映画『ストレージマン』は2023年5月20日(土)より池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!
コロナショックによる派遣切りによって職を失い、住む家も家族も失った男が、住むことを禁止されているトランクルームでの生活へと追い詰められていく現代の閉塞感を描いた問題作『ストレージマン』。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022・短編部門では観客賞を受賞し、福岡インディペンデント映画祭2022ではグランプリに輝くなど、数多くの映画祭で高い評価を受けました。
この度の劇場公開を記念し、『ストレージマン』では主人公の妻・晶子、その晶子と瓜二つの女性・由美子の“一人二役”を演じられた瀬戸かほさんにインタビューを行いました。
“バランス”を常に求められる役者という技術職、本作で演じた二人の女性が象徴するコロナ禍が生んだ“選択”など、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
自身の仕事を再考するきっかけに
──映画『ストレージマン』を手がけられた萬野達郎監督からは、本作をどのような作品にしたいと当初伺っていたのでしょうか。
瀬戸かほ(以下、瀬戸):本作の出演オファーをいただいたのは2020年だったんですが、その際には「コロナ禍の中で不安を抱えながら生きている中で、最終的には希望を見出せる作品にしたい」とお話しくださいました。
当時はコロナ禍の影響でお芝居をする機会が減ってしまい、「これから自分は、この仕事をどう続けるべきなのか」「そもそも自分は、このお仕事をこれからも続けていきたいのか」と見つめ直していた時期でもありました。そういう意味でも『ストレージマン』は「役者」という仕事について再考できるきっかけになりました。
また本作の撮影はもちろん、コロナ禍が落ち着いてきて役者の仕事をまたいただけるようになっていった中で、仕事を続けられることのありがたさを痛感しました。役者としてでも、モデルとしてでも、任せていただけることに感謝しつつ、「一つ一つの仕事に、一生懸命応えていきたい」とコロナ禍を経てより強く感じるようになりました。
“自由に生きる”と“撮られる技術”の両立
──そもそも瀬戸さんが、現在の役者のお仕事を始められたきっかけは一体何だったのでしょうか。
瀬戸:もともとカメラを向けられた時にどんな顔をしていいのか分からなくて、写真に対して苦手意識がありました。いつか直さなきゃいけないなと思っていたところ、友人からモデルとして写真を撮らせてほしいと頼まれて、苦手を克服するいい機会だと思って引き受けました。
撮影後にその友人からSNSに撮影した写真を載せることを勧められ、何枚か投稿していくうちにSNSをきっかけにさまざまな方と知り合い、モデルのお仕事をいただけるようになりました。世界が広がっていった気がして、新しい道を歩んでいる感覚が楽しくて夢中でした。
活動していくうちに就職活動の時期へ差しかかって、芸能の道に進むのか、就職活動に集中するべきか選択をしなきゃいけなくなって。1社だけ行きたいと思った企業の説明会で居眠りをしてしまった時に、「自分は芸能の道に進んでみたいのだ」と気付き、より真剣に向き合うことを決め、事務所に所属することを目標にしました。
事務所に所属が決定し、活動する中で技術職である役者になりたいと思い、現在に至ります。
──元々撮られることに苦手意識を抱いていた中で、今現在の瀬戸さんは「撮られる」という行為を役者としてどう捉えられているのでしょうか。
瀬戸:映画は、目の前にあるカメラを「存在しないもの」として生活している人たちの物語だと思っていて、その物語の中でいかに自由に、自然に生きられているかを今は意識しています。
ただ、そこに生きる人間としてリアリティを出すためにはカメラを「存在しないもの」として認識しないといけないのに対して、瞬きのようなごく小さな仕草だけでも人物の印象が全く変わってしまう以上「自分の姿がカメラにどう映っているのか」を考えながら動かなくてはいけないので、そうした微妙なバランスを含めて、カメラが映し出す“そこ”にどう存在できるのか。
それはとても難しくて、役者という仕事が“技術職”だといつも痛感させられる部分です。ただ、そのバランスを追求する難しさがあるからこそ、やりがいを感じられます。
コロナ禍の中で“選択”する二人の女性
──本作では主人公の妻・晶子、主人公がトランクルームで出会った“住人”の一人であり晶子に瓜二つな女性・由美子の“一人二役”を演じられていますが、二人を演じ終えてのご感想はいかがでしょうか。
瀬戸:今までの役はどこか自分と少し重なる部分があって、作品を観た時も私がそこにいる感覚があったのですが、今回完成した『ストレージマン』で自分の姿を観た時には「“ここ”に映っているのは自分じゃない」と何となく感じられました。自分の中で晶子と由美子という役を消化することはできたのかもしれない、と思っています。
また本作で初めて“一人二役”を演じさせていただきましたが、「自分に似ているけれど自分ではない人間」が一つの作品に二人も映っているのは、少し不思議な感覚でしたね。
──瀬戸さんご自身は、晶子と由美子をそれぞれどのような女性だと捉えられているのでしょうか。
瀬戸:晶子は両親に守られて育ってきて、その環境に逆らうこともしてこなかったし、そもそも逆らうという考えを持たないように生きてきたのかもしれないと思っていて。
そんな中で森下と出会って、初めて両親に反抗して二人で結婚することを決めて、母になることで守りたいと思える存在ができたことでさらに強くなったのだと感じています。
また由美子は、作中でずっと“選択”をし続けていた人間だと思っています。彼女を含めた人が何かを選ぶ時、周囲はさまざまな意見を持つかもしれませんが、彼女が選ぶ全てのことは誰にも否定されるべきではなく、私自身は「彼女が、彼女にとって一番良い選択をし続けた」と捉えています。
2020年以降のコロナ禍は、それまで後回しをしていたものに対する“選択”を人々が迫られた期間だったと考えています。晶子もどうしても守りたいもののために彼女なりの選択をしますし、由美子も自分にとって守りたいものがあったからこそ、選択を続けていたのだと思います。
“リセット”できた心で向き合い続ける
──すでに「ウィズ・コロナ」あるいは「ポスト・コロナ」の時代へと到達したといえる2023年現在、瀬戸さんの役者というお仕事への想いを改めてお聞かせいただけませんでしょうか。
瀬戸:コロナ禍以前は、「お芝居がどうしたら上手くなるのか」が分からないことに悩んで、不安な気持ちを抱えたまま、もがきながら真っ暗な中で道を歩いているというか、がむしゃらにお芝居を続けてきた感覚がありました。
今でも答えは出ていないのと、がむしゃらさは持ち続けているのですが、コロナ禍を経てそれが一度“リセット”されたような気がしているんです。
「一つ一つの仕事に、一生懸命応えていきたい」という気持ちに対して、ただがむしゃらに仕事に取り組むだけではなく、その仕事ならではの意味や価値を噛み砕いて理解した上で、その時の自分が持っているものを仕事へ注ぎ込んでいく。
コロナ禍を経て、その重要さに気づくことができました。これからもそうした心構えを持ってお仕事と向き合っていきたいと思っています。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
瀬戸かほプロフィール
1993年生まれ。神奈川県出身。jungle所属。
2015年に映画『orange-オレンジ-』でデビュー。映画『この日々が凪いだら』、映画『クレマチスの窓辺』、映画『愛の小さな歴史-誰でもない恋人たちの風景vol.1-』で主演を務めるなど女優として活躍。広告やファッション雑誌、ブランドのカタログなどモデルとしても活躍の場を広げている。
映画『ストレージマン』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【英題】
Storage Man
【監督・脚本】
萬野達郎
【プロデューサー】
れんげひろたか
【キャスト】
連下浩隆、瀬戸かほ、渡辺裕之、矢崎広、渡部直也、米本学仁、古坂大魔王
【作品概要】
本作で主演を務めた連下浩隆はプロデューサーとしても参加。全く異なる性格のキャラクターを一人二役で挑戦している瀬戸かほや、ベテランの渡辺裕之らが脇を固めます。
経済情報メディア・NewsPicksやNHKワールドの経済番組で演出を担当してきた萬野監督の手腕が光る本作は、国内コンペティション部門観客賞(短編部門)を受賞。
福岡インディペンデント映画祭2022ではグランプリに輝き、その後もロサンゼルス・アジア映画祭にて作品賞と主演男優賞にノミネート、北九州最大の映画フェス「Rising Sun International Film Festival」で入選、カナダ・スクリーン・アワード認定の映画祭「Silver Wave Film Festival」にて最優秀外国作品賞を受賞し、国内外問わず高い評価を受けています。
映画『ストレージマン』のあらすじ
自動車工場の派遣社員として働く森下は、妻・晶子と娘・桜の3人暮らし。社宅に住み、娘の誕生祝いを家族で祝うなど、慎ましいながらも幸せに暮らしていました。
しかし、森下はコロナショックで派遣切りに遭ってしまい失業。同じ頃、晶子もパート職を失い、将来に不安を抱いたことで森下と口論になります。
晶子に対して苛立ち、手を上げてしまう森下。それが原因で晶子の両親に離婚を要求された結果、晶子は桜を連れて実家に戻ることとなり、会社からも社宅の立ち退きを迫られます。
荷物を手に途方に暮れていた時、目についたのはトランクルーム。トランクルームは荷物を預ける狭い部屋ですが、雨風もしのげ、鍵もちゃんと施錠できます。
誘惑に負けた森下は、トランクルームでこっそりと生活を始めます……。