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映画『今夜、世界からこの恋が消えても』原作小説ネタバレあらすじと結末の感想評価。道枝駿佑が泣けるラブストーリーで演じる“忘れられない愛の記憶”

  • Writer :
  • 星野しげみ

小説『今夜、世界からこの恋が消えても』が映画化され、2022年7月29日(金)より全国公開!

一条岬の『今夜、世界からこの恋が消えても』は、お互いに「本気にならないこと」を条件につき合い出した2人が徐々に魅かれていき、そして衝撃のラストを迎える切ないラブストーリーです。

無色透明な毎日を送っていた高校生の神谷透。クラスメイトをいじめから救うために嘘の告白を日野真織にしたことで、その人生は一変します。

衝撃の展開が繰り広げられ、その結末に誰もが心打たれる感動作を、『坂道のアポロン』(2018)『思い、思われ、ふり、ふられ』『きみの瞳が問いかけている』(2020)『夏への扉 ーキミのいる未来へー』(2021)の三木孝浩監督が映画化。そして主人公の神谷透を「なにわ男子」の道枝駿佑が、日野真織を福本莉子が演じます。

映画公開に先駆けて、小説『今夜、世界からこの恋が消えても』をネタバレありでご紹介します。

小説『今夜、世界からこの恋が消えても』の主な登場人物

【神谷透(かみや とおる)】
高校2年生。公営団地で父親と二人暮らし。母は透が小学一年の時に病気で他界し、姉が家事などをしていましたが、現在は家を出ています。

【日野真織(ひの まおり)】
特進クラスの高校2年生。透の恋人。事故により前向性健忘症を抱えており、眠りにつくとその日の記憶がリセットされます。

【綿矢泉(わたや いずみ)】
真織の親友。真織の病気を知っていて真織と透と3人でよく一緒に行動しています。

【神谷早苗(かみや さなえ)】
透の姉。ペンネーム「西川景子」という作家。作家活動に没頭するために実家を出ます。『残滓』という作品で「芥河賞」を受賞しました。

【透たちの父】
自宅近くの自動車工場に勤務。小説家を目指していましたが、途中で諦めました。ですが、執筆をしているという名目で、家事は一切せず、早苗や透に任せきりです。

小説『今夜、世界からこの恋が消えても』のあらすじとネタバレ


一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫、2020)

神谷透は高校2年生。4月の新学期が始まってすぐに、前の席の下川がいじめのターゲットにされ始めました。

透はいじめを辞めさせようとします。いじめの主犯格の男は条件として、「一組の日野真織に告白すれば止めてやる」と言いました。

一組は特進クラスで、日野真織は今まで話したこともない女子高生でした。もちろん、透には恋愛感情もないし、何よりも自分の存在を彼女が知っているかさえ、わかりませんでした。

それでも言われた通りに、透は真織に告白をします。すると、意外にも真織は条件付きで交際を承諾しました。

その条件とは「放課後になるまでお互い話しかけないこと」「連絡のやりとりはできるだけ簡潔にすること」そして「本気で好きにならない」という3つでした。

次の日、真織の友人である綿矢泉が透に「真織と本当に付き合うのか」と聞いてきました。真織からも聞いているのですが、確認に来たというのです。なぜ綿矢泉がそこまで真織のことを気にするのか、透は少し不思議に思いましたが、気にしないことにしました。

いざルールにのった2人の交際が始まると、お互いに一緒に過ごす時間をとても幸せに思えるようになり、徐々に惹かれ合っていきます。

透は真織に「好きになってもいいかな」と尋ねました。

なぜか迷う真織。そして「前向性健忘っていってね。夜眠ると一日にあったこと、全部忘れちゃうの」と、自身の記憶障害のことを打ち明けました。

真織は交通事故で頭を打った後遺症により、新しい記憶を覚えていることができず、一晩たつと前日の記憶がなくなっているのでした。

朝目が覚めると、記憶がリセットされる毎日。真織は手帳や日記にその日一日の出来事を書き留め、翌朝に復習することで記憶を繋ぎとめているというのです。

そのことを知っていた泉は、いつも身近にいて真織の記憶障害のことが周りにわからないよう、フォローしていたのです。

ショッキングな事実を明かされた透ですが、真織に「自分が記憶障害の存在を知っていることはメモに書くな」と言います。あくまで、記憶障害の存在は知らないふりをすることにしたのです。

そのうちに、透と真織はお弁当持ちでデートをしたりするようになりました。父子家庭の透は、家事一切を日常やっていたために、お弁当作りも得意です。泉も交えて3人で出かけたりもしますが、透の弁当は人気です。

透が小学生の時に実母が病死したため、姉の早苗が家のことを全部していました。小説家志望の父の影響で早苗も小説を書いていましたが、家事と仕事に追い立てられ、なかなか執筆ができない状態になっていました。

少し大きくなると、姉の大変さを知っていた透は率先して家事をするようになります。料理ばかりでなく、洗濯、アイロンかけ、掃除、どれをとっても透はキチンとやり、父子家庭で育ったとは思えない、身ぎれいな少年に育ったのです。

透は早苗に「家を出て思い切り作家活動をすれば?」と言います。早苗は一大決心をし、透が志望する高校に入学が決まった日の夜、家を出ました。

早苗のペンネームは「西川景子」。早苗が家を出て半年後、透が高校1年生の夏に西川景子は文芸界新人賞に選ばれました。それから1年半後の現在、西川景子は別の作品で芥河賞候補に挙げられています。

ある時、透が真織とのデートの待ち合わせ場所に早く着きすぎ、たまたまのぞいた書店のフロアでは「作家・西川景子」のサイン会が行われていました。透に気がついた西川景子こと早苗は、サイン会終了後に会う約束をしました。

透は真織とのデートをキャンセルし、早苗の指定した喫茶店で早苗と会いました。彼女ができたと言う透に早苗は素直に喜びます。

その後、透は真織と泉に姉・早織のことを話しました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『今夜、世界からこの恋が消えても』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『今夜、世界からこの恋が消えても』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

8月の芥河賞の発表の日。図書館で待ち合わせた透と真織、それに泉の3人は芥河賞発表まで時間がかかりそうだというので、真織の家へ行くことにしました。

泊っていくと言う泉と、こっそり真織の部屋に忍びこまされた透。

その胸中は複雑ですが、透が真織の部屋で見つけたのは、透を写生したクロッキー帳とメモの数々です。机の引き出しにも手帳やノートもありました。

はみ出した紙には、「私は事故で記憶障害になっています。机の上にある手帳を」と書かれてありました。真織は毎日この紙を見て自分に読ませているのでしょう。透は真織が毎日直面する残酷な現実を、改めて思い知った気がしました。

そして、ついに発表! 西川景子はみごとに芥河賞を受賞しました。

それから10日以上たって、姉の早苗が実家を訪れました。久しぶりに神谷家の家族3人がそろい、今までのわだかまりも吹っ飛んだ気がしました。

8月も終わりに近づいた頃、隣町の花火大会に透と真織は出かけました。

笑ってしゃべって楽しいひとときなのですが、真織は記憶と同じように今の感情も明日になると忘れてしまうかと不安になります。

真織は思わず、「忘れたくないよ」と呟いていました。「忘れないよう、僕はこの日のことを」と、透は涙を流す真織の手を握りしめます。

「忘れるのは人の常だよ。でも大丈夫。どんな記憶も完全に消えるわけじゃないから。僕はそう、信じているから」「どこにもいかないでね、透くん」「大丈夫だよ。僕はずっと、日野のすぐそばにいるから」。

そして2学期を迎え、1年が過ぎて3年生に。高校を卒業し、それぞれが歩む道への準備を始めた春休みのこと。

真織と透、泉の3人で会っていて、真織一人が用事のため帰ったあと、泉は突然、透から「僕、心臓があまり良くないかもしれなくて、それで……」と聞かされます。

「もし、僕が死んだら、日野の日記から僕のことを消去してほしいんだ」「日記に僕が登場しなければ、それは日野の中ではなかったことに出来る」。遺言のような透の言葉を泉は黙って聞きました。

神谷透はその日の夜、心臓突然死で亡くなりました。精密検査を受けると言った透の言葉が気になって、泉がかけた携帯に、姉の早苗が出て教えてくれました。

次の日、綿矢は真織に訳を話し、神谷の家に行きました。家にいた早苗は、神谷が真織と付き合うことになった一件も、記憶障害を知っていたことも2人に話しました。

日記やメモがないと何もわからない真織は、混乱します。自宅で日記やメモをみて憔悴する真織をみて、泉はついに決心しました。協力を早苗に求めます。

透の写真がはいった真織のスマホは取り替え、透との日々を綴った日記類は早苗の手によって透の名前を泉に置き換えられて書き換えられました。

新しい記憶を紡ぐようになった春。泉は大学生になり、真織は予備校に通うようになっていました。

ある日、前日のことを覚えているようで嬉しいを真織は言い出します。記憶障害は徐々にですが快方に向かっているようでした。そして、どこからか持ち出したクロッキー帳を出し、「これって誰なの?」とそこに書かれた透の絵を泉に見せました。

隠し通せないことを悟った泉は、「真織の、恋人だったの」「その人は、もう……この世にはいないの。死んじゃったの」と言いました。

放心状態となった真織のもとに、泉はそれまで真織が書いていた本物の手帳と日記帳を持ってきました。

夜になって日記を読んだ真織のもとへ、泉から音声ファイルが届きます。それは透と真織が自転車で二人乗りをしたときのものでした。

月日は流れ、真織も綿矢も24歳になりました。

その後も順調に記憶障害から回復していった真織。透との日々の記憶は蘇りませんが、大切なものを自分で思い出そうと努力をしています。

真織がクロッキー帳に描き続ける透は、真織が思い出すままに描かれた透です。優しい笑顔で真織を見守り続けたあの日のままの笑顔。

真織が描く透は、どれも笑っていました。

小説『今夜、世界からこの恋が消えても』の感想と評価

一条岬原作のラブストーリー『今夜、世界からこの恋が消えても』。

事故によって記憶障害となり、今日の出来事を明日になれば覚えていられないヒロイン・真織。そんな真織の病気を知らずに嘘の告白をすることになった主人公・透。

ほんの出来心から交際が始まった2人ですが、いつしか魅かれあっていきます。ここで問題になるのは、やはり真織の記憶障害でした。

どんなに今日が楽しかったとしても、次の日には真織はそれを覚えていません。毎日が新しい真織との出会いであり、楽しかったことも悲しかったことも、何一つ、真織の思い出には残っていないのです。

そんな自分のことをよく知っている真織は、毎日寝る前に日記やメモを残して、明日の自分に前日にあったことを知らせています。

真織の部屋のその状態を目の当たりにした透の胸の痛みに共感できます。健常者には当たり前のことを、真織は人一倍努力して自分の記憶にとどめようとしているのです。

日常生活を送るうえで、忘れてしまうことが多いのですが、決して忘れてはならないことも多くあります。病気であるがゆえに、それができないもどかしさ……。

真織を好きになっていく透ですが、透のことも真織はずっと覚えていられません。記憶に残したいのにできない残酷な事実に胸が痛みます。

ですが、ラストにはもっと残酷な運命が待っていました。彼女の記憶に残らないことを悲しく思う透自身が、あまりにも無情に心臓突然死で亡くなります。「後に残された真織の記憶から自分を消して」と言い残して……。

病気の彼女を不幸と思っているうちに、本当にあっけなく真の不幸が訪れる展開に驚きます。しかし、その後の展開がまた素晴らしい。徐々に病気がよくなっていった真織は記憶をとどめておけるようになります。

そして、かつて交際していた透の存在に気がついた時、楽しかった青春の日々のきらめきと生きる勇気のかけらを与えてくれた人の感触を思い出していくのです。

思い出は美化しやすいものです。しかし傍で見ている以上に、その人にとっては美化された思い出も生きていた証となるものなのでしょう。透の生まれてきた意義も、真織と恋人になるためだったのかもしれません

映画『今夜、世界からこの恋が消えても』の見どころ


(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

記憶障害を抱える恋人・真織を慈しみ、大切に思っている透が病死します。彼女の記憶から自分を消してほしいと願う透ですが、病気が回復していく真織は、側にいたはずの大切な人の存在に徐々に気がついていきます。

哀しい別れをする恋人たちの物語を映画化したのは、『思い、思われ、ふり、ふられ』『きみの瞳が問いかけている』(2020)など、青春ラブストーリー映画を数多く手がけてきた、三木孝浩監督。

そして主人公・神谷透を「なにわ男子」の道枝駿佑、真織を福本莉子が演じます。

2020年に『461個のおべんとう』で父子家庭の息子を演じた道枝駿佑は、本作で映画初主演を務めます。家事万能な優しい高校生の透役は、料理上手な恋人を望む女性たちから羨望の眼差しを送られるのではないでしょうか。

フレッシュな魅力あふれる福本莉子との仲睦まじい恋人同士の姿が見られるのも楽しみの一つです。

映画『今夜、世界からこの恋が消えても』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
一条岬:「今夜、世界からこの恋が消えても」(メディアワークス文庫)

【監督】
三木孝浩

【脚本】
月川翔、松本花奈

【音楽】
亀田誠治

【キャスト】
道枝駿佑、福本莉子

まとめ

‟衝撃の展開とその結末に誰もが心打たれる感動作”と銘打たれた小説『今夜、世界からこの恋が消えても』をネタバレありでご紹介しました。

記憶障害を抱える真織と、彼女を温かく見守る恋人の透。このままこの恋が実ってゆくのかと思いきや、透の病死というさらなる残酷な運命が2人を待ち受けていました。

本当に好きな人との記憶が失われたとしても、日常の空気と一体化したようにいつもそばにいてくれるという存在感は消えることなく、その事実は生きる希望を与えてくれるものではないでしょうか

映画『今夜、世界からこの恋が消えても』は、2022年7月29日(金)より全国公開!





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