Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

梅沢壮一映画『積むさおり』考察とレビュー解説。日常サスペンスに施した“不快感で斬新な手法|SF恐怖映画という名の観覧車74

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile074

「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」の特集を終え、独創性の高い作品群が懐かしく感じる秋。

草木が枯れ落ちる、どこかさみし気な印象を感じさせる冬が近づくこの季節に『血を吸う粘土 派生』(2019)の梅沢壮一監督による最新映画が公開されました。

今回は独特な感性を持つ梅沢壮一監督から生みだされた新感覚のホラーサスペンス『積むさおり』(2019)をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『積むさおり』の作品情報


(C)「積むさおり」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
梅沢壮一

【キャスト】
黒沢あすか、木村圭作

映画『積むさおり』のあらすじ


(C)「積むさおり」製作委員会

結婚5周年を目前に控えたさおりと慶介。

日々の中ですれ違う部分はありながらも慶介を想うさおりでしたが、愛犬の散歩中に見つけた不思議な「穴」を除いて以降、耳鳴りが止まらなくなり…。

スポンサーリンク

斬新な演出による満足度の高い40分


(C)「積むさおり」製作委員会

『血を吸う粘土 派生』で和製ホラーと前衛芸術を融合させた新しい形のホラーを作り出した監督、梅沢壮一。

既存の枠に縛られない梅沢壮一監督が製作した最新映画『積むさおり』は、上映時間およそ40分と言う中編映画ながら、しっかりとした起承転結と斬新な手法の演出により非常に満足度の高い作品となっていました。

作中で穏やかな夫婦生活を過ごしていたさおりが突如襲われることになる「耳鳴り」。

本作では物音が聞こえにくく、また一部の音だけが切り取られ聞こえる様子を音響によって再現しており、「耳鳴り」によって狂っていくさおりの心情が痛いほど味わえるような独特な演出が続きます。

この登場人物と同じ「不快感」を味わえる演出は物語においても非常に特別な効果をもたらしていました。

「耳鳴り」と「不快感」


(C)「積むさおり」製作委員会

普段は特別なことを感じなかった他人の行動が、自身の境遇によって急に「不快」に感じ始めてしまうことは誰にでも経験があるのではないでしょうか。

劇中のさおりも元は「不快感」を覚えるような慶介の行動にも思わず微笑んでしまうような穏やかな性格であったにも関わらず、「耳鳴り」がし始めて以降、夫の慶介の行動を「不快」と思い憤り始めてしまいます。

前述したように、本作では演出によりさおりの体感する「耳鳴り」が音響で再現されているため、慶介の行動に鑑賞者までも「不快感」を抱くように作られています。

しかし、慶介の行動は確かに配慮は足りませんがそこまで逸脱した行為ではなく、「不快感」の源が「耳鳴り」を通り過ぎ「他者」へと転化していることに気づきます。

昔は受け入れられたことも、置かれた状況の変化によって受け皿としての自身の形も変わってしまい、「不快感」へと繋がる。

「不快感」を題材にしながらも、さおりが自身の中で起きている苦痛の正体に気が付いた先に待つ結末にどこかさわやかな印象を感じさせる作品でした。

たった2人の俳優たちが作り出す世界観


(C)「積むさおり」製作委員会

本作の登場人物はさおりと慶介の2人だけと言うコンパクトな世界観。

しかし、数々の作品に出演してきたベテラン俳優の2人だからこそ出来る演技によって、コンパクトながらも非常に奥深い世界が広がっています。

ホラーにもサスペンスにもヒューマンドラマにも捉えることの出来る『積むさおり』。

カメレオンのように鑑賞者によって見方が異なること間違いなしの本作の世界観を作り出した2人の俳優に再注目してみたいと思います。

さおり:黒沢あすか


(C)「積むさおり」製作委員会

本作で主演を務めるのは、園子温監督による実在の連続殺人をモチーフに製作された映画『冷たい熱帯魚』(2010)で、でんでんの演じる殺人鬼の片棒を担ぐ女性役で世界に印象付ける演技を見せつけた黒沢あすか。

近年では『血を吸う粘土 派生』や『楽園』(2019)などに出演し、方向性の異なる様々な演技を使い分ける名女優としても名高い彼女。

本作では、耳鳴りに起因する心身の疲労によって自身の幸せを見失っていくさおりの様子を演じ切っており、誰にでも訪れかねない「身近さ」が伝わってくるかのようでした。

慶介:木村圭作


(C)「積むさおり」製作委員会

テレビドラマ、映画、舞台、Vシネマと手広いジャンルで「演技」を披露する俳優、木村圭作。

さおりの夫である慶介を演じる彼の演技は驚くほど自然であり、仕事と筋トレと言う趣味に一筋であり愛妻家でもあるが、家事を一切手伝うことのない古くからの「夫像」を体現しています。

騒音を顧みず行動し、食事時のマナーも悪い、良く言えば豪胆な性格が状況の変化が訪れたことによって悪いところばかり目についてしまう。

しかし、間違いなく妻のさおりに対する愛情を持っているからゆえに憎み切れず、そのことこそがさおりの「救い」にも繋がる、自然な演技でありながら物語の核となる部分を確実に演技で表現していました。

スポンサーリンク

まとめ


(C)「積むさおり」製作委員会

散歩の途中で見つけた「穴」を除いた日からさおりを襲う「耳鳴り」と「不快感」。

「穴」の正体とはいったい何なのか、「穴」を除かずとも誰にでも訪れかねない自身の中の価値観の変化と自身の本当の心の再確認の旅路が描かれた『積むさおり』。

梅沢壮一監督らしさもしっかりと用意され、斬新な演出が魅力を増している本作をぜひ音響の効いた劇場でご覧になってみてください。

『積むさおり』は東京「K’s cinema」において2019年11月2日より、ほか全国で順次公開です。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…


(C)地獄少女プロジェクト/2019 映画「地獄少女」製作委員会

いかがでしたか。

次回のprofile075では、「呪殺」をテーマに人間社会の「闇」を描いた名作アニメの実写化映画『地獄少女』(2019)の公開を記念して、白石晃士監督や「地獄少女」について深くご紹介させていただきます。

11月13日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『ガール・アスリープ』あらすじと感想。ローズマリー・マイヤーズ監督が描く14歳の少女の憂鬱と作り込んだ設定|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館6

15歳の誕生パーティーが始まる! 2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活をとげた映画館、京都みなみ会館。そのリニューアルを記念して、9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館 …

連載コラム

野村奈央映画『からっぽ』あらすじと感想。卒業制作がPFFアワードなどを多数受賞の快挙|ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り1

ちば映画祭2019エントリー・野村奈央監督作品『からっぽ』が3月30日に上映 「初期衝動」というテーマを掲げ、2019年も数々のインディペンデント映画を上映するちば映画祭。 ©︎Cinemarche …

連載コラム

『ミスターガラス』ネタバレ感想と考察。シャマラン監督が超人に込めた想いを解説|サスペンスの神様の鼓動8

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回、取り上げる作品は2000年に公開された『アンブレイ …

連載コラム

ノルウェー映画『ディスコ』あらすじと感想レビュー。北欧のカルト教団事情を調査し描いたリアルな描写|TIFF2019リポート8

第32回東京国際映画祭「コンペティション」部門上映作品『ディスコ』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭がついに2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)ま …

連載コラム

映画『シンプル・フェイバー』感想と評価解説。女優ケンドリックvs.ライブリーの華麗なる対決⁈|銀幕の月光遊戯21

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第21回『シンプル・フェイバー』 ダーシー・ベルが2017年に発表したミステリー小説『ささやかな頼み』をポール・フェイグ監督が映画化! アナ・ケンドリックとブレイク・ライブ …

【Cinemarche】今週のおすすめ映画情報
映画『天気の子』特集
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
映画『ある船頭の話』2019年9月13日(金) 新宿武蔵野館他 全国公開
【望月歩×文晟豪インタビュー】映画『五億円のじんせい』の公開に思いを馳せる
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【阿部はりか監督インタビュー】映画『暁闇』若さが抱える孤独さに共に“孤独”でありたい
【エリック・クー監督インタビュー】斎藤工との友情の映画制作とアジア発の若き映画作家たちの育成に努めたい
映画『凪待ち』2019年6月28日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開【主演:香取慎吾/監督:白石和彌】
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
FILMINK
国内ドラマ情報サイトDRAMAP