連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第120回
同じ日に出産しシングルマザーとなった2人の女性の数奇な運命と不思議な絆、この困難な時代における生き方を描いた映画『パラレル・マザーズ』。
『ペイン・アンド・グローリー』(2019)のペドロ・アルモドバル監督が取りまとめ、主人公である母たちをペネロペ・クルスとミレナ・スミットが演じました。
映画『パラレル・マザーズ』は、2022年11月3日(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ他公開!
映画公開に先駆けて、映画『パラレル・マザーズ』をご紹介します。
映画『パラレル・マザーズ』の作品情報
【公開】
2022年(スペイン映画)
【原題】
MADRES PARALELAS
【脚本・監督】
ペドロ・アルモドバル
【出演】
ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ 、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ
【作品概要】
『パラレル・マザーズ』は、『ペイン・アンド・グローリー』(2019)のペドロ・アルモドバル監督が手がけた作品。
同じ日に出産を迎えた2人の母親の物語を描いたヒューマンドラマです。
『オール・アバウト・マイ・マザー』『ボルベール 帰郷』など数々の作品で監督とタッグを組んできたペネロペ・クルスが主役のジャニスを演じ、第94回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。
もう一人の母・アナには、アナ役はこれが長編映画出演2作目のミレナ・スミット。ほかにイスラエル・エレハルデ 、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノが共演しています。
映画『パラレル・マザーズ』のあらすじ
2016年、マドリード。
フォトグラファーとして活躍するジャニス(ペネロペ・クルス)。
彼女は、スペイン内戦時で殺されて埋葬された曾祖父を含む10数人の遺骨の発掘に力を貸してほしいと、法人類学者アルトゥロ(イスラエル・エレハルデ)に頼み、恋人関係になります。
そして1年もたたないうちに妊娠し、出産を控えて入院した病院で17歳のアナ(ミレナ・スミット)と出会います。
共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していた2人は、同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院しました。
だが、ジャニスはセシリアと名付けた娘と対面した考古学者から、肌の色や全体の印象から「自分の子供とは思えない」と告げられました。
そして、ジャニスが踏み切ったDNAテストによって、セシリアが実の子ではないことが判明。
アナの娘と取り違えられたのではないかと疑ったジャニスですが、激しい葛藤の末、この秘密を封印し、アナとの連絡を絶つことを選びます。
それから1年後、アナと偶然に再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされて──。
映画『パラレル・マザーズ』の感想と評価
2人のシングルマザーに注目
『パラレル・マザーズ』は、同じ病院の同じ病室、同じ日の同じ時刻に女の子を出産したジャニスとアナの物語です。
望まぬ妊娠で、シングルマザーになったということ。同じ境遇のジャニスとアナは何かのためにと、連絡先を交換して別れます。
赤ちゃんたちはすくすく成長しますが、ジャニスは育てている娘が、父親であるアルトゥロにも自分の方の家族にも似ていないことが気になりだしました。
そしてその不安を払拭するためにと行ったDNAテストで、驚愕の事実が判明します。
主役のジャニスを演じるのは、名女優ペネロペ・クルス。娘に関する重大な秘密を知り、答えの出ない難問を突き付けられて、悩み苦しみます。
母であるがゆえの喜びと苦しみを見事に表現しているペネロペ・クルス。
実際にこのようなことがわが身に起ったらと考えてしまいますが、それでも娘の愛を貫こうととするジャニスから目が離せなくなります。
またもう一人のシングルマザー、アナの変貌ぶりも注目です。
アナ役のミレナ・スミットは、重要なキーマンを長編映画2作目とは思えない演技力で演じ切っています。
世間知らずの17歳のアナは、初めてのお産を恐れ不安だらけの素振りを見せます。表情も暗くどこか寂し気です。
それが、出産して育児をするようになると、みるみる大人の女性へと成長していきます。
ジャニスと再会を果たしたときは、ショートカットにし髪も染めていてそれまでのイメージがガラリと変わっていました。
彼女の身に起った出来事。これも本作の重大なキーポイントとなっています。
本作に込められた監督の思い
本作を取りまとめたのは、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督。
2019年の『ペイン・アンド・グローリー』では、監督自らの人生を投影したと言われ、世界各国から絶賛されました。
本作では、監督のライフワークである‟母の物語”を、あ・うんの呼吸でタッグを組めるペネロペ・クルスで描きだしています。
また、監督の中で重要なテーマとなっている‟スペイン内戦”も、作品中でジャニスが曾祖父の遺骨を発掘したいと活動することで、その悲惨さをにじませます。
愛しい我が子は他人ではないかという疑惑に駆られるながらも、自分の曾祖父の遺骨の発掘に力を注ぐジャニス。
2つの局面で自らの悩みに苦しむその姿から、母の我が子への愛や肉親の繋がりとは何かと、問いかけられます。
まとめ
ペネロペ・クルス主演のペドロ・アルモドバル監督作品『パラレル・マザーズ』。
シングルマザー同士のジャニスとアナ。同じ病院で同じ日に娘を出産した偶然が2人を結びつけます。
気になるのは、2人の母の数奇な運命の行方……。
ジャニスの決断がどんな運命を呼び込むのか。映画館でとくとご確認ください。
また本作は、作品全体が美しい色彩で覆われ絵画のような出来栄えになっています。監督のセンスの良さが余すところなく盛り込まれているのもお見逃しなく。
映画『パラレル・マザーズ』は、2022年11月3日(木・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ他公開!
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。