連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第52回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第52回は、カナダ発の魔女ホラー『ブラック・ウィッチ』(2017)のご紹介です。
口論が原因で感情的になった時「相手がいなくなってしまえばいいのに」……そんなことを一瞬思うこともあります。しかし、本当に望んだことではないのに、それが現実のものとなってしまったら……。
父親を亡くし、母と2人の生活になった女子高生の主人公は、学校で友達と過ごす時間と、オカルトに夢中になることで寂しさを埋めていました。
ところが母は悲しみから立ち直れずに、情緒不安定から娘にあたり散らしたり、過干渉になり彼女の意向を無視する計画をした結果、怒った娘は怖ろしい行動に移してしまいます。
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CONTENTS
映画『ブラック・ウィッチ』の作品情報
【公開】
2017年(カナダ映画)
【原題】
Pyewacket
【脚本・監督】
アダム・マクドナルド
【キャスト】
ローリー・ホールデン、ニコール・ムニョス、クロエ・ローズ、エリック・オスボーン、ジェームズ・マッゴーワン
【作品概要】
魔女に魂を売り苦悩する娘リア役には、カナダのテレビドラマで人気の女優ニコール・ムニョスが務め、リアの母役は『ミスト』(2008)、『サイレントヒル』(2006)などのホラー作品に出演したローリー・ホールデンが演じます。
トロント国際映画祭のコンテンポラリーワールドシネマセクションで上映され、メルボルンやグラスゴーなどジャンル別国際映画祭にて、公式作品として上映されました。
映画『ブラック・ウィッチ』のあらすじとネタバレ
高校生のリアは父を亡くしたばかりでしたが、オカルトに興味のある友人達に支えられ、なんとか日常生活を送っていました。
その1人アーロンとは、お互い意識し合う仲ですが、まだ気持ちを確かめ合えずにいます。放課後、車でアーロンに送ってもらうのが楽しみなリアです。
家に帰ると冷蔵庫に“夕食を作ってほしい”と、母からのメッセージが貼られていました。リアは夕食を作り2人で食べますが、母は具合が悪そうで不機嫌です。
リアはアーロンと一緒に撮った写メを見て、ささやかな幸せなにひたります。そして、出かける支度をすると、そのことを言いに母の部屋に行きますが、中から母のむせび泣く声が聞こえてきます。
ワインを飲んで泣いていた母は、何かをベッドの下に投げ込みます。リアは図書館で行われる、作家のサイン会へ行くと言いますが、酔っている母は「好きにしたらいい」と捨て台詞を言います。
“黒魔術”研究家ローワン・ダブのサイン会に来たリアと友人は、テンションが上がってつい長話をしてしまいます。
友達のロブはローワンの本の一節「悪魔は悪を作りだすのではなく、人の心から信仰心を奪って、“悪”を引き出す」が、とても腑に落ちると話します。
帰りはアーロンが送ってくれますが、彼はなかなかリアに告白できず、結局時間だけが流れてしまいます。帰りが遅くなってしまったリアを母はリビングで待ち構え、サイン会に行ったわけでなく、どこかへ遊びに出かけたのだろうと疑います。
夫の死後、娘に対して過干渉になった母は、ヒステリックで些細なことで怒るようになりました。リアがそのことを人が変わったみたいだと責めると、家にいると夫のことばかり思い出し、耐えられないと話し始めます。
母はリアに何の相談もせず、長年慣れ親しんだ家を売って、月末には引っ越すことにしたと告げます。リアは突然の話に怒りますが、悪魔に関する書籍を眺めながら、気持ちを落ち着かせ寝てしまいました。
翌朝、母は朝食を用意しながら、学校へ迎えに行くから、引っ越す家を見に行こうと誘い、仕事へでかけます。リアは乗り気にはなれませんでしたが、母がいない隙に母がベッドの下に隠したものを見ます。
それはリアと亡くなった夫が写る、数枚の微笑ましい写真でした。リアはそれを見ると母のつらい気持ちが少しわかった気になり、母を許せる気持ちになります。
学校に行き、リアは引越しの話を仲間達にします。親友のジャニスはあまりに急すぎると、母の横暴さに憤慨しますが、リアにはどうすることもできません。
引越し先の家は郊外の森の中にあり、他に民家も見当たらないロッジ風の一軒家です。リアの部屋には屋根裏部屋もあり、予定通りに親子は引越しをしました。
ところが翌日、母がリアを学校まで送迎するとき、衝撃的なことを告げます。休暇明けには、新しい学校への転校が決まっていると言うのです。
リアは免許を取り自分で運転して通うと反発しますが、稼ぎもないのにと言われます。リアはアルバイトもさせてくれないと反論しますが、休暇明けか年度変わりか決めるよう、厳しく言いつけられます。
帰りの車内も険悪なまま、リアは自分の部屋へ行こうとします。母は反抗するのもいい加減にするよう怒り、リアの友達を罵倒し、学校を変えることを正当化します。
更にリアがオカルトに傾倒していることに不満を抱き、彼女の六芒星の指輪を捨て、「夫の面影のあるリアを見ていると、消し去りたくなる」とまで叫びます。
リアは深く傷つきながら家を飛び出し、森の中で怒りや悲しみを泣き叫びます。次第にその感情は母への憎悪に変わっていき、「ママなんて死んでしまえばいい」と叫んでしまいます。
そしてリアの激情がピークになったとき、彼女は家に戻ると黒魔術の方法と呪術に使う材料、道具を持って再び森の中へと向います。
木に囲まれた小さなスペースを見つけたリアは、赤い毛糸を数本の木に掛けながら、五芒星で囲むとその中心に入り、1本の木の前で呪術の儀式をはじめます。
呪文を唱えながら木の根元を掘り、母の髪の毛を穴に入れると、呪術の材料に自分の血を混ぜた液体をかけて土で埋めます。それは使い魔“パイワケット”を召喚する術でした。
映画『ブラック・ウィッチ』の感想と評価
仲間のロブが「親を呪うなんて異常だ」と言った通り、リアの行動は常軌を異していたかもしれません。リア本人もまさか、パイワケットを召喚できるとは思ってもみなかったでしょう。
父親の死、母の過干渉の2つが強いストレスになり、たまたま興味をもっていた“オカルト”からいたずら半分で儀式をして、うっぷんが発散できればよかったのです。しかし冗談とはいえ、親に呪いの術をかけてしまったリアにとっては、後味の悪さや後ろめたさがつきまといました。
そのリアの心理状態をオカルト的に演出していました。派手な演出ではなく、カメラワークによる心理的な追い詰められ感、パイワケットの姿も曖昧なまま、はっきり出てきません。
「恐怖心から、視界の角に何か見えた気がする」……誰もが経験したことがある、恐怖のシチュエーションです。そうした観点で作品を捉えると、本当の“パイワケットの姿”が浮き彫りになっていきます。
使い魔“パイワケット”とはナニ?
“パイワケット”とは魔女に仕える「使い魔」のことであり、悪魔や魔女とは違います。その姿に代表されるのが黒猫をはじめとする「妖猫」などです。
この場合、呪術によってパイワケットを召喚したのはリアであるため、リアが“魔女”的な立ち位置になり、リアの命令によってパイワケットは母の命を狙います。
そのため、オカルト作家ローワンの説明には矛盾が生じてしまいます。しかも売れっ子作家が、1人の少女の訴えに親身になるとも考えにくいので、その時点からすでにパイワケットは、術者リアの命令を忠実に実行しはじめていたといえます。
邦題の『ブラック・ウィッチ』は“黒き魔女”という意味ですから、魔女の正体は呪術を使った、リアだということです。
ジャニスは“パイワケット”を見たのか?
リアは“パイワケット”を本当に召喚したのか? また親友のジャニスは、パイワケットを見たのでしょうか? 悲鳴も上げずに、朝には車の中で怯えていただけです。
ジャニスも両親に何らかの不満があったと見受けられ、心に何か闇を抱えていたのではないでしょうか?
しかも、ジャニスは大麻やアルコールに依存し、オカルトを信じていたことを考えると、リアの感情や思考は、感受性の強いジャニスにも伝染し、集団ヒステリーのような症状を引き起こしたとも考えられます。
リアはまだ半信半疑だったパイワケットの存在を、この時から強く意識し始めました。したがって、自分の“後悔”や母への後ろめたさ、不安と恐怖が増幅し見えないものを、見せてしまった。それが“パイワケット”を作りだしたのです。
まとめ
『ブラック・ウイッチ』は夫を亡くし情緒不安定になった母が、娘に対して過干渉になり、思春期の娘は横暴な母のやり方に、反抗もできずフラストレーションをため、いつしかそれが憎悪に変わり、おぞましい黒魔術の儀式をしてしまう物語でした。
娘も父親を亡くし寂しい思いをして、仲間と過ごすことで紛らわせていましたが、母は娘のことを理解しないばかりか、その仲間から引き裂こうとしました。
リアは怒りから呪術の儀式をしたことで、魔女となりパイワケットを召喚します。最後はパイワケットに憑依されたかのように、自らの手で母を殺害してしまう最悪な結果となりました。
おそらくリアが刑事に全てを話しても、それは真実ではなく妄想としか受け取られないのは想像に難くありません。しかしそれが真実にせよ妄想にせよ、心の闇こそが“パイワケット”を生むことだけは、誰もが理解できるのかもしれません。
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