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映画『僕と世界の方程式』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

  • Writer :
  • 西川ちょり


イギリスと台湾を舞台に、国際数学オリンピックに挑戦する自閉症の少年を描く『僕と世界の方程式』。その魅力に迫ってみましょう。

映画『僕と世界の方程式』作品情報

【公開】
2017年(イギリス)

【原題】
X+Y

【監督】
モーガン・マシューズ

【キャスト】
エイサ・バターフィールド、レイフ・スポール、サリー・ホーキンス、エディ・マーサン、ジョー・ヤン、マーティン・マッキャン

【作品概要】
他人とのコミュニケーションが苦手で、他の人とは違う目で世界を観ている少年ネイサン。数学に秀でた彼は、国際数学オリンピックの代表メンバー候補に選出される。一人の少年の成長とその周囲の人々の物語。

映画『僕と世界の方程式』あらすじとネタバレ

少年時代

イギリス・シェフィールドに住む少年ネイサンは、家族に連れられて、医師の診断を受けていました。

他人とのコミュニケーションが苦手で、細かなこだわりを持つネイサンを医師は「自閉症スペクトラム」と診断します。

ネイサンは数字や図形に強い興味を持っており、飛び抜けた才能がありました。父はそんな彼をよく理解し、常に励まし、語りかけます。「愛し合うのをやめちゃダメだ」。ネイサンも父によく懐いていました。

その日の朝もいつものように父が運転する車の助手席に座って、父の話に耳を傾けていたネイサンでしたが、別の車に追突され、車は横転、ガラスが飛び散り、父は死亡してしまいます。

お葬式の日、母のジェリーは今だけは手をつないでちょうだいとネイサンの手を取ろうとしますが、彼は拒否し、母を困らせます。

ネイサンは益々頑なになり、大好きな中華料理のテイクアウトも、エビの数が素数でないといけないなど、強いこだわりを持っていました。

母が苦労して買ってきてくれた料理を開けると、中身がバラバラになっていました。ネイサンに「いつもこうだ、もっとちゃんとしてよ」と文句を言われ、母はたまらず大声を出してしまいます。

母はネイサンのことを心から愛していますが、彼が懐いてくれず、心を閉ざしているので深い孤独を感じていました。

ネイサンは9歳になり、母と共に高校を訪ねます。彼の数学の能力は今の環境では対応できなくなっており、高校の教師に個人授業で教えてもらうことになったのです。

教師のマーティンは生徒から取り上げた大麻を吸ってしまうような教師ですが、かつて数学オリンピックにも出場したことのある数学エリートでした。

彼が足をひきずっているのを見て、ネイサンは「どうしたの?」と尋ねます。「はっきり聞くね」とマーティンは苦笑し、多発性硬化症を発症しているのだと答えます。

希望を失っていたマーティンは、ネイサンを教えることで少しずつ変わっていきます。ネイサンも彼には気を許し、数学の力をめきめきとつけていきます。

ネイサンとほとんど会話がない母にとってもマーティンの存在は心のやすらぎとなっていました。

国際数学オリンピック

高校生になったネイサンは、国際数学オリンピックのイギリス代表チームの選抜候補に選ばれます。台北での合宿に参加するため、彼は初めて家を離れ、一人で行動することになりました。

母とマーティンに送られてやってきた空港で彼を迎えたのは、代表チームの監督リチャードでした。リチャードとマーティンはかっての代表仲間でした。

他の候補生たちに紹介されたネイサンは戸惑うばかり。やけに愛想のいい少年や、延々と喋り続ける少年、物静かなただ一人の女子生徒など、16人の高校生が集まっていました。

台北につくと早速合宿が始まります。強豪国中国の高校生たちと共に勉強するのですが、まず、ペアを決めます。ネイサンとペアになったのはチャン・メイという快活で聡明な女子生徒でした。

ペアとなった二人は、英語と北京語で会話し、心を通わせていきます。それは、ネイサンにとって初めての体験で、これまでにない感情が芽生え始めました。

その頃、母はネイサンからの連絡が入るのを心待ちにしていましたが、電話は鳴りません。マーティンには連絡があったようなのですが。

ジェーンはマーティンに頼んで自身も数学を習い始めました。数学が苦手なので、ネイサンにバカにされていると感じているからです。

授業後、ジェーンはマーティンを引き止め、酒をすすめます。互いに好意を持っている二人は、酒の力もあってキスしますが、マーティンは「あなたを失望させたくない」と言うと、出ていくのでした。

合宿の授業でリチャードはネイサンを当て、証明問題を前に出て解くようにと命じます。おどおどしながら前に出て来たネイサンですが、見事に正解することが出来ました。

イギリスの候補者の一人、ルークは周りから明らかに浮いていて、協調性がなさすぎる、と他のメンバーから敬遠されていました。「彼は自閉症スペクトラムなんだ」と陰口を叩かれているのを聞いて、ネイサンは複雑な気分です。

イギリスではマーティンが、これまで敬遠していたグループミーティングに顔を出していました。恋愛をしたくてもやがて体が動かなくなり、愛する人を悲しませてしまうだけだと、辛い胸のうちを語るのでした。

ネイサンはリチャードに呼び出されます。「君の師匠が数学オリンピックで失敗した理由を知っているか」と問われ、「多発性硬化症を患ったせいです」と応えます。

「まだ、そんなことを言っているのか。彼の場合は心の弱さに原因があったんだ」とリチャードは言うと、君も強くならねばならないと説き、チャン・メイとの付き合いはほどほどにするようにと忠告します。

いよいよ、代表6人を選ぶ試験が始まりました。ネイサンはルークとの接戦を制して6人目で選ばれます。

敗れたルークと洗面所で一緒になったとき、ルークは言います。「君も自閉症だろ? 親になんて言われた? うちは『人とは違うけれど特別な才能がある』だった。でも才能がなければ? やっていても楽しくないんだ」。彼は泣き崩れます。

国際オリンピックの本番はイギリスのケンブリッジで開催されます。チャン・メイも中国代表入りを果たし、ペアの実家に泊まるため、一緒にネイサンの家にやって来ました。

「ずっと電話を待っていたのよ」と言う母でしたが、チャン・メイに思いやりを見せるネイサンの姿を見て嬉しそうに微笑みます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『僕と世界の方程式』ネタバレ・結末の記載がございます。『僕と世界の方程式』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
いよいよ大会前日。ネイサンとチャン・メイもケンブリッジ入りし、トリニティ・カレッジにやってきました。「ここに泊まれるのね!」とチャン・メイははしゃぎます。

夜、ネイサンがカレッジの寮で休んでいると、チャン・メイが「眠れないの」と言って部屋に入ってきました。「あなたのことが好き」と彼女は言い、二人は幼いキスを交わします。

そのまま寝入ってしまった二人。朝になって、中国代表の監督が部屋にやってきて、チャン・メイを叱りつけます。監督と親戚関係にあるせいで、依怙贔屓されていると言われていることをずっと気にしていたチャン・メイの感情が爆発します。

実力ではなくコネで選ばれたのなら私は大会には出ないと言って、彼女は部屋を飛び出します。呆然と佇む監督。「すみません」と謝るしかないネイサン。

ついに試験が始まります。母も会場前に来てネイサンに声をかけました。マーティンはボランティアとして参加していました。生徒たちは、二日間に渡って合計6問に挑戦します。制限時間は四時間半。

突然、ネイサンは席を立つと、会場を飛び出しました。リチャードが追いかけますが、マーティンは、すかさずドアをふさいで邪魔をします。

会場の外で待っていた母もネイサンが走り出てきて驚きます。マーティンが駆け寄り、「彼の目を見たら安易に止めることができなかった」と言うと、母は頷き、彼を探しに走り出しました。

ネイサンは、中華料理屋にいました。母と息子は初めてじっくり話をします。父を失った哀しみ、チャン・メイのこと。数学のように必ず正解があるわけではない「愛」というものについて。

「なぜパパはいないの? 理解できない」と言うネイサンに「一生できないわ」と応えた母は「パパの何が私と違うの?」と尋ねます。「よく笑わせてくれた。ポテトを鼻につめたり」

「私もやるわ」と母はポテトを鼻につめてみせます。二人は初めて抱き合います。母は「チャン・メイがどこに行ったかわかる?」と聞くと「駅だと思う」とネイサンは答えます。

母が運転席につくと、ネイサンが助手席に乗って来ました。これまで彼は母の隣をいやがって頑なに助手席に乗ろうとしなかったのです。

長い間の孤独がゆっくり溶けていくようでした。

映画『僕と世界の方程式』の感想と評価

自閉症スペクトラムの少年が、台湾への旅と仲間との交流を通して、愛すること、愛されることを知り、成長していく様を描いた秀作です。

冒頭の医師の診察シーンを観ているうちに、ギャビン・オコナー監督、ベン・アフレック主演の『ザ・コンサルタント』が思い出されました。

『ザ・コンサルタント』でペン・アフレックが演じたのは「高機能自閉症」の会計士です。この作品にも彼が幼いころ、両親に連れられて訪れた養護施設で、診断を受けるシーンがあるのです。 1 

『ザ・コンサルタント』はアクション映画、『僕と世界の方程式』は青春ドラマと、ジャンルはまったく違いますが、主人公が自閉症で、数学に関して天才的な才能を持ち、母よりも父の影響が強く、数学好きの女性との出逢いで心が揺れるなど多くの共通点が観られます。

この二作はある意味双子のような関係にあるといえるのではないでしょうか(偶然、封切り時期が重なった点も!)機会があれば是非見比べてみてください。

そして、数学の天才といえば、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でマット・ディモンが演じたウィルを想い出します。彼は自閉症ではないのですが、幼少時代のトラウマのせいで殻に閉じこもっています。

ロビン・ウイリアムズ扮する心理学者は彼に対して、天才であることは認めるが、君には本で読んだ知識しかないと指摘し、本物を見る体験、本当に大切と思える人との触れ合いなどを説きます。

『僕と世界の方程式』でネイサンが体験することは、まさにウィルが映画の終わりに旅立ったその続きにあたるといえるでしょう。

数学のようには答えの出ない様々な感情に揺れる少年の内面がみずみずしく描かれていて、感動的です。

台湾という初めての土地で一人、雨の中、高速道路の高架下にたたずみ、ネイサンは世界の広大さを感じるのです。ここは非常に美しい場面です。

撮影を担当しているのは『リリーのすべて』『ルーム』『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』などの話題作を手がけているダニー・コーエンです。

映画の後半の舞台となるケンブリッジの風景も絶妙に切り取られています。

まとめ

監督のモーガン・マシューズはドキュメンタリーを多く手がけて来た人で、劇映画は本作が初めて。イギリスBBCで撮った実在の自閉症児のドキュメンタリー『Beautiful Young Minds』を元に本作が作られました。

ネイサンを演じているのは『ヒューゴの不思議な発明』(マーティン・スコセッシ監督)でヒューゴを演じたエイサ・バターフィールド。難しい役どころを見事に演じています。

原題は『X+Y』。Xをネイサンと定義すれば、Yは父や母、マーティン、チャン・メイら、ネイサンに関わる様々な人々をあてはめることが出来るでしょう。

そして、本作はXだけでなくYの物語でもあるということ。それぞれの人生の悩み、喜び、悲しみ、愛情が深く感じられる作品になっており、見応えがあります。

ちなみに、国際数学オリンピックの会場となるケンブリッジ大学トリニティ・カレッジは、理論物理学者、スティーヴン・ホーキング博士を描いた『博士と彼女のセオリー』の舞台でもありました。

本作では、ネイサンとリチャードの会話でホーキング博士の名前が出てくる場面があります。

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