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Entry 2023/04/27
Update

『TOCKA[タスカー]』あらすじ感想と評価考察。実話を基にキャストの菜葉菜が‟嘱託殺人”に挑む|映画という星空を知るひとよ152

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第152回

死を決意した男からの嘱託殺人願いをめぐる男女の人間ドラマ『TOCKA[タスカー]』。

もしも誰かから「自分を殺してくれ」と頼まれたらどうしますか? 登場人物の3人はそれぞれの過去を見つめながら、男の死に向き合っていきます。果たしてその結末はどうなるのでしょう。

映画『YUMENO ユメノ』(2005)の鎌田義孝が監督を務めました。キャストに、金子清文、菜葉菜、佐野弘樹という顔ぶれを揃え、日常と非日常の間で翻弄される人間の運命の残酷さ、滑稽さ、切なさ、そして生のための細やかな希望を描き出しています。

2023年2月18日(土)よりユーロスペースでロードショーされ、5月20日(土)より大阪の第七藝術劇場から順次元町映画館、出町座にて公開される映画『TOCKA[タスカー]』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

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映画『TOCKA[タスカー]』の作品情報


(C)2022 KAMADA FILM

【日本公開】
2023年(日本映画)

【企画・脚本・監督】
鎌田義孝

【脚本】
加瀬仁美

【音楽】
斎藤ネコ

【撮影】
西村博光

【出演】
金子清文、菜葉菜、佐野弘樹、イトウハルヒ、内藤正記、山野久治、田中飄、松浦祐也、川瀬陽太、足立正生

【作品概要】
映画『TOCKA[タスカー]』は、殺人の依頼をする男と生きる意欲の薄い男女が織りなす物語。監督は『YUMENO ユメノ』(2005)の鎌田義孝で、17年ぶりに長編映画に挑みます。

出演は『深夜食堂』(2014)の金子清文、『赤い雪 Red Snow』(2019)の菜葉菜、佐野弘樹、ほか、松浦祐也、川瀬陽太、足立正生など。

ヴァイオリニストの斎藤ネコが音楽を担当し、西村博光が16ミリフィルムカメラ(ARRIFLEX SR3)で、根室、釧路、室蘭の撮影を敢行。音声はあえてモノラルで仕上げています。

映画『TOCKA[タスカー]』のあらすじ


(C)2022 KAMADA FILM

谷川章二(金子清文)は、 北海道、オホーツク海沿岸の街でロシア人相手の中古電器店を営んでいます。

経営に行き詰まり、息子は病死したうえに妻は行方不明となり、小学生の娘を老親に預けている彼は、せめて娘に多額の保険金を残して死のうと思い、自分を殺してくれる人を捜していました。

船で北海道にやって来た本多早紀(菜葉菜)。東京で歌手活動をしていたのですが、売れないまま40歳近くなり、芸能事務所をやめて、親に内緒で故郷に戻ってきたのです。

結婚しようと思っていた相手とも彼の浮気が原因で別れ、借金に追われています。ただ、それが理由というわけではないのですが、なんとなく生きる意味を失っています。

大久保幸人(佐野弘樹)は、詐欺まがいの廃品回収会社に勤めています。その傍ら盗んだ灯油を売り歩いて生計を立てていました。

父はおらず女手ひとつで育ててくれた母は入院中。同居する妹は、行方知らずの男の子どもを身籠っています。先の見えない生活に疲れています。

ある日、章二は自殺サイトで早紀と知り合います。そして、自殺では保険金の額が少ないから、事故に見せかけて殺してくれと彼女に依頼します。

章二の行方不明の妻は、ある理由があって遺体となり彼の自宅に隠されていました。それを知った早紀と一緒に、妻を埋葬するため深夜の空き地で穴を掘っていたのですが、それを廃品を不法投棄しにきた幸人に見つかってしまいます。

事情を知った幸人は、早紀と2人で章二の希望をかなえようと計画しますが……。

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映画『TOCKA[タスカー]』の感想と評価


(C)2022 KAMADA FILM

実際に起きた嘱託殺人未遂事件をモチーフに企画制作された映画『TOCKA[タスカー]』

本作の主な登場人物たちは、みなどこかしら寂しげでやるせない毎日を送っています。人生を終わらせたい章二、生きる意味を見失い無味乾燥な日々を送る早紀。そして、生きるための生活に疲れ切った幸人と、三者三様の悲壮感がドラマ冒頭から漂ってきます。

自殺サイトで知り合い、訳ありな章二を事故に見せかけて殺す手伝いをすることになった早紀と、そんな2人の計画にひょんなことから協力する羽目になる幸人。

‟1人の人間の殺人”をめぐって、それぞれの過去と現在が交錯します。奇しくも物語の舞台は寒さ厳しい北海道。殺伐とした冬景色が3人の荒んだ心を映し出しているかのようです。

見ず知らずの人から「殺してくれ」と頼まれたら、願いを受け入れることができるでしょうか。冗談としか思えない難題ですが、同じように人生に行き詰まりを感じている早紀と幸人だからこそ、死にたいと思う章二の事情を理解し、協力することが出来たのに違いありません

そこにあるのは、人生の底辺を這いずり回るようにして生きる同胞の思い。計画を実行したくない気持ちと「死にたい」気持ちがわかる早紀の揺れ動く心を、菜葉菜が丁寧に表現しています。

タイトルのTOCKA(タスカー)は、ロシア語で憂鬱、憂愁、絶望などの意味があります。3人の状況そのままを表現しているようで、果たしてこの計画は、成功するのか、失敗するのかと気になります。

鑑賞後、彼女たちの‟その後”にも注目したくなりました。

まとめ


(C)2022 KAMADA FILM

実際に起きた嘱託殺人未遂事件を基にした、人間ドラマ『TOCKA[タスカー]』をご紹介しました。

死を決意した男が、自分を殺してくれる人を探します。男のおめがねに適ったのは、夢破れて帰郷したアラフォーの早紀。早紀と2人で計画を練りますが、そこへ生活に疲れ果てた幸人も加わることになって……。

本作では、人生に挫折した3人の‟生と死”の葛藤を交える交流も描き出されています。生きていくことの地獄を見た3人は、各々の人生にどんな選択をするのでしょうか。

彼らの人生の選択肢をぜひ劇場で見届けてください。

映画『TOCKA[タスカー]』は2023年2月18日(土)よりユーロスペースでロードショーされ、5月20日(土)より大阪の第七藝術劇場から順次元町映画館、出町座にて公開! 

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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