテルは、幼馴染の一三四や叔母に見送られ、思いも新たに東京へと旅立つのでした……。

映画『カムイのうた』の感想と評価


(C)シネボイス

北海道開拓時代におけるアイヌ民族の生きざまを描いた『カムイのうた』。本作で重要なのは、アイヌ民族という北海道の先住民、そして日本本土からやって来た北海道への入植者それぞれが持つ理解・不理解という点にあります。

アイヌ民族の人々の真摯な姿勢に反して、入植者たちから受ける執拗な差別の様子は、直接的な表現こそないものの、実に凄惨。口承文化しか持ち合わせていなかった彼らは、文字を使う入植者たちの文化を受け入れますが、入植者たちは彼らを蔑んでしまいます。

例えば民族間の争いは、未だ世界中で権利をめぐる争いからいじめ問題まで、さまざまな形で根強くその影を残しており、よりよい生き方を模索する中でも大きな課題、論点として存在しているといえるでしょう。

当時アイヌ民族は厳しい境遇に直面していたわけですが、その中で彼らはどう生き抜いたのか。そのヒントが、本作で取り上げられるアイヌ民族の文化の一つである叙事詩『ユーカラ』を通じて描かれています。


(C)シネボイス

この詩の中に描かれるのは、アイヌ民族が生きる中で育んできた「カムイ」との関係性にあります。

「カムイ」とは神格、つまり神として崇敬すべき霊的存在のことを指し、アイヌ民族の人々とカムイの間にはお互いに権利と義務を負う関係にあったといわれています。

カムイは人間に恵みをもたらす義務と、人間に祀られる権利を。対して人間は、カムイを祀り、恩恵を受けた時は礼を尽くす義務と、彼らに守られる権利を得るという関係性。

『ユーカラ』のない場面において、アイヌの人々は野良犬のような存在として見られ虐げられますが、彼らの存在意義を認める兼田教授の登場より物語には『ユーカラ』が現れ、彼らはそれぞれが「人間(アイヌ)」としての存在感を見せ始めます。

アイヌ民族と「カムイ」との対等関係は、入植者が彼らを虐げる構図と全く対照的でもあり、その思想は社会に根強く残るさまざまな問題に対して変化を与える一つのヒントのようにも見えます。

『ユーカラ』に描かれた、アイヌ民族の人々が年月をかけて紡いできた《想い》がなければ、アイヌ民族は入植者に淘汰され消えゆく存在であったかもしれません。物語上で彼らが自分たちの存在を形作った《想い》を信じ守り続けた姿は、いま改めて多くの人が考えるべき論点を示唆しているといえます。

まとめ


(C)シネボイス

明治32年(1899年)には、アイヌ民族を保護する目的で作られたという「北海道旧土人保護法」が制定されました。しかしこの法は、実際にはアイヌの文化を否定するとともに、アイヌの人たちの立場には合わない制度としても知られています。

法は幾度かの改定を経る中で、1984年にアイヌの人々は、先住民族としての権利回復を求める「アイヌ民族に関する法律」案を作り、1997年に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が成立するとともに旧土人保護法は廃止されました。

本作の物語は、その歴史の一部を生きた一人の女性の目線で描かれますが、「アイヌであること」に絶望感を抱えながら、それでも自身の文化を否定せず強く生きる姿には、生きることへの強い意志と「社会が成り立つために必要なものとは何か」を考えさせられることでしょう。

「平等の権利があること」と「厳しく統制されること」は、全く異なるもの。そんな考えがふと頭によぎるような本作は、個々のアイデンティティやルーツを改めて認識したくなるような作品であります。

映画『カムイのうた』は2023年11月23日(木)より北海道にて先行上映後、2024年1月26日(金)より全国順次公開!


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