連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第116回
今回ご紹介するNetflix映画『20世紀のキミ』は、パン・ウリが監督・脚本を手がけた長編映画デビュー作です。
20世紀が終わろうとする、1999年の韓国チョンジュ市を舞台に、運動神経がばつぐんで色気より食い気、明るい性格の高校生、ナ・ボラの青春を描いたラブストーリーです。
父から送られてきた、ビデオテープの写真付きメールを見たボラは、親友ヨンドゥの恋のキューピッド役をかって出た、1999年の高校生時代の記憶を思い出します。
高校入学目前のボラは恋愛よりも友情が大切だと思う女の子です。そんなボラは親友ヨンドゥが心臓手術を受けるため、渡米する間に彼女のためにある任務を請け負います。
それはヨンドゥが一目ぼれした恋の相手の情報を収集し、彼女に報告することです。ボラは手術に立ち向かうヨンドゥのために奔走するのですが・・・。
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CONTENTS
映画『20世紀のキミ』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【原題】
20th Century Girl
【監督・脚本】
パン・ウリ
【キャスト】
キム・ユジョン、ピョン・ウソク、パク・ジョンウ、ノ・ユンソ、キム・ソンギョン、チョン・ソギョン、ハン・ヒョジュ、オン・ソンウ、コンミョンイ・チョンム
【作品概要】
親友思いのナ・ボラ役には、テレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」や「イ・サン」で、子役として出演し、”国民の妹”として人気を集めたキム・ヨンジュが務めます。
彼女はNetflix映画としては『第8日の夜』(2021)で、キーパーソン的な役でも出演し、大人の女優として活躍の場を広げつつあります。
成人したボラ役を演じたハン・ヒョジュは、テレビドラマ「トンイ」の主演を務めた際、幼少時代の役をキム・ユジュンが演じたことで、縁のある出演となりました。
共演にはモデル出身で、テレビドラマを中心に活躍中のピョン・ウソクが、ヒロインの思い人プン・ウノ役を演じ、ウノの弟ジョセフ役にはNetflix映画『ソウル・バイブス』に出演した、オン・ソンウが演じます。
映画『20世紀のキミ』のあらすじとネタバレ
CMのナレーション収録が終わった女性のスマートフォンに、彼女の父親から電話が入ります。彼女宛ての小包がニュージーランドから届いたと言います。
それは1本のアダルトビデオでした。画像を見た彼女は懐かしさで顔が笑顔になります。
1999年、チョンジュ市。心臓手術のために渡米の準備をしていたヨンドゥは、突然アメリカへは行かないと言いだします。
心配した親友のボラは慌てて彼女の部屋に来て理由を聞きます。するとヨンドゥは「心臓がないのに行っても意味がない」と、意味深なことをいいます。
ヨンドゥの家は洋品店で学校の制服を扱っていました。まもなく新学期、両親の留守中に制服を着た少年の来客があり、彼女が対応しようとします。
ところが彼女は足を滑らせ転倒し、指先を切ってしまいます。するととっさにその少年がヨンドゥの手首をつかみ、心臓より高いところまで持ち上げました。
その時、ヨンドゥは彼の顔を見て一目ぼれし、制服に縫われた名札から名前だけ知りました。彼女は、「私、心臓を盗まれた」とボラに告白しました。
ボラは“いつもの・・・”とため息をつきます。ヨンドゥは惚れやすく飽きやすい女の子でしたが、今度は心臓を脅かすくらいの鼓動で眠れないほど本気だといいます。
しかも彼は自分達と同じ高校の制服を買ったと話し、アメリカへ行ってしまえば彼と知り合うきっかけも、情報も得られないと嘆くのでした。
ボラはヨンドゥに手術をうけ、健康になってもらいたい一心で、彼の情報を集めてe-mailで報告すると約束し、彼女を渡米させました。
その少年のことは名札に書かれた“ペク・ヒョンジン”という名前と、洋品店を出て“ラッキー・マンション”の方に向かったことしかわかりません。
入学式当日、ボラはラッキー・マンション前のバス停から乗車しようと、早起きし登校します。
ボラは乗り遅れそうになりますが、なんとか乗車しますが荒い運転で転倒しそうになったり、男子生徒の膝の上に座ってしまいます。
その生徒がボラに座るよう席を譲ると、その男子生徒の制服に“ペク・ヒョンジン”と名札が縫われていました。こうしてボラは早々に彼と出会えます。
ボラは早速、ヒョンジンのことをストーカーのごとく追跡し、データベースを集めヨンドゥに報告を始めます。
ある日、体育の時間でヒョンジンが負傷し、彼の親友プン・ウノが保健室に付き添っていきました。
そこでボラも仮病を使って保健室へ行きます。ベッドではウノが放送部に入部すると話していて、ヒョンジンも一緒に入るという情報を盗み聞きします。
ボラも放送部に入ることにしますが、入部するにはオーディションを受け、合格しなければいけません。
ボラは得意のテコンドーを見せ見事、合格しますが、ヒョンジンは彼女の才能を見て、オーディションを辞退してしまいます。
ヒョンジンのいない放送部で、ボラは思案に苦しみますが、親友のウノがいたので彼と仲良くなって、ヒョンジンに近づこうとしました。
ボラはヒョンジンが“ポケットベル”を持っていることに気づき、公衆電話からメッセージを聞こうとした時、ポケベル番号を盗み見ようと試みます。
しかし、途中までしかわかりませんでした。そこで、ボラは電話ボックスの電話帳の“ペク”という家に片っ端から電話し、ヒョンジュンを探します。
最後の小銭でようやくヒョンジンの家にあたり、出たのがヒョンジンだとわかるとボラは、リサーチ会社を装いアンケートを開始します。
そして、謝礼品を送るという名目でポケベルの番号を聞き出そうとしますが、「ナ・ボラ?」と聞かれ慌てて受話器を置きます。
次の日の部活で、なぜかウノが「昨日の電話、おまえだろ?」と聞き、ボラは動揺し否定しますが、ヒョンジンの電話番号を教えるかわりに条件があると言われます。
その条件はアダルトビデオを持ってくるというものでした。ボラの家はレンタルビデオ店を経営しているからです。
ボラはウノの言う通りに学校へ持って行きますが、抜き打ちの持ち物検査でみつかってしまい、それを持って廊下に座らされ、ウノは悠々とそれを持って去っていきました。
映画『20世紀のキミ』の感想と評価
主人公のボラを演じたキム・ユジョン。表情が豊かで、可愛らしいのにずぼらな部分もある、まさに漫画の世界から飛び出てきたような、ザ!ヒロインを好演しました。
彼女は2018年に甲状腺機能不全と診断され、しばらく仕事を中断せざるを得ませんでしたが、『第8日の夜』(2021)のNetflix映画が映画復帰作となり、本作が2本目です。
前作は特殊な能力を持った少女役で、新しい境地ともいえた作品でしたが、『20世紀のキミ』はキム・ユジュンのはつらつとした、可愛さと明るさが活きた作品となっています。
恋愛と友情とすれ違う思いが“青春のセオリー”
韓国の恋愛ドラマといえば、胸キュン必至の甘いセリフや笑いあり涙あり、誤解や偶然のすれちがいなど多岐にわたる展開が特徴です。
しかも、時代背景や舞台となる場所もさまざまで、視聴者を飽きさせず期待度が下がることはありません。
“ポケベル”や“e-mail”など、通信ツールが便利になりつつありましたが、電話BOXや公衆電話などが活躍した時代、すれ違いの恋愛のキュン度をあげます。
日本でもありえない相関図や運命のいたずら、格差恋愛などでヒットを飛ばしたドラマもありましたが、今では韓国の人気を越えるのはなかなか至難です。
映画『20世紀のキミ』もそんな王道をいく青春恋愛ドラマです。重い病気を持つ親友、その子を常に守り友情を一番に大切に考える主人公!
親友同士の男子が主人公を巡る恋の攻防など、漫画では既視感があるのですが、ドラマで再現できるのが韓国ならではでしょう。
120分の映画にまとめるには、春から秋に入る頃までの短い期間の恋愛に設定し、登場人物やエピソードを絞る必要があった内容です。
もっと丁寧に描こうと思えばできたドラマですが、切ない恋愛をギュッと凝縮したからこそ、キュンとする“ときめき感”がたまらないと感じる作品でした。
しかも、10数年の歳月を経て、忘れ得ぬ人の死を知り、一番輝いていた頃の映像を観終わる・・・どうしようもない辛い気持ちに陥ります。
単純に「知ることができてよかった」と完結できるはずもないのに、30代後半になったボラの未来は・・・明るいものになるのか?知らない方がよかったようにも感じます。
ある意味、残酷な作品とも取れてしまい・・・前向きに生きていけるのか?そんな歯がゆさがあるのも、韓国映画ならではなのでしょう。
なぜ、ウノの訃報がボラに伝わらなかったのか?
ところでなぜボラにウノの訃報が届かなかったのか?ヒョンジンとウノは親友同士だったのですし、3人(ヨンドゥを含め4人)は最終的に友人関係にあったはずです。
ボラに一報が入ってもおかしくはありません。ヨンドゥもウノのことが好きでしたが、終盤ヒョンジンと付き合い始めた感じもありましたから、その辺は不自然さもあります。
もしかしたら、あまりに一途だったボラに、ヨンドゥとヒョンジンがわざと伝えず、時間をかけて忘れさせ、新しい出会いをセッティングしたとも考えられます。
そう考えるとひょんなことで、ボラはウノへの思いを再燃させてしまい、あまりに残酷すぎると思ってしまいます。
親友の優しさか?本当に2人もウノの死を知らなかったのか?大人になったヨンドゥとヒョンジンは出てきません。
ボラだけが悲しみに何度も突き落とされ、立ち直ってもまた、悲しみに向き合わなければならない・・・その点はモヤモヤしてしまいました。
まとめ
映画『20世紀のキミ』は恋愛ドラマの王道を極めた、“胸キュン”ラブストーリーでありながら、最後はハッピーになれない・・・バッドエンド系でした。
そもそも、韓国ではバッドエンド系で終わるドラマが多いので、これも特徴の1つといえるのでしょう。
自分がボラの立場だったら・・・長い年月の後に最愛の人が亡くなったと知ったら、どう感じますか?たとえあの時間がかけがえのない、幸せな時だったとしても・・・。
映画『20世紀のキミ』は、優しい嘘や隠し事は時に人を傷つけ、悲しみを深くしてしまう。そんな切なさを助長させるラブストーリーでした。
しかし、韓国ドラマフリークの方々は「そこがいいのよ!」と思うのかもしれませんね。
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