剣に生き、剣に死ぬことを選んだ「新選組」の物語
日本の歴史の中でも特に人気が高く、さまざまな時代劇の題材となった「幕末」。
坂本龍馬や西郷隆盛など多くの有名な幕末志士が活躍した激動の「幕末」でひときわ輝く存在であった「新選組」の生き様は、歴史好きのみならず多くの人を魅了しました。
今回はそんな「新選組」の「鬼の副長」と呼ばれた土方歳三の生涯を題材とした映画『燃えよ剣』(2021)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『燃えよ剣』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
司馬遼太郎
【監督】
原田眞人
【脚本】
原田眞人
【キャスト】
岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、伊藤英明、尾上右近、山田裕貴、村上虹郎、渋川清彦、マギー、髙嶋政宏、柄本明、市村正親
【作品概要】
司馬遼太郎による同名歴史小説を『日本のいちばん長い日』(2015)を監督した原田眞人が映像化した作品。
「ザ・ファブル」シリーズや『散り椿』(2018)で激しいアクションを披露しただけでなく、自他ともに認める歴史好きとしても有名な岡田准一が主演を務めました。
映画『燃えよ剣』のあらすじとネタバレ
1860年、桜田門外で井伊直弼が暗殺されて以降、幕府の威信は失墜し京の治安は急激に悪化。
天然理心流を掲げる道場「試衛館」に在籍する田舎百姓の土方歳三は、同郷の近藤勇や沖田総司、井上源三郎と共に武士となることを夢見ていました。
近藤が清水徳川家の家臣である松井八十五郎の長女と結婚したことで天然理心流の正式な後継となり、試衛館は江戸に道場を開きます。
試衛館には北辰一刀流の免許皆伝であり高い教養を備えた山南敬介や、同じく北辰一刀流の藤堂平助など実力者が集いました。
しかし、江戸にはさまざまな流派の道場が100を越える数あり、実戦において無類の強さを誇る天然理心流であっても門弟は集まらず、近藤は道場の運営に行き詰まり始めます。
その頃、京の都の治安維持のため一橋慶喜(後の徳川慶喜)は会津藩主の松平容保を京都守護職に無理やり任命し、治安回復を命じます。
不逞浪士を自身の兵を用いて殺害することは出来ず困り果てた松平は、全国から腕に自身のある者を身分を問わず集め京の守護に当てることにしました。
近藤は多額の報酬と名を挙げるチャンスに食い付き、土方の反対を押し切り「浪士組」への参加を決定。
浪士組は発起人の清河八郎が尊王攘夷の思想のために私物化を試みており、早々にその発想を見切った土方は近藤に浪士組に参加していた芹沢鴨へと接近させます。
芹沢は会津藩との強い繋がりを持っており、土方は彼を足がかりとして「壬生浪士組」を発足すると、長州藩の浪士を筆頭とした倒幕派の浪士の殺害を決行。
壬生浪士組の活躍によって京の治安は回復し、新人隊士が次々と壬生浪士組へと参加し始めます。
隊としての統率や規律を守るため土方は厳しいルール「局中法度」を設定し、破った隊士に切腹を命じ、隊長としての器を認める近藤の代わりに恨まれる役を率先し引き受けます。
京の治安が戻る一方で酒乱かつ荒々しい性格の芹沢の行動は苛烈化し、商人に対する強引な金銭の要求や女性に対する性的暴行が繰り返され、隊の評判が悪化。
松平に呼び出された土方は隊を松平が後援する約束を取り持った上で芹沢の始末を命じられました。
沖田、井上、そして隊士の斎藤一を連れて近藤の了解のもとに芹沢の家に押し入った土方は、芸妓と同衾中の芹沢を惨殺し、倒幕派の刺客による犯行へと偽装。
その頃から隊は新しい士道を選ぶ組織として「新選組」を名乗り始め、土方は副局長を務める一方で夫を長州藩の藩士に殺害された未亡人の雪と仲を深めます。
雪から「池田屋」に長州藩の浪人が屯っているという情報を聞いた土方は密偵を使い、尊王攘夷派が御所に火を放ち一橋と松平を暗殺した上で帝を誘拐する計画を立てていることを掴みます。
近藤、沖田、藤堂を始めとした新選組は池田屋へと押し入り、27人の尊王攘夷派の浪士を殺害し、京が火に包まれる計画の阻止に成功しました。
映画『燃えよ剣』の感想と評価
土方歳三は何を目指したのか⁈
徳川家康によって300年もの間もたらされていた平和が、黒船の来航や桜田門外の変によって打ち崩された幕末の動乱期。
思想の違いによって多くの人間が殺し合った時代でしたが、浪士たちはそれぞれが国の未来を想って行動しており、現在の日本の平和は彼らの命によって培われたものであると言えます。
そんな時代で、京の治安維持のために結成された「新選組」の副長、土方歳三は多くの仲間を死に追いやった冷酷さでも知られています。
百姓の身でありながら己の力のみで武士の位を手にした土方や近藤たちは、「士道」を貫かずその場その場で思想を変える武士たちに翻弄されていきます。
しかし、そんな状況でも自分の力で掴み取った武士の位だからこそ、ブレずに戦い抜くという「士道」にこだわる土方歳三の生き様を彼の生涯を通して感じることのできる作品でした。
岡田准一が魅せる圧巻の殺陣
カリやジークンドーなどのインストラクター資格を持つ岡田准一が主演を務めた本作。
数多くある「新選組」を題材とした映画の中でも本作が抜きん出ている要素は彼の凡庸ならざる殺陣にありました。
戦術家であり一流の剣客でもあった土方歳三は率先して戦闘に参加し、多くの人間を斬殺しているものの、刀での致命傷を受けることなく生涯を終えています。
圧倒的な剣の腕前を持っていただろうと予想される土方歳三を演じる岡田准一の刀捌きは、同じく武士を演じた『散り椿』からさらに進化を遂げており、多対多の動きに特化したものとなっていました。
中でも『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021)で沖田総司を演じた村上虹郎演じる岡田以蔵との戦闘シーンは圧巻であり、アクション映画としても満足できる作品でした。
まとめ
「新選組」の発足から土方歳三の最期までを描いた映画『燃えよ剣』。
本作は「新選組」という言葉だけは知っているけれど何をした人たちなのか分からない、と言う人にも充分に楽しんでもらえる映画であり、140分を越える長尺が気にならない工夫が随所に盛り込まれていました。
命を賭して戦うことが空想の物語の中だけとなった現代で、命の意味や生きる意味を考えさせてくれる実話の物語『燃えよ剣』は、人生の熱さを感じさせてくれる作品でした。