探偵小説界の不朽の名作を日本初の実写化!
変人の探偵と常識人の相棒による捜査劇と言う、定番とも言える探偵小説の形を決定付けたとされる「シャーロック・ホームズ」シリーズ。
さまざまな媒体で幾度となく映像化されたこのシリーズは、汎用性の高いキャラクター像と完成度の高い物語が100年以上経った現代でもなお人気を保ち続けています。
今回はそんな「シャーロック・ホームズ」シリーズの中でも特に人気の高いエピソードを映像化した『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
西谷弘
【脚本】
東山狭
【キャスト】
ディーン・フジオカ、岩田剛典、新木優子、広末涼子、村上虹郎、渋川清彦、西村まさ彦、山田真歩、佐々木蔵之介、小泉孝太郎、稲森いずみ、椎名桔平
【作品概要】
1901年に発表されたアーサー・コナン・ドイルによる長編小説「バスカヴィル家の犬」を、「シャーロック・ホームズ」シリーズの舞台を現代日本に置き換えたドラマ『シャーロック アントールドストーリーズ』の続編として映像化した作品。
ドラマシリーズでの演出も担当した『容疑者Xの献身』(2008)や『昼顔』(2017)の西谷弘が本作の監督を務めました。
映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』のあらすじとネタバレ
1月9日、瀬戸内海に浮かぶ「霞島」に住む富豪一族「蓮壁家」に「娘を誘拐した」と言う脅迫状が届きました。
一家の主である千鶴男は犯人の指示通り1千万円の身代金を持ち、指定された墓地へとひとりで向かいます。
墓地のある山には野犬や猪が多く出没することから大量の動物用の罠が仕掛けられており、千鶴男は充分な用心をしつつ墓地へとたどり着きますが、そこに犯人の姿はなく暗闇の中に光る赤い目の犬が現れただけでした。
その日、身代金は犯人のもとには届かなかったものの、誘拐された蓮壁紅は無事に解放されました。
1ヶ月後、千鶴男の元主治医の若宮は、今は私立探偵の誉獅子雄の助手として、誘拐事件の真相解決を求める千鶴男の相談をリモートで受けていました。
しかし、離席中に突然苦しみ始めた千鶴男はその場に倒れると、駆けつけた千里によって救護されますがそのまま死亡が確認されます。
数日後、千鶴男との最期の会話者として警視庁捜査一課長の江藤に取り調べを受ける若宮と誉は、千鶴男の死因が日本からは絶滅したとされる「狂犬病」であったことを知ります。
千鶴男が見たとされる「魔犬」の正体と事件の繋がりに興味を惹かれ、江藤から強い後押しを受けたふたりは霞島に足を踏み入れました。
若宮と千里が知り合いということもあり、山奥の古びた洋風建築の邸宅に住む蓮壁家に招待されたふたりはそこで千鶴男の妻の依羅、使用人の馬場、地震学者の捨井、リフォーム業者の冨楽朗子、そして誘拐被害者の紅と飼い犬であるヴィルに出会います。
全員に話を聞く誉と若宮は、蓮壁家には誘拐事件よりも前から家を出るように求める脅迫状が繰り返し来ていたことや、誘拐事件の日に千鶴男が足を負傷していたことを聞き出しました。
千里は銀行を信じない千鶴夫が山奥の廃坑に多額の現金と遺言書を隠していることを知っており、夜にでも廃坑に向かう計画を立てていました。
誉と若宮は山奥の墓地を訪れると、何者かの存在に気づいた誉が蓮壁家のことを若宮に任せると姿を消してしまいました。
夜、誉が失踪しひとり蓮壁家に取り残された若宮は「誰もひとりにするな」と言う誉の忠告を受け、廃坑に向かう千里に同行しようとしますが、異様な睡魔に襲われ眠りについてしまいます。
翌日、廃坑で罠が足に食い込み、動けなくなったまま凍死した千里の死体が見つかりました。
立て続けに家族を失った依羅はまるで紅がいないかのように絶望し塞ぎ込み、若宮はその精神状態を危惧。
一方、誉は誘拐事件以前の脅迫状が紅に恋をする捨井によるものであることを見抜いていましたが、霞島に大きな地震が来ると予測し古びた豪邸では危険だと考える捨井による善意と純粋な恋心が起と知り、彼を犯人の候補から除外します。
その後、誉は誘拐された日に紅が勤めていたとされるキャバクラや、江藤の父親が署長を勤めていた警察署、そして町の外れにあるリフォーム業者の倉庫を訪れ、ひとつの仮説を立てていました。
映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の感想と評価
2020年代だからこそ描ける全く新しい「魔犬の呪い」
ベネディクト・カンバーバッチ主演で話題となったイギリスBBC放送による『SHERLOCK』やアメリカCBS放送による『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』など、現代に舞台を置き換えた「シャーロック・ホームズ」シリーズは世界各地で製作されています。
日本でもHuluとHBOアジアが共同製作した『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』が公開されており、それぞれの演者による全く新しいホームズ像が話題となりました。
そんな「シャーロック・ホームズ」のエピソードの中でも、宿敵モリアーティと対峙する「最後の事件」に匹敵する映像化回数を誇る「バスカヴィル家の犬」。
「魔犬」と言う現代離れした概念が重要となるため、各作品でさまざまなアレンジが行われたこの作品は、「魔犬」の存在が時に薬物による幻覚であったり、時にロボットであったりとそのアレンジに注目が集まる作品でもあります。
そして日本初の実写映像化となる『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』では、現代ならではの現実的に再現可能なトリックで「魔犬」が登場。
全ての映像化作品を見ている人にも独自のアレンジを楽しんで貰えるような、全く新しい「バスカヴィル家の犬」が描かれていました。
その殺人は復讐か欲望か
いわくつきの大富豪の一族で起きる呪いを模した連続殺人。
推理小説やミステリ映画ではもはや定番となったこの図式も、定番を作り出した作品が原作であるがゆえに、類似作に全く劣らない魅力に溢れている本作。
原作における「バスカヴィル家の犬」では、大富豪の財産を巡った遺産相続を巡る策謀と殺人計画が物語の中心となっており、その中で大きなどんでん返しが繰り広げられます。
『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』では、原作の遺産相続を巡る殺人を踏襲しながらも、その中に一族をめぐる「復讐」と「欲望」、そして「懺悔」の物語を織り交ぜており、鑑賞後の切なさは原作を上回っていました。
家族の愛と殺意にあふれた本作は、人間ドラマとしても必見の作品でした。
まとめ
ディーン・フジオカによるエキセントリックではあるものの強い正義漢を秘めたホームズこと誉と、岩田剛典演じる人間味にあふれたワトソンこと若宮。
100年以上愛される「シャーロック・ホームズ」シリーズが決定付けた、推理小説界の最強バディを現代アレンジした本作はその魅力をしっかりと引き継いでおり、ふたりのやり取りを永遠に見ていられるような作品に仕上がっています。
1話完結ドラマの劇場版ということもあり、ドラマシリーズを未鑑賞の人でもしっかりと楽しめるような配慮もなされている本作。
魔犬の呪いの謎と人間ドラマを詰め込んだ映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』は、「シャーロック・ホームズ」シリーズファンにも、そうでない方にも鑑賞して欲しい作品です。