『ダイナマイト・ソウル・バンビ』は2022年9月10日(土)より新宿K’s cinemaにて1週間限定先行レイトショー!その後も全国順次公開予定!
商業映画デビューのチャンスを得た若手監督の顛末、そして撮影現場で繰り広げられるインディペンデント映画業界の明暗を描いた松本卓也監督の映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』。
2017年に撮影されながらも、2022年現在の映画業界を予見したかのような作品内容は、2019年の第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭にてワールドファンタスティック・ブルー部門に選出されるなど、世界各地の映画祭で話題となりました。
このたびの公開を記念して、川上役の後藤龍馬さん、小鳥役の新井花菜さん、プロデューサー・天野役の森恵美さんにインタビュー取材を敢行。
松本組の常連キャストでもあるお三方からみた松本監督作品の現場、プロ・インディーズの垣根を越えて活躍する役者としての仕事観などについて語ってくださいました。
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海外映画祭では意外な反応も
──出演者の皆さんが松本監督とともに行かれた、2019年の第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭での本作への反応はどのようなものだったのでしょうか。
森恵美(以下、森):非常に好評で、多くの方に松本卓也監督がサインを求められていた記憶があります。私たちも毎日パーティーに参加して、カタコトの英語で通じているか不安になりながらも、どうにかコミュニケーションをとって宣伝活動に勤しんでいました。
映画祭は1週間に渡って開催されたのですが、日本での別件があり途中合流となった私が現地に到着した頃には、みんなヘトヘトになっていました。ただ大変ではありましたが、映画を観てくださった方から会場で声をかけられて直接感想をいただけましたし、本当に楽しくて「また行きたい」と思えました。
後藤龍馬(以下、後藤):僕が直接いただいた感想を思い返してみると、本作を「ファンタジー」として捉えていた方が多かった気がします。
本作で描かれる映画業界のハラスメントの形には日本独特な部分も多少あるでしょうし、プロ・インディーズという区分は海外ではあまりない文化なのかもしれません。「こういう世界があるんだ」という驚きと日本の奇妙さを感じられたんだと思います。
キャスト自身とリンクした役どころ
プロデューサー・天野役:森恵美さん
──ご自身が演じられた役どころについて、改めてお教えいただけますでしょうか。
森:私はもともと松本監督の作品のファンだったこともあり、『ダイナマイト・ソウル・バンビ』の2017年の撮影以前には、プロデューサーとして彼に短編作品の監督をお願いしたこともありました。それこそ本作で私が演じた天野のような立場だったので、今回はどんな役だろうと楽しみにしていた中で「森さんにはプロデューサーをやってもらいます」と聞かされた時には本当に驚きました。
ですから現場でも、役作りを変に意識するのではなく、「プロデューサーの立場から良い映画を撮りたい」という想いのもと臨むようにしていました。あくまでも現場は松本監督の仕切りで動いていたので、天野ほどのつらさは味わいませんでしたが(笑)。
川上役:後藤龍馬さん
後藤:松本監督とは10年前、当時の事務所のマネージャーが辞めたのを機に「一度芸能の仕事も辞めよう」と思っていた頃に出会ったんですが、書く脚本が面白く、実際の現場にも参加させてもらう中で「この監督と一緒にやりたいな」と思いました。
それからは、まさに本作で自分が演じた川上と同じような立場で、松本組の常連キャストとして一緒に映画を作り続けてきました。今回の川上という役に関しても、敢えて「そのままの自分」で演じました。いつも役者にキャラクターを寄せてくれる松本監督の脚本でも、ここまで自分と重なる役を演じるのは初めてでした。
ただ現場で「そのままの自分」でい過ぎたせいか、本作で描かれる「撮影チームが衝突し、壊れていく様」を撮影を通じて演じ続ける中で、自分自身の心が病んでしまった時もありました。
小鳥役:新井花菜さん
新井花菜(以下、新井):私が演じた新人女優の小鳥は、パワハラ・モラハラ・セクハラが跋扈する芸能界に染まっていった末に「大きな鳥」になります。
女優として右も左も分からず入ってきた後、この世界の有り様を突きつけられ、その結果「作品が完成すれば全て良し」と自分の感情を押し殺し、周りに流されてしまう。現実にもそのように振る舞い、涙を飲んできた女優さんが多くいるのではと感じられました。小鳥を通して、遠い存在に思える女優に対して親近感を抱いてもらいたいです。
また作中、小鳥がダンスをする場面があるんですが、その撮影では芸能界という場所に身を置く自分自身も含めて、「それでも、私は女優を続けていきます」という覚悟で挑みました。
松本監督の現場で感じとれる“本気の遊び”
──キャストとして作品に携わる皆さんからみた、松本監督の作品の魅力とは何でしょうか。
新井:松本監督の現場を経験するまで、ドラマや映画に出演する役者は「現場へ芝居をしに行った」という風に、自分が出演する場面にだけ呼ばれて行く人間という感覚を持っていました。
ただ松本監督の現場は、自主映画の現場というのもありますが「自分もこの映画を一緒に作ってるんだ」という感覚を味わえるんです。それが私にとっては、とても新鮮な感覚でした。その感覚を味わえることは普段の他の現場では多くなく、私にとってはホームのような感覚で映画と向き合える場所だと思っています。
後藤:松本卓也は少年のような男だと思ってまして(笑)。本当に純粋に映画に向き合っている部分があるのが、松本監督と本作の主人公・山本の唯一の共通点なのかもしれない。
他の現場ではいろんな理由で「少年じゃない心」が少なからず働くんですが、松本組で映画を作る時は、皆が純粋に映画を楽しんで、芝居を楽しんでくれる。夏休みの合宿じゃないですけど、忖度なく純粋な気持ちで本当に取り組めるんですよね。
松本監督の現場は、「遊び」の延長線上にある「本気」で形作られているような気がしていて、その感覚が一緒に仕事をしていて病みつきになる。本作のラストシーンも、「“本気の遊び”こそが、映画作りの真髄である」と高らかに謳っているように見えました。
「面白い映画」を作るために必要なもの
──「商業」と「インディペンデント」という映画業界の狭間を描いた本作へのご出演を経て、皆さんは今後どのようにお仕事と向き合っていきたいと改めて感じられたのでしょうか。
新井:正直「インディーズ」と「プロ」という分け方は、私自身はあまり好きではないです。どちらも同じ映画ですし、作り手側として自分が何をできるかを突き詰め、常に自分と向き合ってお芝居をしていきたいと思っています。
良い作品・良い芝居に、泥臭く向き合っていきたい。だから自分を誇大に偽る必要もないし、「女優」という肩書きに振り回される必要もない。そう考えると「同じ作品を作っている仲間」という感覚が、やっぱり松本組イズムなのかもしれないです。
後藤:僕も松本イズムに接している身として、「その作品をいかに面白くできるか」が俳優という仕事の本質だと考えています。それはキャストではなくスタッフという立場でも言えることで、そこに尽きると思うんですよね。
映画業界は、やっぱり「見栄」でできている世界だと感じる時もあります。ただ、作品を面白くするための追求に必要なのは見栄じゃない。そういう意味では、見栄はなしで、遊びの本気を突き詰めていく俳優でありたいなと常に思っていますし、絶対に忘れたくない感覚だと感じています。
森:私は若い頃に役者の活動を始めましたが、結婚を機に一度休止し、そこから復帰して今に至っています。
若い頃は売れることを第一に考え、インディーズ映画のことも「プロではない人たちが作っている映画」という浅い認識で捉えていました。ですがこの年になって、「やっぱり自分がやりたいものを、精一杯やっていきたい」という想いが強くなり、インディーズ映画への認識も大きく変わりました。
だから私も後藤くん同様に、この松本組の楽しさを知って以降、病みつきになってなかなか抜け出せない自覚があります。
5年の時を経てついに劇場公開へ
松本卓也監督(写真:右から2番目)とともに
──2017年の撮影から5年という時を経た2022年、本作は日本での劇場公開を迎えられます。最後に、現在のご心境をお聞かせいただけますでしょうか。
森:撮影、そして編集が終わって海外の映画祭へどんどん出品し、いよいよ日本で公開というタイミングで2022年にコロナがやってきてしまいました。それでも松本監督はめげずに編集を重ね、より良い作品になるよう積み上げてくださり、今回K’s cinemaさんでの上映が決まった時には「ついに!」という想いで一杯になりました。
俳優部も一丸となって宣伝活動をしていますが、LINEでつながっている方から「今すごい宣伝してるよね」「映画、すごく気になっているんだよね」と好意的な反応をいただけたり、今回のK’s cinemaさんでの先行レイトショーが映画を多くの方に観てもらえるチャンスだと感じています。
ただ、一般の方がインディーズ映画に触れる機会が少ないことも理解しています。インディーズ映画への「売れてない監督・売れてない役者の作品」という認識もまだ根強いはずです。だからこそ、それらを払拭したいですし、「インディーズ映画は、こんな面白がり方ができるよ」と本作を通じて知ってもらえたらと感じています。
新井:私はコアな映画ファンの方ほど、引き込まれる内容の映画なのかなと思っています。コアなファン層が盛り上がってくれば、口コミによって一般の方も興味を持ってくださると思うので、プロ・インディーズ関係なく、「映画が好き」という方にぜひ観てほしいです。
後藤:本作で描かれているようなハラスメントや前時代的な考え方は、5年経った2022年になっても残り続けています。
今は少なくなったとはいえ、それでも残っている現場での悪い因習を知ったら、映画業界を目指す方も少なくなるのはもちろん、入ったとしても「こんな世界だったのか」と失望して辞めていきます。僕の周りにも、この業界に入ってすぐ辞めてしまった人がいます。
だからこそ、この業界に携わる方たちにも、パワハラ監督・山本や崩壊していく現場の様子を描いた『ダイナマイト・ソウル・バンビ』という映画を「観直してほしい」と感じています。
インタビュー/河合のび・出町光識
撮影/出町光識
後藤龍馬プロフィール
1988年生まれ、福岡県出身。短編映画『帰ろうYO!』(2014)以降、数多くの松本卓也監督作品に出演。
主な出演作品に山村もみ夫。監督作『上京適齢期』(2022)、高山直美監督作『沈めるこころ』(2019)、宮本亮監督作『うわさのわれわれ』(2019)などがある。
新井花菜プロフィール
1992年生まれ、埼玉県出身。宝来忠昭監督作『すべての女に嘘がある』(2012)にて映画デビュー。
近年の出演作品に高橋広史監督作『赤い私と、青い君』(2022)、冨江洋平監督作『23区女子-FINAL-』(2022)、関和亮監督作『地獄の花園』(2021)、松本卓也監督作『ミスムーンライト』(2017)などがある。
森恵美プロフィール
1963年生まれ、福島県出身。
近年の出演作に川延幸紀監督作『「16」と10年。遠く。』(2021)、阪元裕吾監督作『最強殺し屋伝説国岡 [完全版]』(2021)、野本梢監督作『次は何に生まれましょうか』(2020)があるほか、高木悠衣とともに自らプロデューサー・主演を務めた松本卓也監督作『赤い炎の女』(2017)などがある。
映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
松本卓也
【キャスト】
松本卓也、岡田貴寛、イグロヒデアキ、後藤龍馬、マチーデフ、島隆一、石上亮、工藤史子、志城璃磨、芝本智美、新井花菜、真千せとか、木村仁、三浦ぴえろ、俊平、伊藤元昭、山下ケイジ、森恵美
【作品概要】
商業映画デビューのチャンスを得た若手監督の顛末、そして撮影現場で繰り広げられるインディペンデント映画業界の明暗を描いた、映画メイキング映像と本編映像が同時進行する新機軸パラレル群像劇。
監督は元お笑い芸人で『ミスムーンライト』(2017)などで知られる松本卓也。松本監督自らが主人公である架空の若手監督・山本拓也を演じている。
オムニバス映画『おかざき恋愛四鏡』(2020)のの岡田貴寛とイグロヒデアキ、『愛のくだらない』(2021)の後藤龍馬らが出演。またキャストの中には本物の映画スタッフ陣も起用されており、本作のリアリティを高めている。
2019年の第23回プチョン国際ファンタスティック映画祭ではワールドファンタスティック・ブルー部門に選出されるなど世界の映画祭で話題となり、2017年の撮影から5年の時を経て2022年に劇場公開版が完成した。
映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』のあらすじ
インディペンデント映画業界で勢いのある若手監督の山本は、天野プロデューサーに見出され、低予算だが新作長編映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』制作の機会を得る。
山本は仲間のスタッフ・キャストらと共に意気込み、プロチームと合同で撮影に挑む。
その様子をメイキングカメラ担当の谷崎が記録していた……。
最低な監督と最高の仲間が選ぶ結末は?!
新宿K’s cinema・舞台挨拶イベントが決定!
2022年9月10日(土)〜9月16日(金)の新宿K’s cinemamでの1週間限定先行レイトショーでは、『ダイナマイト・ソウル・バンビ』舞台挨拶イベントの全日開催が決定!
松本卓也監督をはじめ本作のキャスト・スタッフ陣が連日登壇するほか、特別ゲストを招いてのトーク回も!
詳細は下記リンクよりお確かめください。
【新宿K’s cinema】映画『ダイナマイト・ソウル・バンビ』舞台挨拶イベント情報の詳細はコチラ→