連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第131回
『神は曲線を描く』は、Netflixで2022年12月9日から配信されたスペインのサスペンス映画。
サスペンスに定評のあるオリオル・パウロ監督が手がけています。
本作の主演は、同監督の『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(2016)のローラや『ペトラは静かに対峙する』(2018)のペトラを演じたバルバラー・レニー。
155分の長編映画ですが、スピーディな展開に引き込まれて、最後まで油断できないサスペンスとなっています。
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映画『神が描くは曲線で』の作品情報
【公開】
2022年(スペイン映画)
【監督】
オリオル・パウロ
【原作】
トルクアト・ルカ・デ・テナ
【キャスト】
バルバラ―・レニー、エドゥアルド・フェルナンデス、ロレート・モーレオン、ハビエル・ベルトラン、パブロ・デルキ、フェデリコ・アグアド、アデルファ・カルボ
【作品概要】
『神が描くは曲線で』を手がけたオリオル・パウロ監督は、サスペンス映画に定評のある監督です。過去作品に『ロスト・ボディ』(2012)、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(2016)やSFスリラー『嵐の中で』(2018)などがあります。
主人公のアリス・グールドを演じるのは、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(2016)や『ペトラは静かに対峙する』(2018)のバルバラ・レニー。院長であるサムエル・アルバは、『誰もがそれを知っている』(2018)のエドゥアルド・フェルナンデス。
原作はトルクアト・ルカ・デ・テナによる1979年の同名小説です。
映画『神が描くは曲線で』のあらすじとネタバレ
アリス・グールドは、泉の聖母精神病院へと向かいます。
アリスに関する病状について、「患者は常に答えを用意します。嘘であれ必ず答えます。発言に統合性を欠くこともあります。しかしすぐに説明を返します。以前の話は嘘で、今回の話こそ本当だと。彼女は愚直な人間や経験不足の精神科医を簡単に惑わせます」と書かれた報告書を、ルイペレス医師は読み上げます。
アリスに夫婦関係について質問するルイペレス。アリスは、16年一緒に暮らす夫のヘリオドロはアリスの金をギャンブルで使い込んでいると言います。
夫から合法的に誘拐されたとアリスは説明しますが、医師はアリスが夫を毒殺しようとした件について問い正します。
アリスは夫は知性に欠くが美しく、美しいものを崇めている自分は殺せないのだと説明します。ルイペレス医師はアリスのことをパラノイアだとメモをします。
アリスは、モンセ・カステル副委員長に施設内へと案内されました。アリスは、持ち物検査と身体検査をされたのち、病棟に入ります。
私物の持ち込みは禁じられますが、「パラノイア症候群について」という本だけモンセに許可を得て持ち込みます。
モンセから扉の中では自分を忘れるよう助言され、‟アリシア”と名乗るように言われました。
部屋に案内されたアリスは先ほどの本の中から、「私でなくお前が殺した」というメモや「デルオルモ家の悲劇」と書かれた新聞記事の切り抜きを取り出します。
アリスは、デルオルモ家のダミアンという男が精神科内で死んだ事件解決のために潜入捜査にきた私立探偵でした。
病棟内の食堂で、アリスは患者の一人であるイグナシオに話しかけられたアリス。
テーブルの下に突如現れた小人症の男ルイスに驚かされたアリス。ルイスがエレファントマンと呼ばれる巨大な男のもとへ走って行ったのを、イグナシオが叱りつけます。
イグナシオから患者たちを紹介されます。精神障碍者同士の間に生まれた、人まねをするロムロと、双子で言葉を話せないレモ。
ロムロが、自分の妹だと思い込んで大切にしている少女などが病棟にはいました。
過去のある夜。敷地内で火災が起こります。患者の一人が複数個所を刺されて血まみれで誰も入れないはずの病室で死んでいました。
ベッドの下には凶器とみられるガラスの破片が有りました。外は雨のなか、患者の一人が行方不明になっており、容疑がかけられました。
場面が変わり、現在。患者たちに、ダミアン・ガルシア・デオモルモについて聞き込みをするアリス。
その後アリスは、臨床サービス部長のセザル・アレヤノから診療を受けます。アルバ院長に会いたいというアリスに対し、その話以外で診察すると言います。
セザルはアリスに簡単な質問をし、精神状態を確認します。夫婦関係や性生活についても聞かれます。夫は子供を欲しがっていませんでした。
後日、セザルとの面談中にアリスは水をわざとこぼし、トイレを借りたいと頼みます。職員用トイレのカギをセザルから借り、トイレに細工をして水漏れを起こします。
係員が水漏れに気を取られている隙に事務室に潜り込み、ダミアンが死んだ日の1978年11月24日の外出許可書を手に入れます。
過去。患者刺殺の疑いが、ライターを持っており、手のひらが血まみれだったイグナシオにもかけられます。イグナシオは「助けようとしたが、手遅れだった」と話します。
現在。教会で、ロムロがアリスに「分かっているよ」と微笑みかけます。外のベンチにいたイグナシオにアリスは11月に外出した件について質問します。
ダミアンの死に関係があるのか聞きますが、イグナシオは姉と会っていたと言い、空を仰いだ後「行かなければ」と言って立ち去ろうとします。
雨が降り始め、苦しむイグナシオ。痙攣し倒れてしまいます。イグナシオは恐水病でした。
病室のベッドで意識を取り戻したイグナシオに、アリスはダミアンの事件を負っている探偵であることを打ち明けます。
ダミアンを殺した犯人は、統合失調症であり自殺を偽装したといいます。ダミアンの父親はアリスの父親の親友なので潜入捜査している、という経緯をイグナシオに説明しました。
イグナシオから、ダミアンは統合失調症で電気ショックなどの治療を受けていたと聞いたアリス。
ダミアンはいつも小人症のルイスともめていて、ダミアンが死んだ日、ルイスは失踪していたと言います。
過去の事件の日、院長は刑事に事件を病院内で処理したいと話していました。疑問視されているある改革を行っていることが表沙汰されることを避けていたからです。
そこへ、行方不明になっていた患者が見つかったと知らせが入ります。
ルイスを探しに森へ入ったアリスは、ロムロに導かれて木の枝で作った家に行きます。
その中にはロムロが妹だと思い込んでいる少女がおり、ロムロはアリスのことを母親だと言いました。「置いていかないで」と言うロムロを抱きしめるアリス。
物音がして再び森へ入ったアリスはルイスに飛びつかれ、石で殴られて失神してしまいます。
ベッドで目覚めたアリスは、セザルからルイスが死んだと知らされます。レイプされそうになったアリスが、ルイスを木の棒で殴ったことが原因でした。
映画『神が描くは曲線で』の感想と評価
様々な伏線とミスリードがうまく作用し、最後まで観る人を惑わすサスペンス映画となっています。
まず、この映画の大きなトラップは、回想シーンのように途中で挟まれる、ダミアンが死んだ過去の事件の映像が、実はアリスが引き起こした火事の夜だったという点です。
次に、院長がアリスに対して夫を殺害しようとして精神錯乱に陥ったという疑惑をかけたことで、主人公アリスの人物像が揺らぎます。
しかし、この疑惑はアリスが自分の記憶をたどり、全て財産目当ての夫の策略だったことが判明し、覆されました。
ここで副院長のムンセをはじめ、患者のイグナシオやロムロなど、院長以外の人物のほとんどがアリスの味方をすることで、自然とアリスを正当化するよう、観客をミスリードしていたといえます。
アリスが、ルイスから襲われそうになったというのもアリス=被害者という、上手い刷り込みといえるでしょう。
さらに、双子のロムロとレモが入れ替わっていた点も、観客を惑わす小さな仕掛けになっています。
そして、最後のわずか数秒ほどの大どんでん返し…。
院長が「ドナティオに説明を依頼した」と言って会場に入ってきたのは、アリスがデルオルモだと認識してた人物。
つまり、その男が医師ドナティオだったということです。
満場一致でアリスの潔白が証明された直後の、このどんでん返しに驚く人は多いはずです。
しかも、「今度は何をしでかした?」ということは、今までも何かをやらかしてきたということ…。
アリスは実際にパラノイアだった…のか?という衝撃と共に映画は終わります。
映画のはじめ、ドナティオによるアリスに関する報告書にはこう書かれていました。
「患者は常に答えを用意します。嘘であれ必ず答えます。発言に統合性を欠くこともあります。しかしすぐに説明を返します。以前の話は嘘で、今回の話こそ本当だと。彼女は愚直な人間や経験不足の精神科医を簡単に惑わせます」
この忠告を聞こうとしたルイペレス医師も、最後にはアリスを信じてしまいました。
つまり院長以外全員「愚直な人間」そして、医師らも「経験不足の精神科医」だと嘲笑われてしまったような結果になったのです。
そして、まんまと騙された観客たちも…。ですが、ラストカットのアリスの困惑、混乱を漂わせる表情は、解釈の余地を残した絶妙なラストとなっています。
もう一度はじめから観なおしても楽しめるはずです。
まとめ
スペイン映画は、先の読めない秀逸なスリラーやサスペンス映画が豊富です。
本作のオリオル・パウロ監督による『ロスト・ボディ』(2012)は、韓国で『死体が消えた夜』(2018)としてリメイクされています。
また、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(2016)やSFスリラー映画『嵐の中で』(2018)なども予想の裏をかくような意外な展開が面白い作品です。
また、セルヒオ・G・サンチェス監督の『マローボーン家の掟』(2017)や、Netflixオリジナル作品のダビ・パストール、アレックス・パストール監督の『その住人たちは』(2020)も、人間の闇の部分を映し出し、予想できないストーリーが味わえる作品です。
『線が描くは曲線で』もその一つ。先の読めないストーリー展開が気に入った方は、ご覧になってみてください。