ジェームズ・ワンが新たに生み出した、予測不能な悪夢の世界
ある出来事をキッカケに、不気味な男「ガブリエル」の悪夢に悩まされるようなったマディソン。
彼女が遭遇する壮絶な恐怖を描いた、ホラー映画『マリグナント 狂暴な悪夢』
本作で監督を務めているジェームズ・ワンは、初の単独監督作品『ソウ』(2004)で、世界に衝撃を与えて以降「死霊館」シリーズや「インシディアス」シリーズなど、数々のホラー作品を生み出して来ました。
ホラー作品だけでなく『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)や『アクアマン』(2018)などの大ヒット作品も手掛けて来たジェームズ・ワンが、あえて原点とも言えるインディペンデントスタイルのホラー映画に戻り、制作されたのが『マリグナント 狂暴な悪夢』です。
ジェームズ・ワン自身が「独創的で大胆なことをするのが重要だった」と語る『マリグナント 狂暴な悪夢』の魅力をネタバレを含めてご紹介します。
ただ、本作は一切の情報を入れない方が楽しめる作品なので、お気を付け下さい。
映画『マリグナント 狂暴な悪夢』の作品情報
【公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Malignant
【製作】
ジェームズ・ワン マイケル・クリアー
【監督・原案】
ジェームズ・ワン
【脚本・原案】
アケラ・クーパー
【キャスト】
アナベル・ウォーリス、マディー・ハッソン、ジョージ・ヤング、マイコール・ブリアナ・ホワイト
【作品概要】
謎の男、ガブリエルに襲われて以降、不気味な夢を見るようになったマディソンが、やがて現実とも悪夢とも判別がつかない恐怖を体験するホラー。
主人公のマディソンを『アナベル 死霊館の人形』(2014)で主演を務め、『キング・アーサー』(2017)や『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017)など、数々の話題作に出演しているアナベル・ウォーリスが演じています。
監督のジェームズ・ワンは、本作に原案から携わっています。
映画『マリグナント 狂暴な悪夢』のあらすじとネタバレ
1993年、シミオン病院研究所。
ここで、ガブリエルと名付けられた、正体不明の生物が次々に人を襲う事件が発生します。
医師のフローレンスは、ガブリエルの研究を進めていましたが、凶暴化するガブリエルの排除を決断します。
ガブリエルは、電波を操る力を持っており、ラジオのスピーカーを通して「お前らを、皆殺しにする」と伝えてきます。
フローレンスは、ガブリエルに対抗するように「悪性腫瘍を切除する」と宣言します。
時間は経過し現代。
妊婦のマディソンは、夫のデレクから家庭内暴力を受けていました。これまで、2度流産を経験しているマディソンは、精神的な不安からデレクに反抗します。
怒ったデレクに、マディソンは壁に頭を強く叩きつけられ、後頭部から出血します。その夜、1階の寝室で眠っていたデレクは、何者かの気配を感じ、部屋の中を探索します。
すると、謎の人影が現れデレクを襲います。
2階の寝室で眠っていたマディソンも、異変に気付き1階に降りると、そこには変わり果てたデレクの死体がありました。
部屋の中に隠れていた人影に襲われ、マディソンは意識を失います。
近隣の住民から通報を受けて、刑事のケコアとレジーナが現場に駆け付けます。外から侵入された形跡などが無いことから、2人は「顔見知りの犯行」と考えます。
謎の影に襲われたマディソンは入院しており、妹のシドニーが付き添っていました。
2日間、意識が無かったマディソンでしたが、目覚めると、襲われた衝撃でお腹の子供を流産していたことが分かり、ショックを受けます。
そこに、ケコアが聞き込みに来ますが、精神的なショックを受けているマディソンの代わりに、シドニーがケコアの名刺を受け取ります。
地下ツアーの人気ガイド、セレナ。仕事を終えたセレナが、帰り支度をしていると、不気味な物音が聞こえます。
セレナが物音に反応し、施設内の電気を点けると、そこには長髪で黒いロングコートを身にまとった、不気味な容姿の男、ガブリエルがいました。
意識を失ったセレナが再び目覚めると、どこかの屋敷の屋根裏で縛られていました。
ガブリエルは、屋根裏からフローレンスに電話をかけ「悪性腫瘍がどうなったか教えてやる」と伝えます。
フローレンスは、書斎にある患者の記録を取り出します。そこには、エミリー・メイという、10代の少女の写真がありました。
退院し、自宅で眠っていたマディソンは悪夢を見ます。それは、フローレンスの自宅に現れた不気味な男が、フローレンスを殺害する夢でした。
次の日、マディソンが見た悪夢の通り、フローレンスは死体で発見されます。
捜査をしていたケコアは、エミリー・メイの写真を警察署に持ち帰り「数十年後の姿」を、モンタージュで作成するように依頼します。
一方、悪夢の通りにフローレンスの殺人事件が発生したことで、マディソンは気分が悪くなります。
マディソンに付き添い、看病するシドニーに、マディソンは「実は自分は養女で、あなたとは血の繋がりが無い」と、自身の秘密を伝えます。
フローレンスの殺人事件が発生した直後、また病院の医師だった男性が殺害されます。
その殺害現場を再び悪夢で見てしまったマディソンは、シドニーと共に警察署を訪れます。
病院の医師だった男性の殺人は、まだ警察も通報を受けておらず、事件になっていませんでした。
ですが、ケコアとレジーナが、マディソンが「夢で見た」と言う場所へ行くと、そこには男性の死体がありました。
マディソンは夢の中に出て来た、不気味な姿の男の特徴を伝えますが、レジーナは信用しません。
気分が悪くなったマディソンが、トイレに入ると、気味の悪い声が聞こえます。マディソンは、その声に聞き覚えがあり「やめて!ガブリエル」と叫びます。
映画『マリグナント 狂暴な悪夢』感想と評価
悪夢とも現実とも判別できない、新たな形の恐怖を描いた映画『マリグナント 狂暴な悪夢』。
ジェームズ・ワンは「大胆に、一か八かやってみるしかない」と考え、本作を制作したことをインタビューで語っていますが、その言葉通り、かなり独特の作品になっています。
ジャンルは大まかに言うとホラー映画ですが、サスペンスや家族ドラマ、変身ヒーローやアクションなど、さまざまな映画の要素を持った作品です。
まず序盤では、研究所で大暴れするガブリエルという、モンスター映画のような始まり方をします。
そこから、唐突にマディソンの話に移ったと思えば、地下ガイドのセレナがガブリエルに連れ去られる展開に変わり、急にマディソンがガブリエルの悪夢を見始めるという、一見すると関連性も無さそうな話が、観客に何の説明も無いまま進んでいきます。
謎が次々に重なっていくサスペンス的な展開へとなっていき、この時点で、先の展開を予測することはほとんど不可能です。
中盤から、本作の鍵になる存在である、ガブリエルの正体に迫る展開となります。
幼い頃のマディソンが作り出した、架空の友達ガブリエルが「何故実体化したのか?」という、ここからホラー要素が強い展開となっていきますね。
ただ、ガブリエルに連れ去られたセレナが、マディソンの家のリビングに落ちてくるなど、読めない展開が続いていきます。
ですが、後半の警察署での場面から、ここまでの展開が全て繋がっていきます。
謎の存在だったガブリエルが、実はマディソンと体を一つに共有している「寄生性双生児」であることが判明し、これまでマディソンが見ていた悪夢は、ガブリエルに意識を乗っ取られていた時の記憶だったのです。
ガブリエルの正体が判明する流れと、留置所でマディソンがガブリエルに変身する流れが、交互に同時進行していきます。
観客にガブリエルの正体が説明された後に、これまで女性囚人に暴行を受けていたマディソンが、ガブリエルに変身し、次々に女性囚人を次々に倒していく場面は、不謹慎ですが「ガブリエル来たー!」と、不思議な高揚感がありました。
ここは、数々のヒット作を手掛けたジェームズ・ワンの手腕が光る、本作における名場面ではないでしょうか?
ガブリエルが、その正体を現してから、一気にアクション映画のような展開になります。
ガブリエルは、マディソンの後頭部に顔があるので、マディソンが後ろ向きになった状態で、素早い動きで次々に警察官を襲うのですが、その姿は、これまで見たことが無い不気味ながらも爽快な光景となっており、この姿を見るだけでも、本作を観賞する価値はあるのではないでしょうか。
ただ、ラストはシドニーとマディソンの絆が、ガブリエルを倒すキッカケになるという「家族の絆」が描かれており、綺麗な終わり方をします。
とにかく『マリグナント 狂暴な悪夢』は、ホラーという枠組みを越えて、あらゆるジャンルの要素を詰め込んだ作品で、ジェームズ・ワンが大胆さを意識して、一か八かで挑んだ意欲作であることは間違いありません。
近年では、『ゲット・アウト』(2017年)や『アス』(2019年)に代表される、ジョーダン・ピール作品のような社会派ホラーも多く制作されています。
ですが『マリグナント 狂暴な悪夢』は、逆にメッセージ性はほとんど無く、作品のアイデアだけで勝負する完全に振り切った作品です。
残念ながら、本作はバイオレンス描写が過激すぎる為、R18指定となってしまいましたが、ホラーと言うより、エンターテイメント的な部分の強い、あえて言えば「楽しい作品」と言えるでしょう。
まとめ
本作は、ストーリー展開も独特ですが、映像も何とも言えない「不思議さ」を感じる作品です。
例えば、ガブリエルの影に怯えるマディソンが、自宅の中を逃げ回る場面があるのですが、突然上から自宅全体を見下ろすようなアングルになります。
この場面は、ブライアン・デ・パルマを意識したような映像となっています。
その他にも、セレナが落下してきた場面では、突然絶叫するマディソンをアップで撮影しているのですが、ここは『サイコ』(1960)を連想させますし、後ろ向きの状態で、次々に人を襲うガブリエルの姿は、『エクソシスト』(1978)で、悪魔に憑依された少女が見せる「スパイダー・ウォーク」の進化系のようです。
このように『マリグナント 狂暴な悪夢』は、ジェームズ・ワンが、これまで影響を受けたと思われる、さまざまな作品のへのオマージュが込められています。
また、おかしな音楽の使い方や、やたら不自然に見える場面など、なんとなくですが「B級映画」のような雰囲気が漂う作品でもあります。
バイオレンス描写が過激なので、人を選ぶ作品であるのですが『マリグナント 狂暴な悪夢』はジェームズ・ワンの、映画への愛を感じる作品であることは確かです。