連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第98回
映画『バブル』は「進撃の巨人」シリーズの荒木哲郎監督とWIT STUDが再びタッグを組み、東京に突然降ってきた、泡状の未知の生態によって、機能不能となった首都を描きます。
未知の泡は重力を操るため「バブル」と呼ばれるようになり、重力が壊れた東京では家族を失い、行き場のなくなった若者たちが居住していました。
若者は廃ビルからビルへ跳び競い合う、パルクールチームを組み、生活物資を賭けてバトルを繰り返していました。
渋谷を拠点とする“ブルーブレイズ(BB)”のエース、ヒビキは特異な聴覚を持っているがゆえに、仲間とコミュニケーションがうまくとれずにいます。
ある日、ヒビキは練習中に強風に煽られ、漆黒の渦の中へ吸い込まれてしまいます。ところがそこで彼は、謎の少女に助けられ、その出会いが世界の運命を変えていきます。
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映画『バブル』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
荒木哲郎
【脚本】
虚淵玄、大樹連司、佐藤直子
【キャスト】
志尊淳、りりあ。、広瀬アリス、宮野真守、梶裕貴、畠中祐、千本木彩花、逢坂良太、羽多野渉、井上麻里奈、三木眞一郎
【作品概要】
脚本には『魔法少女まどか☆マギカ』で一斉風靡した虚淵玄、キャラクターデザインに『DEATH NOTE』の作画、小畑健など日本が誇るクリエーターが終結しました。
声の出演は主人公ヒビキに戦隊シリーズ「烈車戦隊トッキュウジャー」(2014)、『さんかく窓の外側は夜』(2021)の志尊淳。
謎の少女ウタ役には、TikTokやYouTubeで顔だしせず、豊かな表現力の歌声を披露し、ミステリアスな人気を集めている‟りりあ。”が、演じました。
若者たちを見守り、バブルを調査する科学者、マコトの声を『地獄の花園』(2021)、『劇場版ラジエーションハウス』(2022)など、話題作に出演している広瀬アリスが演じました。
映画『バブル』のあらすじとネタバレ
首都東京は巨大な泡のドームに囲まれ、外部と隔離される形で衰退をしていました。泡の中の東京は泡の生んだ水で水没し、やがて首都としての機能を奪われ、孤立した地域になりました。
しかし、そこには家族を亡くし行き場を失った若者が、コミュニティーを作り住み家として存続しています。
泡はドーム内の重力を操り、若者たちはその無重力を使って、廃虚ビルを跳び回り、フラッグを奪うゲーム、“パルクール”のチームを結成して、生活物資を賭けたバトルを展開していました。
そんなバトルクールの若者の生活を支援し、バトルジャッジをするシンと、泡の降泡現象の研究をしながら、若者と生活を共にしているマコトがいます。
居住禁止区域となった首都はこうして、なんとか平穏が保たれていました。
渋谷を拠点とした“ブルーブレイズ(BB)”は、秋葉原を拠点とする“電気ニンジャ”とバトルします。
バトルエリアには“アリジゴク”と呼ばれる、危険なフィールドもあり、老朽化し腐食の進んだ、建築物の崩壊で吸い込まれていくこともありました。
ヒビキはメンバーのウサギが危険な状況になった時、彼が持っている優れた身体能力で助けることに成功し、勝利も手に入れます。
BB達は巡視船を居住に使っています。ヒビキは仲間たちと群れずに、常にヘッドフォンをして距離を置いていました。
マコトはそんな無鉄砲で孤独なヒビキを人一倍心配します。しかし、ヒビキにはどうしても気になることがありました。
夜の闇に怪しく光る東京タワー、ヒビキはそこからある“声”を感じていました。すると心配するマコトを避けるように、ボートでどこかへ出かけていきました。
巡回していたシンはヒビキが東京タワーに行ったことを聞き、あとを追いかけていきます。
5年前、世界中に謎の泡が降り、未知の力を有した泡に人類は混乱しました。ところがある日、東京タワーで原因不明の大爆発が発生し、東京はドーム状の泡で覆われました。
泡はドームの中だけで降り続け、地面に落ちると水となり首都は水没します。世界中から研究者が訪れますが、原因や生態などは解明されず、やがて見捨てられたように孤立しました。
ヒビキには東京タワーから“歌”が聞こえていました。爆心地であるタワーの展望室周辺には、赤い雲がかかり複雑な重力場が発生していました。
その赤い雲もあらゆる機器をもってしても、謎が解明されずに、非科学的な“噂”だけを生みだしていました。
ヒビキは歌声の謎を探しに、東京タワーへ何度も挑戦していましたが、赤い雲の重力場に苦戦します。
すると空間で漂う1つの泡が、まるで意思をもっているかのように、ヒビキの姿を察知する鉄骨の影にかくれます。
この日もヒビキは難所の手前まで到達します。彼は意識を研ぎ澄ませ、泡の歌を聞こうとし、上を目指してジャンプしました。
しかし、赤い雲がひらけ展望室が見えると、そこにはガラスに手をかざす、子供の姿が見え、ヒビキはそれに気を取られて、黒い渦に巻き込まれそうになります。
意思を持った泡はヒビキを追います。なんとか黒い渦を回避できたヒビキは、水の中に投げ出され、急流にのまれていきます。
水中の障害物にぶつかり、ヒビキは意識がもうろうとなります。追いかけてきた泡は、ヒビキの吐き出した空気と融合し、アイドルのような姿を作りだしました。
薄れゆく意識の中、ヒビキの目の前に現れた謎の少女は、まるで人魚のように見えます。彼女は口移しで、ヒビキに空気をおくりました。
映画『バブル』の感想と評価
映画『バブル』のストーリーは、アンデルセンの『人魚姫』がモチーフになっていますが、未知の生態をもつ「泡」や「渦」といったものにイメージできるものが、古事記や日本書紀にもあると感じました。
日本国の誕生は“イザナギ”という神と“イザナミ”という女神が、“アメノヌボコ”という矛を使って、天の浮橋から地上をかき回して創造したと言われるからです。
逆に本作は渦によって地球を破壊しにきた、未確認生命体の泡が登場します。その分子であるウタが離脱したことで、計画がとん挫してしまったのでしょう。
そして、地球を破壊するために来たであろうウタが、ヒビキに恋をして彼を危機から守ることで、地球を危機から救います。
「重力は壊れた、好きに跳べ。」
この映画のテーマは「重力は壊れた、好きに跳べ。」です。行き場のない若者と、泡の集団から離脱したウタ。
若者たちは“足枷のない世界”でパルクールを通じて、仲間意識や繋がりの大切さを学びました。自立心や向上心、誰も教えてくれない代わりに、自らで学ぶ環境です。
ただ、見放して自由にやらせているのではなく、マコトやシンの存在が若いパワーを制御し、精神を良い方向に育んでいたと思います。
観賞した側も自由な発想で観ることができました。
年齢が上の世代になると、ヒビキのヘッドフォン姿を見て、『地球へ・・・』(1980)というアニメのソルジャー・ブルーという、キャラクターを思い出した人も多いかと思います。
その『地球へ・・・』は、環境破壊の末に一部の人間しか地球で暮せなくなり、身体的なハンディと引き換えに、特殊能力を得た“ミュウ”と呼ばれる人種も誕生します。
ソルジャー・ブルーは聴覚に障害があり、ヘッドフォン型の補聴器を装着し300年生きています。人類から迫害され、宇宙に排除されたミュウ・・・。
『バブル』にも、人間のエゴによって、生態系の変化や戦争などの争いによる、地球の危機を訴えている側面があります。
ヒビキは聴覚過敏症だったために、ウタの歌声にシンクロできました。成長し本当はヘッドフォンなど、必要なくなっていたのかもしれませんが、心は閉ざされていて周囲をシャットアウトする手段だったのでしょう。
ウタの姿はアイドルポスターからの模倣でした。歌うヒロインといえば『超時空要塞マクロス』(1982)のリン・ミンメイです。
普通の女の子から歌で軍人を鼓舞するアイドルになるキャラクターですが、ヒビキもウタの歌声にシンクロして、自分の身体能力を発揮します。
このようにちょっと上の世代にとって、『バブル』はさまざまな要素を含んだ作品、原点回帰している作品とも観ることができます。
最強クリエーター集結の既視感
映画『バブル』は荒木監督をはじめとする、日本アニメ界の重鎮が総当たりした作品です。
過去に荒木監督と仕事をした人、荒木監督といつか作品を作りたかった人が集結し、できあがった本作を“荒木フェス”と呼ぶほどです。
したがって、随所に日本のアニメーションの良いとこどりをお感じになることでしょう。
荒木監督自身がヒットメーカーではありますが、『進撃の巨人』の荒廃した絶望感と比較すると、『バブル』は未知の生命体が出現する以外は、精神的な健全さを感じました。
それは本作に『君の名は』や『天気の子』のテイストを感じたからです。企画・プロデュースの川村元気氏は両作品に携わっていました。
そんな川村元気氏は観る者の、“ツボ”を知り尽くしているクリエーターと言えます。随所に既視感を覚えてしまうのも、致し方無いことでしょう。
映像美やスピード感、泡に感情を持たせた表現や声など、彼らならではのこだわりと技術が、たくさん込められた作品でした。
まとめ
映画『バブル』は、ヒビキだけに聴こえる音に反応したことで、不思議な力を持つウタと出会い、未知の世界となった東京を真実へとつなげていく物語でした。
日本はコロナ禍で制限や規制されていましたが、いよいよ重力は壊れた(規制解除)、自由に跳ぶ時です。
作品のラストシーンからは、再生し立て直す今だからこそ見えてくる、今後課せられる若者や国民へのテーマが見えてきます。
映画『バブル』はNetflixで先行配信され、2022年5月13日より劇場公開されます。
テレビやパソコン画面ではなく、劇場の大画面、音響設備の中で鑑賞すると、制作者たちが作品に込めた、見どころが存分に感じられる作品です。
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