Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/11/27
Update

韓国インディーズ映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』あらすじと感想解説。新人監督チョン・ヘウォンが描く“性犯罪と若者の現在形”|インディーズ映画発見伝26

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第26回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第26回目では、韓国の学生映画作品からチョン・ヘウォン監督の映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』をご紹介いたします。

リベンジポルノを真正面から扱い、若者たちの今を映し出す映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』は大邱短編映画祭、済州女性映画祭に招待されました。

また、ヘウォンを演じたシン・ジウはアシアナ国際短編映画祭俳優賞受賞しました。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

『K大OOに似たような93生まれ.avi』の作品情報


(C)CentralPark Film Inc

【公開】
2019年(韓国映画)

【監督・脚本】
チョン・ヘウォン

【キャスト】
シン・ジウ、キム・ジェフン、ユイドン

【作品概要】

チョン・ヘウォン監督は1993年に生まれ、東国大学校で文芸創作学を専攻し、学内劇芸術研究会のサークルで演劇活動をしました。ソウル市青年芸術団支援劇団「HAN」を代表する作家として活動した後、2017年、韓国芸術総合学校映像院映画科3年課程演出専攻で入学します。

『誰かが好きだということは』(2017)、『とんと』(2018)、『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)と監督を務め、『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)は大邱短編映画祭、済州女性映画祭に招待されました。

最新作は『保護者』(2020)。仁川インディペンデントフィルムツアーとしてジャックアンドベティ、シネマテークたかさきにて上映された。

『K大OOに似たような93生まれ.avi』のあらすじ


(C)CentralPark Film Inc

26歳のヘウォン(シン・ジウ)は、自分の性行為の動画が流出したことを知り、ボーイフレンドを告訴します。

そして学校を辞め、住んでいたところを離れて新しいアルバイト先を始めます。

ホールではなく、裏方の皿洗いを志望し働き始めたへウォンでしたが、ボーイフレンドが花を持って会いに来て……

『K大OOに似たような93生まれ.avi』の感想と評価


(C)CentralPark Film Inc

『K大OOに似たような93生まれ.avi』というタイトルを聞いて連想するのは、やはり韓国でも大ヒットし、映画化もされたチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』ではないでしょうか。

『82年生まれ、キム・ジヨン』では33歳になるキム・ジヨンの半生をとして女性の生きづらさ、社会における地位などを浮き彫りにした小説でした。本作はどうでしょうか。

映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)で取り上げられているのは“リベンジポルノ”と呼ばれる性犯罪です。

韓国では2012年12月18日(2013年6月13日施行)に「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法(性暴力特別法)」が大幅に改正されました。以前は“リベンジポルノ”などを処罰する条項がありませんでした。

スマートフォンを当たり前にもつようになった現代において、情報の拡散スピードは早まり、多くの人が簡単に目に触れてしまうようになりました。

自身の性行為の動画が拡散されてしまったヘウォンは人目に触れること、誰かと関わることに対して恐怖を感じています。それほど深く癒えることのない傷を抱えながら日々生きているへウォン。

一人で布団をかぶり、自身の動画を見ているへウォンが映し出され、動画の音声から「愛している?」と聞くへウォンの声が聞こえます。自分を愛している、自分も愛している相手が加害者となる恐怖、トラウマ。

遠くへ離れたへウォンを追いかけてきたボーイフレンドはへウォンに対し花を渡し、嘆願書を書いてくれるように頼みます。こんなに拡散されると思っていなかった、自分も学校を辞めたから許してくれとまるで自分が被害者かのように語ります。

挙句にへウォンが応じてくれないと苛立ちを全面に出し、言動も暴力的になっていきます。へウォンの人生を奪い、心に大きな傷をつけたことよりも自分の人生が大事で、自分が加害者である自覚がないのです。

淡々と描かれるへウォンの日常はひりついていて息苦しく、改めてこの問題について考えさせられる共に93年、つまり現代の20代の認識、彼らが抱える問題について考えさせられる映画になっています。

まとめ


チョン・ヘウォン監督(C)Cinema Discoveries

「この映画が(この映画を作る)私を自由にするのか、この映画を一緒に作る人々を幸せにするのか、この映画を見ることができる多くの人々を幸せにするのか」という考えで映画を作っていると言うチョン・ヘウォン監督。

『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)では、“リベンジポルノ”に正面から向き合い、93年生まれの監督と主人公のへウォンを同じ世代にすることで現代の20代に対する監督自身の視点が表れています。

学校を辞めることは将来の展望が一気に崩れ去ってしまうような、人生のレールから外されてしまう恐怖が付き纏っているかのような20代の姿は、チョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の80年代生まれの30代とはまた違う生きづらさの中で生きている印象を受けます。

へウォンはボーイフレンドが性行為の動画を拡散させたことにより、学校を辞めざるを得なくなります。

一方ボーイフレンドも学校を辞め、へウォンに直訴を取りやめる嘆願書を書くように迫る必死さの背景には自身の将来がたたれたことへの焦りがあるのかもしれません。

だからといってボーイフレンドのしたことは当然、許される行為ではありません。

次世代の監督が描く今後の作品も楽しみになるような映画でした。

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)CentralPark Film Inc

次回の「インディーズ映画発見伝」第27回は、同じく韓国の学生映画作品からヨ・ソンファ監督の『星はささやく』を紹介します。

次回もお楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

関連記事

連載コラム

【ネタバレ】シン・ウルトラマン|あらすじ感想と結末の考察解説。禍威獣災害の多い現代日本を舞台に新たな巨大ヒーロー像を描く【光の国からシンは来る?7】

連載コラム『光の国からシンは来る?』第7回 2016年に公開され大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(2016)を手がけた庵野秀明・樋口真嗣が再びタッグを組み制作した新たな「シン」映画。 それが、196 …

連載コラム

映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』監督マイク・リー【Peterlooの歴史を描く】FILMINK-vol.11

オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。 (C)Amazon Content Services LLC, …

連載コラム

【イカゲーム7話ネタバレ】結末あらすじ感想と考察評価。最後の目的がVIPたち鑑賞の第5「死の飛び石渡り」ゲームで明らかになる⁈|イカゲーム攻略読本7

【連載コラム】全世界視聴No.1デスゲームを目撃せよ 7 2021年9月17日(金)よりファーストシーズン全9話が一挙配信されたNetflixドラマシリーズ『イカゲーム』。 生活に困窮した人々が賞金4 …

連載コラム

映画『デンマークの息子』あらすじと感想評価レビュー。衝撃の展開から結末で伝えたダイレクトなメッセージ【ウラー・サリム監督のQ&A収録】2019SKIPシティ映画祭6

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・ウラー・サリム監督作品『陰謀のデンマーク(日本劇場公開名:デンマークの息子)』が7月14日に上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティ …

連載コラム

映画『シスターフッド』あらすじと感想レビュー。西原孝至監督の混在するドキュメンタリーと劇映画の臨界を探る|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録3

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第3回 女性の存在が根本から問い直されている昨今、意欲作が次々と発表されています。 しかし若手女性の映像作家の活躍は目覚ましいものがありますが、男性監督の …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学