浅田次郎の時代小説『大名倒産』が映画化され、2023年6月23日(金)公開に!
ベストセラー作家・浅田次郎の傑作時代小説『大名倒産』。運命のいたずらのようにして藩主となった若き主人公が、莫大な借金を背負った藩の財政を立て直します。
どこかの国のお偉いさん方にもぜひ読んでもらいたいこの小説が、2023年に松竹配給で映画化されます。
監督は、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)『老後の資金がありません!』(2021)『そして、バトンは渡された』(2021)といった話題作を手がけた前田哲監督。
なんと、本作が時代劇初挑戦となるそうですから、どんな作品になるのか楽しみです。
2023年6月23日(金)公開の映画公開に先駆けて、小説『大名倒産』をネタバレ有りでご紹介します。
小説『大名倒産』の主な登場人物
【松平和泉守信房(小四郎)】
丹生山松平家第13代当主。先代が村娘なつに手を付けて生まれた四男。
【なつ】
村娘だったとき先代に見初められて小四郎を産む。その後間垣作兵衛と結婚する。
【間垣作兵衛】
小四郎の育ての父。小四郎が9歳になって当主の元へ引き取られた後、妻にしていたなつと別れて国元へ戻る。
【ご隠居】
第12代当主。大名倒産の企みを腹に、庶子の小四郎に跡目を譲って柏木村の下屋敷で隠居する。
【新次郎】
小四郎の異母兄(次男)。江戸中屋敷に住む。少々知恵が足りないが、庭造りに天賦の才を発揮。
【お初】
新次郎の嫁となる女性。
小説『大名倒産』のあらすじとネタバレ
時は文久2年8月1日。江戸城本丸御殿では東照神君家康公の江戸入りを祝う八朔の式日が行われました。その式の後、21歳の越後丹生山三万石松平和泉守信房は下城差留を仰せつかい、恐れおののいています。
9歳まで足軽の子として育てられた和泉守信房は、実はお殿様のご落胤。幼名の小四郎が示す通り四男坊でした。が、先代の実父であるお殿様の長男は病死、次男は知恵が少し足りず、三男は病弱とあって、思いもかけずに隠居を決めた殿様の跡目を継いで、13代和泉守を名乗ることになりました。
まさかの思いも冷めぬまま、初登城を果たした小四郎。何か粗相があったのかと、びくびくしながら居残りの命を受け、言われたのは「御尊家には、金がない」ということ。老中からの無情な宣告に慌てて江戸屋敷に戻ると、小四郎は隠居している先代を訪ね、問い詰めます。
「父上にお訊ねいたします。当家には金がないのですか」「金はない。だからどうだと言うのだ」
何年もたつうちに積もりに積もった莫大な金額の借金にほとほと嫌気がさした先代のご隠居は、借金から逃れる案を練っていました。
返済など夢のまた夢。利子支払いすらおぼつかぬ巨額の借金です。もう取り潰し結構、やってもらおうじゃないか、それまでに隠し財産貯め込めるだけ貯め込んで……13代和泉守(小四郎)ひとりに腹を切ってもらって、我らはのんびり余生を過ごせばいいのだと……。
老中のお叱りを受け、隠居の父に金無し宣告を受けた小四郎。次には、家宝を収めた蔵がある中屋敷に住む次兄の新次郎を訪ねます。
新次郎は、知恵が少し足りないのを理由に跡継ぎを外されたのですが、優しい性格の兄で、足軽の子から急に若様に仕立て上げられた小四郎の遊び相手となり、支えてくれました。小四郎が藩主となっても、子どもの頃と変わらず優しく接してくれます。
普通の生活は着物の帯さえ満足に結べないのですが、庭仕事に関しては驚くほどの天分を発揮し、住まいとしている屋敷の庭は天下一品といってもいいほど美しい庭となっていました。
その仕事ぶりと人柄に惚れ込んだのが、大番頭という役職の娘・お初でした。このお初もまた少々知恵が足りませんが、新次郎のことが好きでたまらず、新次郎もまたお初にべったりとくっつき、相思相愛でした。
そんな新次郎に我が家の財政のことを聞いた小四郎。新次郎の答えは、「蔵は空っぽ、先祖伝来の御具足も御刀もない。家宝がなくては御先祖様に結婚の報告ができない、取り返しておくれ」。
御隠居の胸のうちを知らない小四郎は、家来として連れてきた幼馴染の平八郎、貞吉とともに金策に頭をひねります。
そして、最初の問題だった幕府への献上品の不渡をなんとか都合しますが、次には難関の参勤交代の費用が待ち構えていました。
最低でも4百両は要するところ、手元にあるのは40両。しかも、異母兄の次男・新次郎の嫁取りの結納費用は500両もします。その窮状は御家に入り込んだ貧乏神までもが呆れるありさまでした。
けれども、勘定に明るい浪人のアドバイスで辛くも切り抜け、なんとか帰路についてたどり着いた領地の越後丹生山。
小四郎とは逆に越後の国しか見たことのない、病弱なもう一人の異母兄の三男も、弟の思いに重ねるように懇願します。
「この丹生山の領分を、ふるさとをどうか滅ぼさないでくれ」と。
こうして難儀な御家再建がはじまりました。節約、収税、殖産興業と考えて、小四郎は育ての父・間垣作兵衛が手塩にかけて増やした鮭に望みをかけます。
丹生山の鮭のお味は天下一品ですが、領外に売りに出すには江戸も大坂もあまりに遠い。船で運ぶにはまた金がかかります。
どうしようと頭を悩ます小四郎。金がなくても、親に見捨てられても、諦めず知恵をしぼる小四郎と健気なご家来衆の姿に、ひょんなことから改心を迫られた貧乏神までが力を貸します。
とはいえ貧乏神は人を貧しくさせるしか能がありません。ふと昔、居酒屋で飲んだ神々のことを思い出し、頼んでみることにしました。
小説『大名倒産』の感想と評価
ヒューマンから義理人情のヤクザ物、そして時代小説と、書くレパートリーも広いベストセラー作家の浅田次郎。
本書では、思いがけずに藩主となった主人公が、莫大な借金を背負った藩の財政を見事に立て直す物語を描きました。
主人公は、お殿様の御落胤で足軽の子として育てられた、若干21歳の小四郎です。
若すぎるほどの年齢の小四郎は何もできないだろうと、先代の御隠居は小四郎一人に責任を負って切腹してもらい、藩の皆の生活を助けるつもりでした。
ところがどっこい、そうはいきません。ここで作者の正義感があらわれます。
小四郎はどこといって秀でた所のない平凡な青年でしたが、普通の武家の子どもと違って庶民の間で育ち、日常生活をする上で最低限度必要な金銭感覚とその管理の采配を知っていました。
加えて、心強い幼馴染みの友人が2人もしっかりと付き添ってくれています。
どうすれば藩や周囲の人々を困らすことなく借金を返せるのか。小四郎は諦める前にいろいろ考えます。
庶民の暮らしを知っている小四郎は、その生活の苦労から、藩が潰されそうな事態をなんとかしようと奔走出来たと言えます。
これは実際にその苦労を知る人でないと出来ないこと! 現代の日本の国の財政も窮地に陥っていると思えますが、それが立ち直れないのは、国民側に立ってこの窮状を見る人がいないと言えるのではないでしょうか。
また、本書では、人間ばかりか貧乏神や七福神などの神様も登場し、健気に難問を解決しようとする小四郎に力を貸してくれます。
最後に隠し財宝までもが降ってわいたかのように発見され、小四郎を助けることとなりました。
ラストでは、莫大な借金の返済目途をたて、お金というものの価値をいやというほど知った小四郎が、お初の産んだ赤ん坊の微笑みを見て、これこそ天下で一番のお宝だと悟ります。
天下を平和にまるく治めるには、武力や権力が一番ではありません。
『大名倒産』では、小四郎の物語を通して人が生きる上で何が大切かを、コミカルに描いています。
映画『大名倒産』の見どころ
小説『大名倒産』を映画化するのは、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)『老後の資金がありません!』(2021)『そして、バトンは渡された』(2021)などの作品を手がけ、ノリにのっている前田哲監督です。
本作は借金返済の資金繰りにあえぐ貧乏藩の話ですが、原作の登場人物はどこか抜けているようで微笑ましい……。
子どもが「お父さん」と呼びかけると、頭の中で「御倒産」と文字が変換され、藩がつぶれる恐怖心から「父上と呼べ!」と叫ぶ藩士。
自分の妻の名がおカネであるため、とても呼び辛く感じている藩士などに加え、極めつけは、小四郎の次兄の新次郎とその恋人お初でした。
借金で苦しむ家長の屋敷にいながら、悠々自適、自分の好きなことを好きなようにして生きている新次郎と、そんな新次郎に周囲の目も気にせずにべったりとくっつくお初。
多少の知恵遅れなので仕方がないとしても、空気が読めないそのキャラたちが出てくるとついつい笑ってしまいます。
アツアツのおバカップルが登場人物全員の中でも癒される存在として描かれているのです。
初ちょんまげ姿の神木隆之介をはじめとするキャストたちや、時代劇初挑戦という前田哲監督が、倒産を切り抜ける至難の業を鮮やかに魅せてくれることへ期待も高まります。
映画『大名倒産』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【原作】
浅田次郎:『大名倒産』(文春文庫版)
【監督】
前田哲
【脚本】
丑尾健太郎、稲葉一広
【キャスト】
神木隆之介、杉咲花、松山ケンイチ、小手伸也、小日向文世、宮﨑あおい、桜田通、浅野忠信、佐藤浩市
まとめ
2023年公開予定の原作小説『大名倒産』をご紹介しました。
借金返済の目途が立つまでの主人公の苦労が、ユーモアを加えてわかりやすく描かれています。
小説の中とはいえ、あまりにも鮮やかな財政再建の手腕と心休まるラストに、つい現実社会と比べてしまうに違いありません。
暮らしにくい現実社会において、ぜひ本作を一読し、また劇場でリアルな財政立て直しを味わってほしいものです。
映画『大名倒産』は2023年6月23日(金)公開予定!