偉大な作品を生み出した若き日の燃え上がる恋
文豪シェイクスピアの若き日の秘められた恋物語を劇中劇と絡めて虚実織り交ぜて描き出すロマンティックラブストーリー。
イギリス演劇界出身のジョン・マッデンが監督を務め、第71回アカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した傑作です。
主演を『エリザベス』(1999)のジョセフ・ファインズが務め、ヒロイン・ヴァイオラ役のグウィネス・パルトロウが主演女優賞を獲得しました。
ジェフリー・ラッシュ、コリン・ファース、ベン・アフレック、ジュディ・デンチらそうそうたるオスカー俳優が顔を揃えます。
CONTENTS
映画『恋におちたシェイクスピア』の作品情報
【公開】
1999年(アメリカ映画)
【脚本】
マーク・ノーマン、トム・ストッパード
【監督】
ジョン・マッデン
【編集】
デヴィッド・ガンブル
【出演】
グウィネス・パルトロウ、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、コリン・ファース、ベン・アフレック、ジュディ・デンチ
【作品概要】
ジョン・マッデン監督による、文豪シェイクスピアの秘められた恋物語を虚実織り交ぜて描く恋愛史劇。
第71回(98年度)アカデミー作品賞・主演女優賞・助演女優賞・オリジナル脚本賞・美術&装置賞・衣裳デザイン賞の7賞を受賞した大作です。
主演は『エリザベス』(1999)のジョセフ・ファインズと『ダイヤルM』(1998)『アベンジャーズ』シリーズのグウィネス・パルトロウ。パルトロウがアカデミー主演女優賞を受賞しました。
『シャイン』(1997)のジェフリー・ラッシュ、『英国王のスピーチ』(2011)のコリン・ファース、『アルマゲドン』(1998)のベン・アフレックら豪華俳優陣が出演。
『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(2019)のジュディ・デンチが本作でアカデミー助演女優賞を受賞しています。
映画『恋におちたシェイクスピア』のあらすじとネタバレ
1593年ロンドン。ペストの蔓延で芝居小屋が閉鎖されるなか、ウィリアム・シェイクスピアはスランプから抜け出して「ロミオとジュリエット」を書き進めていました。
芝居好きな資産家令嬢のヴァイオラ・デ・レセップスは、風紀上の理由から舞台では女性の役を変声期前の少年が演じなければならないということに反発心を持っていました。燃えるような恋に憧れながらも、現実では貧乏貴族のウェセックス卿との縁談が進んでいました。
シェイクスピアの新作の役者オーディションが行われる中、少年姿に扮したヴァイオラもトマス・ケントという名で参加します。彼女の演技に感動したシェイクスピアは思わず声をかけますが、ヴァイオラは逃げ出しました。シェイクスピアは家まで追っていきましたが、トマスを見つけ出すことはできませんでした。
ウェセックス卿を招いてのレセップス家パーティーにもぐりこんだシェイクスピアは、ヴァイオラの美しさに目を奪われます。ダンスをしながら熱くみつめあうふたり。ウェセックス卿はそんな彼らを見とがめ、マーロウと偽名を名乗ったシェイクスピアを追い出しました。
シェイクスピアの詩と作品に心酔するヴァイオラ。一方、シェイクスピアはヴァイオラという美しいミューズを得て作品をすごい勢いで書き上げます。
両親が留守の間、ヴァイオラはばあやに協力してもらいながら、トマス・ケントとしてロミオ役で出演することになります。
シェイクスピアから詩を捧げられ感動するヴァイオラの前にウェセックス卿が現れました。彼との結婚を初めて伝えられたヴァイオラは傷つきながらも己れの務めを果たすことを決心し、泣きながらシェイクスピアへ別れの手紙を書きます。
ヴァイオラはトマスに扮してシェイクスピアに手紙を渡しますが、ヴァイオラへの熱い恋を語るシェイクスピアに彼女は思わずキスしてしまいます。
トマスがヴァイオラであることに気づいたシェイクスピアは、部屋にしのびこみ彼女を熱く抱きしめました。
映画『恋におちたシェイクスピア』の感想と評価
現実と芝居が交錯する夢物語
若き日のシェイクスピアの恋を熱く美しく描く『恋におちたシェイクスピア』。ヒロインのヴァイオラは、シェイクスピア喜劇『十二夜』で兄の名をかたって男装する登場人物のヴァイオラとリンクして描かれます。
シェイクスピアに心酔する資産家の娘で芝居好きなヴァイオラは、少年姿に扮して当時女人禁制だった芝居のオーディションに参加し、ロミオ役を勝ち取ります。
その演技に魅了されたシェイクスピアが少年の後を家まで追っていき、実は大邸宅の美貌の令嬢ヴァイオラだと知って恋におちる物語です。
この作品の魅力は、舞台上の「ロミオとジュリエット」の熱い恋のセリフと、現実でのシェイクピアとヴァイオラの切ない情熱的なラブシーンが交錯し、リンクしていくところです。
現実の世界なのか、芝居の世界なのか、わからなくなるほどに両方の世界が溶け合っていきます。
ロイヤル・シェイクスピアカンパニーにも在籍した経験を持つジョセフ・ファインズをはじめ、実力派が繰り広げる緊迫感あるクライマックスの最後の舞台シーンは圧巻です。
この時代の舞台を再現した中での演劇の姿に、さらに感動が高まります。
これらの名作を、粗末な机とつけペンからシェイクスピアが生み出した事実に思いを馳せ、その偉大さに改めて胸打たれるに違いありません。
人とペン、人と舞台、演者と観客。余計なもののない時代の純粋な芝居。人々がどれほどの熱狂をもってシェイクスピア劇を受け入れたかがダイレクトに伝わってくる一作です。
パルトロウ演じるヴァイオラの美しさに酔う
結婚した妻と子に去られたシェイクスピアは、芸術家ならではの純粋さを失わず、ヴァイオラとの身分違いの恋に飛び込んでいきます。
パルトロウ演じるヴァイオラが見惚れてしまう素晴らしさで、ヴァイオラをミューズに数々の戯曲、詩を書き上げていったシェイクスピアの気持ちが手に取るように伝わってきます。
妖精の羽のような襟のドレスを着こなし、シェイクスピアも婚約者のウェセックス卿も虜にしたのももっともだと思わせる圧倒的な美しさです。
ウェセックス卿はヴァイオラがいないところでは散々愚痴りながら、いざ美しい彼女が現れると思わず「待たせるに値する女だ」と呟いて観る者を笑わせますが、シェイクスピアならさしずめ「書かせるに値する女だ」といったところでしょうか。シェイクスピアの愛と芸術は一体となってうねるように昇華されていきます。
シェイクスピアへのあふれ出る尊敬の念が熱い恋に変わったことで、幼かった彼女が大人の女性へと一気に花開く姿を、パルトロウが繊細に演じています。
もうひとつ特筆すべきは、エリザベス女王を演じたジュディ・デンチの存在です。彼女が生み出した真の女王に負けずとも劣らない威厳こそが、この時代を描くことに成功した一番の鍵となったことは間違いありません。
まとめ
シェイクスピアの恋と芸術を描き出した傑作『恋におちたシェイクスピア』。
実在した人物であるエリザベス1世やクリストファー・マーロウ、トマス・ケントが女性だと密告する少年ジョンなども登場し、現実と芝居を行き来する劇中同様、現実と非現実が織り交ぜられた傑作です。
切なく情熱的な恋におちる主演のジョセフ・ファインズとグウィネス・パルトロウの熱演もさることながら、彼らを支える豪華共演者の抜群の演技にも注目です。
ヘンズロー役で三枚目に徹する実力派のジェフリー・ラッシュ、きまじめなのにどこかコミカルなウェセックス卿を演じるコリン・ファース、脇役のマキューシオを演じるメイン劇団員ネッド役のベン・アフレックらが、絶妙なおかしみで軽やかで親しみある作品に仕上げています。
洞察力に長け人の心への同情心篤く、威厳ある女王エリザベスを演じたジュディ・デンチはさすがの名演です。
名優たちの素晴らしい演技に注目しながら、美しい夢絵巻の世界を堪能してください。