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Entry 2019/07/24
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映画『陰謀のデンマーク』あらすじと感想。衝撃の展開から結末で伝えたダイレクトなメッセージ【ウラー・サリム監督のQ&A収録】2019SKIPシティ映画祭6

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・ウラー・サリム監督作品『陰謀のデンマーク』が7月14日に上映

埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。


(c)Henrik Ohsten /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

そこで上映された作品の一つが、デンマークのウラー・サリム監督が手掛けた長編映画『陰謀のデンマーク』

政治的な緊張が高まりつつある今日、デンマークで発生したある一つの事件から発生した一つの流れ、そしてその裏にある様々な人間同士の対立から、移民問題を題材に予想される様々な展開を衝撃の映像で描いたサスペンス・ストーリーです。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『陰謀のデンマーク』の作品情報

【上映】
2019年(デンマーク映画)

【英題】
Sons of Denmark

【監督】
ウラー・サリム

【キャスト】
ザキ・ユーセフ、ムハンマド・イスマイル・ムハンマド、ラスムス・ビョーグ

【作品概要】
スタイリッシュな映像の中に、世界的に緊張が高まっているナショナリズムの現実を映し出した、衝撃のラストまで息もつかせぬ政治サスペンスの傑作。

本作は、今年のロッテルダム国際映画祭のタイガー・コンペティション部門に選出され、その後も、ヨーテボリ国際映画祭、全州国際映画祭など多くの映画祭で上映され、高い評価を得ています。

またアリを演じたザキ・ユーセフは、本国デンマークでは俳優のみならず、TVシリーズの脚本家としても活躍しています。

ウラー・サリム監督のプロフィール


(c)Cinemarche

1987年、デンマークで生まれ。イラク移民の両親のもとで育ち、2018年にデンマーク国立映画学校を卒業。プロデューサーであるダニエル・ミューレンドルフと共に制作会社Hyæne Film を設立しました。

これまでに数多くの短編映画を制作、2015年制作の『Our Fathers’ Sons』はロッテルダム国際映画祭に招待され、デンマーク国立映画学校の卒業制作『Land of Our Fathers』は、2017年のドバイ国際映画祭で湾岸短編コンペティション部門のグランプリを受賞しました。

本作はサリム監督の長編デビュー作となります。

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映画『陰謀のデンマーク』のあらすじ


(c)Henrik Ohsten /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

デンマーク・コペンハーゲンの街中で、他愛もない話をする一組のカップル。女性は彼氏に別れを告げ地下鉄の構内に向かいますが、彼女が階段を下りたとき、突然大きな爆発が。その衝撃的な光景に、男性は呆然とするばかりでした。

一年後、多くの献花を背に、テレビカメラに向けて自身の政治論を展開する男性がいました。

彼の名はノーデル。極右政党の大統領候補として名乗りを上げた彼は移民を弾圧し、デンマーク国民の生活を守るという過激な発言を繰り返し、移民たちから大きな反感を買っていました。

一方、移民の中から対立するグループも現れます。その中で貧しいながら家族とともに幸せに暮らしていた19歳のザカリアは、同じグループに所属するアリととともにノーデルの暗殺を行うことを命じられます。

しかし、そこには大きな落とし穴が。そして物語は予想だにしなかった波乱の展開を迎えるのでした……。

映画『陰謀のデンマーク』の感想と評価


(c)Henrik Ohsten / (c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

衝撃的なテロの瞬間から幕を開けるこの物語。そのショッキングなシーンに、見る人はいきなり映像に引き込まれていくことでしょう。

そして次に現れるのは、極右政党の党首、ノーデルが行う過激な発言、そして対立する移民たちの理不尽な犯行、ついにはノーデルの暗殺計画というとんでもない展開へ物語は進みます。

その裏で暗殺の責任を負ったザカリアですが、彼は移民グループの一員であるということを除けば、愛する母、弟と暮らす一人の平凡な人間であり、自分たちの生活を賭けて大きな犠牲を払うことになります。

彼の持つ事情、そしてこの行動は、物語の冒頭に描かれた衝撃的なテロの一場面と非常に対照的で、この物語に描かれる様々な理不尽さがどれほど酷いものかを深く表しているようでもあります。

一方、物語はここで終わりではありません。実はノーデルの暗殺の一幕が終わった段階で、物語は本当の始まりを迎えます。

ノーデルの暗殺のために、彼の家に押し入ったザカリア、その顛末から本当のスタートに向かうまでの経緯は、見る側に混乱すら与えることでしょう。

しかし、ここからがまさにこの映画の本題。息を突かせぬサスペンスとどんでん返しの連続にさらに引き込まれ、予想だにしなかった衝撃的なラストを見終えれば、非常に重苦しい思いの中で、こうしたナショナリズムの問題に様々な思いを巡らせていくにちがいありません。

例えばデンマークから遠く離れた日本であっても、果たして自分たちの国は大丈夫なのかと改めて考えたくなるかもしれません。

作品を手掛けたサリム監督自身が移民の親を持つというバックグラウンドを持つが故、映画作りに向けた情熱もうかがえるところでありますが、とてもこれが長編デビュー作とは思えない、その完成度の高さは必見です。

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上映後のウラー・サリム監督のQ&A

14日の上演時にはサリム監督が登壇、舞台挨拶を行うとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。


(c)Cinemarche

──ラストでは、異なる折り合わない意見に対し暴力で解決するということで、ノーデルが言っていることを肯定しているようにも見えますが、このラストとした意図を教えていただけますでしょうか?

ウラー・サリム監督:(以下、サリム監督)今の社会は非常に極端な思想を受け入れ、それをまるで正しいかのように扱っており、その意味では社会が崩壊していると思います。だから私はラストの展開が正しいという思いで見てほしかったのではなく「他の道があるのではないか」ということを考えてほしいと思ったのです。

極端な意見というものが、今は社会に蔓延しており、それが普通であるかのように感じられ、逆にまともな人が自分を見失い、間違った道に行くような社会であるともいえます。

もちろん映画の中でのお話なので、私は映画の中では、最悪のシナリオを提示することもできます。でも作品作りではそういった答えを示すのではなく、最良の方法があるではないかということを問う、という意図がありました。

──冒頭にあるテロの一年後のシーンで、慰霊碑に2024年と記載されていましたが、この物語は未来を想定したものということですね。

サリム監督:そのとおり。これはまだ先の話、デンマークでまだ起きていないフィクションだということを提示したいと考えました。

この映画ではああいったテロリストの攻撃があれば、社会において不満やフラストレーションなどが蓄積され、また嫌悪の感情、ヘイトが高まると、こういったノーデルのような政治家が台頭してくる、ということを示したかったんです。

合わせて感情に任せて暴走する、そういった方向に行きやすいという傾向もあるので、そういうものを見せたかったというのが意図です。


(c)Cinemarche

──5年後に過激なことが起こるだろうという一つの提示ですが、最近のヨーロッパのニュースからは、5年たたずにそういうことが起こるのでは?という危険性を感じることもあります。監督はその点、どうお考えでしょうか?

サリム監督:そうですね、これはある意味パラドックスというか、相反する皮肉な状況だと思うんです。

ある視点から見れば、今という時代は“こんないい時代はない”とも思える。教育を受ける機会のある人も多く、紛争も小さいものはあれど、ここ80年近く大戦といわれるものはないわけですし。

だけど何か潜んでいる、表層的に顕在化していなくても、ちょっと下を探れば脅威がある、そして何かあれば醜い、頭をもたげるような現象がそこにある。本作はそういうものを感じて提示するという映画、つまりそうなってほしくないという、私の気持ちが込められています。だからこそこういったテーマから目を背けるのではなく、みんなで語ろう、話題にして想像力を使おうという風に伝えたいんです。

今の時代って、本当に素晴らしく供述できることがありますよね。その意味ではこういった良い時代が続けば、続いてほしいという願いもあります。

実はこの映画の企画というのは、私が映画学校に入る前から構想を練り始めたものなのですが、6年前に脚本のコンサルタントに相談したところ「これはちょっと極端に誇張され過ぎているのでは?」と言われました。

ところが映画学校にいる間に準備をして、実際に撮影に入る2年前頃には、「現実に近くて、リアル過ぎるのでは?」ということを言う人が出て来ました。その意味では6年の間でそれだけ状況が変わり、この軸はここまでずれたということなんです。

でも逆に、この映画を作らなくては、と強く感じた感覚が、だんだん薄れているということもゆっくりだけど、確実に起きていると感じています。極端だなという思想や発想が、今やそれが標準というか当たり前となっているから。だからそれを忘れないために、この映画を作りたいと思ったんです。


(c)Cinemarche

──日本の映画としては、こういった社会的な映画は非常に作りにくくなっていると感じますが、デンマークでは頻繁に作られているのでしょうか?また、本作についてはどんな反響がありましたか?

サリム監督:デンマークでは、政治をテーマにしたものは頻繁に作られています、ただ現在の政権や現在の状況に対して批判を掲げたという作品は長く作られたものはなかったので、本作に対してそういう作品が出てきたな、という印象は持たれたと思います。

この作品はデンマークで3か月ほど前に劇場公開され、幸いにもロングランになっています。批評、レビューも概ね好評でした。ただ議会では若干話題にした政治もいました。というのは、本作の中で、その議員本人が言ったことを引用して使っている経緯があるからでした。

でも私としては、もともと逆にそういった議論のネタになれば、という気持ちも持っていたので、それ自体は自分としては悪いことではないと思っています。

──主人公が途中までわからないという感じでありますが、例えばデンマークやスカンジナビア近辺では、こういった作り方は一般的なのでしょうか?

サリム監督:この映画では、自分のメッセージということが伝えたいことがあり、社会に対して声を上げたいという思いがありました。ただ一方で映画作りとして挑戦したいという思いもありました。

やはりデビュー作ですから、そこは果敢に取り組みたいと。古いかつての作品、例えばヒッチコックの作品でもこういった構図はあったのではないかと思います。ヒッチコックの作品の中では、確か主人公が早々に死んでしまうという設定のものがあったと。

私自身が映画ファンなので、自分で諸々どうかなと思うことはあります。お決まりの方程式で、安心して見られる映画というものも嫌いではないですが、やはりオーディエンスとしても新しい体験をしたい、自分でも見る側としての気持ち、そして今回のテーマを考えたところ、やはり社会の分断というところ。そういったことから映画の見方もそれぞれの立場から、ということも伝えたかったんです。

差別というものを、この映画ではすべて盛り込んで、いろんな側面から見せたいというところもありました。そしていきなり映画が転換する、ということである種裏切られる、そうやっていろんな側面から見て、最後に全部それが一つにまとまる、収めるということですね。それは若手の監督として、そういったことをやってみたかったという気持ちで、今回は取り組みました。

国際コンペティション部門「監督賞」受賞コメント

21日に行われた映画祭のクロージングにて、本作が国際コンペティション部門で「監督賞」を受賞したことが発表されました。サリム監督は、笑顔で受賞の喜びを語りました。


(c)Cinemarche

サリム監督:(受賞は)とても驚きましたし、とても嬉しかったです。

また今回デンマークで作ったこの映画が、日本というこんな遠いところまで来て評価していただいたというのは、自分が映画監督としてやっていることが間違っていないとも感じられ、次回作へのモチベーションにもなりとても勇気づけられています!

まとめ


(c)Cinemarche

とにかく冒頭から続く衝撃、衝撃の連続に、非常に驚かれるかもしれません。

一方で、サリム監督はQ&Aの前に「この作品は暴力的な描写もあり、衝撃的な部分もあったかと思います。ただこの作品に込めたメッセージは逆であって、極端なものを描いてますが、思いはその対極にあるものを込めています」と語っています。

その意味で、本作は作品としての完成度の高さもありますが、評価されるべきは作品自体に込められたメッセージ性にあるといえます。

ひとえに映画に描かれた展開にならない社会を目指すため、我々がどうすべきかを常に考えるべきであるということに他なりません。

近年、こうしたメッセージを込めた作品はあまた発表されていますが、複雑な展開を構成している一方で、メッセージとしてはダイレクトに伝わってくる印象もあり、制作側の情熱があふれていることを感じることができる作品といえるでしょう。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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