第34回東京国際映画祭、上映作品『親密な他人』2022年春公開予定
1年前に行方不明になった息子を探し続けるシングルマザーのもとに、特殊詐欺グループの魔の手が忍び寄り、息子の消息をほのめかす青年が現れる。彼女は彼の言葉を信じ、なんとか情報を得ようとしますが……騙し騙された果てに明らかになる、驚愕の真実とは?
映画『親密な他人』はコロナ禍の東京を舞台に、騙そうとしている青年と騙される女性の間に芽生える、奇妙な男女愛を描いた心理スリラー映画です。
監督の中村真夕は16歳で単身ロンドンへ渡りのちに渡米。ニューヨーク大学大学院で映画学を学んだのち2006年に『ハリヨの夏』で監督デビューし、『ナオトひとりっきり』(2015)、『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(2020)など、ドキュメンタリー映画にて国内外映画祭から高い評価を得ています。
最新作となる本作は、2021年11月に開催された、第34回東京国際映画祭の「Nippon Cinema Now」部門にて、プレミア上映された作品です。
映画『親密な他人』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【英題】
Intimate Stranger
【監督・脚本】
中村真夕
【キャスト】
黒沢あすか、神尾楓珠、上村侑、尚玄、佐野史郎、丘みつ子
【作品概要】
行方不明の息子を探す石川恵を演じるのは、主演作『六月の蛇』(2003)で国内外の映画祭で女優賞を受賞して注目を浴び、園子温監督作『冷たい熱帯魚』(2010)や、マーティン・スコセッシ監督作『沈黙 サイレンス』(2016)など、注目作に出演をした黒沢あすか。
行方不明の息子を知っていると、恵に接触する青年の井上雄二には、本作と同様第34回東京国際映画祭の「Nippon Cinema Now」部門に出品された、『彼女が好きなものは』(2021)で初主演を務めた神尾楓珠が演じます。
共演には『許された子どもたち』(2020)で主演を務め、第75回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞受賞した、上村侑のほか、佐野史郎、丘みつ子といったベテラン俳優が、時代を象徴する役で出演します。
映画『親密な他人』のあらすじ
ベビー用品の専門店で販売員として働く石川恵は、行方不明になった息子、心平の帰りを待ち続け、1年が経とうとしていました。
チェストに心平の写真を飾り、行方不明者の情報を掲示板で募り、祈る思いで日々をすごしていました。
ある日、そんな彼女のもとに、心平の消息を知っているという男から連絡が入ります。彼はネットカフェをねぐらにする、20歳の井上雄二という青年です。
雄二は心平の私物を所有していて、それを恵に渡しながら信用を強めていきます。恵は心平の行方を探る中、雄二には行く宛てがないと感づき、しばらく息子の部屋に居てもいいと言い、奇妙な共同生活が始まります。
しだいに2人は外見上は親子のよう見えながら、雄二に接する時の恵は恋人を愛でるような態度にも見え、不思議な関係へとなっていきます。
しかし、恵に近づいた雄二には隠された目的があり、一方の恵にも、ひた隠しにしている秘密を抱えていました。
映画『親密な他人』の感想と評価
映画『親密な他人』の中村真夕監督は、ニューヨークと日本で生活をし、国際的な感性を持ち合わせつつ、ドキュメンタリー作品を多く手がけている、彼女ならではの着目点と発想が、「実話物?」と思わせるリアルさを感じさせます。
多くの人々が新型コロナウィルスによって、非日常となった世の中にあって、「幸せ」は身近にあると気づかされてきました。
ところが本作を観ると過去に心を支配されたまま、閉塞感の中でもがき苦しんでいる人がいることにも気づかされます。
世間に取り残された、孤独な中年女性と20歳の青年は出会ってしまいました。それはある意味、“無償の愛”に憧れてきた二人が、必然的に出会ったとも見れます。
「愛か狂気か」歪んだ母性愛とは
主人公の石川恵は、失踪してしまった息子の安否を気にしながらも、息子の情報を持っている雄二に、その面影を見てしまいます。
副題の「愛か狂気か」には、日本(アジア人)の母親にみられる、“息子”に対する愛情のかけかたに、特殊さがあることを示しています。
中村真夕監督はイギリスやニューヨークで14年間暮らし、帰国した際に驚いたのが、母親の息子に対する依存愛の強さだったと話します。
欧米では子供たちに自立を促す傾向が強いからでしょう。特に18歳を過ぎれば“大人”と見なされる社会なので、干渉することが少なくなるからだと思われます。
また近年、日本で横行する“特殊詐欺犯罪”も、母親の愛情を逆手にとるように、息子になりすまし多額の現金を騙し取るパターンが多いことからも、“息子”への異常なまでの執着を感じます。
また、逆に母親によるネグレクトも問題視されている昨今、親からの関心が薄い青少年が、犯罪に手を染めてしまう要因の1つでもあるように、この作品では描かれています。
母親にみられる「母性」と「女」という“2面性”を演じたのが、エキセントリックな演技を得意とする、黒沢あすかです。
中村監督は黒沢あすかに対して「歳を重ねても少女らしさを残し、大人の女性を演じられる女優」と評し、“石川恵”のもつ母親像に重ねたと語ります。
“誰にも言えない”過去の伏線
かつて、歪んだ母性で育てられた息子(マザコン)の代名詞として、“冬彦さん”という言葉が流行語になった時代があります。
“冬彦”とは1992年のテレビドラマ、「ずっとあなたが好きだった」に出てくるマザコン息子です。その役を演じたのが、本作にも出演している佐野史郎です。
このドラマには続編があり、タイトルが「誰にも言えない」(1993)でした。このドラマには冬彦の血を分けた息子、麻利夫が登場しますが彼は、母親の愛情を知らずに育ったという設定でした。
偶然にも“歪んだ母性の母”と、“育児放棄した母”が登場する2つのドラマですが、このドラマを知る人は、佐野史郎が作中で言うセリフや黒沢あすかへの演出など、既視感を覚えるかもしれません。
黒沢あすかが演じた、石川恵の“誰にも言えない”秘密とは何なのでしょうか?彼女には様々な想像が掻き立てられ、何パターンもの女性像が浮かび上がります。
まとめ
映画『親密な他人』の見どころは、“思惑と企て”がすべて解き明かされるラストがあるにもかかわらず、鑑賞後にモヤッと気になる恐怖が潜んでいるところです。
また、話題作への出演が目白押しで、大注目の神尾楓珠が“目力”で演じる、井上雄二役に秘められた、心の闇にも注目してご覧ください。
さらに本作には、もう1つのコンセプトに“大人の女性に観てほしい作品”とあります。
監督はインタビューで40歳半ばを過ぎた主人公を通し、母性と女性の間で揺らぐ母の心理を感じてほしいと語り、今後もそんなリアルな女性を描いた作品を撮りたいと話します。
映画『親密な他人』の劇場公開は2022年春を予定。今後、続々と作品情報が届けられますので、乞うご期待の作品です。