強烈すぎるラストが鑑賞者に襲いかかる最恐ホラー映画
「台北映画祭」で7部門にノミネートし、2022年の台湾で最も高い興行成績を記録した映画となることが確実視されているホラー映画『呪詛』(2022)。
2022年7月8日(金)に日本の映像配信サービス「Netflix」で配信されると、本作を観た多くの視聴者から作品の最後に仕掛けられた「とある仕掛け」に対し、ホラー映画として良い意味での悲鳴があがりました。
今回はそんな映画『呪詛』をネタバレを含みながら、作品の特色と続編構想についてを類似作品と比較しながら紐解いていこうと思います。
CONTENTS
映画『呪詛』の作品情報
【公開】
2022年(台湾映画)
【監督・脚本】
ケヴィン・コー
【原題】
Incantation
【キャスト】
ツァイ・ガンユエン、ホアン・シンティン、ガオ・インシュアン、ショーン・リン、阿Q、ホアン・シンティン
【作品概要】
『絕命派對』(2009)で長編映画デビューを果たしたケヴィン・コーが、台湾で実際に発生した事件から着想を得て製作した作品。
『百日告別』(2017)に出演したツァイ・ガンユエンが主演を務めました。
映画『呪詛』のあらすじ
ある地方の宗教で禁忌とされる行為を行ったルオナンの周囲では親しい近親者だけでなく、関わったすべての人間が次から次へと死亡しました。
6年後、施設に預けていた娘の引取りを許可されたルオナンは彼女の母親となるために尽力しますが、呪いが自身だけでなく娘にも影響を及ぼしていることを知り……。
ビデオカメラを持つ人間の視線を体感できる「POV」
主人公のルオナンがとある宗教の禁忌を犯したことで恐ろしい呪いを受けることになってしまう本作は、ルオナンによる映像配信という形で物語が進行されます。
ルオナンは配信者であった6年前も、施設に預けていた娘を引き取った現在も終始ビデオカメラを使って録画をしているので、彼女による回想は本人や友人によって撮影された映像を使う「POV(Point of View)」形式で描かれていきます。
POV形式は登場人物の視線を模倣することで映画への没入感の向上に繋がるため、近年では緊迫感の必要なサスペンスやホラー映画での採用率も高く、一昔前ほどに珍しさのある手法とは言えなくなっています。
しかし、本作ではこの形式を「ある目的」のために用いており、映画の枠を越えた恐怖の体験を鑑賞者に与えていました。
2つの手法を用いて作り出した恐怖
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)の大ヒットによって一躍有名となったPOV形式ですが、この作品ではPOV形式に付随して「モキュメンタリー」と呼ばれる演出も話題となりました。
架空の出来事を事実風に映像化することによって作品に現実味を帯びさせるモキュメンタリーはPOV形式との相性が良く、映画『ノロイ』では実在の芸人を起用することで劇中の呪いが現実にも存在するかのような錯覚を覚えさせています。
『呪詛』ではこの2つの「現実味」と「没入感」を引き出す手法を『ノロイ』(2005)のように劇中の呪いが現実にも存在するかのような錯覚を生み出す効果として利用してはいましたが、その目的はホラー映画として良い意味でさらに悪意に満ちていました。
本作の終盤で邪神に呪われたルオナンは、娘のドゥオドゥオを救うために自身の配信を見ていたすべての人間に呪いを共有していたことが明らかになります。
作品の冒頭から心の中で唱えることを再三に渡って要求していた祈りの言葉は実は呪いを受け入れる呪文であり、何度も繰り返されることで心の中で唱えてしまった鑑賞者もいたはずです。
POVとモキュメンタリーによって「現実味」と「没入感」が高まっている終盤で明らかになる、作中で関係者全員を死に至らしめた呪いを鑑賞者にも移す演出。
映画でありフィクションであると分かっていながらも、心臓の鼓動がなぜだか早くなるような、類似作品を踏襲しながらもさらに進化させた最先端の恐怖映画と言える作品でした。
明らかとなった3部作構想
本作は世界からの高い評価を受けて、公式Facebookで続編の製作が発表されました。
さらに本作は3部構想の物語になることも同時に明かされ、物語がどのように進んでいくのかに注目が集まっています。
ルオナンは物語のラストで邪神の顔を映したことで頭を激しく祭壇に打ち付けると言う、死亡したチーミンと同じ結末を迎えてしまい、生死こそ明らかになっていませんが死亡もしくは重傷を負ったことは間違いありません。
登場人物はドゥオドゥオにかけられた呪いへの対抗を試みた導師だけでなく、ルオナンのセラピーを担当していた医師までもが死亡しており、瀕死の状態となっていたドゥオドゥオ以外の生存者はほぼいない状態。
物語はこの状態からどのように進んでいくのでしょうか。
宗教と子供の関係から考える続編の物語
『呪詛』では「土着信仰」と「子供」という2つの要素にフォーカスが当てられていました。
各地の宗教では子供は神を宿す「器」や、時には神に捧げる「生贄」として大人よりも神に近しい存在として扱われる様子が見られます。
本作では邪神「大黒仏母」の顔をあらためてしまった人間を除くと、大黒仏母は過去に契約を果たしてしまったルオナンの娘ドゥオドゥオに執着しているようでした。
公開された続編のポスターではドゥオドゥオの周りに仏像が並べられており、ドゥオドゥオが大黒仏母からの呪いを受け続けていることが推測されます。
「土着信仰」と「子供」という重要な要素を用いた作品としては同名ゲームを題材とした映画「サイレントヒル」シリーズがあり、1作目『サイレントヒル』(2006)で神の器とされてしまった少女が、2作目『サイレントヒル: リベレーション3D』(2013)で自身の宿命を向き合う様が描写されていました。
『呪詛』の3部作構想が現実のものとなった場合、「サイレントヒル」シリーズのように最終作では大黒仏母との対峙が描かれるのではないかと、本作があまりにも悲惨なラストゆえに楽しみになってしまいます。
まとめ
さまざまな手法を用いて「現地味」を高めることで、映画と鑑賞者の間にある「第3の壁」を越えて観る人を恐怖に陥れたホラー映画『呪詛』。
ケヴィン・コー監督はホラー映画を観ることについて「ジェットコースターに乗るようなもので、怖いけれどなぜか惹きつけられる」と語っており、全体を包んだ恐怖の雰囲気に怯えながらも先を観てしまう、本作はまさにジェットコースターのような作品でした。
既に製作の始まっている続編では、一体どんな手法で鑑賞者を再び恐怖に陥れてくれるのか、今から楽しみで仕方がありません。