武士道とは、
懸命に生きること!?
浅田次郎の時代小説『大名倒産』を、前田哲監督が映画化。神木隆之介を主演に、杉咲花、松山ケンイチ、浅野忠信ほか豪華キャストが勢揃いです。
江戸後期。越後・丹生山藩の鮭役の息子・小四郎は、ある日突然、自分が徳川家康の地を引く大名の跡継ぎだと知らされます。
訳も分からず殿に担ぎ上げられた小四郎。待っていたのは丹生山藩が抱えた多額の借金。「大名倒産」の危機でした。
リサイクルにシェアハウス、倒産寸前の藩を立て直すため、新米藩主が節約に駆けずり回る!現代にも通じる痛快SDGs時代劇『大名倒産』を紹介します。
映画『大名倒産』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
浅田次郎
【監督】
前田哲
【キャスト】
神木隆之介、杉咲花、松山ケンイチ、小日向文世、小手伸也、桜田通、宮崎あおい、キムラ緑子、梶原善、勝村政信、石橋蓮司、高田延彦、藤間爽子、カトウシンスケ、秋谷郁甫、ヒコロヒー、浅野忠信、佐藤浩市
【作品概要】
『壬生義士伝』(2002)などの歴史小説、『地下鉄に乗って』(2006)『鉄道員』(1999)など映画化となった作品も多い、ベストセラー作家・浅田次郎の時代小説『大名倒産』が映画化となりました。
監督は、『老後の資金がありません!』(2021)『そして、バトンは渡された』と、これまでも小説の映画化を手掛けてきた前田哲監督。
庶民から殿へと華麗なる転職のすえ、思いもよらない借金地獄へと転落する主人公・小四郎を演じるのは、ちょんまげ姿は初めてという神木隆之介。
小四郎の幼馴染でしっかり者のさよを演じるのは、杉咲花。小四郎の兄役に、松山ケンイチ。実の父であり元藩主の一狐斎に佐藤浩市。小四郎の教育係・磯貝平八郎に浅野忠信。
そして、この物語の語り部であり、小四郎に武士道を説いてくれた優しい母・なつ役には宮崎あおい、と豪華キャストが集結。
主題歌は、GReeeenの書き下ろし曲「WONDERFUL」となっています。
映画『大名倒産』のあらすじとネタバレ
1840年、江戸後期。越後・丹生山藩は、塩引き鮭が名物のとても栄えた藩でした。藩直々の鮭役人である間垣作兵衛の作る塩引き鮭は、ことのほか絶品であります。
作兵衛の息子・小四郎はそんな職人の父の背中を見て育ちました。自慢の父の作る塩引き鮭を多くの人に味わってもらいたい。村の市では、今日も元気に鮭売りをする小四郎の声が響き渡ります。
武士として立派に育ってほしいという父の願いもむなしく、心優しくお人好し過ぎる性格に育った小四郎。殿様のため命をかける覚悟の武士道というものがどうしても理解できません。
そんな小四郎に母のなつは、「武士道とは決して命を粗末にしろということではありません。懸命に生きることです。生きてこそ人の役に立てるというものですよ」と、解くのでした。
優しかった母は、流行り病で他界。それでも、父と2人平穏に暮らしてきた小四郎。ある日、市で塩引き鮭を売る小四郎の元に、家に役人が来ていると知らせがはいります。
急いで父の元に駆け付けると、父の態度は一変。「若様っ」。小四郎に向かって一同がひれ伏します。この小四郎、本当は徳川家康の血を引く大名の跡継ぎ、松平小四郎だったのです。
実の父、藩主の一狐斎は後継を誰にするか悩んでいました。長男は落馬で亡くなり、次男の新次郎はうつけ者、三男の喜三郎は病弱ときています。
そこで、昔、奉公で来ていた娘・なつとの間に生まれた、幼き小四郎を作兵衛に預けたままだったことを思い出します。
あれよあれよと江戸の藩主屋敷に連れて来られた小四郎。実の父との再会を果たすも「今日からお前は丹生山藩13代目藩主となる。はげめよ」と、いきなりの無茶ぶり。自分は隠居をすると言い出します。
庶民から一国の殿様へと華麗なる転職を遂げた小四郎でしたが、早々に江戸幕府から呼び出しをくらいます。
駆けつけると、幕府への献上金が支払われていないと、お咎めを受けました。藩の懐事情を知るため帳簿を確認。なんと、借金25万両。現代の金額にすると100憶円の借金がある貧乏藩だったことが判明します。
一狐斎に問いただすも、策はあると慌てた様子はありません。自分は、文化人気取りの優雅な隠居生活を楽しんでいるようです。
その策はといえば、計画倒産をし藩の借金を幕府に押し付けるというものでした。藩はおとりつぶしとなり、多くの者は路頭に迷うことに。返済が踏み倒される商人たちもたまったもんじゃありません。
一狐斎は、「大名倒産」を密かに速やかに行うべく小四郎に命じ、宝刀を授けます。すべての責任を藩主ひとりの切腹で収めようという魂胆です。
小四郎に残された道は、100憶円返済か切腹のみ。幕府に「大名倒産」の計画を知られてはなりません。ましてや、自分が切腹したところで、生き残るのはほんのわずかな家臣だけ。
小四郎は、母の教えのとおり、生きて皆の役にたつことを考えます。まずは、藩の蔵を整理し、使わない武具や家財は売ってリサイクル。節約プロジェクトを掲げる小四郎に、家臣たちは不満気味です。
そんな時、小四郎は偶然、江戸に商売に来ていた幼馴染のさよと再会。さよは、商いの才を発揮し、借金返済へ協力してくれることになりました。
藩主屋敷を手放し、兄たちの住む離れ屋敷に引っ越しを決めました。兄の新次郎は、得意の庭師の仕事で小四郎を助けようと頑張ってくれます。喜三郎も快く迎い入れてくれました。三兄弟の賑やかなシェアハウスがスタートです。
財政困難の追い打ちをかけるイベント、参勤交代では宿をとらず野宿でしのぎます。案外、外でのご飯は美味しく不満を言っていた家臣たちも楽しそうです。これがキャンプの始まりだったのかも。
売れるものは、肥溜めでもなんでも売ります。殿の糞尿は栄養があって、畑に撒くと野菜が良く育つのだとか。SDGsの先駆けです。
節約プロジェクトでは到底返せない借金でしたが、皆の心がひとつになっていきます。しかし、小四郎はまだ知りませんでした。
その頃、裏では、父・一狐斎と老中首座・仁科、そして藩の借金の大半を貸し付けている天元屋の女将タツが、密かに会っていることを。
映画『大名倒産』の感想と評価
浅田次郎の時代小説「大名倒産」が、豪華キャストで映画化。そこには、現代にも通じる武士道がありました。
何も知らず、平穏に暮らしてきた鮭売りの少年・小四郎が、実は幕府の血を引くプリンスだったことから物語は始まります。
栄えていたはずの丹生山藩は、いつの間にか借金まみれの貧乏藩に。その裏には、私腹を肥やそうとする悪者たちの陰謀が渦巻いていました。
小四郎は、藩主になった途端、大名倒産計画に巻き込まれ、切腹の危機に陥れられてしまいます。
時代は江戸末期。自らの腹を切って責任を果たすのが武士。物悲しい時代劇かと思いきや、笑いっぱなしの前向きコメディ映画となっています。
主人公の小四郎は、明るくお人好しな性格で、最初は藩主なんて務まるのか心配するも、その優しさは正義感に溢れていて、民を思う純粋な気持ちは、周りの人たちの心をも動かしていきます。
また、今作で面白い点は、借金返済に向けての藩の取組みが、現代の節約に繋がっているという展開です。
蔵に眠る使われていない武具や家財はリサイクル、参勤交代の夜はキャンプで、皆で住めば家賃もお得シェアハウス、無駄のない循環性の肥料開発、そして家臣の働きがいをあげるSDGsの取組み。どれも見事な節約術です。
時代は違えど、大切なものを守るため皆と協力し合う心が大切なのだと気付かされます。一人の力ではより良い世界は築けない。小四郎と共に奮闘する仲間たちの姿にも注目です。
小四郎を演じるのは、ちょんまげ姿も愛らしい神木隆之介。次から次へと訪れるピンチに、ドタバタ悪戦苦闘する姿は、コメディの才を存分に発揮したハマリ役となっています。
藩の借金返済の強い味方、小四郎の幼馴染さよ役には、杉咲花。上の者にも怖気づかずキャキチャキと支持をだす商売人ぶりに、見ている方もスカッとします。
その他にも、常に全力で憎めない、鼻水を垂らし続ける兄・新次郎役に松山ケンイチ。なにかというと切腹しようとする切腹バカ武士・磯貝に浅野忠信。
その他にも、癖だらけの登場人物を、それぞれ豪華キャストが振り切った演技で笑いを届けてくれます。
存分に笑って、ほっこりする登場人物たちに癒され、肩の力を抜いて楽しめる映画となっています。
まとめ
人情あり、笑いあり、節約術あり!?のエンターテイメント時代劇『大名倒産』を紹介しました。
借金返済か切腹か!いきなり殿になったと思ったら、いきなりの借金地獄。小四郎と仲間たちの100憶返済奮闘記。果たして小四郎の運命やいかに。
お金がなくても心は豊かに、常にユーモアを忘れず、前向きに生きて行こう。生きていればこそ、人の役に立てる時もあるってもんです。