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映画『母の聖戦』あらすじ感想と評価解説。実話から‟市民”の母親が誘拐事件の犯人に立ち向かう姿を描く|映画という星空を知るひとよ131

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第131回

知られざるメキシコの誘拐ビジネスの闇に迫り、誘拐された娘の奪還を誓った母親の愛と執念の物語『母の聖戦』。

実話を基にした社会派ドラマ『母の聖戦』は、裕福ではない庶民が犯罪組織に搾取され、警察にも取り合ってもらえない非情な現実を描き出します

年間推定約6万件もの誘拐事件がメキシコでは発生しているといいます。

そんな卑劣な誘拐組織に愛娘をさらわれた母。その怒りは凄まじく、無力な一市民でありながら、わが身を顧みずに姿を見せない組織に向かっていきます。

果たして、母は無事に娘を取り戻すことができるのでしょうか。

映画『母の聖戦』は、2023年1月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー

映画公開に先駆けて、テオドラ・アナ・ミハイ監督が実話を基にして極悪犯罪に怒りを込めて描いた『母の聖戦』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『母の聖戦』の作品情報


(C)MENUETTO FILM, ONE FOR THE ROAD,LES FILMS DU FLEUVE, MOBRA FILMS&TEOREMA

【日本公開】
2023年(ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作映画)

【監督】
テオドラ・アナ・ミハイ

【製作】
ハンス・エヴァラエル

【共同製作】
ダルデンヌ兄弟、クリスティアン・ムンジウ、ミシェル・フランコ

【出演】
アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アジェレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス

【概要】
テオドラ・アナ・ミハイ監督の劇映画デビューとなった『母の聖戦』は、誘拐ビジネスが横行するメキシコで、さらわれた娘を取り戻すべく奔走する母親の姿を、実話をもとに描いた社会派ドラマ。

現代のヨーロッパを代表する『その手に触れるまで』(2020)などのダルデンヌ兄弟、『4ヶ月、3週と2日』(2007)でカンヌ映画祭パルムドールに輝いたクリスティアン・ムンジウ、『或る終焉』(2016)で知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコが、プロデューサーとして参加しています。

2021年の第34回東京国際映画祭コンペティション部門では『市民』のタイトルで上映され、審査員特別賞を受賞。

映画『母の聖戦』のあらすじ


(C)MENUETTO FILM, ONE FOR THE ROAD,LES FILMS DU FLEUVE, MOBRA FILMS&TEOREMA

メキシコ北部の町で暮らすシエロは夫と別居中ですが、ひとり娘のラウラとともに平和に暮らしていました。

そんなある日、ラウラがメキシコの犯罪組織に誘拐されました。

犯人グループはすぐに多額の身代金を要求。シエロは困り果て、ラウラの父である別居中の夫に相談します。

グループの要求は2回にわたり、シエロは自分の財産と夫からの金で20万ペソの身代金を支払いますが、ラウラは帰ってきません。

警察に相談しても相手にしてもらえないシエロは、自力で娘を取り戻すことを心に誓い、犯罪組織の調査に乗り出します。

そのさなか、軍のパトロール部隊を率いるラマルケ中尉と協力関係を結ぶことに成功。

組織に関する情報を提供したシエロは、誘拐ビジネスの闇の血生臭い実態を目の当たりにしていきます。

映画『母の聖戦』の感想と評価


(C)MENUETTO FILM, ONE FOR THE ROAD,LES FILMS DU FLEUVE, MOBRA FILMS&TEOREMA

母の怒りは子どもへの愛の証

ある日突然、家族が何者かに誘拐されたら……。本作『母の聖戦』は、実話を基に誘拐された我が子を取り戻そうとする母の切実な思いをリアルに描き出しています。

舞台となったメキシコは、とても誘拐事件の多いところ。幼い子供ばかりか成人の男女も容赦なく連れ去られ、莫大な身代金を要求されます。

身代金を払って誘拐された子どもが帰ってくればいいのですが、行方不明のままのケースの方が多いようです。行方不明ということは、最悪の場合も考えなければなりません。

本作では、お金を工面しても娘を返してもらえない母・シエロの怒りは膨れ上がり、ついには我慢できずに自分で犯人捜しを始めます。

法や規則にのっとり悠長に構えて捜査に当たろうとする警察や軍隊に、シエロは鬼のような形相で詰め寄りました。

「私は娘を返してほしいだけなの!」

シエロの心からの叫びに動かされない者はいないでしょう。

格闘技や武器を扱った経験もないごく普通の市民の母であるシエロ。

「海より深い」と比喩される母の愛は、このような時には時化のように大荒れになります。

愛娘を取り戻したい一念でシエロは動き出しますが、果たしてその結果はどうだったのでしょうか? 

一挙一動、シエロの言動や表情から目が離せませんが、緊迫した状況下でも揺れ動く母親の気持ちが、そこに見え隠れしますのでお見逃しのないように。

誘拐犯罪の裏にあるもの


(C)MENUETTO FILM, ONE FOR THE ROAD,LES FILMS DU FLEUVE, MOBRA FILMS&TEOREMA

ここで気になるのは、なぜメキシコにはこういった誘拐犯罪が多いのかということ。

人を連れ去って身代金を要求し、大金を手に入れるというのは、手っ取り早い金儲けと言えます。作中のメキシコにはこういった身代金で稼ぐ犯罪組織がいくつかあるようでした。

シエロに娘の身代金要求をして接近してきた犯人グループのメンバーたちも、20代そこそこの若者たちでした。

一言に彼らが不良といえばそれですみますが、低下層の暮らしをする若者に狙いをつけて仲間に取り込む犯罪組織もあるのです。

生活のために悪事に手を貸す人がいるのなら、それは市民が普通に暮らしていけないということであり、国の政策が悪いとも言えるでしょう

犯罪組織は「悪」ですが、それを取り締まる警察や軍隊、あるいは市民の中にも組織に手を貸す者もいるのが現実です。

社会の裏でうごめく悪事の責任は、いったいどこにあると言うのでしょう。犯罪が起こる本当の理由を考えてみる必要があります。

まとめ


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平穏な日常から一変、誘拐された娘の安否を気遣い、その行方を探し求める母は、今までの人生観が覆されるような経験にも果敢に挑んでいきます。

その願いはただ一つ、‟行方の知れない最愛の娘を返してもらうこと”

果たして母の願いは届くのでしょうか。暴力やお金の力よりも尊い、真の正義のための聖戦をぜひ劇場でご覧ください。

映画『母の聖戦』は、2023年1月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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