あの雪の日、記憶からも現実からも弟は消えた。人の記憶ほど曖昧なものはない ──。
「記憶はウソをつく」榎本博明著にもありますが、記憶が必ずしも真実ではないということに焦点を置いたミステリーサスペンス映画です。
強烈な体験の呵責、苦痛により、その間の記憶をすべて喪失してしまう経験。曖昧な記憶の中から抜け出せない恐怖。
30年前の子どもの頃の記憶が呼び起こす真実とは。映画『赤い雪 Red Snow』を紹介します。
映画『赤い雪 Red Snow』の作品情報
【公開】
2019年(日本)
【監督・脚本】
甲斐さやか
【キャスト】
永瀬正敏、菜葉菜、井浦新、夏川結衣、佐藤浩市、吉澤健、坂本長利、眞島秀和、紺野千春、イモトアヤコ、好井まさお
【作品概要】
映像作家やアートディレクターとしても活躍する甲斐さやか監督が実話を基にしたオリジナル脚本のミステリーサスペンス映画。
短編『オンディーヌの呪い』で注目を集め、その映像美の高さは高い評価を得ており、本作は長編映画デビュー作となります。
永瀬正敏と菜葉菜のダブル主演のほか、井浦新、佐藤浩市、夏川結衣など名俳優たちの体を張った演技にも注目です。
映画『赤い雪 Red Snow』のあらすじとネタバレ
真っ白い空間。雪の中、赤い服を着た少年を追いかける自分。あるアパートの前で少年は姿を消します。ぼやける視界に、赤い色が染みのように広がります。
白川一希(永瀬正敏)は、いつもの曖昧で苦しい記憶から覚めます。記憶を消し作業に集中するかのように、器に漆を塗っていきます。
記憶の中の赤い服の少年は一希の弟です。30年前の雪の日、弟は姿を消しました。あの日、自分が弟を見失ったせいだと思い込み、心に深い傷を抱えています。
当時、弟を見失ったアパートに住んでいた女、江藤早奈江(夏川結衣)が少年誘拐の容疑者として浮上するも、証言が取れず真実は闇へと葬られていました。
その後、アパートから姿を消した早奈江の周りでは、不審な事件が続いていました。3人の男の死、そして火事。火事現場からは少年の白骨死体が発見されていました。
事件は時効をむかえ、残された家族の苦しみだけが残りました。
そんな一希の元に、事件の真相を追う記者、木立省吾(井浦新)がやって来ます。
事件の容疑者・江藤早奈江の娘、早百合(菜葉菜)の居所を突き止めた木立は、早百合こそがすべてを目撃していた人物だと彼女を追っていました。
早百合から真実を聞き出し楽になろうと誘う木立に、戸惑いを見せる一希でしたが、彼女に会うことを決心します。
一希の住む場所からすぐの島に暮らしていた早百合は、旅館で働いていました。
その風貌は決して華やかではなく、陰湿に満ちていました。
島のスーパーで万引きをし、旅館の泊り客の金を盗み、従業員からは陰口を叩かれ、男の噂も絶えない女です。
そして、早百合は年配の男と暮らしていました。宅間隆(佐藤浩市)は、母親の元恋人で、酒を飲んでは早百合を抱き、暴力を振るう最低の男です。
抵抗するも宅間から離れられない早百合は、何かしら負い目を感じているようにも見えます。
「被害者の兄」と「容疑者の娘」2人の30年前の記憶が蘇ります。
映画『赤い雪 Red Snow』の感想と評価
記憶で苦しみ続ける人間の姿を通して、人の記憶の曖昧さ、そんな記憶に支配され生きている人の儚さ、脆さが痛いほど伝わってくる映画です。
さらに、幻想的な雪景色が、凍える寒さを思い起こさせ、恐怖を増幅させます。白い雪にシミのように浮かぶ赤い色。その赤は、血の色。
漆塗りのシーンで、黒の上に塗られる赤の漆のコントラストも印象的です。
本作で難しい役どころとなった、奈葉奈の気迫の籠った演技に圧倒されます。
堕落的な人生を受け入れ、出口のないトンネルを諦めながらひたすら歩く早百合。彼女の痛々しいようすを見事に演じています。
そして、宅間を演じた佐藤浩市の、背筋も凍る悪男の演技に気持ち悪ささえ覚えます。
名俳優たちの迫力ある演技に、息を付く暇もありません。
ストーリーは全体に暗く、堕落的で悲しみに満ちています。
さらに、美しい映像と音楽で、解き明かされていく真実の残酷さがより鮮明に心に刺さることでしょう。
まとめ
甲斐さやか監督の、実話を基にしたオリジナル脚本のミステリーサスペンス映画『赤い雪 Red Snow』を紹介しました。
人の記憶とは、白い雪が降り続けるように視界が朧げで、曖昧なものです。
雪の中に微かに見える赤色に、胸騒ぎが止まりません。重なっていく記憶と、蘇る記憶への恐怖があなたを襲います。
自分の記憶は、間違っていないと言えますか?雪の中に閉まって置いた方がいい記憶もあるのではないでしょうか。
真実の記憶を取り戻すとき、あなたは凍える恐怖を味わうことになるかもしれません。