映画『月の満ち欠け』は2022年12月2日(金)全国公開
愛する妻子を不慮の事故で亡くした男性、小山内のもとに、かつて“瑠璃”という名の女性と許されざる恋をした男性、三角が訪ねてくる。小山内の娘は自分が愛した女性の生まれ変わりだと三角は告げた。
映画『月の満ち欠け』は「愛する人にもう一度逢いたい」という想いが起こした“奇跡”によって紡がれる数奇で壮大なラブストーリーです。
三角が愛した女性と同じ名を持つ小山内の娘を演じたのは、西日本鉄道グループのCM『幸せのそばで』篇(2019年)で注目を集めた菊池日菜子。両親からたっぷり愛され、幸せいっぱいに育った女子高生ながら、心の奥に人には言えない何かを抱えた複雑な役どころを透明感あふれる演技で体現しています。
このたび、映画『月の満ち欠け』の劇場公開を記念し、女優の菊池日菜子さんにインタビューを敢行。大泉洋、柴咲コウといった共演者に対する尊敬の思い、また、廣木隆一監督の演出方法などについて語っていただきました。
CONTENTS
セリフがお腹の底から自然に出てくる大泉洋
──脚本を読んで、小山内瑠璃についてどう思いましたか。
菊池日菜子(以下、菊池):共演者は大泉洋さん、柴咲コウさん、伊藤沙莉さん、田中圭さんという素晴らしい方ばかり。それを考えると恐れ多いので、考えないようにしながら脚本を読みました。
小山内瑠璃は、自分以外の人生も抱えながら生きている女子高生だったので、それをどう捉えたらいいのか、すごく悩みました。
ただ、脚本を読むとシリアスな役に思えますが、大泉洋さんが演じるお父さん、柴咲コウさんが演じるお母さんの娘で、親友もいる。家族や親友といるときはすごく楽しくて、両親から愛されることをうれしいと思っている女の子であることは変わりありません。その瞬間に生まれる感情に嘘がないようにしようと思いました。
──大泉洋さん、柴咲コウさん、伊藤沙莉さん、田中圭さんはどのような方でしたか。
菊池:大泉さんは私が小さいころからテレビで見ていた“大泉洋さん”のままでした(笑)。一度お会いしたことはありましたが、一緒に撮影させていただくのは今回が初めて。休憩のときもずっと楽しく現場を盛り上げてくださる方でした。
お芝居のアプローチは目の前で見ていて、勉強になりました。セリフ1つにしても、そのセリフに対する役の入り込み方が私とは比べ物にならないくらい深い。ただセリフを発するのではなく、役の感情を踏まえてお腹の底から自然に出てくるのを間近で見て、いつか私もこんな風になりたいと思いました。和やかな画を撮りたいシーンでは、カメラが回る前に共演者の人と他愛のない話をして雰囲気作りをされていたのも印象的でした。
例えばホームパーティーのシーンがありますが、楽しい雰囲気を作るために大泉さんはご自身の娘さんの話をされていて、ほんわかした空気の中で撮影することができたので、作品にもその雰囲気が伝わったのではないかと思います。現場での居方が本当に勉強になって、私の目指すべきところだと思いました。
母親役を演じてくださった柴咲さんと初めてお会いしたのは、私がクランクインする前に、撮影現場に見学に行かせていただいたときでした。「柴咲さんって本当にすごい」と思いながらご挨拶をしたところ、とても温かい言葉を掛けていただいて、「とても活躍されているのに、私のような者にも温かく接してくださるなんて」と感謝の気持ちでいっぱいになりました。
伊藤さんは親友役だったので共演シーンがいちばん多く、たくさんお話させていただきましたが、私がイメージしていた通りの、楽しく優しい方でした。私が緊張しているのを察して、カメラが回っていないところでもいろいろと話をして、緊張を解してくだいました。
正木竜之介を演じた田中圭さんはお会いする前に目で慣れておこうと思って、出演された作品をいくつか事前に見たのですが、その作品が少し怖い役どころだったので、その印象のまま、正木さんと対峙するシーンの撮影に挑むことになり、かなりリアルに怖がっている様子が撮れたのではないかと思います。モニターでチェックしたとき、「私ってこんな顔をしているんだ」と驚いたくらいです。
脳に語りかけるような演出をする廣木隆一監督
──瑠璃が高校の校舎の窓から外を見て涙を流す場面が印象に残りました。
菊池:あのシーンを撮る前に撮ったのが、下校するときに親友のゆいから「あきらくんに会いに行かないの?」と聞かれて、悩んでいる気持ちを伝えるシーンでした。そこであきらくんへの気持ちが募ったまま演じたので、台本のト書きには「泣く」とは書いていなかったのですが、自然と泣きの芝居になりました。
ただ、劇中で使用されているのは日を改めて撮影したものです。涙するお芝居をいいと思ってくださった監督が「せっかくだから光がもっときれいな状況で撮り直そう」と言ってくださったんです。
ところがそういうときに限って涙がうまく出せなくて…気持ちがどんどん焦ってしまい、頭で考えれば考えるほど涙が出てこなくなってしまったんです。そんな私を見て、廣木隆一監督が私の隣にすっと入ってきて、「瑠璃は今、こういう気持ちで、あきら君のことをこういう風に思っていて」とゆっくり柔らかな声で語ってくださって。それを聞いているうちに涙が出てくるようになりました。
私がもう一人の瑠璃のままでいられるように、姿勢は窓の外を向いたままで遠くを見つめながら、脳に語り掛けるようなトーンで語ってくださったので、カットが掛かってから、「さっき話しかけてくださったのは監督だったんだ」と気がついたくらいでした。とても思い入れのあるシーンです。
──他に印象に残っている現場はありましたか。
菊池:美術室のシーンですね。「人は命を繰り返す。月が一度欠けてもまた満ちるように。また生まれ変わる。ただほとんどの人がそれを覚えていないだけ。満たされなかった強い想いを引きずっている人だけがそれを覚えている」というセリフがあるのですが、タイトルが入っていて、作品のカギになるセリフです。重みを凄く感じて、他のシーンよりも緊張しました。美術室に初めて入った日の撮影でもあったので、事前に場に慣れておこうと、美術室には早めに入って、休憩中もずっとそこにいた記憶があります。本番では丁寧に紡ぐように言いました。
美術室では、「これがあきらくん」とゆいにいきなり話し出す場面もあるのですが、このシーンはすごく迷いながら現場に臨みました。廣木隆一監督がここでもそっと「いきなり重大なことを語り出すけれど、 “あくまで笑って聞いてくれればいいんだけどさ”みたいな感じ。でもゆいとは親友で、その関係はこれからも続いていくから、ゆいには本当のことを言いたい。そういう感情なんじゃない?」と言ってくださって、それがすごく腑に落ちたので、自然にお芝居ができました。
交差して描かれているさまざまな愛
──2021年は映画『私はいったい、何と闘っているのか』、舞台『醉いどれ天使』を経験されました。今回の現場でそのときに学んだことが活かせたところはありましたか。
菊池:現場を重ねるごとに新しい発見があります。映画は『私はいったい、何と闘っているのか』が初めて。あの現場では、映画を撮るにあたって、本読みをして、撮影当日に場当たりをして、リハーサルをするという流れがあることを知ったので、今回は前回よりはスムーズに現場に入れた実感がありました。
舞台は映画とはまったく別物でした。『醉いどれ天使』では名だたる方々のお芝居をお客さんのすぐそばで間近に見ることができ、お芝居の臨場感、その俳優さんだからこそ出せる演技の深みを感じました。そういったものを私なりに少しずづ出していけたらいいなと思います。
──完成した作品をご覧になっていかがでしたか。
菊池:自分が出演している箇所ではないですが、有村架純さんと目黒蓮さんが演じた瑠璃と哲彦がソファに座って月明りに照らされているところがすごく素敵でした。演じられたお芝居の内容も好きですし、映像として見たときの美しさも素晴らしい。有村さんと目黒さんだからこそ出る美しさ、大人の恋愛観が映像にはっきりと表れていて、脚本が何倍にも膨らんでいるように感じました。
瑠璃と哲彦のラブストーリーですが、描いている愛はそれだけではありません。小山内夫婦の愛、小山内家としての愛、瑠璃とゆいの親友としての愛もある。さまざまな結びつきが愛として交差して描かれているので、きっとご自身に重なる部分があると思います。
生まれ変わりってもしかしたらあるのかもしれないという希望も感じました。逢えなくなった人がいらっしゃる方にはすっと光が見えて、心に沁みる作品なのではと思います。1本の映画として得られるものがすごく多いので、そこがいちばんの魅力だと思います。
──女優として、これからチャレンジしてみたいことはありますか。
菊池:女子高生役をやらせていただくことが多いので、今後は大人の役どころや、殺人鬼のように菊池日菜子にはできない役をやってみたいです。ジャンルとしてはアクション、特に殺陣に挑戦してみたいと思っています。
目標としているのは高畑充希さん。高畑さんのように幅のあるお芝居ができる女優になりたいと思っています。邦画を見ていると同世代の役を演じている人にジェラシーを感じてしまうことがあるので、意識的に避けていたのですが、勉強のためにも最近はジャンルを問わず、いろんな作品を観ていこうと思っています。
インタビュー/ほりきみき
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/猪股真衣子(TRON)
スタイリスト/松川総
衣装クレジット
ワンピース ¥41,800
ニット ¥15,400
カーディガン ¥41,800
全てジョン スメドレー(リーミルズ エージェンシー)
靴 ¥79,200
パラブーツ(パラブーツ青山店)
菊池日菜子プロフィール
2002年2月3日生まれ、福岡県出身。西日本鉄道グループのCM『幸せのそばで』篇(2019)で注目を集め、タマホーム『走る少女』篇(2020)など数々のCMに出演。
主な出演作に映画『私はいったい、何と闘っているのか』(2021)、三池崇史演出の舞台『醉いどれ天使』(2021)、King Gnu「雨燦々」MVなどがある。
映画『月の満ち欠け』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店刊)
【監督】
廣木隆一
【脚本】
橋本裕志
【出演】
大泉 洋、有村架純、目黒 蓮(Snow Man)、伊藤沙莉 / 田中圭、柴咲コウ
菊池日菜子、小山紗愛、阿部久令亜、尾杉麻友 ・ 寛 一 郎、波岡一喜、安藤玉恵、丘みつ子
【作品概要】
原作は佐藤正午が書いた「月の満ち欠け」(岩波書店刊)。累計発行部数56万部を超えるベストセラー小説。
幸せな日常から一転、妻子を亡くし数奇な運命に巻き込まれる主人公・小山内堅に大泉洋。物語の鍵を握る、小山内の娘と同じ名前を持つヒロイン・正木“瑠璃”に有村架純。27年前に“瑠璃”と許されざる恋に落ちる大学生・三角哲彦には目黒蓮(Snow Man)。小山内の妻・梢には柴咲コウ、その娘・瑠璃には菊池日菜子。 “瑠璃”の夫・正木竜之介に田中圭、小山内にある事実を伝える、娘の親友・緑坂ゆいには伊藤沙莉。
監督には『あちらにいる鬼』(2022)、『母性』(2022)とこの秋、公開作品が続く廣木隆一。脚本には『そして、バトンは渡された』(2021)の橋本裕志。
物語が始まる1980年という時代を象徴する楽曲として、同年に発売されたジョン・レノンの楽曲「Woman」を劇中に使用。リアリティを追求したオールロケ、そして1980年当時の高田馬場駅前を巨大オープンセットと最新CGで再現したところも注目ポイントのひとつ。
映画『月の満ち欠け』のあらすじ
仕事も家庭も順調だった小山内堅(大泉洋)の日常は、愛する妻・梢(柴咲コウ)と娘・瑠璃のふたりを不慮の事故で同時に失ったことで一変。深い悲しみに沈む小山内のもとに、三角哲彦と名乗る男(目黒蓮)が訪ねてくる。
事故に遭った日、小山内の娘が面識のないはずの自分に会いに来ようとしていたこと、そして彼女は、かつて自分が狂おしいほどに愛した“瑠璃”という女性(有村架純)の生まれ変わりだったのではないか、と告げる。そんな信じ難い話に、三角を拒絶する小山内。
その数年後、今度は瑠璃の親友であった緑坂ゆい(伊藤沙莉)から突然の連絡を受ける。「瑠璃が高校時代に描いていた肖像画を探してほしい」。その肖像画には、三角にそっくりな男性が描かれていた…。
【愛し合っていた一組の夫婦】と、【許されざる恋に落ちた恋人たち】。
全く関係がないように思われたふたつの物語が、数十年の時を経てつながっていく。それは「生まれ変わっても、あなたに逢いたい」という強い想いが起こした、あまりにも切なすぎる愛の奇跡だった──。
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。