娘をテニスの王者にするために、父が作った常識破りのプランとは!?
世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンに育てあげたテニス未経験の父親の実話を基に、ウィル・スミスが主演・製作を務めた映画『ドリームプラン』。
お金もコネもない劣悪な環境下、父親は「娘をテニスの世界チャンピオンにする78ページの計画書」を作成し、実行に移します。彼はどのようなプランをたて、どのように娘を育てたのでしょうか!?
第94回アカデミー賞(2022)では、作品賞、主演男優賞、助演女優賞ほか計6部門にノミネートされ、ウィル・スミスが主演男優賞を受賞しました。
映画『ドリームプラン』の作品情報
【日本公開】
2022年公開(アメリカ映画)
【原題】
King Richard
【監督】
レイナルド・マーカス・グリーン
【脚本】
ザック・ベイリン
【編集】
パメラ・マーティン
【キャスト】
ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィン、ジョン・バーンサル
【作品概要】
テニス未経験の父が作った常識破りの計画とは!? 世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンに育てあげたテニス未経験の父親の実話を基に、ウィル・スミスが挑む、心に響く感動の物語。
第94回アカデミー賞(2022)にて作品賞、主演男優賞(ウィル・スミス)、助演女優賞(アーンジャニュー・エリス)、脚本賞、編集賞、主題歌賞の6部門にノミネートされ、ウィル・スミスが主演男優賞を受賞しました。
映画『ドリームプラン』あらすじとネタバレ
テレビでテニスを観ていたリチャード・ウィリアムズは、優勝した選手が4万ドルの小切手を受け取る姿を見て驚きます。
「娘が生まれたら最高のテニスプレイヤーにしよう!」と決意した彼はテニスの教育法を独学で研究し、「世界チャンピオンにする78ページの計画書」を作成。
ウィリアムズ一家が暮らすのは、ロサンゼルス中西部にある街、コンプトン。治安の悪い区域として知られ、一家はビーナスとセリーナ以外にも3人の娘を抱え、狭い住居にひしめきあって暮らしていました。
彼らが練習する場所も公営の荒れたテニスコートで、練習中、地元の若いギャングがちょっかいを出してきて、リチャードが殴られることもたびたびでした。
それでも彼は娘たちの安全を守るための盾になると決心していました。誰からも敬意を払われなかった自身の半生を思い、娘たちは敬意を払われる人間に育てようと強く決意していました。
リチャードと母のオラシーンの指導により、ビーナスとセリーナのふたりはぐんぐんとテニスの腕をあげていきました。
リチャードとオラシーンはもう自分たちができることはすべてやり終えた。次の段階へと進むべきときが来たと話し合いました。
しかし、プロのコーチを雇ったり、高価なトレーニング機器を揃えるお金などありません。リチャードはプロモーションビデオを制作し、コーチの依頼に回りますが、努力もむなしく引き受けてくれる人は皆無でした。
そんなある日、リチャードはビーナスとセリーナを連れて、ある高級住宅地へと出向きました。ある豪邸のテニスコートでジョン・マッケンローが練習していました。
マッケンローが席をはずした際、リチャードは有名コーチとして知られるポール・コーエンに娘たちのプレーを観てほしいと強引に頼みこみます。
彼女たちと打ち合ったコーエンはその実力を認め、無料で指導することを了承。ただし、ビーナスのみでふたりは無理だという回答でした。
セリーナは気落ちしますが、オラシーンが熱血指導をして彼女を励まします。ビーナスの練習はすべてビデオに撮り、それを参考にセリーナも練習に励みました。
プロになるにはジュニア大会に出て、名前を覚えてもらう必要があるとコーエンは主張し、ビーナスは初めての大会に心踊らせます。
裕福な白人ばかりの中、ウィリアムズ一家は異色の存在でしたが、ビーナスは次々と相手を打ち破ります。
家族でハンバーガーショップに寄り、夕食を食べている最中、リチャードは用があるからとひとりテニスコートに向かいました。
そこに例のギャングたちが現れ、リチャードはこっぴどく殴られて血を流します。車で彼らを探し、ついにみつけたリチャードは警備会社で使っている拳銃を取り出し、彼らに近づこうとします。
その時、車が通りがかり、中から何者かが彼らのひとりに発砲、そのまま走り去りました。一瞬の出来事に呆然と佇むリチャード。我に返り、あわてて車に戻り発車させました。
ビーナスはジュニア大会で優勝を決めます。トロフィーをもらい、大喜びの子どもたち。ですが、リチャードは「自慢はいけない」と注意し黙らせようとします。「なぜ家族の喜びにみずをさすの?」と言う妻と口論になってしまいました。
自宅に戻るとリチャードは家族に『シンデレラ』のアニメを見せ、「何を学んだ?」と問いかけました。「礼儀正しさ」、「夢をあきらめないこと」と応える子どもたち。
リチャードはまだ分かってないようだな、もう一度アニメを見ろと言い、妻を呆れさせます。彼はこの作品を見せることでヒロインの「謙虚さ」を子どもたちに教えたかったのです。
大雨の日もリチャードはふたりの娘とテニスの練習に励みました。帰ってくるとパトカーが来ていました。リチャードが娘たちに厳しすぎると近所の人から通報があったと言います。
リチャードは福祉局の役人に「調べたいなら調べるがいい。期待するようなものは出てこないぞ。子どもを危険から守るのが親の役目だ。テニス会場にいた異常な親たちこそ逮捕すべきだ」と怒りをぶつけました。
新たなジュニア大会が行われ、ビーナスが勝ち進む中、母親によってこっそりエントリーしたセリーナも実力を発揮し、周りを驚かせます。
そしてついにビーナスの記事が新聞に掲載されました。ビーナスと契約したいというエージェントも現れ、リチャードたちは話を聞きに行きました。
「信じがたい」という言葉を連発し、我々と契約すれば全てが補えるという条件を嬉々として語る相手に、リチャードは不快感を持ち、話を断りました。
費用はどうするんだ?と問う相手に「今からプレッシャーを与えたくない。一時停止して時が来れば正面から入る」と応えるリチャード。
家に戻ってきたリチャードにオラシーンは、「私たちはチームよね? 断るにしてもまず相談するべきでは?」と疑問を呈しますが、リチャードは聞く耳を持ちません。
心配して追いかけてきたコーエンに対しても、これまで無料でコーチしてくれたことに感謝はしつつ、君とはもう終わりだと通告します。
リチャードは新たに、名選手ジェニファー・カプリアティのコーチであった、リック・マッチと契約を交わしました。
無料でコーチする代わりに将来の稼ぎの15%を取り分とするという条件で双方合意。ビーナスだけを預かるとばかり思っていたリックは、家族全員の面倒を見て、リチャードもコーチ・スタッフに入れるようにと追加注文され、驚きますが、それも受け入れます。
こうして一家はリックのテニスアカデミーがあるフロリダへ移住。ついにゲットーから脱出することに成功します。
めきめきと上達していくビーナスを見て、リックはジュニアの大きな大会へ出場させようと考えますが、リチャードはそれを拒否します。
リックとの練習を続け、学校にも行き、普通の子どもとして育てたいというリチャードを、これはプロになるために歩むべき道のりなのだと何度も説得しようとするリックですが、自分が練りに練ったプランなのだとリチャードは引きません。
映画『ドリームプラン』感想と評価
本作は、世界屈指のテニスプレイヤーとして知られるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父親であるリチャード・ウィリアムズに焦点をあてた作品です。
原題である“King Richard”には2つの意味が含まれています。ひとつは、先見性を持ち、たゆまぬ努力のもと、王のように責任感を持って、家族を安全で豊かな生活に導いた男という意味です。
そしてもうひとつは、「暴君」を意味するものです。実際、劇中、ウィル・スミス演じるリチャード・ウィリアムズを人々が「King Richard」と呼ぶ際、Kingには尊敬というよりも揶揄が含まれていて、呆れた人物という意識が見えます。
そのどちらもこの男の本質と言えるでしょう。映画はリチャード・ウィリアムズという人物を英雄として描くのではなく、その欠点も描きながら、彼と家族の間に溢れる信頼と愛情をクローズアップしていきます。
子どもに英才教育をする親というものには、素直に賛同できない部分もあり、本作も見る前はその点どうなのだろうという不安もありましたが、心配は無用でした。
彼が、子どもをだしにひと稼ぎしたいというような人物でないことは、誰もが飛びつきたいような良い条件に踊らされないことからも明らかです。
彼は、札束を持って近づいて来るエージェントを、子どもを金儲けに利用し、使い捨てにする不健全な社会を代表するものとしてとらえます。
ジュニア大会では裕福な白人家庭の親が、負けた子どもにあからさまに失望したり、子どもを置き去りにするような光景が見られます。リチャードはそういう人々を見て驚き、批判しています。
また、子供の天才プレイヤーが燃え尽き症候群になったり、大麻などに走って、身を持ち崩した例は多く、リチャードは娘にはきちんとした子供時代を与えたいと考えます。
勝っても驕ることなく相手に敬意を持つようにと諭すリチャードの姿は、そのやり方には少々問題はあるものの、非常に共感が持てるものです。
人種差別の中で育ち、誰からも敬意を表されず、親からも守られなかったこれまでの彼の人生経験から、娘にはそのような思いをさせず、アフロ・アメリカンであるがゆえに起こる差別から娘を守る盾に自分がなり、娘を人から敬意をもたれるように育てたいというリチャードの願いは一貫しています。
78ページに渡る計画書に何が書かれていたのかは具体的に明かされることはありませんが、そのプランには彼のこうした信念が貫かれているのです。
このように書くと、申し分のない父親のようですが、一切の妥協をぜず、周りをイライラさせるのもリチャードという男の持つ本質です。
リチャードは自分が立てたプランに対して、非常な努力を費やしたので、他の誰よりも多くものを考えてきたという自負があります。そのため、人の言うことに耳をかさず、家族の一員である妻にも相談せずに事を進める傾向があります。
そんな家父長制的な態度が観ていてカチンと来る部分もあるのですが、夫にまっすぐ意見を述べ、時にぶつかりあい、娘たちを尊重するオラシーンの存在に救われます(演じるはアーンジャニュー・エリス)。それにしてもこのような頑固一徹な人が側にいたら周りは本当に大変なことでしょう。
ともあれ、リチャード・ウィリアムズはある種の天才であり、極めて情熱的で愉快な人物です。ウィル・スミスはリチャードの誠実さ、傲慢さ、強さ、弱さといった人間性を見事に体現してみせます。
まとめ
非常に迫力あるテニスシーンが観られるのも本作のみどころのひとつです。
ただ普通にテニスができるというだけではなく、誰もが認める天才的なプレーをする必要がある中で、ビーナスに扮したサナイヤ・シドニー、セリーナに扮したデミ・シングルトンの見事なプレーには目を見張ります。
とりわけ、終盤のクライマックスである世界チャンピオンとビーナスの対戦シーンは実に見ごたえがあります。
顔のアップなどは極力抑えられ、試合そのもの、動きそのものが捉えられており圧巻です。