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Entry 2022/01/13
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映画『西成ゴローの四億円』あらすじ感想と「死闘編」の評価解説も。浪花節から昭和的な人情味を感じられる|銀幕の月光遊戯 85

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第85回

映画『西成ゴローの四億円』は2022年1月29日(土)より 大阪先行上映、2月12日(土)より全国公開! 2部作の後編にあたる『西成ゴローの四億円 -死闘篇-』は2022年全国順次公開!

映画『ひとくず』(2019)が国内外の映画祭で高い評価を受け、ロングラン上映となった鬼才・上西雄大監督による『西成ゴローの四億円』とその後編にあたる『西成ゴローの四億円-死闘編-』が連続上映されます。

舞台は大阪・西成。記憶を失っていたゴローは暴漢に襲われたことから一部記憶を取り戻し、何年も会っていなかった元妻と再会します。娘が心臓病を患い移植手術しか助かる道のないことを知らされたゴローは、その費用を用立てるため、かつてのフィールドであった闇の道を再び歩き始めることに。

上西雄大が主演のゴローを演じる他、津田寛治、笹野高史、山崎真実、徳竹未夏、古川藍、木下ほうか、石橋蓮司、奥田瑛二などの面々が激しく火花を散らす痛快浪花節アクションエンターティンメントです!

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『西成ゴローの四億円』、『西成ゴローの四億円-死闘篇-』の作品情報


(C)上西雄大

【公開】
2021年公開(日本映画)

【監督・プロデュース・脚本】
上西雄大

【キャスト】
上西雄大、津田寛治、山崎真実、徳竹未夏、古川藍、波岡一喜、奥田瑛二、(以下「死闘篇」のみ)笹野高史、木下ほうか、加藤雅也、阿部祐二、松原智恵子、石橋蓮司

【作品概要】
大阪・西成を舞台に、記憶を失っていた男が次第に過去の自分を思い出し、心臓病を患う娘のために四億円の金を集めようと闇の社会を歩む姿を描いた二部作。

映画プロデューサーの奥山和由が製作総指揮を務め、上西雄大が監督・プロデュース、脚本、主演を務めたアクション・エンターティンメント作品。

映画『西成ゴローの四億円』のあらすじ


(C)上西雄大

大阪・西成に住む日雇い労働者、土師晤郎は、地元の人々から「人殺しのゴロー」と噂されていました。過去に殺人を犯し、服役していたというのです。しかし当の本人は記憶を失っており、何も覚えていませんでした。

時々激しい頭痛が起き、そのたびにゴローは過去を断片的に思い出し、やがて自身が元政府諜報機関ヒューミントの工作員だったことを思い出します。

数年ぶりに元妻・真理子と再会しますが、幼い娘が心臓病を患っており、生き残るには移植手術が必要なこと、その費用に四億円かかることを知らされます。父親が殺人犯ということで寄付に頼ることもできず、真理子は風俗嬢となり、必死で働いていました。

ゴローは娘のために大金を稼ぐことを決意し、闇金姉妹の手引のもと、腎臓と片目を売りますが、同僚の日向の配慮のもと、片目を取り戻します。日向はゴローにヒューミントの下請けの仕事を回し、ゴローは再び闇の道を歩き出しました。

闇の稼業に従事するやっかいな人々が次々と彼の前に現れます。ゴローは本当に殺人を犯したのでしょうか。そして、娘のために四億円を集めることができるのでしょうか。

映画『西成ゴローの四億円-死闘篇-』のあらすじ


(C)上西雄大

ゴローは西成で日雇い労働を続けながら、娘の心臓移植手術に必要な四億円をつくるために闇の仕事に勤しんでいました。

頭痛に襲われるたび、少しずつ記憶が蘇り、あの壮絶な現場でゴルゴダという男に撃たれ、弾丸が頭をかすめ倒れたことを思い出します。

ゴルゴダが所属する秘密結社テンキングスは、とある教会を根城に宗教団体を装いながら、最高位幹部の百鬼万里生の指揮の元、活動している暗殺集団でした。

そんな中、何者かにより新型ウィルスが撒かれ、ターゲットになった西成ではゴローの仲間たちが感染し、倒れていました。世間がパニックになる中、ウィルスを国外から持ち込んだのはゴローであるという報道がなされ、妻の真理子は醜聞のターゲットにされてしまいます。

ゴローを貶めようと企んでいたのはゴルゴダたちでしたが、実は思いもかけない人物が関わっていたのです・・・。

映画『西成ゴローの四億円』、『西成ゴローの四億円-死闘篇-』の解説と感想


(C)上西雄大

よりエンターティメントの世界へ

人を殺したと噂される日雇い労働者、土師晤郎(上西雄大)のまわりには、ヤクザや半グレ、闇金姉妹といった裏社会を仕切る強烈な個性の面々がひっきりなしに現れます。

そうした人物が現れるたびに、その人物の預貯金・借入金・所持金が「チン!」というレジの音と共にいちいち画面に示されるのが実にユニークです。ここまで徹底して「金」を基準に人間を定義する作品もそうないでしょう。

持つものと持たぬものの差は驚くほどで、労働者のほとんどに借入金があり、返済に追われ、働いても、働いても借金が膨らんでいくというシステムが出来上がってしまっています。

上西雄大が監督・主演しロングランヒットとなった映画『ひとくず』は、児童虐待をテーマに、虐待する親たちの内面にまで踏み込んだ社会派映画でしたが、そこに無頼派が主人公の日本映画の伝統を盛り込んだ面白さがありました。

他人の家に無断で入る泥棒が主人公だったからこそ、外からは見えにくい「児童虐待」の実態が白日のもとにさらされたわけです。

『西成ゴローの四億円』もそうした社会派にシフトしていくのかと思いきや、こちらはよりエンターティメントへの方向へと加速していきます。荒削りな演出ながらもパワーに溢れ、とにかく面白い! ぐいぐいと物語に引っ張られます。

上西雄大自身がジョン・ウィックばりのガン捌きを決めるのをはじめ、キレキレのアクションを披露。実はこの主人公は元政府諜報機関ヒューミントの工作員で、まぁ強いわ、強いわ、「えげつない」という表現がふさわしい敵をこれでもかと退治し、スカッとした気持ちにさせてくれます。

主人公がそこまで体を張るのは、娘を助けるための費用、四億円を稼ぐため。問答無用のお金の重さを感じさせながら、繰り広げられる痛快アクションというなんとも斬新なエンターティンメント作品に仕上がっています。

シリーズものであることの魅力


(C)上西雄大

本作はもともと「連続ものの企画はないか」というオファーが上西雄大監督にあったことから始まったといいます。連続もの、シリーズものの企画として出発したという点で「プログラムピクチャー」を想起させます。

「プログラムピクチャー」とは大雑把に言えば往年の日本映画界において映画館のスケジュールに合わせて量産された映画のことと定義できますが、それにより生まれた人気ヒットシリーズのことでもあります。

例えば「日本侠客伝シリーズ」や「網走番外地シリーズ」などの東映任侠映画、大映の「座頭市シリーズ」、「眠狂四郎シリーズ」などの一連の作品、松田優作主演の『最も危険な遊戯』などの「遊戯シリーズ」といった作品群がそれにあたります。

そうしたプログラムピクチャーが持っていた威勢の良さや、どこか懐かしい雰囲気を「西成ゴロー」の2作品に見ることができるのではないでしょうか。

シリーズ作品は、人気スターが主演し、主人公の脇を固める人々や悪役も濃い造形の魅力的なキャラクターが揃っていたものです。「西成ゴロー」にも、濃すぎるくらいのユニークなキャラクターが登場してきます。これは少々やり過ぎでは?とハラハラしてしまうくらいの殺伐たる面々におののいていると、上西雄大扮するゴローの、柔らかい雰囲気に助けられます。

どこか物事を達観しているようなゆうゆうとした雰囲気を身にまとい、柔らかい口調で話すゴロー。妻と娘への愛と贖罪の気持ちを胸に秘めながら、闘えばめっぽう強いものの、奢らず、焦らず、どこか暖かさを感じさせるその佇まいが非常に魅力的です。

ゴローの過去を知る元政府諜報機関ヒューミントのチーム長に扮する津田寛治もすこぶる格好良く、秘密結社テンキングス・アサシンヘッド、ゴルゴダに扮する加藤雅也や、韓国マフィアの会長役の石橋蓮司、防衛大臣役の松原智恵子、フィクサーの奥田瑛二等、出演者が皆、自身の個性的なキャラクターを溌剌と演じているのが印象的です。

闇金姉妹に扮する徳武未夏、古川藍の振り切った演技も見どころのひとつです。『西成ゴローの四億円-死闘篇-』では2人の過去、韓国マフィアとの関わりが明かされます。このようにキャラクターに深みが加わり次第に愛着が湧いてくるのも、シリーズものの良さでもあるので、2部作だけにとどまらず、シリーズ化してほしいと思わずにいられません。

まとめ


(C)上西雄大

『西成ゴローの四億円-死闘篇-』では、新型ウィルスが登場するなど、時世を反映させたエピソードも登場し、リアルな背景と物語の荒唐無稽さが、巧みに融合されています。

また、特に『死闘篇』の方で「浪花節」という言葉がよく出てくるように、昭和的な人情味を感じさせる箇所がしばしば見られます。それが殺伐たる現代社会を背景にした物語において、一種の救いのような役割を果たしています。

痛快浪花節アクションエンターティンメントと呼ぶにふさわしい『西成ゴローの四億円』、『西成ゴローの四億円-死闘篇-』を是非、劇場で目撃してください。

映画『西成ゴローの四億円』は2022年1月29日(土)より 大阪先行上映、2月12日(土)より全国公開! 2部作の後編にあたる『西成ゴローの四億円 -死闘篇-』は2022年全国順次公開!

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