連載コラム「インディーズ映画発見伝」第16回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第16回目では、井手内創監督、内山拓也監督の映画『青い、森』をご紹介いたします。
予告編が第2回・未完成映画予告編大賞において平川雄一朗賞とMI-CAN男優賞(野川雄大)を受賞し、2018年に「星降る町の映画祭 with CINEMA CARAVAN」でショートバージョンが上映されました。
企業の広告からアーティストのドキュメンタリー、ミュージックビデオなど幅広く手がける井手内創監督と『佐々木、イン、マイマイン』(2020)の内山拓也監督が共同監督を務め、喪失感を抱えた人々の心情を幻想的に映し出します。
映画『青い、森』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
井手内創・内山拓也
【脚本】
内山拓也
【主題歌】
原田郁子(クラムボン)
【キャスト】
清水尋也、門下秀太郎、田中偉登、伊藤公一、岩崎楓士、山田登是
【作品概要】
波役を演じたのはTVドラマ『高校入試』(2012)で俳優デビューし、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019)、『青くて痛くて脆い』(2020)、『東京リベンジャーズ』(2021)の清水尋也。
志村役には『人狼ゲーム マッドランド』(2017)、『クローゼット』(2020)の門下秀太郎、長岡役には『のぼる小寺さん』(2020)、『十二単衣を着た悪魔』(2020)の田中偉登。
企業広告やharuka nakamuraを筆頭とするアーティストのドキュメンタリー、村上虹郎やカトウシンスケを主演に迎えたMVなど幅広く映像制作を手がける井手内創監督と中野量太監督に師事し、『ヴァニタス』(2020)で監督デビューし、『佐々木、イン、マイマイン』(2020)などを監督した内山拓也監督が共同監督を務めました。
2018年に「星降る町の映画祭 with CINEMA CARAVAN」でショートバージョンが上映され、共鳴を受けた原田郁子(クラムボン)がエンデイングテーマ曲を書き下し提供。最新バージョンで上映されました。
映画『青い、森』のあらすじ
幼い頃に両親を亡くし、育ててくれた祖父も亡くした波(清水尋也)。
心を閉ざしていた波は志村(門下秀太郎)と長岡(田中偉登)に出会い、次第に心を通わしていきます。
高校最後の年、3人は北の方へヒッチハイクの旅に出ます。高校最後の思い出になるはずでしたが、旅行の途中で波は忽然と姿を消してしまいます。
あれから4年……、波の行方も真意も分からず、どこか喪失感を抱え生きる志村と長岡がもがき苦しみ、彷徨い出会った景色の先にあるものとは……。
映画『青い、森』感想と評価
“物事には全て裏側がある。触れられそうで、触れられない。その先がある”と波は言います。
本作はヒッチハイクを中心とした過去の時系列と、4年後喪失感を抱えたまま何かを探し求めて波の家にやってきた志村と長岡の時系列を入り混ぜながら話が進んでいきます。まさに過去と現在が表と裏のように。
過去の3人は仲良く楽しそうにはしゃぎながらヒッチハイクの旅を楽しんでいます。しかし、ふとした時の波の言動に微かな不穏さ、彼の中にある影の部分が顔を出すように感じられます。先に述べた波の言葉もそうでした。
不意に“物事には全て裏側がある”と言った波を長岡は不思議そうな、どこか不安を感じているような複雑な表情を浮かべて聞き、微妙な空気が流れるのを打ち消すように、わざとふざけたり明るく振る舞ったりします。
また、波の顔には火傷の傷がありました。しかし、その傷のことも、家族のことも語らなかった波。
残された2人は波の孤独に気づいていたのに、気づかないふりをしていたと感じています。残されたからこそ、波の心の変化に気づけなかったのか、どうして何も言わずに消えてしまったのか。
失って今そばに波がいないからこそ、言いようのない喪失感、聞けなかった、言えなかったことに対する後ろめたさ、後悔が消えることなく2人の心に残っているのです。
波はどこに行ったのか、亡くなっているのか。波の家であるものを見つけた2人は、ある景色を目にします。タイトルにも関わってくるある景色、場所については人によって見方が変わるかもしれません。
本作でテーマとして描かれているのは“喪失感”であり、その喪失感の背後にあるのは生と死ではないでしょうか。
波が忽然と姿を消したこと=死とは描かれていませんが、波は身内を亡くし、まさに独りとなりました。ヒッチハイクの旅に出る際、波は「行きたい場所がある」と言います。その波の希望に沿って北の方へと旅に出ることになります。
波の家にあったものから波が目指そうとしていた場所が浮き彫りになっていきます。波が本当にその場所へ行けたのか、明確に描かれることはありません。
波に2人が出会えたわけでもありません。しかし、喪失感を抱え悩み苦しんでいた2人にとっては一つの答え、探し求めていたものが開けてきたのかもしれません。
ラスト、涙を流す2人の姿は抱えていた何かが軽くなったような、その表情には微かな救いの光が見えるように感じられます。
生と死。相反する2つは触れることはなく、常に対峙しています。本作は喪失感をテーマに今はいない、触れることはできない何かに触れようと足掻き、苦しむ2人を救うような、見ている観客自身も救われたような不思議な安堵感があります。
幻想的な風景と音楽、更に波という孤独でどこかミステリアスなキャラクターを見事に演じた清水尋也の演技も相まって、映画全体を独特な世界観に仕立て上げています。
まとめ
ドキュメンタリーやMVなど様々な映像制作に携わってきた井手内創監督ならではの音楽、映像センスが映画の幻想的な雰囲気を作り上げています。
更に、『佐々木、イン、マイマイン』でも男子高校生の友情をリアルに描き上げた内山拓也監督らしい、ヒッチハイクの旅には老身大の青春模様が描かれています。
爽やかな青春要素もありつつ、忽然と消えた波を追うミステリアスで幻想的な世界観が50分という短い時間に濃縮されています。
どこか影のあるミステリアスな高校生を演じた清水尋也、喪失感を抱えた4年後の姿と、等身大の高校生の2つの姿を演じた門下秀太郎、田中偉登の演技も印象的です。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第17回は、亀山睦実監督の『ゆきおんなの夏』を紹介します。
次回もお楽しみに!