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Entry 2023/06/09
Update

『Pearlパール』あらすじ感想と評価考察。A24製作ホラー映画《Xエックス》のキラー老婆の“はじまり”の物語

  • Writer :
  • 松平光冬

2023年7月7日(金)から映画『Pearl パール』はTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開!

スターを夢見る少女は、いかにしてシリアルキラーとなったのか?

タイ・ウェスト監督&ミア・ゴス主演のホラー「X エックス」のシリーズ第2作で、1970年代が舞台だった『X エックス』の60年前を描く前日譚となる映画『Pearl パール』が、2023年7月7日(金)より全国公開となります。

A24製作による「X エックス」に登場した極悪老婆パールの若き日をタイ・ウェスト監督が描き、夢見る少女だったパールが、なぜ⁈シリアルキラーへと変貌したかが明らかにされます。

ミア・ゴス主演の『X エックス』(2022)の前日譚となる、シリアルキラー・パールの若かりし頃の姿を描くホラーの見どころをご紹介します。

映画『Pearl パール』の作品情報


(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

【日本公開】
2023年(アメリカ映画)

【原題】
Pearl

【製作・監督・脚本・編集・キャラクター創造】
タイ・ウェスト

【共同製作】
ジェイコブ・ジャフク、ケビン・チューレン、ハリソン・クライス

【製作総指揮】
ミア・ゴス、ピーター・ポーク、サム・レビンソン、アシュリー・レビンソン、スコット・メスカディ、デニス・カミングス、カリーナ・マナシル

【共同脚本】
ミア・ゴス

【撮影】
エリオット・ロケット

【キャスト】
ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ

【作品概要】
A24が2022年に発表したタイ・ウェスト監督によるホラー『X エックス』に登場したシリアルキラー、パールの若かりし頃を描きます。

『X エックス』で主人公のマキシーンとパールを一人二役で演じたミア・ゴスが若きパールを演じており、脚本と製作総指揮も兼任。

完結編となる現在製作中の『MaXXXine(原題)』と合わせて、A24初の三部作としても注目が集まっています。

映画『Pearl パール』のあらすじ


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1918年、テキサス。敬虔で厳しい母ルースと、車いす生活を余儀なくされる父と暮らすパール。若くして結婚した夫ハワードは第一次世界大戦に出征しており、父の世話と家畜の餌やりの日課に、鬱屈とした日々を送っていました。

スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れるパールは、ルースに内緒で観た映画に触発され、外の世界へのあこがれを強めていきます。

しかしながら、「お前は一生農場から出られない」とルースに諫められたのをきっかけに、抑圧されてきた狂気が暴発していき…。

映画『Pearl パール』の感想と評価


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純真無垢なシリアルキラー誕生を描く

第95回アカデミー賞で、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2023)の作品賞を含む7部門受賞、さらには『ザ・ホエール』(2023)での主演男優賞(ブレンダン・フレイザー)受賞と、映画界の新潮流となった製作会社・A24。

そのA24が2022年に発表したタイ・ウェスト監督・脚本のホラー『X エックス』は、農場に迷い込んだ若者たちを襲う老婆・パールの殺戮ぶりが話題となりましたが、本作『Pearl パール』は、そのパールの若かりし頃を描いた続編にして、前日譚となります。

『X エックス』の撮影前から本作のアイデアがあったというウェストは、『X エックス』でパールに襲われるマキシーンと、そのパールの⼆役を演じたミア・ゴスと共にストーリーを構築。

「ミアなしじゃ映画を作れないと思っていたから、最初から相談していた」というウェストの言葉どおり、ミアの本作への意気込みは、脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとして参加している点でもうかがい知れるというもの。

夢見る女性パールが、なぜ純真無垢で残酷なシリアルキラーへと変貌したのか?本作ではその誕生が明かされることとなります。

クラシックな映像と劇伴で綴る惨劇

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第一次世界大戦末期となる1918年の、テキサスの片田舎で暮らすパールは、世界の映画スターになる夢を持つ女性。しかしながら現実は、生活のすべてを厳格な母ルースに支配され、体が不自由な父の介護を余儀なくされる毎日。

そんなある日、町の劇場でミュージカル映画を観たことで、憧れをさらに募らせたパールは、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけ、密かに参加しようと考えます。

若者たちが突如襲われるストーリーをザラついたフィルム画質で描いた前作『X エックス』は、『悪魔のいけにえ』(1974)、『悪魔の沼』(1977)のトビー・フーパー監督作にオマージュを捧げていましたが、本作ではクラシックなミュージカル作品、ズバリ言うと『オズの魔法使』(1939)を意識しています。

退屈な日常から逃避しようとする少女ドロシーはパールと重なりますし、映像も『オズの魔法使』での魔法の国オズの世界を表現した美しいテクニカラーを使用(カカシが意外な形で登場するのもご愛嬌)。

劇伴においても、生の楽器を使ったフル・オーケストラによる絢爛豪華な楽曲は、往年のミュージカル作品を思わせます。

しかし、本作で描かれるのは華やかなファンタジーではなく、世にもおぞましい惨劇です。

(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

ドロシーのような純真無垢な性格のパール。しかしドロシーと違うのは、狂気も持ち合わせていたという点。

スタンダップコメディアンを目指す『ジョーカー』(2019)のアーサーのように、ショービジネスの世界を夢見るパールでしたが、その夢をルースに諫められるうち、潜んでいた狂気が前面に表れていきます。

『ジョーカー』に影響を与えた『キング・オブ・コメディ』(1982)を撮ったマーティン・スコセッシ監督が、本作に賛辞を贈ったというのも納得できるというもの。

なりたい者になれなかった者の無念が最悪の形に――『X エックス』を観た方なら、シリアルキラーであるはずのパールに同情すること必至ですし、『X エックス』を未見の方が本作から先に観ても、時系列順に楽しめるかと思います。

(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

まとめ


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とにかくパール役のミア・ゴスの演技が圧巻の本作『Pearl パール』。『雨に唄えば』(1952)から『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)まで数多くの新旧のミュージカルを参考にしたという役作りは、終盤で存分に活かされています。

とりわけ、同じく終盤での長回しで映されるミアの“顔演技”のスゴさは、言語に絶します。

そのミアは、続編にして完結編となる『MaXXXine(原題)』にも出演。タイトルからして『X エックス』のマキシーンの再登場が示唆されており、こちらも注目したいところ。

『MaXXXine(原題)』(2023)

新たなホラークイーンの称号を獲得したといえるミア・ゴス。間違いなく『Pearl パール』は、彼女の代表作になるでしょう。

映画『Pearl パール』は、2023年7月7日(金)より東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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