現世に戻るか?天界へ旅立つか?魂の選択を求められる「天間荘」の物語
地上と天界の間に存在する街で、臨死状態になった小川たまえが出会う、さまざまな人との「魂の物語」を描いた映画『天間荘の三姉妹』。
2003年にドラマが放送され、劇場版も公開された『スカイハイ』のスピンオフ作品となる本作。
魂の存在となった人々が織りなす「再生」と「旅立ち」の、人間ドラマに加え、地上と天界の間に存在する街「三ツ瀬」の謎が絡む物語となっています。
「三ツ瀬」が存在する意味が明確になった時、あまりにも悲しい真実が浮き彫りとなります。
豪華キャストも魅力的な、映画『天間荘の三姉妹』をご紹介します。
映画『天間荘の三姉妹』の作品情報
【公開】
2022年映画(日本映画)
【原作】
高橋ツトム
【監督】
北村龍平
【脚本】
嶋田うれ葉
【キャスト】
のん、門脇麦、大島優子、高良健吾、山谷花純、萩原利久、平山浩行、柳葉敏郎、中村雅俊、三田佳子、永瀬正敏、寺島しのぶ、柴咲コウ
【作品概要】
高橋ツトム原作の「天間荘の三姉妹 スカイハイ」を『あずみ』(2003)『ゴジラ FINAL WARS』(2004)などで知られる、北村龍平監督が映像化。
地上と天界の間に存在する旅館「天間荘」を舞台に、さまざまな人間ドラマが繰り広げられます。
主人公の小川たまえを『ホットロード』『海月姫』(共に2014)など、数々の映像作品で主演を務めてきたのん。
たまえの腹違いの姉妹を「AKB48」を卒業後『紙の月』(2014)での演技が高く評価され『生きちゃった』(2020)でも強烈な演技を見せた大島優子と、『花筐HANAGATAMI』(2017)などの作品で、高い評価を得ている門脇麦が演じています。
寺島しのぶ、三田佳子、永瀬正敏、柴咲コウなど実力派の俳優が「三ツ瀬」の個性的な人々を演じています。
映画『天間荘の三姉妹』のあらすじとネタバレ
地上と天界の間に存在する街「三ツ瀬」。
この「三ツ瀬」にある旅館「天間荘」は、臨死状態の人の魂が訪れ、地上での疲れを癒し「肉体に戻るか?」「天界に旅立つか?」を選択する場所です。
「天間荘」を訪れた小川たまえは、幼い頃に母親を失い、育ててくれた父親も行方不明になってしまったことから、地上では天涯孤独の身でした。
謎の女性イズコにタクシーで「天間荘」に連れて来られた、たまえは驚きの事実を知ります。
「天間荘」の現在の女将のぞみと、イルカトレーナーとして働くかなえは、実はたまえの腹違いの姉妹でした。
のぞみとかなえは、たまえを歓迎しますが、のぞみとかなえの母親、天間恵子はたまえを良く思っておらず「働かざる者食うべからず」と、たまえを客ではなく、従業員として扱おうとします。
のぞみは反対しますが、たまえは「天間荘」の従業員として働くことを望みます。
映画『天間荘の三姉妹』感想と評価
地上と天界の間に存在する街「三ツ瀬」を舞台に「天間荘」の三姉妹を中心にした、人間ドラマを描いた『天間荘の三姉妹』。
設定を聞けば、SFやファンタジー映画を連想しそうですが、本作は何気ない日常を、丁寧に描いた作品です。
まず作品の冒頭では、義理の妹たまえを迎えようとするのぞみが、たまえと会った時の練習を、居間で1人でやっている所から始まります。
その後、居間から厨房を通って「天間荘」の外に出るのぞみをワンカットで見せ、そこへタクシーに乗った、たまえが到着します。
「天間荘」がある「三ツ瀬」も、どう見ても海辺の静かな街にしか見えない為「地上と天界の間に存在する街」という設定に戸惑うかもしれません。
本作の序盤は、たまえが「天間荘」の宿泊客の心を、持ち前の天真爛漫な性格で開いていくという展開が主軸となっています。
たまえを演じるのんが、完全に役にハマっていますが、実は原作のたまえも、のんをモデルにして創作されたという話があります。
地上では孤独だった、たまえが「天間荘」で家族や友人と呼べる存在に出会い、居場所を作っていくのですが、物語が進むにつれて大きくなっていくのが「三ツ瀬」という街の違和感です。
そして、三姉妹の父親である清志の登場から「三ツ瀬」が、地上と天界の間に存在する理由が明らかとなります。
震災により甚大な被害を受けた街、それが「三ツ瀬」でした。
当時「三ツ瀬」に住んでいた人々は、そのまま魂だけの存在となり、時の止まった街で暮らし続けていたのです。
平穏な毎日が続きますが、ただその先には何も無い。
「天間荘」の恵子やのぞみ、かなえはそのことに気付いていますが、その状況を変えるキッカケが無かったのです。
そんな「三ツ瀬」を託されたのが、たまえでした。
前述したように、本作の前半は、何気ない日常を丁寧に描いた作品ですが「三ツ瀬」が消える時、その何気ない日常も消えてしまう為、ようやく居場所を見つけた、たまえには堪らなく辛いことでしょう。
ですが、たまえは「三ツ瀬」の人々の想いを受け取り、現世に戻ることを決意します。
本作では、亡くなられた人々は「それで終わり」ではなく「次の世界に旅立った」と描かれています。
たまえは、かなえから受け継いだ技術で、ラストにイルカトレーナーとしてショーを成功させます。
新たな決意をし、生きることを選んだ、たまえのラストの姿から、旅立たれた方々に思いを馳せ、意思を継ぐ「それが現世を生きる人々の使命ではないか?」と感じました。
まとめ
何気ない日常を丁寧に描いた『天間荘の三姉妹』ですが、本作で非日常を観客に感じさせる存在が、イズコです。
イズコは『スカイハイ』では、恨みの門の番人として、死者に3つの選択を迫る、神のような存在でした。
『天間荘の三姉妹』でも「肉体に戻るか?旅立つか?」の選択を迫るのですが、実は「三ツ瀬」の人々の悲劇を悲しむ、人間的な部分を見せます。
本作でイズコを演じた柴咲コウが、原作から抜け出したような存在感を見せています。
また、複雑な葛藤を抱えているのぞみを演じた大島優子や、時間が止まった「三ツ瀬」で、人を愛する切なさと悲しさを背負う、かなえを演じた門脇麦、そして三姉妹を取りまとめながら「三ツ瀬」を動かす決断をする、恵子を演じた寺島しのぶなど、それぞれが難しい役どころを見事に演じており『天間荘の三姉妹』の世界観を見事に作り上げています。
だからこそ、クライマックスで「三ツ瀬」も「天間荘」も消えてしまう、たまえの家族が全員旅立つ場面では、切なさと悲しさが入り混じりました。
作品全体のバランスも、清志の登場する場面でコメディ要素を入れてくるなど、話が重くなり過ぎないような工夫がされています。
不思議な世界観と、優しいメッセージの込められた本作、是非『天間荘の三姉妹』の世界に浸っていただきたいです。