藤原竜也主演で描かれる現実と虚構を見抜く最新ミステリ!
殺人事件や暴行事件、汚職や政治的な犯罪から芸能人のスキャンダルまで、現代社会はさまざまなニュースが日常的に溢れています。
しかし、一つ一つの事柄の詳細がさまざまなメディアで語られはしますが、部外者である我々は結局のところ断片をつなぎ合わせた空想をするだけで本当の答えは当事者しか知り得ることはできません。
今回はそんな事実の断片を繋いだ「虚構」を描き良質なサスペンスミステリへと昇華した最新映画『鳩の撃退法』(2021)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『鳩の撃退法』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
タカハタ秀太
【脚本】
タカハタ秀太、藤井清美
【キャスト】
藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司、坂井真紀、濱田岳、リリー・フランキー、佐津川愛美、桜井ユキ、柿澤勇人、駿河太郎、浜野謙太、岩松了、村上淳、ミッキー・カーチス
【作品概要】
1987年に時任三郎を主演に映画化された「永遠の1/2」などの著作を持つ佐藤正午の同名小説を映像化した作品。
舞台「身毒丸」での俳優デビュー時に非凡な才能を世界から絶賛され、映画『バトル・ロワイアル』(2000)以降は日本映画の第一線で活躍し続ける藤原竜也が主演を務めました。
映画『鳩の撃退法』のあらすじとネタバレ
バーテンダーとして働く小説家の津田に会うため高円寺のバーを訪れた編集者の鳥飼は、5万円と引き換えに次回作の序盤を書いた津田の原稿を買い取ります。
その小説に書かれていたのは直木賞を受賞した過去を持つ小説家の津田の物語でした。
【小説】
ある閏年の2月、とある理由から筆を置いた津田は富山の街でデリヘル「女優倶楽部」の運転手を勤めていました。
地元で古本屋を経営する老人の房州に借りた3万円すらも返済出来ない津田。ある日彼は、馴染みの店員沼本の居る喫茶店で毎日深夜に小説を読み朝まで時間を潰す秀吉に声をかけます。
津田は秀吉が水商売をやっていることや妻子を起こさないために朝まで時間を潰していることを見抜くと、思い詰めた様子の秀吉と親交を深めます。
秀吉は津田の持つピーターパンの小説に興味を持つといずれ津田から借りることを約束し喫茶店を出て行きますが、彼がその喫茶店に現れることは二度とありませんでした。
秀吉と別れた津田は「女優倶楽部」のまりこから、彼女の恋人である晴山を駅まで送るように頼まれます。
晴山は駅に着くなり別の女性といちゃつき始め、津田は複雑な気持ちになりますが、次に雇主である川島に頼まれたシングルマザーの奥平の送迎を済ませました。
【現実】
ここまで原稿を読んだ鳥飼は物語の先が気になりますが、3年前に津田が「実在の人物」を題材とした小説を書いたのが原因で訴訟沙汰となり文壇を離れることになった経緯から、今回も同じなのではないかと警戒します。
津田は鳥飼に20万円を要求し、鳥飼は津田の要求を飲み物語を読み進めます。
【小説】
津田と秀吉が夜に喫茶店で出会った日の昼、バーの店長を務める秀吉は従業員からの「給料を3万円分前借りしたい」という懇願を了承します。
家に帰った秀吉は妻の奈々美から妊娠したと言う告白を聞くと、喜ぶと思った奈々美の予想を裏切り険しい顔をし、その日のバーの仕事を休む電話をかけました。
津田が秀吉と喫茶店で出会ってからしばらくが経ち、房州の死去の知らせを受けた津田は房州が津田のために残したスーツケースを受け取ると同時に秀吉の一家が失踪したことを知ります。
家に帰り房州のスーツケースを開けると、その中に無くした「ピーターパンの小説」と「現金3003万円」が入っていました。
数日後、川島から喫茶店に呼び出された津田は、先日津田が床屋で利用した1万円札が偽札であり、その偽札の持ち主を「本通り裏」と呼ばれるこの街の裏社会を担う組織のボスである倉田が探していることを聞きます。
端数である残り2万円が偽物であることを確かめた津田は残る3002万円が全て偽札であると考え、この金を封印する事を決意。
一方、「女優倶楽部」のまりこの恋人であった晴山が新しく出来た女(津田が目撃した女性)と共に駆け落ちしたことで、まりこは晴山の持ち物の処分を津田に頼みます。
津田は晴山の所持品の中から壊れたビデオカメラを見つけ、メモリ内に晴山が新しい恋人との情事の現場を録画していたことを知ります。
晴山の新しい恋人は秀吉の妻である奈々美であり、津田は奈々美が妊娠した子供は実は晴山との子であり、奈々美はその子を秀吉の子だと偽っていたのだと勘付きます。
閏年の夏になり、川島は再び喫茶店に津田を呼び出すと、倉田が偽札の持ち主が津田であることを突き止めたと話し、お互いの安全のために津田を解雇。
生き延びる方法を探る津田は倉田を知る床屋の前田の助言を聞き、「本通り裏」の構成員に接触し倉田に「ピーターパンの小説」と「3002万円」が入ったスーツケースを渡すように告げ、前田の知人である高円寺のバーに匿われることになったのでした。
映画『鳩の撃退法』の感想と評価
「真実」と「虚構」が入り乱れる物語
直木賞を受賞した経歴を持つ小説家「津田」の物語で幕が上がる映画『鳩の撃退法』。
落ちぶれた小説家の津田が自身をモデルとした人間が主人公の小説を展開する手法で進む本作は、彼の書く物語が「フィクションかノンフィクションか」が焦点となっています。
秀吉一家失踪事件、大量の偽札、街を牛耳る倉田と言う男、物語が進めば進むほどに伏線が増え、津田の書く物語が「真実」なのか「虚構」なのかの判別がより困難になっていました。
しかし、収まりがつかないほどに広がったように思える物語がきっちりと終着点を迎えるラストは見事であり、小説を題材としたサスペンスミステリの新境地を体感できる映画でした。
「秀吉一家失踪事件」の本当の結末を考察
劇中で描かれた「秀吉一家失踪事件」の結末はあくまでも津田の考えたハッピーエンドな結末であり、「真実」ははっきりすることなく終わってしまいますが、考察可能な伏線はしっかりと用意されていました。
映画の「現実パート」で描かれた注目すべき「事実」は、「ダムで男女の遺体が見つかったこと」と「秀吉が生存していること」の2点であると言えます。
このことから死亡した男女は秀吉の妻である奈々美とその浮気相手である晴山であると考えることが妥当です。
しかし、その一方でダムで見つかった男女が秀吉の関係者であると明言されていないことも「事実」であり、唯一の条件である「秀吉の生存」を満たした津田の考えるハッピーエンドが「真実」ではないと言い切ることは出来ず、この映画における「真実」は鑑賞者によって異なるのだと確信できるラストでした。
まとめ
堕落しているように見えて時に切れ味の高い観察力を見せる津田を藤原竜也が好演し、彼にしか出せないであろう独特のサスペンス色を持たせることに成功した本作。
『狐狼の血 LEVEL2』(2021)などに出演し俳優としての新たな道を進む西野七瀬演じる沼本も印象的であり、豪華俳優陣がそれぞれの特色を見せる本作は俳優目的での鑑賞にも自信を持ってオススメできる1作。
映画『鳩の撃退法』は、何が起きるかが分からないハラハラを体験したい人や、伏線回収のスッキリさを味わいたい人に観ていただきたい、この夏イチオシのサスペンスミステリ映画です。