重松清の小説『とんび』が2022年4月8日(金)に初の映画化!
重松清のベストセラー小説『とんび』。累計発行部数60万部を突破したこの小説は、これまでに2度ドラマ化され、ついに初の映画化が実現しました。
愛妻との間に待望の息子を授かったヤス。しかし妻の突然の死により、ようやく手に入れた幸せは無残にも打ち砕かれてしまいます。自らは親の愛を知らずに育って父になったヤスは、仲間たちに助けられながら、息子を愛し育てていきます。
阿部寛と北村匠海が親子役で初共演。『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017)や『糸』(2020)の瀬々敬久監督が手がけました。
映画公開に先駆けて、原作小説をあらすじネタバレを交えてご紹介します。
小説『とんび』の主な登場人物
【ヤス(市川安男)】
不器用で乱暴者だけれど、妻と一人息子のアキラをこよなく愛する男。ふとした事故で妻を失ったヤスは、残された息子を精一杯愛情込めて育てていきます。
【アキラ(市川旭)】
ヤスの息子。優秀でまっすぐな子で、いい加減で不器用な父親と比べて「とんびが鷹を生んだ」と例えられています。
【美佐子(市川美佐子)】
ヤスの妻。優しく賢明な女性。アキラを授かり、幸せな家庭を築いていたが、不慮の事故で死んでしまいます。
【たえ子】
飲み屋の女将。ヤスの良き理解者で、ヤス同様に旭を慈しみ何かと面倒をみます。
【照雲】
薬師院の住職で、ヤスの幼馴染。子供に恵まれなかったせいか、旭を我が子のように可愛がります。
小説『とんび』のあらすじとネタバレ
昭和37年、広島県備後市。不器用で乱暴者の市川安男と妻の美佐子の間に、アキラ(旭)という息子が生まれました。
安男ことヤスは、アキラが生まれると人が変わったように真面目に働くようになり、親になれたことの喜びに張り合いのある毎日を過ごしていました。
けれども、不幸は突然やってきました。それはアキラが4歳になるちょっと前のこと。
美佐子とアキラがヤスの職場に遊びに来た時、アキラが荷物に触れた拍子に大量の荷物が彼の上に落下。咄嗟に飛び込んで美佐子が守ってくれたおかげでアキラは助かりますが、代わりに美佐子が荷物の下敷きになって亡くなってしまいました。
ヤスは2人を職場に連れてきたことを後悔し、それでもアキラを育てるためには自分がしっかりしなければならないと、奮い立ちます。
最愛の伴侶を失ったヤスと幼いアキラ2人だけの生活が始まりました。不器用なヤスだけで子育てが上手くいくはずがありませんが、彼には頼れる幼馴染や同僚、理解者がたくさんいました。
行きつけの小料理屋『夕なぎ』の女将のたえ子もその一人。たえ子はヤスよりもひと回りも歳上ですが、ヤスが幼い頃から「たえ子ねえちゃん」と慕っている女性です。
町には薬師院という寺があり、住職の照雲はヤスさんの幼馴染で、良き理解者です。また照雲の父親である海雲も、ヤスのことを我が子のように可愛がってくれていました。そうした周囲の人々の助けを借りながら、ヤスは何とかアキラを育てていきます。
かつてヤスは自身の母親を幼い頃に亡くし、母の兄夫婦に預けられてそのまま養子となりました。
実父はその後別の街で再婚して音信不通となり、ヤスには家族・親類と呼べる人がおらず、近所の人たちが頼りだったのです。
周囲の優しい人々にも護られて、アキラはヤスさんに似ず、周囲からは「とんびが鷹を生んだ」と言われるほど、優しく頭の良い少年に育ちました。
やがてこの親子の美佐子を失った傷も癒えますが、さまざまな問題が立ちはだかります。
なぜ母親は亡くなったのか。その理由をヤスさんはいつかアキラに話さなければと思いながらも踏ん切りがつきませんでした。
けれども、小学校卒業を間近にして、ヤスさんは意を決して、アキラに母の事故死のことを打ち明けます。
しかし、ヤスさんは自分を母が庇って死んだと、アキラと自分を入れ替えて話しました。アキラのことを考えて、自分が悪者になったのです。
中学生になるとアキラは野球部に入部。2年生のとき、後輩の尻をバッドで殴ったとして後輩の親から電話がかかって来ます。
野球部の伝統だから。自分も先輩からやられたから。俺は悪くないから謝らない。アキラの話す一つ一つがヤスさんには気に入りません。思わず拳をにぎり、アキラを殴ってしまいました。
ヤスさんの家に押しかけてきた後輩のお父さんは、息子はアキラを怖がって明日から練習に行きたくないと言い出したから、アキラが退部するのがスジだろう、と言いました。
やっと謝りだしたアキラにも、退部届を書くようにせまる後輩の父に、ヤスさんはついにキレます。
アキラは謝った、後輩の怪我もたいしたことないようだ、それで何の文句がある。「ガキがそんなに大事なら、箱に入れて練習にいかせたらんかい!」と、ヤスさんは大声で怒鳴りました。
親の責任よりも、愛のほうが大事と言い切り、ヤスさんは後輩の父親を追いかえしました。
これでよかったのだろうか。ひとしきり爆発したあと、冷静になったヤスさんの頭にちらりとそんな考えが浮かびましたが、我が道が正しいと思うヤスさんは、それを振り切ります。
次の日、部活に例の後輩は姿を表し、アキラも普段通りに振る舞ったと言います。部活暴力事件はこうして幕を閉じました。
小説『とんび』の感想と評価
平凡な親が優れた子を生むことの例えの「とんびが鷹を生む」。
重松清の小説『とんび』は、生まれも育ちもガサツな乱暴者のヤスさんが主人公です。ヤスさんとその息子の成長を「とんびが鷹を生む」になぞらえて、ストーリーは展開していきます。
親の愛を受けて育ったとは言えないヤスさんにとって、最愛の妻と息子は宝物でした。
予想外の事故によって妻を亡くしたヤスさんは、呆然自粛となりますが、残された息子・アキラを一生懸命に育てます。
乱暴者だけど温かいハートを持っているヤスさんには、心強い仲間たちがいました。
単純なヤスさんの大人として欠けている部分は、仲間たちが上手に埋めていき、母親がいないというハンデを乗り越えて、アキラは優秀な子に育っていきました。
子供一筋のヤスさんにしてみれば、本当に自慢の息子で生き甲斐にもなっています。ただ、アキラが一人立ちした後、自分はどうなるのか……。
ふと、そんな老後の不安も物語の後半には現れ、男女を問わず、子育てがどんなに楽しく励みになっても、一抹の寂しさが合わさっているものだと悟ります。
将来の寂しさに気がついたヤスさんですが、アキラを大切に思う気持は変わりなく、ラストの号泣には、一人の人間を育て上げた満足と幸福感が溢れていました。
理想の父親像としては完璧ではないかもしれないヤスさん。けれども、子供を思う気持は誰にも負けません。
時には滑稽に、時には恥ずかしくなるほど、アキラのために生きてきたヤスさんからは、こういう親もいるのだと教えられ、ストレートな親の愛がズシリと心に響いて、胸があつくなります。
映画『とんび』の見どころ
阿部寛×北村匠海「とんび」主題歌はゆずの書き下ろし楽曲! 本予告披露、公開日は4月8日 #とんび https://t.co/ZNAEr7YcRc
— 映画.com (@eigacom) January 23, 2022
重松清原作小説『とんび』が2022年、映画化されます。
ガサツな乱暴者の父親・安男、通称ヤスさんを演じるのは、『テルマエ・ロマエ』(2012)『テルマエ・ロマエⅡ』(2014)『護られなかった者たちへ』の阿部寛。ヤスさんの子でありながら、優しくて頭も良い、出来の良い息子・旭、通称アキラは、『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)『とんかつDJアゲ太郎』の北村匠海が扮します。
濃い顔立ちが特徴の古代ギリシャ人や悩みを抱える刑事役など、幅広い演技力を持つ阿部寛。彼が扮する、涙もろくてちょっとズッコケた父親と、伸び盛りの若手俳優北村匠海演ずる心優しい息子という親子のキャスティングです。
初共演となる2人による‟とんびと鷹”の親子は、果たしてどんな親子になるのやら……と、興味をそそられます。
作品をまとめるのは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』や『糸』の瀬々敬久監督ですから、心温まるドラマになるに違いありません。
映画は成人してからのアキラとヤスさんの物語だと予想でき、オリジナルなエピソードも加わるそうです。
小説以上に深い親子の絆を持つ‟とんびと鷹”が見られることは、大いにあり得るでしょう。
映画『とんび』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
重松清:『とんび』(角川文庫)
【脚本】
港岳彦
【監督】
瀬々敬久
【キャスト】
阿部寛、北村匠海、杏、安田顕、大島優子、濱田岳、宇梶剛士、尾美としのり、吉岡睦雄、麻生久美子、薬師丸ひろ子
まとめ
重松清の家族愛を描いた小説『とんび』をご紹介しました。
2022年の映画化では、瀬々敬久監督によって、阿部寛と北村匠海という新しいタイプの市川親子が誕生します。
映画ならではの新エピソードも楽しみですが、まずは小説で‟とんびオヤジ”の原型を知っておくと、映画版でも親しみが持てるのではないでしょうか。
映画公開前に、小説『とんび』でも、市川親子の家族愛をたっぷり堪能してください。