ラブコメ×タイムトラベルで本当の愛や幸せな“時間”を描く成長物語
タイムトラベルという能力を手にした青年・ティムが、時間を何度も遡り本当の愛や幸せとは何かに気づいていく姿を描いた『アバウト・タイム 愛おしい時間について』。
本作は、『ノッティングヒルの恋人』(1999)『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)などの脚本家と知られるリチャード・カーティスが監督を務めました。
タイムトラベル能力をもつ主人公・ティム役は『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2010)『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)のドーナル・グリーソン、ヒロインのメアリー役に『きみに読む物語』(2005)『誰のせいでもない』(2015)のレイチェル・マクアダムス、ティムの父親役にはビル・ナイ。
タイムトラベルというモチーフでラブコメを交えて奥深い人生観まで描いた『アバウト・タイム 愛おしい時間について』。
本作がどういう構成で描き出し、観る人を惹きつける魅力溢れる作品に仕上がっているのかをネタバレありでご紹介いたします。
CONTENTS
映画『アバウト・タイム 愛おしい時間について』の作品情報
【公開】
2014年(イギリス映画)
【原題】
About Time
【監督・脚本】
リチャード・カーティス
【キャスト】
ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムス、ビル・ナイ、トム・ホランダー、マーゴット・ロビー、リディア・ウィルソン、リンゼイ・ダンカン、リチャード・コーデリー
【作品概要】
監督を務めたのは、『ノッティングヒルの恋人』(1999)『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)『戦火の馬』(2011)などの脚本家と知られるリチャード・カーティス。『ラブ・アクチュアリー』(2003)『パイレーツ・ロック』(2009)では監督を務め、本作『アバウト・タイム 愛おしい時間について』にて監督引退を表明。
タイムトラベル能力をもつ主人公・ティム役は『ハリー・ポッターと死の秘宝』(2010)『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)のドーナル・グリーソン、ヒロインのメアリー役に『きみに読む物語』(2005)『トゥ・ザ・ワンダー』(2012)『誰のせいでもない』(2015)のレイチェル・マクアダムス、ティムの父親役にはビル・ナイ。
映画『アバウト・タイム 愛おしい時間について』あらすじとネタバレ
イギリス南西部のコーンウォール。ひょろっとして、オレンジ色の髪をしているティムは、優しくて頼もしく自由なママと家族でもっともノーマルで時間を持て余している父、きっちりとした服装で日々を過ごす、チャーミングなママの弟のデズモンド叔父さん、ケイティ、キットカットなどの愛称で呼ぶ妹のキャサリンの5人家族。
毎日浜辺に出かけ、石投げをして、サンドイッチを食べるのが家族の習慣。金曜日の夜はどんな天気だろうが、自宅の外壁をスクリーンにして映画鑑賞するという、風変わりだけど仲の良い家族と過ごしていました。
しかし、恋愛に奥手のティムは、21歳になっても彼女ができないことが悩みの種。年に1回の大晦日パーティーでも積極的になれず、そんな自分を情けなく思っていました。
新年の朝、父から一族の秘密を明かされます。それは、わが家の男だけはタイムトラベルができる特殊なパワーがあるというのです。
その力は、自分の過去にだけ戻れるというものでした。方法は暗いところで、拳を握って戻りたい場面を念じればいいだけというものでした。
突拍子もない話を信じてないまでも、試しにクローゼットに入ります。すると大晦日パーティーの晩に遡り、そのパワーが本物だと知ります。
父から理想の人生を送るためにパワーを使えと言われて、思いついたのは念願の彼女を作ることでした。
その夏、妹の彼氏の従妹、シャーロットに恋に落ちます。夏の2ヵ月、家に滞在した彼女にタイムトラベルを使ってアプローチしますが、恋愛には発展せず、タイムトラベルでは愛は手に入らないという教訓を得ます。
その翌日、ティムは実家を出て、ロンドンへ。父の脚本家仲間・ハリーの家に下宿し、法律事務に就職しました。
そして半年が過ぎたある日、悪友ジェイに誘われて行った暗闇レストランで運命の出会いをします。ママと同じ名前のメアリーという女性に恋したティムは、彼女の連絡先を聞くことができて浮かれて家に帰ります。
しかし、家には不機嫌なハリーの姿が……。今夜は自分が書いた初日の舞台のお披露目でしたが、主役がセリフをド忘れして、舞台は台無しになったというのです。
ティムは、タイムトラベルで上演前に遡り、舞台をなんとか成功へ導きます。しかし、その時間を変えたことで、暗闇レストランでメアリーと出会ったことがなかったことになっていたのです。
落胆するティムは、偶然に見た新聞広告でケイト・モスの写真展があることを知ります。メアリーがファンと言っていたことを思い出し、何日も待ち伏せして声をかけますが、彼女には新しい彼氏ができていました。
今度はタイムトラベルで新しい彼氏と出会う前のパーティー会場で声をかけ、メアリーが好きなケイト・モスの話題にしたり必死にアプローチ。パーティーを抜け出したふたりは、レストランで会話が弾み、メアリーの家まで歩いて帰ります。
家の前でキスを交わしたティムは、「最高だ」と呟きました。その雰囲気で部屋にあがり、ベッドで抱き合いますが、うまくいきません。
ティムは、タイムトラベルで抱き合う前に巻き戻しては、何度も初めての夜を繰り返しました。それは、今まで抱いたことのなかった「人生で最高の夜」でした。
映画『アバウト・タイム 愛おしい時間について』感想と評価
映画の冒頭は、主人公・ティムのモノローグで家族を紹介する場面からはじまります。風変りだけれど素敵な家族で幸せに満ち足りていることが、このオープニングだけで伝わってくるようです。
そして、映画のエンディングもまた、ティムのモノローグとBen Foldsのエンディング曲「The Luckiest」がかぶさり、曲のメッセージとともに胸に響いてきます。それは何気ない日常の“今”を楽しむために、自分の人生を生きるというシンプルで普遍的なメッセージを問いかけてくるのです。
このメッセージに集約するために、映画の物語はティムという主人公の“欠けている”部分からはじまり、誰かを真剣に愛し、親になり、父を見送り…その中で自分の人生を愛するものにしていく様をとても丁寧にかつ、ラブコメという楽しみにも溢れながら奥深く描き出していきます。
恋に落ちるまでをラブコメを交えて描く
まずは自分に自信を持てなく、それ故に恋愛に対しても積極的になれずにいるティムが、タイムトラベルという能力を手にしたことで、そのパワーを駆使して恋に挑みます。
ご都合主義だけどコミカルかつドラマチックなラブコメという要素を織り交ぜて、恋に落ちどう結ばれたかを映画の序盤から中盤で描き出します。
本作のタイムトラベルという能力は、天才的な発明や大がかりなタイムマシーンは必要なく、拳を握って暗いところに入り、戻りたい場面を念じさえすれば、パパっと時間を遡れるという気軽さ。その軽快なテンポでメアリーとの恋の行方を映し出します。
一方で、タイムトラベルで過去を変えてしまうことは、大きな危険をはらんでいることもメアリーとの出会いがなかったことになった出来事で提示され、いくらタイムトラベルという特殊なパワーがあっても、劇的に人生が思い通りに叶うわけではないのです。
だからこそ、時によこしまな考えでメアリーにアプローチするべく、何度も時間を遡ります。
かえってそこにティムの純情さが垣間見れ、本当に恋をした時のなりふり構わなくなる様子がタイムトラベルというモチーフと作用して、ユーモアを効かせた感情豊かな主人公として共感を生みとても魅力的なのです。
そして、恋愛の時間経過を地下鉄で行き交うモンタージュによって映し出されるシーンがとても印象的です。
「How Long Will I Love You」の曲がライブで演奏をしている設定で流れ、この曲の間に恋愛の時間が切り取られ、ふたりで過ごす季節の移ろいを感じさせます。
楽しい恋愛の時間があっという間に過ぎ去る感覚を見事に映し出した場面です。
“今”というタイムトラベルへ
ティムとメアリーの恋が実り、結婚した後は、家族の物語が丁寧に綴られていきます。
ティムの妹・キットカットが人生に行き詰まる出来事や父の余命宣告からの死といった日常に起こり得るシリアスなドラマをありありと映し出します。
ティムがキットカットの事故や立ち直らせるためにタイムトラベルをして問題を回避できたとしても、別の波乱を生むことを映画は再度示します。
タイムトラベルは未来には行けず、行けるのは自分の過去だけに戻れるというルールは、物事の本質に迫っていく要素にもなっているのです。
見せかけのディテールを変えることはできても、結局のところ、何かを変えるには本人の意思が必要で、どうしようもないことが起こり得るということ。
そうした時に自分には何ができて、何を受け入れようとするのかという当たり前でいて難しい問いに突き当ります。
また、ティムと父の絆が印象深く描かれ、家族との愛についてを際立たせます。
卓球をする場面では、卓球台を挟んで仲睦まじい様子を映し出します。余命幾ばくも無いことを明かす時は、ティムが「前にこの会話した?」と父がタイムトラベルを使ったことに気づきます。わずかな沈黙で何かが違うと分かってしまう間柄なのです。
それらの会話はどれも、ウィットに富んでいてシリアスな中にも笑いが含まれます。
そして、映画の終盤は父が教えてくれた幸せになる秘訣を実行し、何気ない日常がどんなに奇跡的で美しいものなのかと語りかけてきます。
たとえ時間を遡ることができなくても、わたしたちは常に人生を謳歌するために日々を何度も繰り返しています。
失敗したり、思い通りにいかなくても、何度でも“今”という時間を旅することができるということなのでしょう。
リチャード・カーティスが監督業最後に描いた本作は、人生で与えられた“時間”を自分自身で生かし幸せにする方法をラブコメというスパイスを効かせて、奥深い人間ドラマとして仕上げました。
まとめ
愛のあるラブコメ作品を描いてきたリチャード・カーティス引退作『アバウト・タイム 愛おしい時間について』は、“時間”というテーマを軸にして、人生観を浮き彫りにさせました。
容赦なく刻み続ける時と対峙して、どうしたら一瞬一瞬を愛に満たされていると実感して生きていけるだろうかと考えさせられます。
映画のエンディングは、ティムが「この日を楽しむために自分は未来からきて、最後だと思って今日を生きている」というモノローグ。そしてBen Foldsの「The Luckiest」曲が流れます。
“いろんなことが
最初は うまくできない
周りからも よく言われるよ
でも やっと気がついた
つまずいて 転んで
今の僕があるんだ
君と出会って 人生が始まった
君と毎日 会える喜び
僕は知っているよ
ここにいる僕が
本当の自分なんだ
今の僕は
最高にラッキー”
エンディング曲「The Luckiest」の歌詞と相まって“今”を思う存分にタイムトラベルすればいいという温かいメッセージを語りかけるようなラストは、普通の日常をドラマチックにできるのは、自分自身という肯定力を与えてくれることでしょう。
そして、最後に登場人物たちの何気ない日常のショットと合わせて、街角の人々のワンショットも重なります。それは、観客の世界への橋渡しとして余韻を残します。
そろそろ目の前に溢れる愛に気づき、それこそがかけがえのないものだということをかみしめてみようと問いかけてきます。