Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『はじめて好きになった人』あらすじ感想と評価解説レビュー。香港発でLGBTと青春をテーマに描いた秀作がABCテレビ賞を受賞|大阪アジアン映画祭2022見聞録5

  • Writer :
  • 西川ちょり

2022年開催、第17回大阪アジアン映画祭上映作品『はじめて好きになった人』

第17回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、2022年3月20日(日)に閉幕しました。

グランプリに韓国映画『おひとりさま族』が選ばれたのを始め、香港映画『アニタ』が観客賞とコンペテイション部門スペシャル・メンションの二冠を制するなど、2022年もアジア各国の素晴らしい作品の数々に出逢うことができました。

映画祭は終了しましたが本連載はまだまだ続きます。

今回ご紹介するのは、ABCテレビ賞を受賞した香港映画『はじめて好きになった人』(2021)です。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2022見聞録』記事一覧はこちら

映画『はじめて好きになった人』の作品情報


(C)OAFF2022

【日本公開】
2022年(香港映画)

【原題】
喜歡妳是妳(英題:The First Girl I Loved )

【監督】
キャンディ・ン(吳詠珊)、ヨン・チウホイ(楊潮凱)

【キャスト】
ヘドウィグ・タム(談善言)、レンシ・ヨン(楊偲泳)

【作品概要】
香港城市大学クリエイティブメディア学科の同窓生であったキャンディ・ン(吳詠珊)、ヨン・チウホイ(楊潮凱)の共同監督作品で長編デビュー作品。

ヘドウィグ・タム(談善言)、レンシ・ヨン(楊偲泳)が主人公である2人の女性の17歳から29歳までを演じ、燃え上がった高校時代の恋を経て、2人がたどりつく心の軌跡が描かれます。

映画『はじめて好きになった人』のあらすじ


(C)OAFF2022

29歳独身、映画監督として成功し始めたウィンラムのもとに、突然かかってきた電話は、女子校時代の同級生だったサムユからでした。

サムユは、結婚することになったので、ウィンラムにブライズメイドをしてほしいと依頼してきたのです。

ウィンラムは、友情と呼ぶにはあまりに激しい想いに流された若き日のことを思い出していました。

最初は仲の良い友人でしたが、サムユのアプローチから始まって、2人は次第に友情を超えた愛情で結びつくようになりました。

2人の関係が学校で騒ぎになり、学校から指導を受けたのをきっかけにサムユは転校し、ウィンラムの前から姿を消してしまいます。

数年後、大学生になったふたりは偶然再開しますが、サムユからボーイフレンドが出来たと知らされたウィンラムは深く傷つきます。

2度目の再会時にはサムユは深い悲しみの中にありました。30歳になってもお互い独身であれば結婚しようというサムユの言葉だけを支えにしてきたウィンラムでしたが・・・。

映画『はじめて好きになった人』の感想と評価


(C)OAFF2022

青く澄んだ美しいプールと水面に映る2人の少女のショットからスタートする本作は、みずみずしくも切ない青春映画として、観る者の心を捕えます。

17歳の夏。ミッションスクールに通う2人の女子生徒の友情が恋に変わり、夢のような時が過ぎます。制服の際立つ白さや、青々とした夏の風景が、沸き立つような彼女たちの歓びを象徴しています。

そんな燃えるような感情のあとに訪れる試練の中で二人が見せる繊細さと脆さにはひりひりと胸を締め付けられてしまいます。

彼女たちの関係が封建的な学校の知るところとなり、それぞれの親が呼び出されますが、これまで何度も見てきたような類型的なリアクションを親たちがとらないのが新鮮です。

ただ、彼らは娘を叱りつけるようなことはしませんが、年頃になれば異性との恋愛に戻るだろうと楽観視しているだけで、決して良き理解者であるわけではありません。

互いに、強烈に惹かれ合い、愛し合っているにもかかわらず、2人は、真逆の選択をし、違った人生を歩んでいくことになります。

高校時代は、まだ自身のアイデンティティーを考えたこともなく、ただ純粋に惹かれ合った2人でしたが、大人になるにつれ、ウィンラムは、自身の性的指向に背かず生きて行く道を選び、サムユはそこから撤退していくのです。

サムユの撤退は、将来への不安、家庭の経済的な事情などが複雑に絡んでいるように見えますが、映画はそのあたりを詳しくは描きません。

従って、好きな人が何を思い、何を考えているのかわからないもどかしさを抱えたウィンラムと同じ観点で観客もサムユを観ることになります。

ヘドウィグ・タム(談善言)、レンシ・ヨン(楊偲泳)という二人の若手俳優が、それぞれウィンラムとサムユの17歳から29歳までを演じています。それが違和感なく観られるのもこの映画の魅力のひとつでしょう。

キラキラとして、美しい色彩に満ちていた少女時代に比べて、大学時代、社会人時代の風景は落ち着いたトーンへと変わっていきます。

自分を愛しているとわかっている相手に、結婚式のブライズメイドを依頼するという展開は物語の最初に示されており、それは残酷なメロドラマのようなものではないかと少々懐疑的にもなったのですが、ラストに向けての二人のやり取りはエモーショナルに胸に迫ってきて号泣必至です。

人間の感情というものは、簡単に言葉で言い表したり、理屈で定義づけたりできるものではないことを映画は教えてくれるのです。

まとめ


(C)OAFF2022

本作は、TVB傘下アーティストとして10年以上活動を続けてきたヨン・チウホイが、映画制作者として実績を積み上げてきた大学時代の友人、キャンディ・ンと組み、長年の夢であった初監督を務めた作品です。

2003年から始まる時代設定になっており、ヨン・チウホイとキャンディ・ンが青春を過ごした時期にあたります。

台湾や中国で優れた青春映画が作られているのに、香港では青春映画があまり作られないことから、香港の21世紀の青春映画を作ろう、自分たちの生きた時代を記録しておこうと、本作を企画したといいます。

待望の青春映画であると共に、香港でLGBT+をテーマとしたという点でも本作は大変貴重な作品と言えるでしょう。

ABCテレビ賞を受賞しましたので、2023年の1月か2月ごろ、テレビ放映(関西圏のみ)される予定です。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2022見聞録』記事一覧はこちら





関連記事

連載コラム

新作映画『ヘルボーイ(2019)』キャスト【デヴィッド・ハーバーのインタビュー:地獄から這い上がって大騒動】FILMINK-vol.7

FILMINK-vol.7「David Harbour: Raising Hell In Hellboy」 オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」 …

連載コラム

『正欲』あらすじ/キャスト/公開日。朝井リョウ原作を稲垣吾郎×新垣結衣で映画化。キャストコメント&新場面写真が到着!|TIFF東京国際映画祭2023-1

第36回東京国際映画祭・コンペティション部門への正式出品が決定! 朝井リョウによる小説『正欲』を監督・岸善幸×脚本・港岳彦のもと、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香を迎えて映画化した『正 …

連載コラム

佐久間由衣×村上虹郎らが映画『“隠れビッチ”やってました。』東京国際映画祭の完成披露に登壇|TIFF2019リポート10

第32回東京国際映画祭は2019年10月28日(月)から11月5日(火)にかけて開催! あらいぴろよが自身の体験をもとに描いたコミックエッセイを、三木康一郎監督により映画化した『“隠れビッチ”やってま …

連載コラム

映画『サタニックパニック』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ホラーな残虐バトルコメディでピザのデリバリー娘VS上級国民悪魔崇拝者を描く|未体験ゾーンの映画たち2021見破録25

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第25回 世界の国の映画、まだ見ぬホラー映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第25回で紹介するのは『サタニックパニック』。 日本人 …

連載コラム

映画アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語|あらすじと感想。原作に書かれた人生と愛とは|映画と美流百科10

連載コラム「映画と美流百科」第10回 こんにちは、篠原です。 この連載も今回で10回目を迎えました。毎回、新作映画を取り上げて、その作品で扱われているカルチャーにも興味を持っていただけるよう執筆してお …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学