愛する人との永遠の別れが突然、おとずれた妻の喪失感と夫婦愛を描きます
今回ご紹介する映画『岸辺の旅』は、湯本香樹実の同名小説を浅野忠信と深津絵里のダブル主演、黒沢清監督によって映画化され、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品、監督賞を受賞しました。
失踪し安否不明の夫を3年間、待ち続ける妻の瑞希はピアノ講師をしながら、なんとか心と折り合いをつけながら暮らしていました。ところがある日、突然夫の優介が帰ってきます。
優介は瑞希に「俺は死んだよ」と告げます。そして、ここに帰って来るまでに出会い、世話になった人々を訪ねる旅に瑞希を誘います……。
映画『岸辺の旅』の作品情報
(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
【公開】
2015年(日本・フランス映画)
【監督】
黒沢清
【原作】
湯本香樹実
【脚本】
宇治田隆史、黒沢清
【キャスト】
浅野忠信、深津絵里、蒼井優、小松政夫、柄本明、奥貫薫、千葉哲也、村岡希美、赤堀雅秋、藤野大輝、首藤康之、いせゆみこ、深谷美歩、髙橋洋、松下直樹、北村真芳
【作品概要】
黒沢清監督は『地獄の警備員』(1991)、『ドッペルゲンガー』(2003)など多くのホラーを手掛けていますが、『トウキョウソナタ』(2008)でホームドラマという新境地を開きます。近年では『スパイの妻』(2020)でも、ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞します。
優介役には『PicNi』(1996)で注目をあび、『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』(2010)などで、日本アカデミー賞主演男優賞にノミネート、『マイティ・ソー』(2011)でハリウッドデビューを果たした浅野忠信。
瑞希役に「踊る大捜査線」シリーズ、『阿修羅のごとく』(2003)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞し、『悪人』(2010)で、モントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞した深津絵里が務めます。
島影役に小松政夫、松崎朋子役に蒼井優、星谷役に柄本明が脇を固めます。
映画『岸辺の旅』のあらすじとネタバレ
(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
ピアノ講師の仕事をしている瑞希には、3年前に失踪したまま帰らない夫がいます。彼女はふと黒ゴマ白玉を作りはじめると、瑞希は背後に気配を感じ振り向くと、そこには夫の優介が佇んでいました。
優介は靴を履いたまま突っ立って、何事もなかったように「ただいま」と言います。瑞希も取り乱すことなく、平静を保ちながら「おかえり」と応えます。
優介は3年の年月が経っていることも忘れ、部屋を懐かし気に見渡し、できたての白玉を見た優介は目を輝かせます。瑞希は器によそると優介に出し、彼は美味しそうに食べます。
瑞希は優介の足取りを探すため、お寺や教会、ホームレスのいる河川敷など、思いつくままに手がかりを探し歩いたと話します。
優介はそんな瑞希に「俺、死んだよ」と告げます。彼は富山の海に身を投げたと話すと、瑞希はある程度、覚悟をしていたのか冷静に聞きます。
優介は思い返し病気のせいだと言い、瑞希は「私のせい?」と聞きます。彼は仕事に追い詰められ、精神的に弱っていたからだと言います。
あっという間に引きずり込まれ苦しくなかったというと、瑞希は「(苦しまずに)よかった」と応えます。
優介は家に帰るまで、長い道のりを歩いてきたと言います。そして、同じように死後に旅をする人はいるが、途中で疲れてその場に棲みつく者もいて、やがて自分が自分でなくなり、消えてしまうと言います。
瑞希は優介の話しを聞きながら、いつの間にか寝室のベッドで眠り、朝を迎えました。夢を見たのだと思いつつ、キッチンのシンクを見ると、昨晩優介に出した白玉の器があります。
そして、器を洗い終えると再び優介は優介が現れ、瑞希は「いつまでもここにいて」と抱きつきます。そんな彼女に優介は「俺と一緒に来ないか」と切り出します。
優介は旅の途中で見てきた、美しい景色を見せたいと言います。そして、帰ってくるときに世話になった人、優介がいなくて困っている人達を巡りたいと誘います。
長くなる旅だと知った瑞希は、優介と旅に出ることを決めます。そして、旅の支度を始めたとき、優介は“祈願書”と書かれた半紙の束をみつけます。
それは瑞希が稲荷神社に優介の無事を祈願しに行ったとき、宮司からこの祈願書を100枚書くよう言われたと話します。
優介はその祈願書を旅に持って行き、帰りたくなったら燃やせばいいと言います。瑞希は「帰りたくならなければ、燃やさなくていいのね」と、祈願書の束をカバンに詰め込みました。
以下、『岸辺の旅』のネタバレ・結末の記載がございます。『岸辺の旅』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
最初に2人が向かったのは、「谷峨」という山あいの町です。優介はそこで世話になった新聞店の島影をさがし再会します。
島影は2人を販売店に連れて行き、ちょうどいい時に戻って来てくれたと、壊れた古いパソコンの修理を頼み、2人に泊っていくよう勧めます。
優介は島影に瑞希のことをどう思うか聞き、似てると思わないか訊ねます。島影は似ても似つかないと一蹴します。
瑞希は気になってそのことを聞くと、出て行ったきり行方不明になっている、島影の妻に似ている気がして、連れてくると約束したと話しますが、その島影は“自分と一緒”だと言います。
彼には現世に留まっている人がわかると言いますが、島影は自分が死んでいることに気づいていないと教えます。そして、島影の死にざまを夢でみたが、壮絶すぎて恐ろしい最期だったと話します。
翌日、瑞希はチラシに印刷されている、花の写真を熱心に切り抜いている、島影の姿を見ます。花の切り抜きを集めるのが、彼の趣味のようでした。
パソコンは結局直りませんでしたが、島影は盛大な送別会をやろうと提案してくれます。その晩、瑞希はすきやきの準備をしていると、島影はすき焼き鍋を見て「なぜあれを使うんだ」と激高して家を出て行きます。
島影は苛立ちから、すき焼き鍋を妻に投げつけたことがあり、後悔していました。探しに出た優介は泥酔している島影を見つけます。
島影は「ここんとこ、何だか呼ばれている感じがする」と言い、優介は彼に帰ろうとおんぶし、島影はそのまま眠ってしまいました。
2人は島影をベッドに寝かしつけると部屋の壁一面に、花の切り抜きが貼られていることに気づき驚きます。
翌朝、瑞希は新聞店が廃虚だったことを知り、愕然としてしまいます。島影の部屋には色褪せ埃にまみれた、花の切り抜きが壁一面に貼られていました。
次の街で向った場所は優介が無銭飲食をし、働くようになった大衆食堂です。店主の陣内とその妻フジエは、快く2人を迎えてくれます。
優介は陣内夫妻は自分と一緒ではなく、瑞希と同じだといいます。2人は店を手伝い、瑞希は平穏な日々と街の良さに幸せを感じ、そこに留まり暮らしたくなります。
ある日、瑞希は宴会場でピアノと「天使の合唱」という曲の楽譜を見つけます。フジエが若い頃に使っていたピアノでした。
瑞希はその曲を弾いてみると、ピアノの音色を聴いたフジエが、動揺しながら宴会場にきて、激怒し演奏をやめさせます。
瑞希は不躾にピアノに触ったことを謝ると、フジエはぽつりぽつりピアノと「天使の合唱」について話し始めます。
彼女には8歳年の離れた、“マコ”という妹がいて、その子は10歳の時に腸の病気を発症し急逝したと語りました。
マコはその曲が好きで何度も弾いていましたが、18歳のフジエは当時、悩みの多い時期で、妹の演奏が上手だったり下手だったりするのに苛立ち、叩いてしまったことがあると言います。
フジエは10歳の幼い妹に「私のピアノに触らないで」と、大人げないことを言ってしまい、その後まもなくマコが亡くなったため、後悔の念に苦しみながら生きていました。
フジエはあの頃に戻って、妹に謝りたいと思っていて、そこにマコがいるかのように、後悔の言葉を語ります。すると突然、フジエの目の前にマコの姿が現れます。
瑞希はマコを呼び、「天使の合唱」を弾くよう促します。瑞希は「やさしくなめらかに自分のテンポで……」とアドバイスし、マコは完璧に弾き終え、嬉しそうな笑顔を見せました。
フジエの目にはマコが奏でたピアノの音色で涙が溢れ、瑞希もまた弾き通せたマコの笑顔で涙を流します。
神内夫妻に別れを告げた2人は、長距離バスに乗り込みました。優介は酔い止め薬を瑞希の鞄から探すと、“松崎朋子”という女性からのハガキを見つけます。
瑞希は朋子なら消息を知っているか、彼女と暮らしているのかもと考えた末、手紙を出した返事のハガキは、瑞希にとって“御守り”だと言います。
手がかりを探すため瑞希は、優介のパソコンのメールを開いた時、優介と朋子の不倫関係を知りました。
瑞希は朋子からのハガキを見て、彼女より先に優介を探し出すという、意欲が湧いてきたから、御守りにしていたのです。
ところが優介は「もう終わったこと」と言います。しかし、彼女にとっては終わったことではないため、怒ってバスを降り優介を残して、反対方向のバス停まで行ってしまいます。
瑞希は目覚まし時計の音で目が覚め、自宅のベッドにいたことで、旅のことが半信半疑になりますが、部屋には持ち歩いたカバンや高速バスのチケット、路線図があります。
そして、部屋の観賞植物や花瓶の花が枯れ、郵便物の山を見て、家を長く空けていたことは理解しました。
郵便物に優介の勤めていた病院からきた、更新を知らせる封書を見つけたます。瑞希はそこで働いている朋子に会いに行こうと思い立ちます。
瑞希は朋子に優介の居場所がわかり、元気にしているが、病院に復帰はできないと伝えます。朋子は優介がみつかったことに、安堵したような表情を見せます。
瑞希は優介が苦しい時に朋子から励まされ、ずいぶん救われたと感謝する余裕をみせます。そして、優介との夫婦の絆を強く強調しました。
ところが朋子は既に別の男性と結婚しており、まもなく一児が生まれ、家庭に入ることを瑞希に告げます。彼女は平凡な毎日以上に求める幸福などないと、本物の余裕をみせつけます。
実際は優介を失っている瑞希は、自分には家庭がないという現実を思い知らされ、虚しさと惨めさに打ちひしがれました。
自宅へ帰った瑞希は枯れた植物に水をあげ、ふと思い出したように無心で、黒ゴマ白玉を作りテーブルに出します。
彼女の思いに反応するかのように、優介は瑞希の前に姿を現し彼女を優しく抱きしめると、瑞希は寂しさと嬉しさをないまぜ、安堵の涙を流し2人は旅を再開します。
(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
優介は山あいの農村に瑞希を連れていき、世話になった星谷という老人の家を訪ねます。優介は村で子供たちに勉強を教え、感謝されていました。
そして時々、村の人達にも科学や宇宙の話をし、人気者になっていました。優介が戻ってきたことは村中に知らされ、彼の話しを聞こうと集会所に大勢の人が集まってきます。
老若男女の住民達が優介の話を熱心に聞いている様子を見た瑞希は、知らなかった夫の一面を見て、誇らしい気持ちをいだきます。
ある日、瑞希はお弁当を忘れた星谷の孫良太に届けるため、学校に行きますが良太は学校におらず、戻る道すがら藪の中でぼんやり佇んでいる、星谷家の嫁薫を見かけて声をかけます。
薫は森の中にある“夫婦滝”に良太はいるだろうと教えてくれます。薫が言った通り良太は滝壺をジッと眺めていました。
良太は瑞希に滝壺の中央の黒くなっている場所を指して、死後の世界に続く洞窟があると話すと、瑞希は優介がそこから来たと思いますが、良太はお母さんと一緒に来たと教えます。
星谷にはタカシという息子がいましたが、実家の土地を巡り口論となり家を飛び出し、2年前に放浪先で風邪をこじらせ、亡くなったと話します。
タカシの妻、薫は1人で遺骨を取りに行くと、息子の良太を置いてタカシの元に向かいますが、それきり帰ってきませんでした。
星谷は孫と2人きりになり、途方に暮れた生活をしばらく続けたある日、薫は空腹で倒れそうだという優介を連れて、ひょっこり帰ってきたといいます。
そして、薫もまた痩せこけ手足はアザだらけで、どこで何をしていたのかも一切話さず、魂が抜けたようにぼんやりするようになったと話します。
星谷は滝壺の伝説を引き、薫はこの世の者ではないのではないかと考えます。そのことを優介に話すと、薫は違うが亭主のタカシが自分と一緒だったと言います。
タカシの魂はすでに崩れかけていたが、薫を道連れにするため連れ回していたといいます。
また、お弁当を忘れた良太に届けるため、滝に向かった瑞希はそこで、見知らぬ男性が佇んでいるのをみつけ、声をかけると「俺の顔を忘れたのか?」といいます。
男性は瑞希が16歳の時に亡くなった父でした。父は優介との結婚を心配していて、こうなることもわかっていたと話します。
瑞希が悲しい思いをしているのを気に病み、現れた父は「あの男のことは忘れろ」と助言します。それでも瑞希は「私は大丈夫。そうお母さんに伝えて」と答えました。
一方、優介の方では体に異変を感じるようになっています。思うように動けなくなり、身体に力も入りません。瑞希はそんな優介を見て別れが近いことを悟ります。
そこに良太が瑞希と優介のもとに来て、母が知らない男と歩いていると訴えます。2人は目撃した辺りへ行くと、薫がタカシと思われる男を支えながら、森に向かって歩いているのをみつけます。
薫を引き離すと、いつまでも未練たらしく、連れまわすのはやめろとたしなめます。タカシは故郷の風景も忘れ、目も見えなくなり始めていました。
薫は自分でタカシをみとどけるといい、瑞希も「くぎりをつけないほうが楽なこともある」と、2人をそっとしてあげてほしいと優介に訴えると、本当にそれでいいのか問われます。
タカシは錯乱状態で怯えながら、死を受け入れはじめます。優介はタカシの望みを聞くと、「死にたくなかった」と薫に伝えてほしいと言い残し消えていきます。
体に力が入らない優介は瑞希に支えてもらいながら、村人が集まる集会所に行き、宇宙誕生の話を始めます。
宇宙規模でいうと地球は生まれたばかりで、地球のある宇宙はまだ始まったばかりで、その時代に生まれてきたことが幸運で、本当に良かったと瑞希に語りかけるよう話します。
2人が最後に訪れたのは、優介が終焉の地に選んだ富山の海です。瑞希はキレイとつぶやき優介の言っていた、キレイな場所がここなのか聞きます。
優介はもっときれいな場所があるというと、瑞希はそこがあの世の風景だと察し、そんなところに行かないで、一緒に家に帰ろうとだだをこねます。
優介は「ちゃんと謝りたかった。どうやって謝ればいいのかわからなかった」と言うと、その望みは叶ったと、瑞希は答え優介は安心したように微笑みます。
瑞希が精一杯の笑顔をつくり、「また会おうね」というと、優介は「ん…」と短く答えると、そのまま優介の姿が見えなくなります。
瑞希は優介が言った通り、旅の終わりに祈願書の束を燃やすと、帰路への一歩を踏みだします。
映画『岸辺の旅』の感想と評価
(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
作中で瑞希と優介が泊る先で陣内家以外は、病院で使う白いパイプベッドのようなベッドでした。それには何か意味があるのでしょうか。
ベッドの上で最期を迎えられなかった優介が、死者の望みを叶える旅をしたことで、与えられた加護なのかもしれません。
また、優介の姿が見える人がいることにも不思議さを感じます。島影の住まいは幻でした、陣内夫妻は実在していますが、妻のフジエには妹へのしょく罪があり、亡霊が見えたのかもしれません。
星谷の村では、死後の世界と繋がる洞窟の伝説があり、村人にも優介の姿が見えたと考えることもできますが、実は廃村になっていて、集会場に集まった村人は、優介に救いを求めて現れたのではないかとも見れました。
「死」を受け入れるというテーマ
映画『岸辺の旅』は大切な人が失踪し、生死もわからない状況を3年過ごした妻、自分の死を伝えに来た夫との、空白の時間を埋める旅の物語です。
死者が愛しい人の元に帰り、無念の思いを伝えられたら、遺された者にとって心の区切りとなるのでしょうか?
瑞希は優介が無事に帰ってくることを願い、100枚もの祈願書を書く愛を示していましたが、優介自身のことを理解していたかどうかは、彼の失踪や旅を通じて知ったことが多いことでわかります。
優介も仕事に追われていると感じ、現実逃避したにしても、死を選んだことは衝動で、それが後悔の念となり、妻へ「きちんと謝りたい」という望みとなって彼を突き動かします。
死ぬということは心を亡くし忘れていくこと…それを必死に繋ぎ止めながらの旅は、優介に罪の重さを感じさせたでしょう。
一方、瑞希は刻一刻と優介との別れを感じはじめ、優介の死を受け入れなければなりません。そしてそれは優介を許した瞬間に訪れました。
ラストシーンの“祈願書”を燃やしたことは、優介への送り火となります。それが瑞希にとって区切りをつけた証となりました。
もしも死者に何か後悔の念があって、許されることで昇天することができるのなら、この映画のように伝えに現れてほしいと、思わせてくれます。
死者と遺族の思念が示すもの
(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
『岸辺の旅』は死者と遺族が抱えている、しょく罪の念を乗り越え真の別れをしていく、藪内瑞希をはじめ3つの家族の物語です。
島影の場合
島影は販売店の経営難から妻に当たることもあり、家を出ていってしまいます。妻以外に家族のいない島影は、孤独死したと思われます。
そして島影も優介と同じように妻への悔いがありました。妻が行方知れずのため謝りたい気持ちは叶えられず、長年さまよい続け、力尽きて消えていきます。
陣内フジエの場合
陣内フジエは死んだ妹へのしょく罪の念で、長く苦しんでいました。フジエの謝りたいという思いで妹が現れます。
マコのピアノ演奏は、フジエが抱えてきた後悔の足枷を外しただけでなく、ピアノ講師としての瑞希の自信も与えてくれました。
星谷タカシの場合
星谷タカシは妻や子供、家族を顧みず家を飛び出し、放浪の末に病死します。タカシは息子の良太に「知らない男」と言われることから、家にほとんど寄り付かなかったのでしょう。
薫はそんなタカシに対して、恨むことなく献身的に最期を見届けようとしますが、生前の所業が酷かったタカシに穏やかな死はありませんでした。
まとめ
(C) 2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
映画『岸辺の旅』は愛する人との永遠の別れを描いた、ヒューマンラブストーリーでした。しょく罪のある優介の懺悔の旅は、旅先で出会った人達の苦しみも救う旅となります。
2人が最後にたどり着いた場所は浜辺ですが、いわゆる“三途の川の岸辺”まで、見送りに来たというシチュエーションです。
「生き様が死に様」という言葉をよく聞きます。最期を迎えた姿がその人の生きた証だとすれば、生前の生き方を考えなければならないでしょう。
逆になんの罪も落ち度もなく命を落とす方もいます。その場合、遺族は死を受け入れられない苦しみが残り、生きていることに罪を感じてしまうこともあります。
そんな時、この映画のように一時的に最期の別れができれば、多少は救われるのかもしれません。
いずれにしても大切な人を失ってから後悔をしたり、死んでからも後悔するような生き方はしないよう、家族を大切に過ごす心がけを考えさせられた作品でした。