辻村深月の小説『ハケンアニメ!』が2022年5月に実写映画化!
直木賞作家・辻村深月がアニメ業界で奮闘する人々の姿を描いた小説『ハケンアニメ!』。
さまざまな役割のスタッフの中、監督・プロデューサー・アニメーターの女性たちの活躍と葛藤、最も成功したアニメの称号である「ハケン=覇権」を取るための熾烈な争いが浮き彫りにされます。
アニメ業界にメスをいれたオシゴト小説ともいうべき『ハケンアニメ!』を、『水曜日が消えた』(2020)の吉野耕平監督が映画化しました。
2022年5月20日(金)の映画公開に先駆けて、小説『ハケンアニメ!』をネタバレ有でご紹介します。
小説『ハケンアニメ!』の主な登場人物
【有科香屋子】(映画では尾野真千子)
『運命戦線リデルライト(仮)』の製作プロデューサー。王子監督に憧れて業界入りをする。
【王子千晴】(映画では中村倫也)
『運命戦線リデルライト(仮)』監督。
【斎藤瞳】(映画では吉岡里帆)
『サウンドバック 奏の石』監督。法学部出身のキレ者。
【行城理】(映画では柄本佑)
『サウンドバック 奏の石』のプロデューサー。
【並澤和奈】(映画では小野花梨)
作画スタジオ「ファインガーデンのアニメーター。選永市町おこしイベントに協力する。
【宗森周平】(映画では工藤阿須加)
新潟県選永市観光課職員。町おこしイベントに熱中する。
小説『ハケンアニメ!』のあらすじとネタバレ
「どうしてアニメ業界に入ったんですか」という質問に、「アニメが好きだから」と答える有科香屋子。
香屋子は、アニメ『運命戦線リデルライト(仮)』の製作プロデューサー。10年前に放映された伝説的アニメ『光のヨスガ』を見てアニメ業界に入ることを決意しました。
『光のヨスガ』の監督である弱冠24歳の王子千晴と一緒に仕事がしたい、その一心で飛び込んだ職場が「スタジオえっじ」でした。
『運命戦線リデルライト(仮)』は『光のヨスガ』以来となる王子を監督に迎えてのアニメですが、制作途中でその王子が失踪していました。
出来上がったストックは3話目までしかなく、王子の代わりは誰にも務まりません。そんな中、香屋子は王子の不在を悟らせないよう駆けずり回っていました。
もうこれ以上は待てないと思ったとき、香屋子の前に王子が帰ってきました。
旅行に行っていたと言う王子ですが、その後、プレッシャーに押しつぶされそうになりながら一人で自宅にこもって、必死でシナリオを仕上げていたことがわかりました。
放映されたアニメ『リデルライト』の評判は抜群! その『リデルライト』とアニメ業界の覇権を争うアニメが『サウンドバック 奏の石』でした。
アニメ『サウンドバック 奏の石』は、アニメ制作の大手トウケイ動画の作品です。
ここで働く斎藤瞳は、有名大学の法学部を卒業しながらアニメ業界に飛び込んだという変わり種。「どうしてアニメ業界に入ったんですか」という質問をされると、瞳は「アニメの魅力に憑りつかれたからかなあ」と考えます。
飛び込んだ業界ではその能力を買われ、これまでの功績でやりたくてたまらなかったロボット少年ものシリーズの企画が通りました。
自らが企画した『サウンドバック 奏の石』ですが、放映時間は『リデルライト』の深夜帯とは違い夕方枠土曜5時のアニメであるため、倫理委員会もPTAも相手にしなければなりません。
リデルライトの製作シーンと対比されるかのように、現場で戦う瞳。出演する声優たちも思うようになりません。
瞳と衝突し現場から飛び出していく声優も後を絶たず、追いかけるプロデューサーの行城理は必死。各話演出・作画監督・脚本化・シリーズ構成と、打ち合わせに結論がまとまらずに夜通しかかることもしばしばです。
瞳は無駄な打ち合わせじゃないかという思いが顔に出てしまいます。そこでも「天才肌の斎藤さんには無駄に見えることでも、現場には必要なことってあるんですよ」と両者のフォローに入る行城。
多数の仕事を抱え、みんなにいい顔をしているように見える行城は、顔の広さを生かして瞳をサポートします。
やがて瞳は、行城がみんなが気持ちよく仕事ができるよう細やかに配慮していることに気付き、スタッフが行城の悪口を話しているところを見つけた際も一喝します。
小説『ハケンアニメ!』の感想と評価
タイトルの「ハケン」は「派遣」ではなく、「覇権」の意味です。『ハケンアニメ!』は、お仕事小説としてアニメ業界を辛辣に描き出しています。
3人の女性たちはこの業界に入った理由を聞かれると、アニメが好きだからとかあいまいな答えをしました。ですが、実際はそんなに甘いものではありません。
売れるアニメ作品を世に出して、アニメ界のてっぺんを取るという、熾烈な覇権争いのある世界でした。
何も知らずに好きなことだからと飛び込んだ彼女たちは、それぞれ監督・プロデューサー・アニメーターとして自分の天分を極めるように活躍します。
勿論そこには、恋愛感情もあれば人間関係の不協和音もあり、彼女たちが関わった3つのアニメ作品のどれがその年の覇権を取るのか、とても興味深く読めました。
災い転じて福となる。どうなることかと冷や冷やさせながらも、みごとに丸く納めるストーリー展開は、流石に直木賞作家です。好きな仕事に没頭する主人公たちに共感を覚える作品でした。
映画『ハケンアニメ!』の見どころ
原作小説では、プロデューサーの有科香屋子と天才監督・王子千晴の仕事ぶりを中心に描かれています。
映画では新人監督の斎藤瞳にスポットをあて、アニメ業界で声優との意見の食い違いに泣かされ、クセ者敏腕プロデューサー・行城理に振り回されながらも、成長していく姿が見られます。
アニメが持つ力を信じ、チャンスを掴んだ吉岡里帆演じる新人監督・斎藤瞳と、中村倫也演じる崖っぷちの天才監督・王子千晴との覇権争いの仕事ぶりが見ものでしょう。
映画のアニメ監修に東映アニメーション、制作にはProduction I.Gをはじめ、日本を代表するアニメプロダクションも参加したという映画『ハケンアニメ!』。
原作が醸し出す、自分の好きなものに対するまっすぐに向き合う人々の眩しい生き様や、覇権を狙う新旧監督の一騎打ちがより深く描かれるであろうと、期待が高まります。
映画『ハケンアニメ!』の作品情報
【公開】
2022年公開(日本映画)
【原作】
辻村深月:『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)
【脚本】
政池洋佑
【監督】
吉野耕平
【キャスト】
吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子、工藤阿須加、小野花梨、
まとめ
『朝が来る』(2020)や『太陽の座る場所』(2014)『ツナグ』(2012)など、映画化された辻村作品にまたひとつ、熱血エンターテイメントの『ハケンアニメ!』が加わります。
アニメ監修には東映アニメーション、制作にはProduction I.Gをはじめ、日本を代表するアニメプロダクションが参加したそうですから、アニメファンにはたまらない映画となるでしょう。
また、アニメ業界を徹底的に研究したと思われる辻村深月の原作を、よりリアルにライバルたちのぶつかり合いを演じるキャスト陣も見ものです。
熱いバトルのその先にあるものは果たして何なのでしょう。2022年5月の映画公開が待たれます。