連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第19回
エマニュエル・オセイ=クフォーJrが脚本・監督を務めた、アメリカのホラーサスペンス映画『ブラック・ボックス』。
交通事故で妻を亡くし、自分も記憶障害という後遺症を抱えてしまったシングルファーザーのノーラン。「ブラック・ボックス」というVRによる医療機器を使用した治療を受け、本当の自分を取り戻そうとします。
1回目の治療でノーランは妻との結婚式の風景を思い出しますが、肝心の妻の顔が分かりません。それどころか、なぜかスーツを着た謎の男と遭遇するのです。
2020年10月6日(火)よりAmazonプライムビデオで配信された、映画『ブラック・ボックス』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『ブラック・ボックス』の作品情報
【配信】
2020年(アメリカ映画)
【脚本】
エマニュエル・オセイ=クフォーJr、ウェイド・アレイン=マーカス、スティーヴン・ヘルマン
【監督】
エマニュエル・オセイ=クフォーJr
【キャスト】
マムドゥ・アチー、フィリシア・ラシャド、アマンダ・クリスティーン、トーシン・モロハンフォーラ、トロイ・ジェームズ、シャーメイン・ビングワ、ドナルド・ワトキンス
【作品概要】
『うまれつき』(2014)のエマニュエル・オセイ=クフォーJrの長編映画デビュー作である、アメリカのサスペンスホラー作品です。
『パティ・ケイク$』(2017)のマムドゥ・アチーが主演を務めています。
映画『ブラック・ボックス』のあらすじとネタバレ
33歳のカメラマンのノーラン・ライトは、半年前に交通事故で妻のレイチェルを失い、自身も頭蓋と内側側頭葉に深刻なダメージを負い、「記憶障害」という後遺症を抱えてしまいました。
「記憶障害」とは、記憶を思い出すことができない、または新たなことを覚えることができないなどの記憶に関する障害です。
そのせいでノーランは、事故前は夫婦一緒に働いていた出版社「南テキサス・クロニクル誌」との出版契約を切られてしまい、仕事を失ってしまいます。
ノーランの娘エヴァは、母親に代わって家事をこなしつつ、記憶を失くしてしまった父親を懸命にサポートする一方で、性格が変わってしまった父親に馴染めずにいました。
ノーランは親友の整形外科医のゲイリー・ヤボアに勧められ、「ブラック・ボックス」というVRによる医療機器を使用した最先端の治療を受けることにしました。
神経外科医のリリアン・ブルックス博士によると、その「ブラック・ボックス」は、患者の記憶をまるでその場にいるかのような現実的な夢として再現する機器でした。
ノーランは1回目の治療で、結婚式の風景を思い出します。しかし参列者や神父はおろか、肝心の妻の顔がぼやけて見えて分かりません。
それどころか、ノーランはスーツを着た人間の男に見えて、動きが人間とは異なる怪物と遭遇しました。
不安になったノーランに、リリアンは「あなたの脳が、トラウマからあなたを守ろうとしている。だから奥さんたちの顔を思い出すことができない」、「あなたが見た怪物は現実のものではないから心配いらないわ」と諭し、治療を続けさせます。
病院から帰宅後、ノーランは様子を見に来たゲイリーとエヴァの会話から、自分と妻が40年先まで将来設計を立てていたほど仲が良く、その計画の1つがエヴァを授かることだったことを知りました。
その日の夜。ノーランはエヴァのタブレット端末に保存された結婚式の写真を見て、愛する妻の顔を目に焼きつけました。
その時、ノーランはふと昼間3人で中華料理を食べた時に落とした割りばしを拾い、くるくると手の中で回してみました。
すると、エヴァが3歳だった時に連れていった、夫婦お気に入りのすし屋「ニセ」での記憶をぼんやりと思い出すことができたのです。
翌日。ノーランは病院の前に、エヴァをニセに連れていって箸の使い方を教えました。父親からの謝罪と感謝を受けて、エヴァは学校の送り迎えをすっぽかしたことで怒っていたことを許し、彼の分まで頼んだ寿司を全部平らげました。
ノーランはリリアンにそのことを笑いながら話し、「治療を中断しても、こうやって記憶が自然と戻ることってあるのかな?」と尋ねます。
リリアンはこの質問には答えず、「前回の治療で顔がぼやけていたと言っていたでしょう?あれは“相貌失認(人の顔を識別できない脳障害)”といって、脳がダメージを受けている証拠」と言い、今回は長めになって人の顔を識別できるレベルまで持っていこうと言いました。
ノーランは2回目の治療で、赤ん坊だったエヴァと妻と3人でアパートに暮らしているのを見ました。
2人は泣いていて、レイチェルの腕には暴力を振るわれたような痕がありました。
しかしノーランの知る限り、妻と一緒に暮らしていたのは今の一軒家だけです。そのアパートは初めて見たのにどこか馴染み深く、なぜかどこに何が置いてあるのか全部知っていました。
そしてノーランは今回も妻はおろか、娘の顔すらぼやけていて分かりませんでした。挙句の果てに、ノーランは再び現れた怪物に首を絞められそうになったのです。
ノーランは自分がDV夫だったのではないかと不安になり、自分たち夫婦は喧嘩をしていたか、喧嘩がエスカレートして自分は妻に手を上げたことはあるかとゲイリーに尋ねます。
ゲイリーは「お前たちは人並みに喧嘩はしていたが、お前がレイチェルに手を上げたことなんてないよ」、「そもそもお前は大学の時、ボクシングを見ることも嫌がった。暴力を嫌っていて、どっちかというとお人好しで頼りなくて気が弱かった」と答えました。
そしてゲイリーの知る限り、ノーランたちはアパートに暮らしていませんでした。自分の知る記憶に間違いはないと確信を持ったノーランは、エヴァを迎えに行ったついでに、治療中に見た風景を頼りにアパートを探しに行きました。
そのアパートの2階の部屋には、女性とエヴァと同じくらいの年の娘が住んでいました。
ノーランは彼女たちを見てすぐ血相を変えて、廊下で待っていたエヴァを連れて急いでその場から立ち去りました。
ノーランは、自分がレイチェルを裏切り浮気していたのではないかと疑います。ゲイリーは「お前は嫁さんを第一に考える良き夫だった」、「どんなに仕事が大変で死ぬほど忙しくても、お前は家族と過ごす時間を大切にしていた」と言って彼を励ました。
映画『ブラック・ボックス』の感想と評価
2人の男の前に現れる恐ろしい怪物の正体
物語の終盤まで、人間の男のように見えて人間ではない動きをする謎の男もとい「怪物」は、ノーランとトーマスそれぞれの心を守ろうとするものか、あるいは彼らのトラウマそのものかと考えられていました。
しかしトーマス視点で明らかになった怪物の正体は、肉体の持ち主であるノーランでした。
そうなると、おそらくノーラン視点で見た怪物の正体は、実の母親によって人格を移植されたトーマスではないかと考えられます。
怪物が奇怪な動きをしながら2人に近づいてくる姿は身の毛もよだつほど恐ろしいです。思わず悲鳴をあげそうになります。
女性医師の狂気的な愛と執念
リリアンは物語の後半まで、本当に記憶障害で困り果てたノーランの救世主となる存在のように描かれていました。
しかし物語の後半、トーマスの人格が目覚めた瞬間、リリアンへの印象ががらりと変わります。
なんとリリアンは、2年前にアパートの階段から転落した息子を失いたくない一心で、自らの研究をもとに、交通事故により脳死状態に陥ったノーランの肉体に人格を移植させたのです。
それだけでも十分恐ろしく、狂ったことをしているというのに、リリアンはさらに「さすが私の息子だ」と周囲に思われるぐらい、良き医者であり良き父親になるようにと、トーマスに望みます。
さらにトーマスが記憶を取り戻して以降、リリアンは息子のことしか見えておらず、患者であるノーランとその娘のエヴァのことを「所詮他人とその娘」としか思っていません。
もはやトーマスが死んでしまった時に、リリアンは医者として1人の人間としての良心も失ってしまったのではないでしょうか。
まとめ
交通事故により記憶障害という後遺症を抱えてしまったシングルファーザーが、愛する娘のために本当の自分を取り戻そうとする姿を描いた、アメリカのホラーサスペンス作品でした。
物語のラストに描かれた、狂気的な笑みを浮かべるリリアンの姿。もはや彼女にとって、周囲の人間や世間にどんなに非難され認められずとも、これからも息子と再び会うことに執着し続けることでしょう。
しかし、肝心のトーマスは物語の終盤、自らの意思でノーランの中から姿を消し、何もない空間で1人涙を流しながら蹲っていました。
その姿から察するに、トーマスはもう生きかえりたいと望んでいないのではないかと考えられます。
一方ライト親子は、物語の後半までどこかギクシャクとした関係でしたが、互いに想い合う気持ちがノーランの記憶を取り戻すきっかけとなり、事故前の仲良し親子に戻ることができました。
ノーランの娘エヴァと、彼の親友ゲイリーの献身っぷりと、ノーランが最後の最後で記憶だけでなく笑顔も取り戻せた姿に感涙させられます。
大事な人が死亡や脳死状態、記憶に障害を受けてしまった時、どうしてあげれば良いのか考えさせられるサスペンスホラー映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。