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Entry 2021/10/16
Update

映画『キャンディマン』ネタバレ結末感想とあらすじのラスト評価。2021と1992年版の考察比較で見えてくる都市伝説ホラーの“殺人鬼の根深さ”

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

鏡に向かってその名を5回唱えると、殺人鬼キャンディマンが現れる

公営住宅地「カブリーニ・グリーン」で言い伝えられている、殺人鬼キャンディマンの都市伝説を追いかけるアンソニーが、次第にその恐怖に取り込まれていくホラー映画『キャンディマン』。

1992年にバーナード・ローズ脚本・監督によって映画化され、カルト的な人気となった『キャンディマン』を『ゲット・アウト』(2017)『アス』(2019)のジョーダン・ピールが、製作と脚本に参加し、新たなキャンディマンの伝説を作り出しました。

1992年版と繋がりながらも、現代的な解釈が込められた、新たな『キャンディマン』の魅力をご紹介します。

映画『キャンディマン』の作品情報


(C)2021 Universal Pictures

【公開】
2021年公開(アメリカ映画)

【原題】
Candyman

【製作】
イアン・クーパー、ウィン・ローゼンフェルド、ジョーダン・ピール

【監督・脚本】
ニア・ダコスタ

【共同脚本】
ジョーダン・ピール、ウィン・ローゼンフェルド、ニア・ダコスタ

【キャスト】
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、テヨナ・パリス、ネイサン・スチュアート=ジャレット、コールマン・ドミンゴ、カイル・カミンスキー、バネッサ・ウィリアムズ、ブライアン・キング、ミリアム・モス、レベッカ・スペンス、カール・クレモンズ=ホプキンス、クリスティアナ・クラーク、マイケル・ハーグローブ、ロドニー・L・ジョーンズ3世、ハイジ・グレース・エンガーマン、アイリオン・ローチ、ブリアナ・リンド、マリック・ホワイト、サラ・ウィスターマン、サラ・ロー、バージニア・マドセン、トニー・トッド

【作品概要】
クライヴ・バーカーの小説『禁じられた場所』を原案に、1992年に1作目が公開されて以降、全3作品が製作された「キャンディマン」シリーズ。

本作はシリーズの4作目となり、主に1作目からの流れを引き継いだ作品となってます。

キャンディマンの都市伝説に魅了される、主人公の新人芸術家アンソニーを演じる、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世は、『アクアマン』(2019)でヴィランであるブラックマンタを演じ注目され、2021年12月公開の『マトリックス レザレクションズ』にも、新たなモーフィアスで出演が決まっている、今後注目の俳優です。

アンソニーの恋人プリアンナを、MCUのドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』に登場し、今後のMCUシリーズの重要キャラとされるモニカ・ランボー役で注目を集めている、テヨナ・パリスが演じています。

監督のニア・ダコスタは『キャプテン・マーベル』(2019)の続編を監督することが決まっており、MCUシリーズ初の黒人女性監督として話題になっています。

映画『キャンディマン』のあらすじとネタバレ


(C)2021 Universal Pictures
1977年、公営住宅地「カブリーニ・グリーン」。

少年のウィリアムは、近くのコインランドリーに洗濯へ行きます。

誰もいないコインランドリー、そこに現れたのは、かぎ爪の片手の浮浪者シャーマン・フィッシャーズでした。

シャーマンは、近所では危険人物として噂されていた男で、ウィリアムはシャーマンに飴を差し出されますが、恐怖から叫び声を出します。

その叫び声を聞いた警察官が、大挙してコインランドリーに押し寄せてきました。

2019年「カブリーニ・グリーン」は、シャーマンの事件がキッカケで取り壊されてしまいました。

新進気鋭の芸術家アンソニーは、美術館の敏腕キュレーターとして働いている、恋人のプリアンナと共に、新居に引っ越して来ます。

新居に遊びに来たプリアンナの弟トロイは、プリアンナの怖がる姿を見る為、突然都市伝説を語り出します。

現在は取り壊されてしまった「カブリーニ・グリーン」を舞台にした都市伝説。

それは、大学教授だったヘレンと言う女性が「カブリーニ・グリーン」に伝わる都市伝説を探っていく内に、突然おかしくなり、連続殺人を起こしたという内容でした。

ヘレンは、赤ん坊も誘拐した為、最後は「カブリーニ・グリーン」の住人により火あぶりにされ亡くなりました。

プリアンナは、その都市伝説を受け流しますが、アンソニーは気になり、ヘレンに関する記事を検索するようになります。

実は、アンソニーは作品制作に行き詰っており、新作のヒントを欲しがっていました。

アンソニーは、今は廃墟になった「カブリーニ・グリーン」に忍び込み、写真撮影を行いますが、その際に右手を蜂に刺されます。

アンソニーが廃墟で写真撮影を続けていると、成長したウィリアムに声をかけられます。

今はコインランドリー店を営んでいる、ウィリアムの自宅に招かれたアンソニーは、1977年のシャーマン・フィッシャーズ事件の真相を聞かされます。

子供達が食べた飴にカミソリが入っていた事件が多発し、容疑をかけられたのがシャーマンでした。

ウィリアムがシャーマンに遭遇した後、押し寄せた警察にシャーマンは射殺されてしまいましたが、その後も飴にカミソリが入る事件が発生しました。

つまり、シャーマンは無実だったのです。

「カブリーニ・グリーン」は、その事実を隠蔽するように、白人たちにより取り壊されました。

そして、アンソニーは「カブリーニ・グリーン」に伝っていた都市伝説「キャンディマン」についても聞かされます。

鏡に向かって「キャンディマン」と5回呼ぶと、かぎ爪の片手を持つ、恐ろしい殺人鬼が現れ、呼び出した者は命を奪われるということでした。

帰宅したアンソニーは、ウィリアムの話をもとに新たな作品を創作します。

アンソニーは、新作に手ごたえを感じましたが、プリアンナからは「暴力的すぎる」と酷評されます。

それでも、上機嫌のアンソニーは「面白い話を聞いた」と、鏡に向かいキャンディマンの名前を5回唱えます。

その時は何も起きませんでしたが、プリアンナが部屋の電気を消すと、鏡にはかぎ爪の片手を持つ、黒人の大男の姿が映ります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『キャンディマン』ネタバレ・結末の記載がございます。『キャンディマン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021 Universal Pictures
シカゴで合同展覧会が開催され、アンソニーも自身の作品を出展します。

アンソニーの作品は「名前を呼んでみろ」というタイトルで、外側は鏡になっていますが、鏡を開くと中に絵が飾られているというものでした。

作品の紹介欄には「作品に向かって、キャンディマンと5回唱えてみよう」と書かれていました。

展示会の責任者である、クライヴに作品を馬鹿にされたアンソニーは、クライヴと喧嘩してプリアンナと共に展示会から出て行きます。

展示会終了後、クライヴの恋人が遊び半分で、アンソニーの作品の前でキャンディマンと5回唱えます。

すると、クライヴの恋人の首が切り裂かれ、一緒に残っていたクライヴも、見えない存在に殺されてしまいます。

次の日、2人が殺害された事件はニュースになり、2人がアンソニーの作品の前で倒れていた事から、アンソニーの作品も紹介されます。

アンソニーは、ヘレンの事件を更に調べるようになりますが、その時から、鏡に映った自分がキャンディマンに見えたり、自分の作品を評価した批評家が何者かに殺されるなど、奇妙なことが多発するようになります。

キャンディマンの都市伝説も独り歩きを始め、面白がってキャンディマンを呼び出した学生が皆殺しにされるなど、恐ろしい事件が起きます。

アンソニーは次第に精神が病んでいき、制作する作品も、不気味なものばかりになります。

アンソニーに不信感を抱いたプリアンナは、部屋を出て行ってしまいます、

さらに、アンソニーは蜂に刺された右手が悪化していき、皮膚の色も変わっていった為、病院に行きます。

その病院で、実はアンソニーが「カブリーニ・グリーン」出身であることを聞かされます。

アンソニーは、母親を訪ね、出身地を偽っていた理由を聞きます。

実は、都市伝説になっているヘレンの話には嘘があり、ヘレンは、燃える炎の中から赤ん坊を助けて亡くなったのですが、その時の赤ん坊がアンソニーでした。

アンソニーは赤ん坊の時にキャンディマンに誘拐され、謎の洗礼を受けていたのです。

そこから、キャンディマンの名前は口外しないように協定が張られましたが、母親は「誰かが協定を破った」と語ります。

アンソニーは再びウィリアムを訪ね、キャンディマンの真相を聞き出します。

キャンディマンのモデルになったのは、奴隷のダニエル・ロバターユという黒人です。

ロバターユは、絵が得意だったことから、上流階級に気に入られ、貴族の絵を多く書いていました。

その中で、貴族の娘と恋人関係になったロバターユは、貴族の娘を妊娠させますが、それが貴族の怒りを買います。

ロバターユは右手を切断され、かぎ爪をはめられた状態で、蜂の巣を体に塗られて、蜂に体中を刺され、最後は炎に焼かれて死んでしまいました。

では、ロバターユがキャンディマンかと言うと、そうではなく、1920年代から、白人の暴行によって殺された黒人が、代々キャンディマンを名乗るようになり、ウィリアムは「キャンディマンは象徴だ」と語ります。

一方、部屋に戻ったプリアンナでしたが、アンソニーの姿がありません。

アンソニーを探して、プリアンナはウィリアムのコインランドリーを訪れますが、そこでウィリアムに襲われ、地下に連れて行かれます。

地下では、意識が朦朧とした様子のアンソニーが座っており、ウィリアムはアンソニーを新たなキャンディマンにする為の儀式を完成させました。

ウィリアムは、アンソニーの右手を切断し、かぎ爪を付けて、プリアンナを襲わせようとしますが、隙をついてプリアンナは逃げ出します。

プリアンナは、追いかけて来たウィリアムにナイフを刺して殺しますが、キャンディマンとなったアンソニーが姿を見せます。

追い込まれたプリアンナですが、突入して来た警官隊にアンソニーは射殺されます。

警官はプリアンナの話も聞かず、一方的な判断でプリアンナを殺人事件の容疑者にし、アンソニーに対しても強引に正当防衛にしようとします。

連行されるパトカーの中で、プリアンナは鏡に向かってキャンディマンの名前を5回唱えます。

すると、蘇ったアンソニーが現れ、その場にいた警官隊を全滅させます。

体中を蜂で覆われた、おぞましい姿になったアンソニーは、自分が新たなキャンディマンであることを宣言します。

映画『キャンディマン』感想と評価


(C)2021 Universal Pictures
鏡の前で名前を5回唱えると、殺人鬼が現れ殺されてしまう、そんな都市伝説を巡る恐怖を描いた『キャンディマン』。

2021年版の『キャンディマン』は、1992年版の続編的な立ち位置ながら、持っているメッセージ性や作品の視点は、1992年版と正反対という、なかなか珍しい作品になっています。

まず1992年版の『キャンディマン』の主役は、ヘレンという白人女性でした。

大学教授で都市伝説を研究しているヘレンは、治安の悪い公営住宅地「カブリーニ・グリーン」の住人たちが信じている都市伝説、キャンディマンについて調査を始めます。

そして調査を進める中で、現実とも悪夢とも判別できない、狂気の世界に入って行きます。

1992年版では、部外者であるヘレンの視点から「カブリーニ・グリーン」を描く事で、閉ざされたコミュニティと、そのコミュニティに広がる、キャンディマンという都市伝説の異質さを描いた作品でした。

ですが、2021年版では黒人の男性アンソニーを主役に、1992年版とは打って変わり「カブリーニ・グリーン」の住人だった、当事者の視点で描かれています。

主人公のアンソニーは、1992年版でキャンディマンと呼ばれていた殺人鬼に誘拐され、ラストでヘレンに救われた赤ん坊の成長した姿です。

アンソニーはその際に、キャンディマンとしての洗礼を受けており、2021年版では正式な儀式を通して、アンソニーが新たなキャンディマンになるまでが描かれています。

アンソニーは自身の作品を通して、キャンディマンの都市伝説を広めており、ここも1992年版の「閉ざされていた恐怖」とは真逆の「拡散されていく恐怖」となっています。

これらの展開を通して、2021年版『キャンディマン』に込められているのは「人種差別問題」です。

奴隷だった黒人のロバターユが、白人の貴族に酷い殺され方をしたのが、キャンディマン伝説の始まりです。

ロバターユは、貴族の娘と恋に落ち、妊娠させただけでした。

その後もキャンディマンは、白人に酷い殺され方をした、無実の黒人の象徴として生き続けているのですが、そこに込められているのは、白人への怒りです。

本作のラストでも、無抵抗のアンソニーを白人警官が撃ち殺し、正当防衛に仕立てようとする展開があるのですが、この展開は、近年の黒人に対する暴力と組織的人種差別に反対するキャンペーン運動「ブラック・ライブズ・マター」を連想させます。

時代が変化しても、何も変わらない人種差別への怒りと悲しみが込められた『キャンディマン』は、製作と脚本に携わったジョーダン・ピール が「アメリカにおける人種差別の寓話」と語るように、根深い社会問題を扱った作品です。

ただ、2021年版は「人種差別問題」を強く押し出すあまり、少し一方的な視点に偏ってしまった気がします。

『キャンディマン』は対極の視点で描かれた、1992年版と2021年版、両方を観賞すると更に深みが増すという、なかなか興味深い作品でした。

まとめ


(C)2021 Universal Pictures
2021年版『キャンディマン』では、キャンディマンは鏡にしか映らないのですが、窓やドアなどのガラスに一瞬だけ姿が映ったり、現実では姿が見えない状態で、犠牲者がキャンディマンの餌食になっていくなど、恐怖を煽る演出が秀逸で、監督のニア・ダコスタの手腕が光っています。

また、影絵を多用した演出は何とも言えない不安な気持ちにさせますし、キャンディマンの象徴でもある蜂も、羽根の音が聞こえる度に不快になります。

さらに、本作のオープニングで出てくる、配給会社の「ユニバーサル・ピクチャーズ」の文字が鏡写しになっているなど、細かい部分も徹底しています。

「人種差別問題」など、社会的なメッセージ性が強いので「都市伝説の殺人鬼が、人を襲いまくるホラー」を期待すると、ちょっと拍子抜けするかもしれません。

本作はホラー作品としては異色作です。

ですが、2021年版が製作されたことにより、1992年版も作品としての奥深さが増したのは間違いないでしょう。

ジョーダン・ピールやニア・ダコスタの『キャンディマン』に対する思い入れの深さが、凄まじい作品でもありました。

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