連載コラム「インディーズ映画発見伝」第26回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第26回目では、韓国の学生映画作品からチョン・ヘウォン監督の映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』をご紹介いたします。
リベンジポルノを真正面から扱い、若者たちの今を映し出す映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』は大邱短編映画祭、済州女性映画祭に招待されました。
また、ヘウォンを演じたシン・ジウはアシアナ国際短編映画祭俳優賞受賞しました。
CONTENTS
『K大OOに似たような93生まれ.avi』の作品情報
【公開】
2019年(韓国映画)
【監督・脚本】
チョン・ヘウォン
【キャスト】
シン・ジウ、キム・ジェフン、ユイドン
【作品概要】
チョン・ヘウォン監督は1993年に生まれ、東国大学校で文芸創作学を専攻し、学内劇芸術研究会のサークルで演劇活動をしました。ソウル市青年芸術団支援劇団「HAN」を代表する作家として活動した後、2017年、韓国芸術総合学校映像院映画科3年課程演出専攻で入学します。
『誰かが好きだということは』(2017)、『とんと』(2018)、『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)と監督を務め、『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)は大邱短編映画祭、済州女性映画祭に招待されました。
最新作は『保護者』(2020)。仁川インディペンデントフィルムツアーとしてジャックアンドベティ、シネマテークたかさきにて上映された。
『K大OOに似たような93生まれ.avi』のあらすじ
26歳のヘウォン(シン・ジウ)は、自分の性行為の動画が流出したことを知り、ボーイフレンドを告訴します。
そして学校を辞め、住んでいたところを離れて新しいアルバイト先を始めます。
ホールではなく、裏方の皿洗いを志望し働き始めたへウォンでしたが、ボーイフレンドが花を持って会いに来て……
『K大OOに似たような93生まれ.avi』の感想と評価
『K大OOに似たような93生まれ.avi』というタイトルを聞いて連想するのは、やはり韓国でも大ヒットし、映画化もされたチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』ではないでしょうか。
『82年生まれ、キム・ジヨン』では33歳になるキム・ジヨンの半生をとして女性の生きづらさ、社会における地位などを浮き彫りにした小説でした。本作はどうでしょうか。
映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)で取り上げられているのは“リベンジポルノ”と呼ばれる性犯罪です。
韓国では2012年12月18日(2013年6月13日施行)に「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法(性暴力特別法)」が大幅に改正されました。以前は“リベンジポルノ”などを処罰する条項がありませんでした。
スマートフォンを当たり前にもつようになった現代において、情報の拡散スピードは早まり、多くの人が簡単に目に触れてしまうようになりました。
自身の性行為の動画が拡散されてしまったヘウォンは人目に触れること、誰かと関わることに対して恐怖を感じています。それほど深く癒えることのない傷を抱えながら日々生きているへウォン。
一人で布団をかぶり、自身の動画を見ているへウォンが映し出され、動画の音声から「愛している?」と聞くへウォンの声が聞こえます。自分を愛している、自分も愛している相手が加害者となる恐怖、トラウマ。
遠くへ離れたへウォンを追いかけてきたボーイフレンドはへウォンに対し花を渡し、嘆願書を書いてくれるように頼みます。こんなに拡散されると思っていなかった、自分も学校を辞めたから許してくれとまるで自分が被害者かのように語ります。
挙句にへウォンが応じてくれないと苛立ちを全面に出し、言動も暴力的になっていきます。へウォンの人生を奪い、心に大きな傷をつけたことよりも自分の人生が大事で、自分が加害者である自覚がないのです。
淡々と描かれるへウォンの日常はひりついていて息苦しく、改めてこの問題について考えさせられる共に93年、つまり現代の20代の認識、彼らが抱える問題について考えさせられる映画になっています。
まとめ
「この映画が(この映画を作る)私を自由にするのか、この映画を一緒に作る人々を幸せにするのか、この映画を見ることができる多くの人々を幸せにするのか」という考えで映画を作っていると言うチョン・ヘウォン監督。
『K大OOに似たような93生まれ.avi』(2019)では、“リベンジポルノ”に正面から向き合い、93年生まれの監督と主人公のへウォンを同じ世代にすることで現代の20代に対する監督自身の視点が表れています。
学校を辞めることは将来の展望が一気に崩れ去ってしまうような、人生のレールから外されてしまう恐怖が付き纏っているかのような20代の姿は、チョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の80年代生まれの30代とはまた違う生きづらさの中で生きている印象を受けます。
へウォンはボーイフレンドが性行為の動画を拡散させたことにより、学校を辞めざるを得なくなります。
一方ボーイフレンドも学校を辞め、へウォンに直訴を取りやめる嘆願書を書くように迫る必死さの背景には自身の将来がたたれたことへの焦りがあるのかもしれません。
だからといってボーイフレンドのしたことは当然、許される行為ではありません。
次世代の監督が描く今後の作品も楽しみになるような映画でした。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第27回は、同じく韓国の学生映画作品からヨ・ソンファ監督の『星はささやく』を紹介します。
次回もお楽しみに!