連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第62回
2021年10月1日(金)にNetflixで配信されたクライムサスペンス『THE GUILTY/ギルティ』。
同タイトルのデンマーク映画をハリウッド・リメイクした本作では、主人公をジェイク・ギレンホールが演じています。
ある事情により現場を離れ、緊急司令員として勤務する刑事が受けた1本の通報。電話の向こうの被害者を救うため必死で策を練る彼を、思わぬ真実が待ち受けていました。
超低予算なデンマーク版をリメイクしたアントワーン・フークア監督はどのようなアレンジを加えたのか、オリジナルとの比較をしながら本作の魅力を深掘りしていきます。
解説パートでは、オリジナルの『THE GUILTY/ギルティ』(2018)のネタバレを含みますので未見の方はご注意下さい。
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CONTENTS
Netflix映画『THE GUILTY/ギルティ』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
The Guilty
【監督】
アントワーン・フークア
【出演】
ジェイク・ギレンホール、クリスティナ・ヴィダル、エイドリアン・マルティネス
【作品概要】
デンマークのスリラー映画『THE GUILTY/ギルティ』(2018)のハリウッド・リメイク作品。
監督を務めた『トレーニング デイ』(2001)『サウスポー』(2015)で知られるアントワーン・フークア。
脚本をドラマ「トゥルー・ディテクティブ」シリーズのニック・ピゾラットが担当。本作の主演、ジェイク・ギレンホールは製作も兼ねています。
その他声の出演に、『トレーニング デイ』(2001)『マグニフィセント・セブン』(2016)のイーサン・ホーク
『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018)のライリー・キーオ、ポール・ダノ、ピーター・サーズガードが脇を固めています。
Netflix映画『THE GUILTY/ギルティ』のあらすじとネタバレ
山火事が続くロサンゼルスでは火事の通報の他、強盗、殺人、誘拐、様々な通報が、毎日ひっきりなしにロサンゼルス市警(911)に掛かってきます。
捜査から外され、緊急司令員になったジョーは、薬物中毒のドルーから救急車を呼んでほしいとの通報を受けます。
マニュアルに従って救急に案内するジョー。
そこへロサンゼルス・タイムスの記者ハーバーから電話があり、ジョーが出廷する明日の裁判についての情報を訊かれました。
仕事中に不躾なインタビューを受け、「話せない」と言って電話を切るジョー。仕事に戻り、今度は強盗にあったと言うマシューからの通報を受けます。
ナイフを持った女に車の中に飛び乗られ、パソコンを奪われたと。
GPSで場所を特定し、そこが売春の盛んな地域であると気付いたジョーはマシューの話を半笑いで聞いていました。被疑者はピンクの髪、メキシコ系の売春婦で、金を取られたという通報をロス市警通信課に繋ぐジョー。
通信課で電話を取ったのは、巡査時代ジョーが世話になっていたミラーでした。彼は配属転換で管理職から離れていたのです。
電話番の仕事について愚痴を言い合うジョーとミラー。ジョーは「明日の裁判を乗り切れば、捜査の仕事は戻れる」とミラーから励まされました。
明日の法廷でジョーを弁護する予定と元相棒、リックを心配するジョー。ミラーから現場の仕事について変わりはないか話を聞き、通話を終えました。
今度は、目を盗んで別居中の妻に電話をかけます。娘のペイジと話がしたかったものの、返答はありませんでした。
仕事に戻り、かかってきた通報に出ると、通報主と会話が成り立たないことにジョーは違和感を覚えます。
番号から特定した電話の主はエミリー。彼女は通話口のジョーに対して、まるで子供をあやす様な口ぶりで話します。
状況を察したジョー。彼女は今、拉致された犯人の隣に座っており、犯人に気付かれぬよう通報していたのです。
車で移動中であることだけ察したジョーは、彼女に子どもを寝かしつけるフリを続けるよう指示します。
エミリーの乗せられた車は、10号線のハイウェイ東方向へ進んでいることを突き止めるジョー。
丁度その時、妻から掛け直しがくるも、通話先の状況が緊迫していたせいで出ることが出来ません。
エミリーとのやりとりの中で、彼女が乗せられているのは白のバンという情報だけ手に入れるも、そこで電話は途切れてしまいました。
ジョーは10号線をパトロール中の交通警察へ繋ぎ、誘拐の通報を受け白のバンを探すよう言います。
山火事による煙で捜索が困難な中、犯人の車と思しき一台のバンを止めさせることに成功。ですが、運転手と車内を調べるも、違うバンでした。
再び白のバンを捜索するよう全車に伝えるも、ナンバーが無いと捜索が困難だと返されてしまうジョー。
車のナンバーを特定するため、エミリーの情報から緊急連絡先とある番号にかけました。
電話に出たのはアビーという6歳の女の子。弟のオリバーと2人でママの帰りを待っていました。
ジョーはアビーからママのことを聞き出し、エミリーがアビーの父ヘンリーによって連れ去られたことを突き止めました。
ヘンリーの電話番号を覚えていたアビーから番号を聞き出し、エミリーの夫ヘンリー・フィッシャーの情報を特定しました。
ヘンリーには傷害罪による懲役刑と飲酒運転で罰金刑に処されていた前科があり、アビーの証言によると「パパがナイフを持ってママを連れて去った」といいます。
ジョーは、「ママを必ずおうちに帰す」とアビーと約束し、警察に姉弟を保護するよう指示しました。
Netflix映画『THE GUILTY/ギルティ』の感想と評価
デンマークで製作されたオリジナル版『THE GUILTY/ギルティ』(2018)は、2018年のアカデミー賞外国語映画賞にてデンマーク代表作として出品されたこともあり、「耳で観る映画」というアイデアとともに世界的に高い評価を受けました。
同作の吹替版をダウンロードすれば、移動中などにラジオドラマ感覚で本編を楽しむことができ、その後のTBSラジオでのオーディオドラマ化など、聴覚だけで十分楽しめる高いポテンシャルを持ったバリアフリー映画とも評されました。
予想を裏切るどんでん返しの展開、まさに「百聞は一見にしかず」な情景描写など、観客(リスナー)の先入観を上手くついた本作独自の特徴と言えます。
そしてリメイクされた本作と比較すると、細かいキャラクターの描写が肉付けされた以外は、同様の展開をなぞるため、ストーリーはほぼ同じですが、『トゥルー・ディテクティブ』(2014)の脚本で知られるニック・ピゾラットが脚色した部分には、非常に興味をそそられます。
映画の外で起きた事で言うと、本作撮影中、監督のアントワーン・フークアはPCR検査にて新型コロナウイルスの陽性反応が出ており、撮影現場から離れた隔離状態から本作を監督していました。
まさに主人公のジョーが通信指令室から警官に指示をしていたようなことが本作の制作現場でも行われており、このような事態は2020年に作られた映画でしか起こり得ない特例でしょう。
エンハンスされたビジュアル
ハリウッド映画としてリメイクされた本作はオリジナルのデンマークからロサンゼルスへと舞台を移したことで、人種間の軋轢や英語のアクセントにまつわる諸要素が増え、社会的側面が強くなると予想されました。
例えば通報相手がラテン系、アフリカ系であることを理由に警察側が勝手な思い込みをし、事件は難航する…というようなツイストを期待していた人からすると完成した本作には肩透かしを食らったかも知れません。
Black Lives Matterのきっかけともなった警官による殺人事件など、同時期に制作されたNetflixの短編『隔たる世界の2人』(2020)がセンセーショナルに事件を取り上げていただけに、悪い意味で期待を裏切られたと感じてしまうのではないでしょうか。
しかし、本作が内容と適合させるかたちで取り上げた現在の事件とは、同時期に発生していたカリフォルニア史上最悪と言われた大規模な山火事でした。
警官の動員が間に合わないという二次被害をもたらし、本作の事件対応のほとんどが災害対応に追われ、捜索が思うように進まないもどかしい様子が描かれていました。
そういった制約の中で主演のジェイク・ギレンホールは性格俳優としての役割を理解し全うしていました。
本作はジェイク・ギレンホールによる素晴らしい1人芝居を堪能できる一作でした。
近年の役のイメージからすると、例えば『ナイトクローラー』(2015)ではパパラッチの狂気を体現し、非常に高い評価を受け、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)では、トニー・スタークの胡散臭さ満載の”ヒーロー”ミステリオを演じており、そのイメージは今も印象的に残っています。
そんな彼の出演作の中でも本作との関連性が最も強いのがデヴィッド・エアー監督作『エンド・オブ・ウォッチ』(2013)で、同作では本作と同じロサンゼルス市警の現場に赴く警察官を演じていました。
電話越しでは想像力を働かすしかなかったロサンゼルスの治安が警官が付けているボディカメラの視点という距離感で体験することができる作品です。
オリジナルに比べ、主人公のバックグラウンドがかなり肉付けされ、離婚の原因が何となく分かるような元妻との微妙な関係性、薬物依存など、ジョーが既に壊れている人間であることがさり気なく、しかし確かに描かれていました。
主人公の掘り下げが行われたことで、壊れた人間の中にも警察官としての倫理観、正義感が残念ながら宿っているという本作のテーマがより分かりやすい形で強調されたのです。
ジェイク・ギレンホールはハマり役で、被害者に対し過剰に感情移入しだんだんと激情的になっていく様子が凄まじく、本作の1人芝居は彼にしかできない素晴らしい名演技でした。
オリジナルとほとんど同じ展開をなぞっているにも関わらず、物語の主軸がずれたことで鑑賞後の印象がだいぶ変わります。
解釈に幅のあるコミュニケーションというものが本質的に抱える齟齬へスポットを当てたオリジナルに比べ、本作では警察という組織が抱えるシステムの脆弱性がより強調されました。
内容的にはオリジナルからほとんど変更の無かった本作のあらすじを追うと、観客の感情を誘導するのが上手いと感じます。
最初は通報者に機械的に対応し、緊急司令員の仕事をこなしていたジョーが、緊急性の高いエミリーの通報を受け、人命救助の責任を背負っているという自覚が芽生えていく序盤。
そして次第に怪しいバンを強制的に止めさせたり、中を確認するよう指示したり、元相棒のリックに令状のない家への突入を強行させるなど、「人を助ける」という大義名分を盾に公権力を乱暴に用いるようになる中盤。
終盤のどんでん返しでは、加害者を乱暴に断罪した代償を払わされるのです。それも非常に間接的な形で……。
つまりジョーがエミリーを唆し、アビーに弟の無惨な姿を見せショックを与え、ヘンリーに怪我を負わせたのです。
ここで身を持って痛感させられるのは、本来高い倫理性が求められる法の執行者が独断と偏見で、事件の加害被害を判断出来てしまうシステムの危険性。
それによる損益に対し警官は直接の責任を負わないで済むという問題を極端な形で披露したと同時に、物語の結末は一個人としての警察官へ過去の罪と向き合うきっかけを与えました。
まとめ
今回はデンマークの大ヒットサスペンスをハリウッドでリメイクしたNetflix映画『THE GUILTY/ギルティ』をご紹介しました。
激情的なジェイク・ギレンホールの演技という視覚的「見どころ」も魅力的で、観ても楽しめる映画になりました。
尚且つオリジナル同様、耳だけで楽しむオーディオドラマとしての魅力も備えた作品です。
本当に後味の悪い展開にも今回のリメイク版では「救い」があるような結末に変更されており、安心して鑑賞することが出来ました。
オリジナル版を未見の方にこそオススメしたい一作です。
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